セニア「貴方方は、逃げなさい・・・私が事切れるまでに、ね・・・」
苦しげな表情で。
尚もアスナ達を気にかけるセニアの声が、小さく辺りに響き渡る。
手渡されたWISにあらんばかりの感情をぶつけた。
しかし・・・WISからは何も聞こえない。
聞こえる音は、セニアの滴る鮮血の音のみであった。



ラグナロク・オリジナルストーリー番外編―蒼き翼が落ちる時(後編)


セニア「アゼラス君・・・最後に、頼みがあるんだけど・・・いい、かな?」
WISに大きくアスナが叫んでから数秒経った時であった。
尚も刺した状態で固まる騎士をよそに、セニアが苦しげにそう語りかけてくる。
アゼラス「・・・なんで、すか・・・?」
途切れ途切れな返答を返す。
仕方の無い事であった。
自分の無力さを嫌という程に味わい。
今目の前で大切な人が命を失おうとする瞬間。
今の現状の不可解さ。
奴に対する憎い感情。
様々な要素が嫌なくらいに頭に入り込んできて、頭が壊れそうなほど痛かったからである。
そんなアゼラスを落ち着かせるかのように、セニアの声はゆっくりと、静かであった。
セニア「外に出る際、に・・・中央にあった、大きな柱を壊して欲しいの」
その言葉を聞いた瞬間、はっと驚いた表情を浮かべながらセニアを見つめた。
顔には、優しい笑顔が携えていた。
アスナ「そんな事したらお姉ちゃんが!」
アスナも姉の言う言葉の意味が解ったのか、必至に泣きじゃくりながら声を荒げる。
しかし・・・

セニア「いいの、貴方達が助かれば・・・ね?良い子だから・・・」

後悔の色などはまったく見えなかった。
アスナ「でも、でもっ・・・!?」
次の言葉が放たれる前に。
アスナの体がゆっくりと、アゼラスの腕の中へと収まっていく。
アゼラス「・・・すまない、アスナ」
叩いてしまった首をゆっくりと擦りながら、ゆっくりと起こさぬように背中に乗っける。
その頬からは、一筋の涙の後が出来上がっていた。
セニア「ありがと、アゼラス君」
その言葉と同時に、また少量の血を口から吐き出す。
笑顔の裏には、想像を絶する程の苦痛が存在しているだろう・・・
それを見るのが耐えられなくなっていた。
セニア「良い・・・パートナー同士になれるわ、きっとね」
それでも、セニアは表情を崩さなかった。
全てを成し遂げたかのように。
アゼラス「・・・すみません」
最後まで。
背中を向けるその一時まで、表情は変わらない。
セニア「アスナを、よろしくね・・・アゼラス君」



助けられなかった。
騎士が剣を突き刺している状態で魔法を唱えれば、その反動によるセニアの負担はかぎりなく大きい。
先程言ったように、セニア自体を巻き込んでしまう大魔法系は封じられていた。
その状況で、一人一人に魔法を唱えていればまずセニアの体が持たないのだ。
では、その魔法を唱えると同時にアスナのヒールをかければ助かるか?
答えはノーであった。
そもそも突き刺さっている状態で傷の損傷を治癒しても、まったくもって意味がないからである。
回復しても、すぐさまその突き刺している剣が少しでも動けば状況的に前とあまり変わらないからだ。
万能だと思われがちのヒールといえど、この状態では苦痛による時間を増長させる他無いからである。
あげくに、魔法を唱えた時の反動がそのヒールの回復量を上回るものであるのだとすれば尚更この選択は危なくて選べない。
それゆえに、この選択しかなかった・・・


途中で、きのに治癒を受けていたヴィスがゆっくりときのと一緒に顔をあげる。
何か言葉を喋ろうとしたのか、一瞬口が開かれるが即座にその口は堅く閉じてしまう。
すぐさま立ち上がり、アゼラスの近くへと走ってくる。
それに合わせる様に、アゼラスも足をゆっくりと止めた。
その場所は、嫌な事に大きな柱・・・大黒柱のすぐ目の前であった。
ヴィス「・・・アスナさん、先に連れて行くよ」
静かに大黒柱を見つめていた自分の考えを察したのか、すかさずアスナの体がヴィスの背中へと移っていく。
先に走り出すヴィスを涙目で見ながら、その後を追うようにきのも走り出した。
アゼラス「・・・気が利くな」
何も言わないでいてくれたきのとヴィスが正直嬉しかった。
今の自分を見たら、セニアは・・・アスナは何と言うだろうか。
こんな事しか出来なくて・・・すみません。
心の中で呟いたその懺悔の声は自分にしか響く事なく。
アゼラス「・・・ソウルストライク・・・!」
静まり返った大きな建物の中で、いくつもの光の玉が大きな柱目掛けて飛び込んでいく。
辺りは、寝静まる暗い夜であった。



ガラガラガラ・・・!
一際大きな音が鳴ったと思えば、次は建物全体が大きな音をたてて崩れてきているのがわかった。
目の前で、次々と天井らしきものが大きな音をたてて落ちてきている。
おちたと同時に埃が飛び散り、それが自分の目や口に入り込んでくる。
そんな状態でも、自分を刺している騎士達は動かない。
否、動けない。
セニア「・・・貴方達も、辛かったわね」
そう、ゆっくりと騎士達の頭を撫でる。
声は出ない。
しかし、かわりに騎士達の目からは涙が流れていた。
セニア「ゆっくりと、またお休み・・・」
そう言って、静かに、泣きじゃくる子をあやす母親のように騎士を見守る。
アゼラスが走り去っていった後も。
彼女の顔から、負の感情が出ることはなかった。
こうなった運命をまるで覚悟していたかのように。

まだやり残した事が無いといえば、嘘になる。
しかし、アスナが幸せをようやく掴んだ・・・
これは私にとって自分よりも嬉しい事、素晴らしい事。
後は・・・ブリちゃん、か。
彼は、まさに負の塊といってもよい人物であった。
今まで見てきた誰よりも、深く、暗く。
終わりを見せる事のないその暗き感情は、自分では到底想像できないものであった。

自分は、気がつけばその人の心が読めるような不思議な力を持っていた。
初めはアスナの心が・・・次に、知り合いの人の心の中が見えるようになってきた。
初めは怖かった・・・自分が何なのかさえ疑う事もあった。
しかし、人間には慣れというものがある。
この私の場合、人の心を読まないように心がければ読まなくて済むという事がわかった。
この力との付き合い方に、慣れが生じたのだ。
危ない力であるとは思ったが、自分はこの力を拒絶する事なく付き合っていける自信がここで生まれた。
もっとこの力を理解すれば、必ずアスナの力になることができる。
それが、この力と向き合い付き合っていく支えであった。

しかし、故意でなくともやはり稀にではあるが心が垣間見えてしまう事がしばしばあった。
ブリちゃんの心の中も、その偶然という言葉がしっくりくるものだ。
見てしまった瞬間、私は吐き気を催してしまう程の嘔吐感に襲われた。
黒い。
ただその一言に尽きるものであった。

そんな中に、私を掴んで離さない物が一つだけ存在していた。

それは、私のこの不思議な力のものであった。

彼は、この私の力が何であるか、どうして備わったのかを知っている。
そう・・・すべてを知っているようなのだ。
しかし、暗闇のその心の中でその項目を見つけるのは到底不可能であった。
そんな自分を見ながら彼が言った言葉があった。

ブリジット「貴方の力の事を知りたいですか・・・知りたいのなら、少し私の管轄下に入りませんか?」
ブリジット「入らないとしても・・・いずれ、その力は貴方に大きな転機を与えるでしょう」

取引に近いものかもしれない。
しかし、この頃真剣にこの力について考えていた自分を突き動かすにこれ以上のものはなかった。
故に、私はあのギルドに入る事を決意した。
私のこの力を知るために・・・。
そして、もう一つ私の気がかりであった、彼のその心の闇の異常なまでの深さ。
人とは思えぬ程までの、凍え死にそうな程までの冷たさ。
ある意味、私はあの時あの暗さに恐怖を覚えつつも、興味を覚えずにはいられなかった。
人の好奇心とは、恐れを知らぬものである。

それが理由で入ったが、結局わからずじまいか・・・
でも・・・今となってはどうでもいいことね。


アスナにも言われたが、当然あのギルドに入れば命を常時狙われる事になる。
故に、今日のような日が来るのはもう入る時から覚悟が出来ていた。

彼もそうだが、彼を取り巻く人々からも負の感情はおぞましいの一言に尽きるものが多かった。
尽きない・・・溢れる程までに。
・・・アゼラス君も、ヴィス君もその一人だ。
私は、ただ祈る事しか出来ない。
皆がその負の感情を断ち切ってくれる事を。
いつか・・・絶対に良くなるとただ信じて。

でも・・・でもね。
ゆっくりと上を見上げると、大きな天井の部分であろう岩の塊が自分達目掛けて落ちている事に気がついた。
その岩の後ろには夜空が見る事ができ、星が一面に広がっていた。
その星は、いつもより非常に綺麗で。
我慢していた感情が、一気に爆発しているのがわかった。
星は潤んだ目で見たおかげで一層幻想的な光を放つ。
静かに、目を瞑る。
・・・この気持ちに嘘はない。
短いようで長かったこの人生。
そう、この人生。
セニア「色々あったけど・・・楽しくて、素晴らしい人生だったわ・・・!」
溢れんばかりの感情を、この言葉に乗せて。



ドォォォン・・・!
ブリジット「!?」
急いで首都・プロンテラについてから数分。
セニアがどこにいるか探していた自分を突如襲い掛かる、異常なまでの嫌な寒気と共に鳴り響く大きな音と地鳴り。
寒気は尚も自分にねっとりとくっつき離れない。
・・・この音の方なのか?
確証はなかった。
ただ、感じるこの嫌な感じを信じて進むのみである。


ブリジット「・・・これは」
ひどい光景であった。
先程までしっかりと建物であったであろう物の瓦礫と化したなれの果て。
そして・・・
「ようこそ・・・ブリジット」
様々な上級職の集まりの中、一人の騎士がそう自分に言い放った。
風貌、そして外見から多分この集団の長だろう。
名前は・・・確かだが、ロウレス。
ブリジット「これはこれは。機工旅団の皆様が御揃いで・・・貴方方がなぜこんな所に?」
嫌な予感が、一気に確信へと変わる瞬間であった。
あのセニアが危険だという事を告げたWIS、そして目の前にいる機工旅団・・・
・・・最悪だ。
ロウレス「今日は何もかもが上手く事が運べる素晴らしい日でな・・・お前にも見せてやろうと思うんだ」
自分を見ても恐れを見せない・・・むしろ、標的を今にも貫かんとする不敵な笑みを浮かべた表情でこちらを見ていた。
ロウレス「予定通りに事は運べる、餌はしっかりと役目を果たしてくれる・・・何と素晴らしい」
・・・餌?
そう言いながら、高揚そうな表情を浮かべる。
その顔が、よりいっそう自分を焦燥に駆らさせる。
餌とは何だ・・・何のことだ?
ゆらりと、静かにロウレスの両手が左右に開いていく・・・
そして、大きくこちらを見下ろして大きく口を開いた。

ロウレス「我々は遂に手に入れたァ!貴様というこの世界の闇を消し去る、大いなる技術の結晶をォ!」

それが合図であった。
ロウレス達の前に展開していた旅団員が一瞬びくっと体を震わせ、それと同時にこちらへと突っ込んでくる。
後衛職の旅団員は、自分を標的に矢を放ったり魔法を唱え始めるのがわかった。
ブリジット「・・・くっ」
即座に反応して矢を切り伏せ、空いてるもう一つの片手にツーハンドソードを持ち突っ込んできた前衛の旅団員を押さえる。
ブリジット「ぬぅ!?」
片腕で押さえている方が、悲鳴を上げているのに気がついた。
何だこの力は・・・。
まるでこちらが反撃する事など眼中に入れていないような、まさに言葉どおり精一杯の攻撃であった。
・・・いや、それだけではない。
恐れという戦闘における唯一の止めがない?
そんな事がありえるのか?
まさか、もしかするとこの人達・・・
そう、思考錯誤を繰り返しているその時であった。
「・・・聞こえるか、ブリジット」
やはり、そうか。
この人達、目に光を宿していない・・・
その中で、先程自分に声を掛けて来た声の主は簡単に見つかった。
彼だけが目に光を宿していたからだ。
気がつけば、力がそこだけ多少抜けている・・・
「俺の名はサウス、このギルドでの肩書きは中位クラス・・・まぁ、自己紹介などはどうでもいいか」
まるで自分に説得でもするかのような話方。
声の主・・・サウスの話は続く。
サウス「単刀直入に言おう。俺も含めても全然構わん・・・後ろで悠々と眺めている連中を全員殺してくれ」
そう、澄んだ瞳をこちらに向けて。


ブリジット「どういう・・・意味ですか、なっ!」
先程矢を切り伏せたカタナで思いっきりこちらを貫かんとする矢を再度切り伏せる。
そのままこちらに来た魔法も一緒に押さえてみるものの、ピシッといった嫌な音を鳴らしていた。
・・・長くは持たないな。
それを嫌でも認知させる瞬間だった。
サウス「簡潔に言おう。今、お前と戦っている奴等は全員・・・操られている。あの後ろにいる連中にな」
そう、悔しげな表情を浮かべながら。
それならば、彼等の虚ろな目の説明がつくか・・・
そんな、戦いながら考えていたせいで反応が鈍ってしまったのにも気がつけなかった。
サウス「避けろっ・・・!」
気がつけば、先程まで自分を押していた前衛の旅団員が離れていくのが見えた。
今の声の意味は・・・まさかっ!?
咄嗟に両方の両手剣を盾代わりに頭の上にもってくると同時に、それは自分を襲った。

「ロードオブヴァ―ミリオン!ストームガスト!メテオストーム!ヘブンズドライブ!」

四人のWIZによる、大魔法の一斉射撃。
ブリジット「ぐぅぅぅぅ!?」
たちまち盾にしていた剣は跡形も無くなり、足にひどいダメージを受け、ただでさえ壊れていた鎧ももはや意味をなさない状態になっていた。
壊れていた箇所にも攻撃はしっかりと行き渡り、背中から腹まで大きな穴を開けていた。
その出来上がった穴は焦げており、肉が焼けた匂いが自分の鼻を突く。
メテオストームの一つが貫通したか・・・。
立つのがやっとで、足ががくがくと笑っていた。
ロウレス「・・・その傷を負っても貴様は死なないのか。あながち、貴様の呼び名もそれだと信憑性があるというものだな」
勝ち誇るかのような目をロウレスが向けていた。
ブリジット「一つ、聞きます・・・先程の言葉・・・餌とはどういう意味、ですかな?」
先程から引っかかる、先程の言葉。
大抵予想は出来てはいたが、それを信じたくなくて。
気がつけば、このような言葉を発していた。
一瞬さも意外そうな表情を浮かべたが、それはすぐさま先程と同じものへと変わっていく。
ロウレス「ふん、餌だよ・・・餌。貴様だって、それにつられてここに来たのだろうが」
・・・やはり、か。
ブリジット「セニアさんは・・・どこにいますかな?」
ゆらりと。
しかししっかりと一歩、ロウレスに向かって足を進める。
今にもう攻撃をしかけようとする旅団員を手で制しながら、ロウレスは笑いながらこう答える。

ロウレス「実に素晴らしい実験材料だった・・・貴様をしっかりと呼んでくれるわ、このテストにも付き合ってくれたしな」

言葉は続く。
ロウレス「冥土の土産に教えてやるよ」
それから、まるで学会で発表でもするかのような話が続いた。

彼等が作り上げた物は人を物のように操る事が出来、思うがままにする事が出来るというものらしい。
それは、たとえ亡くなった死者であろうとも例外ではない。
操られた人々を操る明確な道具はないらしく、操られていない幹部クラス本人自体が司令塔のような役割を持てるそうだ。
その作れる元となったのは、たまたま倉庫で埃を被っていた一冊の本の中身らしい。

彼等は前々から歯止め役であった自分を疎ましく思い、自分を亡き者にする為の作戦をいくつも練ってきた。
その過程で完成したのがこれで、これを元に作戦が練られたらしい。
作戦内容は次のようなものである。
まず、首都にいるセニアを対象として完成したこのアイテムの性能を試す。
見事に対象を撃破出来たのであれば、そのセニア自身を餌として来た自分にも攻撃を加える、というものだ。
もし、セニアの時点で失敗していたのならこの作戦はその段階でやめていた・・・

ブリジット「貴方、まさか・・・」
想像したくない、最悪の展開だと自分でも思った。
今言った話が本当なのであれば・・・
血を流しすぎてくらっと意識が飛びそうになるが、それを何とか繋ぎ合せてロウレスを睨みつける。
しかし・・・現実は、時に非情なものだ。

ロウレス「ああ、今頃あの瓦礫の下でぐっすりと寝ている最中だ・・・永遠にな」


咄嗟に瓦礫の方を見る。
その光景は先程と変わらず無惨な姿であった。
・・・これでは、リザラクションも意味を成さない、な。

死んだ者を生き返らすと言われている魔法、リザラクション。
死者を生き返らすことが出来るとあるが、実際の所は違うのだ。
あれは止まっていた意識を再び動かすものである。
そう、ただあの世に行こうとする意識を再度こちらに引張ってくるだけなのだ。
完全に息を引き取った状態では、リザラクションは意味を持たない。

死者の命を扱うことができるのは、神ただ一人である。
死は、絶対的なものだ。

さらに、その意識を戻すためには幾つかの条件がある。
そのうち最低限なのが、体がしっかりと存在しているかどうか。
先ほど言った通り、リザラクションは精神を再度戻すという魔法。
つまり、再び戻ってくる意識の留め所である体事態がある程度正常な状態でないと意味を成さないのだ。
プリ―ストが唯一大方ほぼ個所を回復させた状況で復活させる事も出来るがそれもまた限界というものがある。
何より、そこまで会得しているプリ―スト自体がほとんどいないのだ。
そんな何時間も探すような余裕は今は無い。
ましてや、今の状況では・・・
言うのであれば、セニアの体は・・・潰れて原型を留めてはいないだろう。
体が残っていない状態では・・・

世の中、絶対的なんて事はありえない。
そう、全てにおいて万能である事なんて・・・ありえないのだ。


また、一つ。
見つけた種が、無くなってしまった。
段々と、意識が遠のいてくる気がして。
それがこの絶望感からくるものなのか、傷によるものなのかは分からない。
ただ。
これだけは言える。
ブリジット「さようですか・・・」

ブリジット「それでは・・・機工旅団の幹部の皆様、まだお若いようで早く感じられるかもしれませんが」

司令塔と思える人物達は多分ではあるが八人。
その内、先程私に話し掛けてきていたロウレスただ一人であるが、非常に張り詰めた空気を発している事がわかる。
おそらく彼は己の成長の限界点に達している人物であろう。
その他の人物だってかなりの気迫が感じられる。
傷を負っているこの状態では無理、だな。
それならば、これもやむなしか・・・。

彼らが仕出かした行為。
そして、セニアさんを亡き者にした行為。
・・・到底、自分の中で収まりそうにない。

このような結末を望んでいるとは思えませんが、すみませんセニアさん・・・



貴方方は、踏み込んではいけない領域に足を入れてしまった。

そう、私の監視という項目では抑えきれないほどの来てはならない領域に。

ブリジット「世代交代といこうか」

消えてもらおうか。



アゼラス「!?」
ヴィス「に、兄さん?」
アゼラスの様子が一瞬にしておかしくなるのにいち早く察知した自分が、咄嗟に声をかける。
しかし・・・
ヴィス「えっ!?」
一瞬、自分が生きているのか分からないと思うほどの殺気が自分を襲った。
この殺気は・・・!?
きの「あ、あれは・・・」
口を手で覆い、体を震わせながら一方を指す。
その先には・・・
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一人の騎士の、無念なる声。
ブリジット「あはははは・・・あはははははは!」
体中を真っ赤にしながら、大きく笑うブリジットの姿があった。


ロウレス「ば、化け物が・・・!」
先程から一転して、驚愕のせいかあっけにとられる自分がいた。
まさに、死神・・・
この人物の呼び名が、自分の脳裏をゆっくりと、ゆっくりと過ぎ去っていく。
何で、こんなことに・・・

出来事は一瞬であった。
ブリジット「世代交代といこうか」
その言葉と同時に、姿勢を低くして背中にある一本の両手剣を抜き出した。
両手剣は夜で暗くなった一面よりも黒く、まさに漆黒と呼ぶべきであろう外見をしていた。
本来見えるはずでない同色の物であるが、異様な程までのその黒さだけは確認出来るほど。
その剣を抜き、瞬時に宙に向けて何やら描き始める。
ロウレス「き、貴様・・・何をしている?」
答えは返ってこない。
代わりに・・・
ロウレス「!?」
宙でいきなり光の線が現れ、奴が描いたのであろう線を辿り一直線に繋がっていく。
その形は、まるで魔方陣のようなものであった。
その中に、奴の片腕がゆっくりと突きつけられる。
ロウレス「くそっ!何でもいい、奴の動きを止めろ!」
このままやらせておくのは非常に危険である。
そう察知した自分は、すぐさま操り人形と化した自分の部下達に命令をする。
先程と同じく一瞬体を震わせ、そしてすぐさま先程と同じ様に攻撃を開始しようとする。
そして、剣があと1歩で奴の体を引き裂ける瞬間に、それは起こった。
ロウレス「なんだ!?」
先程出来上がった魔方陣が、切りかかると同時に強い光を発したのだ。
おかげで目が瞬間的なものであるが機能しなくなってしまう。
・・・くそっ。
何とか元の状態に戻り、目を開けたと同時に広がっていたものは・・・

ロウレス「これは・・・!?」

操っていた部下達の、倒れる姿であった。
いや・・・それだけではない。
奴の片手に握られているあの光を放つ剣は何なんだ?
片手には漆黒の剣、そしてもう片方に握られていたのは光り輝く剣。
どちらも見た事のない剣であった。
さらに、大きく、そして痛々しい腹にあるはずの大きな穴までもがすっきりと治っていた。
どう言う事だ・・・
ブリジット「これで確定、ですね・・・貴方方が元凶だという事が」
にぃぃっと笑いを見せながら、一歩・・・また一歩とこちらへと近づいてくる。
ブリジット「貴方達は好奇心に溺れてしまった。その代償を払わねばいけません」
下を向いて顔を上げずに。
そう声を上げながら、ゆっくりとこちらへ歩を進める。
ブリジット「このような馬鹿な事をしなければよかったものを・・・」
顔は相変わらず下を向いている為に確認する事が出来ない。
ただ、この状況がまずいという事だけはわかった。
先程とはまた違うプレッシャーが自分を襲っており、別人とも思わせる程の錯覚さえ覚えるほどだ。
ロウレス「貴様・・・本当にブリジットなのか?」
槍を構えながら。
目の前にいるムナック帽を被った騎士に、そう問い掛ける。
ブリジット「そう・・・私はブリジット。貴方達が排除しようと試みた者です」
ギギ・・・ギギ・・・
両手剣の先が地面を削り、小さな音をたてる。
ブリジット「まぁ・・・状況は一変した、とでも言っておきましょうか」
そう言いながら、片目を覆っていた包帯がゆっくりと取られていく。
ブリジット「消えるのは・・・貴方達です」
その包帯に隠れていた目は網膜が真っ黒になっており、瞳孔が深紅の色をしていた。



ロウレス「!?」
その目に呆気に取られた瞬間の出来事であった。
自分の斜め前にいたWIZの上半身がゆっくりと、ゆっくりとずれていき落ちる。
その隣にいたプリーストも、首がゆっくりとずれていきやがて地面に落ちた。
その切り傷は見事なもので、血がまったく流れていない。
ロウレス「・・・あの状態から斜め上に振り上げただけで切られたのか!?」
ありえない。
一振りだけで二人もの人間の体を貫通したというのか?
見た事の無い剣だったが、こうとまで威力があるとは・・・
ロウレス「三人一組で奴に攻撃をしかけるぞ」
そう、隣にいたハンターに小さく声をかける。
単体では正直見込みがない。
ならば、知恵とやらでかき乱して勝機を狙うのが懸命だ。
あいにく奴は一人・・・数では圧倒的とはいえないがこちらが有利なのは言うまでも無い。
ロウレス「・・・いくぞっ!!」
その掛け声と共に、まず前の方にいた騎士・プリースト・WIZの面子が攻撃を仕掛ける。
狙うは隙。
隙さえ作れれば、そこに一斉に自分の技であるスピアブーメラン・・・さらにはハンターの攻撃だってある。
攻撃の切っ掛けさえ、作れれば・・・

WIZ「ライトニングボルト!」
その声と共に、ブリジットの頭上から激しい雷が現れ彼を消し炭にせんと襲い掛かる。
ブリジット「・・・」
雷が直撃するよりも早く。
片腕にもった、光り輝く両手剣がその雷とブリジットの真ん中に遮る形で入り込む。
WIZ「えっ!?」
光の剣に直撃したその雷は、突如まるで反射でもされるかのように四方に散らばり始めたのだ。
予定外の攻撃に、瞬時に振り下ろしかけていた両手剣を盾に雷を押さえつける騎士。
プリースト「ぐぅっ・・・」
すぐ魔法がかけられるように騎士の近くにいたプリーストの腹に、光り輝く両手剣が突き刺さられる。
WIZ「貴様ァ!」
仲間の崩れていく姿を目の前にし、怒りをあらわにしながら先ほどのWIZが再度魔法を唱え始める。
騎士「避けろ!」
WIZ「えっ・・・?」
その言葉に気が付くよりも早く。
WIZの顔が黒い闇に切リ裂かれ、真っ二つに割れる。
騎士「剣を投げるなんて・・・何て攻撃をしやがる!」
その言葉を象徴するかのように、ブリジットが先ほど握っていた漆黒の剣が無くなっていた。
先ほどからでたらめな攻撃ばかりしていて、実際の所振り回されているの自分達の方。
しかし、今プリーストに剣を突きつけ・・・そして片手に握っていたあの黒い剣は存在しない。
勝機があるとすれば今以外にない!


こう騎士が考えたのは、一秒も経っていない細程の短い時間であった。
騎士「もらった!」
剣を振り上げ、ブリジットの頭上めがけて振り下ろし始める。
その突き刺した両手剣が抜ける様子はなく、確実に早く自分の両手剣が奴の体を一刀両断できるのは確実かとさえ思った。
・・・やったか!?
一瞬、勝利を信じて疑わない確信があった。
刹那。
騎士「かはっ・・・!」
その確信を感じてから数秒もたたずに、襲い掛かってきたのは異常な痛み。
ブリジット「・・・考え方は悪くありません・・・」
遠のく意識の中、聞こえたのはその言葉であった。


言葉がでなかった。
ロウレス「・・・」
騎士が、確実に奴の隙を突いて切りかかる瞬間まで見ていた。
しかしどうだ、この結末は。

目の前にあるのは、プレートを貫いて血を滴り落とす一本の腕。

素手でプレートを貫くだと?
そんな事がありえるのか?

何なんだ、あいつは・・・?
プレートをも貫くその攻撃に生身の体が耐え切れるはずがなく、その腕が抜かれると同時にゆっくりと騎士が地面に倒れこむ。
ずっ・・・と嫌な音が一瞬耳に入り込んで来ていた。
その貫いていた腕と思われる手には、鮮血のおかげか真っ赤に染まっている。
ロウレス「ば、化け物・・・!」
驚愕してなのだろう、この状況下で呆けてしまう自分がそこにはいた。
この、でたらめとしか言いようのない力は何なんだ!?
ハンター「うわぁぁぁぁ!」
耐え切れなくなったのか、隣で隙を窺っていたハンターが弓を床に捨て背を向けて走り出す。
・・・俺も逃げた方が懸命なようだな。
こんな所で死んでたまるか・・・自分は、まだやりたい事もやらねばならない事も沢山ある。
死んで・・・
ブリジット「背を向けるなら戦いなど挑んでくるなァ!!」
その怒鳴り声と共に、ハンターの喉・・・否、首全体に先程の漆黒の剣が突き刺さる。
当然両手剣の幅より狭い首はひとたまりもなく真っ二つにされ、またも地面に転がる頭がひとつ追加された。

何で、奴の手になかったあの剣が刺さってるんだ?
いや・・・いつのまに移動したんだ、奴は?
気が付くと、自分の左腕の篭手が切り裂かれて肌から多量の血が流れている。
移動の際に、切られたのか?
くそっ・・・
逃げるという選択肢は、選べないな・・・
ロウレス「この、化け物がぁぁぁぁ!!」
瞬時に懐にいれていたオレンジ色のポーション・・・狂気ポーションを飲み干す。
これの効果は自分の体の細胞を一瞬にして活発化させ、攻撃スピードを速めてくれるというもの。
ただ効果は三十分・・・切れた後に襲い掛かる使う前とのギャップは、異様な程のものである。
自分の体が先程と違って一瞬にして軽くなるような錯覚を覚える。
握りしめていた愛用の槍を一層力強く握り締め、顔だけをこちらに向けた奴目掛けて走り出す。
ねらうは急所、それ以外は視界に入らないものとする。
長期戦という選択はまずないといっても過言ではないだろう。
・・・一瞬でけりを着けてやる!

ロウレス「もらったぁ!」

槍の長さ、そして走っていたこのスピードに威力を乗せてブリジットの首元めがけて愛用の槍が突かれる。
避ける様子は見せずに、そのまま首元をしっかりと貫かれるかに見られた。
ロウレス「やったか・・・?」
まだわからない・・・分かっているのは、貫かれて動かないブリジットの姿。
・・・いや、手ごたえがない。
それを表すかのごとく刺さったはずのブリジットの姿はゆらゆらと不安定になり、気がついた頃にはその姿は消えてなくなってしまった。
これはモンクが使う残影か!?
ブリジット「・・・邪魔な、槍だ」
その言葉と同時に、自分の槍が瞬時に軽くなる感覚が自分を襲った。
前を見ると、ちょうど槍の中央辺りから先が地面に落ちておりそこに振り下ろしたのであろう光り輝く剣の姿。
そして、赤い目をこちらに向けるブリジットの姿。
ロウレス「ま、まだだ!」
代わりに取り出したのは火の属性をもった一本の槍。
愛用の槍を無くしてはいる状況ではあるが、どんな奴だって武器は補助用に何かしら準備はしているものだ。
それが今の自分でいえばこの火の属性を持つ槍である。
後あるのは護衛用に腰に掛けた剣のみ・・・出来るのであれば使い慣れている槍で決着をつけたかった。
ゆっくりと、されどしっかりと槍を構える。
自分から手を出して駄目ならば、相手の出方を窺い・・・ACで流してからでかいのを一発いれる。
それにかけるしか手が残っていなかった。
自分が構えているのに何も反応を見せずに、ブリジットがゆっくりと立ち上がる。
返り血で壊れたプレートを・・・真っ赤に染めながら。


ブリジット「出来れば貴方とは仲間としてお会いしたかったものです」
ロウレス「・・・どういう事だ」
自分の構えは崩さない。
ただ、ここに来て急に話を振ってきた奴の行動が気がかりであった。
ブリジット「貴方はその力に選ばれ開花させた側の人間。力に溺れなければ・・・よかったものを」
ロウレス「何を言っている?」
選ばれた?
開花させた?
・・・何を言っているんだ、こいつは。
ブリジット「残念・・・ですなァ!」
その言葉と同時に、奴の姿が一瞬にして消える。
あるものは、その地面に大きく残った奴の足跡であろう痕跡。
という事は・・・また奴の動きを確認できなかったということか。
となれば、目で見ようとしてはいけない・・・あの禍禍しいオーラを発していた漆黒の剣を追えばいいんだ。
その剣の先に、当然奴もいるのだから。
・・・後ろか!?
咄嗟に前方に向けて構えていた槍を水平に振り回す。
案の定ブリジットは後ろに回っていた様子で、槍が横腹を切り裂かんと襲い掛かる。
ロウレス「くそ、フェイクかっ!」
鳴り響いた音は金属音が遠くに遠ざかっていく音。
どうやら自分の読みを読まれたらしく、漆黒の剣を囮に使われてしまったようだ。
ブリジット「残念ですよ・・・」
聞こえた声は、先程自分が構えていた槍の方向。
・・・前!
瞬時に振り向くと同時に、手にした槍を右斜め気味に地面に落とす。
そして、取っ手とは逆の槍の矛先を思いっきり踏み込んだ。
ブリジット「ほう・・・てこの原理ですか」
次に見えたのは、光り輝く剣が空目掛けて大きく跳んでいく光景。
槍の長さを生かした、咄嗟の防御法。
さすがに・・・戦いなれているな。


面白い。
カタリナさんの時といい、最近はどうやら楽しい戦いが随分と続いている。
くくっ、と小さく笑みを零す。
だが・・・
ブリジット「これで終わりですね」
自分の剣を飛ばす為に彼は思いっきり槍を踏んで威力をつけた。
当然槍の方がそれに耐えられる訳もなく、踏みつけられた反動で円を描きながら宙を舞っていた。
普通の人なら、終わってたかもしれません・・・だが。
ブリジット「現状がどうであれ・・・久々に見れて良かったです、"傀儡"」
そう、小さく呟いて。

とりあえずあの光り輝く剣で攻撃される事はなくなった。
だが・・・
ロウレス「くそっ!」
小さく舌打ちをしながら腰に掛けていた剣を振り向きざまに抜く。
奴には・・・先程の騎士を貫いた、あの素手による攻撃がある。
振り向き様に確認してみるが、予想通りに腕を振るわんとする奴の姿。
ゴキン・・・と小さく手の間接が鳴る音が聞こえた。
ブリジット「さようなら」
その言葉が合図となり、奴の拳が自分の肺辺り目掛けて振るわれる。
ロウレス「間に合え!」
拳が貫通するよりも早く。
抜いた剣が、盾代わりにブリジットの拳とぶつかる。
しかし・・・
プレートさえ軽く貫いたその拳を止められるはずがなく、剣が勢いに負けて真っ二つに裂かれてしまう。
ロウレス「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
絶望感がまず襲い、次に襲ってきたのは痛み。
ブリジット「あはははははははは!!」
次に、もう片方の手が自分の視線を奪う。
顔を・・・つかまれているのか?
そう頭の中で思ったのが、この世で考えた最後の事であった。



きの「ひどい・・・あんな、あんな・・・」
息が詰まるような気分になりました。
それと同時に、アゼラスさんから聞かされたブリジットに関わる話のすべての現実さが自分を襲っていました。

顔を掴んでから数秒もしないうちに、それはおこりました。
掴んだ顔を、思いっきり地面に掴んだまま落としたのです。
ぐちゃ・・・
そんな音が、辺り一面に響き渡りました。
それに合わさる形で、あたり一面が真っ赤に染めあがりました。
その音が離れられなくて、ずっとフラッシュバックでも起きるかのようにずっと鳴り響く錯覚さえ覚えました。
やだ・・何これ・・・いや・・・いや・・・・・・・!
きの「いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ブリジット「あははは・・・あははははははは!」
もはや生きているという感覚すら無くなっていた。
一瞬にして幹部たちを亡き者にし、ロウレスさえこの有様とは・・・
奴のその戦闘に置ける貪欲さは常人では見るに耐えないものであろう。
・・・実際、自分ももうその雰囲気に飲み込まれているのだから。
サウス「ブリジット・・・さぁ、まだ俺が残っている・・・俺も殺せ」
正直初めは駄目かと思っていた。
だが結果はこれだ・・・さすがに国が抱えている問題のトップと言われているだけはある。
しかし、これでいい。
彼らがいなくなった。
これで、部下達も苦しまなくて済む。
恐怖がなかったとはいわない・・・しかし、感謝のこの気持ちだけは正直なものであった。
高らかな笑い声を中断し、静かに顔をこちらに向ける。
ブリジット「貴方は今まで通り機工旅団を運営してあげて下さい。決して、もうこんな間違いを起こさぬ様期待してます・・・それに」
そこで言葉をいったん止めて、歩をゆっくりと進める。
ブリジット「統率する人がいなければ、機能しないでしょう?」
そう、後ろで頭を下げる自分に言い残し去っていった。


ブリジット「あはははは・・・」
目覚めかけてきている。
ロウレスを殺してしまった際に脳裏に浮かんできた言葉がそれであった。
何とか抑えなければ・・・
そう思った瞬間。
「ブリジットォォォォォ!!」
ブリジット「!」
キィン!
咄嗟に剣を抜き、力任せに相手の武器を弾き返す。
「くそっ・・・」
そう小さく声を漏らしながら、再度先程自分を切りつけようとしたものであろう剣を正眼に構える。
ブリジット「な・・・貴方は?」
自分に切りつけてきたのは、中々の実力を携えているであろう剣士の姿。
・・・若い、年は二十歳もいってないだろう。
月の光に反射された銀色の髪の毛が印象的であったが、自分を驚かさせたのはそれだけでなかった。

「・・・ゲス野郎め」

月を背にして、そのヴィスの後ろに佇んでいたWIZがそう自分にはき捨てた。
その目には自分のみを捕らえ、それ以外は目に入っていないかさえ思えるほどの集中力。
・・・そして、前方にいる剣士もそうだが自分に向ける目は負の感情の結晶とも取れる目。

そんな事はどうでもよかった。
どうやら目覚めるうんぬんでもなく、今この現状を目の当たりにして自我をしっかりと戻すことができた。
代わりに今自分を支配しているのは驚愕という言葉である。

何故・・・何故。
貴様が生きている!?

ブリジット「何故お前が生きているんだ・・・?」

アゼラス「・・・何を言っている?」
後ろから、呟きともぼやきともとれるような声が耳に入ってきた。
・・・兄さんは、ブリジットと知り合い?
アゼラス「俺は・・・貴様を追っては・・・いたが、貴様の知り合いなどに・・・なった覚えはない!!」
そんな自分の考えを真っ向から否定する怒鳴り声が辺りに響き渡った。
何か先程からとにかくおかしい。
もとい、今自分がおかしいというのは奴・・・そう、ブリジット。
初め自分を確認した際に向けた顔は、実に驚きという言葉の似合う表情であった。
自分は今まで奴と対峙した事なんて一度もない。
なのに・・・奴は、自分の事を知っているのか?


・・・知り合いになった覚えがない?
自分は、彼等の事を知っている。
そう・・・嫌と言うほどに。
なのに自分を知らない?
さすれば・・・
ブリジット(・・・転生したか)
今まで気がつけなかったなんて・・・馬鹿だ、救い様の無いほどに。
しかしこれで、少し話が変わってくる。
転生したとなれば、今はまだ彼等は"どこにでもいる冒険者"となる訳である。
恨みは沢山買っている。
彼等も、その恨みを晴らそうとする人たちの一握りに過ぎない存在だという事だ。
ブリジット「人違いのようですな・・・貴方方、名前は?」
ヴィス「答える必要などあるか!」
そう、問い掛けてきた自分にはき捨てるかのような返答。
・・・
普段なら引き下がる所だが、この状況では引き下がるわけにもいかない・・・。
静かに、彼等がこちらに向かってきたであろう位置を静かに見つめる。
数は二つ。
アコライトとプリーストが、その場でぺたんと座り込んでいるのが伺える。
その、プリーストから持つエンペの光・・・
・・・そういう事ですか。
卑怯とも取られるでしょうが、今私には時間が無いんですよ・・・。
ブリジット「貴方方に選択権など与えるつもりはありません・・・言わないと、大変な目にあいますよ?」
彼等は気がついた・・・自分が、後ろにいる二人に少し目を向けたことを。
目を一層厳しくさせつつも、静かにアゼラスの口が開く。
アゼラス「・・・アゼラス・D・サイド・・・こいつがヴィス・D・サイド・・・だ」
怒りをあらわにしつつもの言葉。
その言葉一つ一つに、ピリピリと自分を圧迫させる威圧感。
アゼラス、そしてヴィスか・・・。
ブリジット「それではアゼラスさんとヴィスさん、私は用がありますのでこれにて」
一人の冒険者となれば、今は構っている暇などは持ち合わせていない。
すぐさま後ろを向き、早歩きで歩を進める。
ブリジット「・・・あーっと、言い忘れていましたが」
突如足を止めて、ゆっくりと振り返る。

ブリジット「今貴方方が私にひとつでも攻撃しようとするのであれば・・・彼女達であろうと保証はしません」

静かに、いつもの微笑を構えながら。
しかし、カタリナの時よりもより一層の威圧を彼等にぶつける。
・・・返答はない、されど、動きもない。
ブリジット「後・・・後ろのプリーストさんにこれを渡しておいてあげて下さい」
そういって、地面に置かれたのはひとつの花びら。
よくセニアが愛用して着けていたものである。

ブリジット「私なんかより・・・彼女の元に合った方が幸せでしょうからな」

静かに、また足を速める。
ヴィス「くそ・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
後ろからは、ヴィスの悲痛な叫びが木霊していた。

会えてよかったと心底に思う。
目覚めかけていた自分を戻してくれたし、気がつけなかった自分の今後の為にもなった。
ブリジット「さて・・・」
腕組をしながら歩を止めて上を見上げる。
その目の前には・・・大きな城、プロンテラ城が聳え立っていた。



「・・・よく来たな、ブリジット」

プロンテラ城の大広間。
自分の目の先にはこのプロンテラを統治するプロンテラ王がいた。
ブリジット「いやはや、こんな夜にお邪魔して失礼ですがねぇ」
微笑は崩さない。
否・・・微笑というというより、今自分は少しだけ笑っているような気さえする。

彼女は言った。

「あんたの所の王が何を考えているか、調べてみることね」
「もう戦いは始まっているのよ」

そもそも、あの機工旅団はこの城の中で作業をしている。
そこで彼等は見つけ作った結果が今さっきの出来事である。
何が言いたいか?・・・それは

この城・・・否、彼等が禁術を所持しているという点だ。
そこに呼応するかのごとく、彼女の突然の到来・・・そして忠告とも取れる発言。
とにかく、この目の前にいる彼に聞いてみるが早いですかねぇ。
ブリジット「・・・話を聞かせてもらいましょうか、事と次第によっては」
背中にある漆黒の両手剣を、ゆっくりと抜いて彼に向ける。
その刃先についていた赤い血が、ぽたぽたと地面に落ちていく。
ブリジット「貴方達を、殺します」

プロンテラ王「今更何を・・・お前は数多くの我等の仲間を殺しているではないか」
自分の言葉に臆さずに、王座の取っ手に肘をついて言葉を返す。
まぁ、確かに彼らからすれば今更・・・と言われれば今更ですか。
ブリジット「先日彼女が現れて忠告を受けましてね・・・貴方がどう考えているのか等と言っておりましたよ」
今回に関してははぶらかされては困るのだ。
彼女が忠告をしてくる時点で、何かが進んでいるとみて問題はない。
自分は何か見落としているのか?・・・それとも。
プロンテラ王「何もしとらん。それ以外にどう言ったらよいのだ?」
ありきたりな、されど今に適しているかのような発言。
まぁそう来るとは思いましたが・・・。
ブリジット「さようですか。それでは、最近王国直属のギルドは少々行動に問題がおありな用ですがそこはどうですか?」
今さっき行われた機工旅団・・・そしてPROGRESSの件もある。
彼女に言われるまででもなく、少々おかしいと感じていたのは他でもない自分だったのだ。


プロンテラ王「多少の命はしとるが根本的には各自自由な行動でやってもらっている。私の管轄にも限界がある」
自分には非の無い、と言わんばかりな発言。
お偉いさんはやはりこういうものですかねぇ・・・
プロンテラ王「それにお前の行動だって我々からすれば難ありなんだがな・・・ブリジット?」
・・・食えないお人ですね。
ブリジット「ふむ・・・なら取引をしましょうか」
漆黒の剣を静かに元ある位置に戻しながら。
自分は今回の本題を切り開いた。
彼からの返答はないが、されど興味深そうな視線をこちらに向けている。
ブリジット「今回は見逃してあげましょう・・・その代わり、私の仲間に手を出すのはやめてもらえませんかね?」

もうこれ以上。
自分のせいで、仲間が無くなるのは見たくない。

皆はそんなの気にしないとは言ってくれるが、セニアが亡くなったのは紛れも無い自分の責任。
しかし・・・
そろそろ、これにも終止符を付けねばならないということであろう。
やはり私は・・・表舞台に上がってはいけない人間なのですね。
ブリジット「これ以降私の仲間に貴方方の誰かが手を出したと分かれば・・・真っ先に貴方を殺しに向かいます」
返答はない。
ブリジット「その代わりこの条件を飲めば、今回の件等は水に流して差し上げましょう」
個人的に甘くなったと思う。
否・・・昔からか。
プロンテラ「わかった、飲もう・・・ただ、お前に関してはわからないとだけ言っておく」
今回の件はあくまで自分以外の友人に対する行動制限。
つまり、私本人に対する行動に関しては制限をかけていない。
ブリジット「交渉成立、ですね」
自分になら、何をしてきても構わない。
ただ、それで友人に何かあるのが嫌なのだ。
それだけの事さ。
ブリジット「それでは私はこれで・・・もう少し弁えた行動をしてくれる事を期待してますよ」
そう言って、ゆっくりと元来た道を辿って行く。
その後には、血痕をいくつも残して

残されたプロンテラ王は大きく笑う。
プロンテラ王「甘いな・・・お前は。甘すぎる死神だよ」



城を後にしてから数分した時であった。
ブリジット「ぐぅっ・・・!?」
自分の意志が何かに支配されて、意識が遠のきそうになる感覚。
即座に手にした護衛用の片手剣で、腕を思いっきり切りつける。
痛みの影響か、意識が戻ってくる感じがした。
ブリジット「これだから・・・これは・・・」
ゆっくりと、誰も通る事は無いであろう街の端までゆっくりと歩いていく。
そして、その壁にゆっくりともたれかかる。
それと同時に襲ってきたのは異様なまでの眠気。
くそ、やる事がまだ残っているというのに・・・
ブリジット「・・・いいや、今日はもう疲れたよ・・・」
夜の寒さ等気にならない。
それほどまでの眠気が襲っていた。

今日は、静かに。
寝させて・・・下さ、い・・・。

ぐったりと、まるで死人のように寝息をたてる。
その姿を確認した者は・・・いない。


(よう大将、めぇさませや)
寝ている自分を起こす声。
(寝るのもええが・・・今は早々寝てられんやろ)
声だけの目覚めを促す行動は続く。
されど自分は反応しない。
(・・・大将、いつまでわいをそうやって無視するつもりや)
その声の主の思いつめた声。
それでも私は寝たまんま。
(大将・・・)
・・・


ブリジット「ん・・・」
目を覚ますと、辺りは暗い夜。
どれだけ寝たかは判らないが幾分体が軽い。
・・・最低でも一日以上寝てるな。
そう判断出来るほど体の調子が良い。
ただ、完全とはいかないようだ。
ブリジット「目もあのまんま、か・・・」
咄嗟に、先の戦闘で取った布を再度その目を隠すように結ぶ。
これで見る景色は嫌いだ。
何もかもが嫌になってくる。

嫌、か・・・

嫌でも、これだけはやっておかないとな・・・

小さく息を吐く。
その息は白く軌道を描き、静かに消え去っていく。
彼はああ言ったが、はっきりいってどこまで信用したらよいかわからない。
ただ、それ以外にも幾つか方法は考えていた。
おもむろに取り出したのはひとつのエンペリウムのかけら。
そう、これは自分が改造してWISとしての機能を持つエンペリウムだ。
その発信する先を、ギルドメンバー全員に設定する。
ブリジット「こんばんわ、ギルドメンバーの皆様。本日は、重要なお話が二つほどあります」
静かに一人空を見上げながら。
ブリジット「ひとつは・・・セニアさんが御亡くなりになりました」
今夜は星が綺麗だなと心底思う。
ここらも、空気が綺麗だという事か。
ブリジット「二つ目は・・・」

もはや、迷う余地などありはしない。
また何かがある前に、ケリをつけなければ。

ブリジット「本日を持って、このギルドは解散します」

これで、私はひとつ背負う物を捨てる事となる訳だ。
これだけでは納得しない人もいますかな・・・
ブリジット「詳細を聞きたいお方はモロクの酒場にお越しください・・・今晩のみ、受け付けます」
これでいい。
偉く一方的で傲慢な発言ではあったが、こうでもしないと私はこのギルドの縁を切れないと思う。
それだけ、このギルドには思い入れがあるのかもしれないな・・・。
ブリジット「それと・・・このギルド会話が終了すると同時にこのエンペリウムは効力を失いますのでお気をつけを」
私のギルド用に改造はしていたが、いずれの事も考えこのような機能もつけていた。
昔の私は偉く今後を見据えた行動をしてくれるものだ。
ブリジット「それでは皆様・・・申し訳ありません」
それと同時にWISの接続を切る。

パキン・・・

切ると同時にエンペリウムにひびが入り、完全に粉々になってしまう。
代わりに現れたのは小さな小さな耳にすっぽり収まりそうなひとつのアイテム。
そう、これが本来のWISの姿。
今ごろ、他の元ギルドメンバーのエンペリウムもこうなっている事だろう。
ユキ「・・・ブリジット」
そのWISから、小さく響き渡る一人の女性の声。
ユキ「今モロクの酒場にいるわ・・・よければ、説明を聞かせて頂戴」
彼女には本当に迷惑をかけたと思う。
今まで振り回されっぱなしとも言いかねないものだったのだから。
ブリジット「お久しぶりです・・・了解致しました、すぐ戻りますのでご説明致しましょう」
彼女にも今回の事を隠さず話さねばならないだろう。
どう思うかな、彼女は。
今まで通り怖がられる・・・か。
何度もあった、話をした後の元友人の反応。
あの状況は非常に辛い。
しかし、それなりの行動をしてきたのも事実。
ユキがいるのであれば、多分イング達もいるだろう。
丁度いい・・・ここらで、友人との縁を完全に切っておいた方がいいだろう。


やはり。


私は、出てきてはいけない人間なのですね。



〜つづく〜




あとがき
こんばんわ、ご機嫌いかがでしょうか?鰤です。
長く続いてしまった番外編ですが、ようやくこれで終わりです。
リザラクションやヒールの設定等、私の個人的見解を元に作成してしまいましたが本物では少々違うのであしからずw

今回で、かなりの内容が進んだようで進んでいない感じとなっております(ぇ
ギルドが解体したり。
変な漆黒の剣と光り輝く剣が出てきたり。
セニアさんが亡くなってしまったり等ですな。

セニアさんの処遇に関しましては、ご本人のご要望にお答えさせてもらいこういう結果となりました。
そもそも今回の番外編はそういうご要望がありました結果生まれたというものであったり(ぁ
これが二十五話でしっかりとくっつくのでよろしければ今後更新されるであろう本編とあわせてお読みくださいな♪

それと、ブリジットが言った謎の言葉"傀儡"。
これはいったいどういう意味なのでしょうか?
謎ですねぇ(ぁ


tu-ka今回長すぎ、ここまでご閲覧して下さった皆様に感謝ですw
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