ラグナロク・オリジナルストーリー第十五話―仕事



時「・・・むぅ」
ずっと滞在していたフェイヨンとは比にならないくらいの暑さに、したたり落ちてきた汗を拭く。
ズキッ・・・
玉藻前との戦闘の際に受けた傷が、暑さに反応して余計に痛む。少し苦しい表情を浮かばせる。
時「完治とはいかなかったか・・・まぁ仕方が無い」
横腹を手で抑える。敗北の傷・・・あまりいいものではない。
時「フェイは大丈夫だろうか・・・」

あの後。
フェイが何か踏ん切りがついたような、意を決した様な表情に少し疑問を抱いた。
そもそもフェイが悩んでいた要因は「どうすれば玉藻前に追いつくか」というものだ。
修行などでは到底到達する事の出来ない場所に行ってしまった奴、その奴に追いつく術か何かをフェイは見つけた。
そう時は踏んでいる。
どんな事を思いついたかまでは聞くつもりは自分には無かった。

それでは自分はどうしたら追いつけるか?
これに関しては一番悩んだ・・・その末に出てきたもの。

ギルトマスター・ブリジットに聞く。

これがでてきたのだ。
自分ではまったく何もいわないが、彼は実際玉藻と何度か戦っている・・・しかも撤退させているはずだ。
そうでないと、昔のフェイヨンで起きたあの出来事、先日起きたあの戦闘の説明がつかない。
しかも、フェイがそれについて質問した際に話題を変えようとした。あれは、ブリジットが嘘をついている証拠でもある。
彼なら何か知っている・・・奴に、玉藻前に勝つ方法を。

この考えが無ければ、はっきりいって今回の仕事はパスさせてもらうつもりだった。
自分の体も完治していない・・・それに、フェイの体もまだ完治してなかった為だ。

時「フェイ、平気かなぁ・・・」
「あらん、呼び捨て出来る様な彼女が出来たの?時ちゃんもすみに置けないわねぇ」
不意に声を掛けられ、カタールを握り締める。
・・・しかし。
時「セニアさんでしたか」
姿を確認すると共に、カタールを握るのを止める。
セニア「いよーぅ!元気だった?時さん!」
威勢良く挨拶をする。
久々のご対面だ。



セニア「ふむふむ、てことは時さんは怪我を負っちゃってる訳なのね」
そう言いながら、少し目を脇腹に向ける。
時「しかし・・・仕事なんて何ヶ月ぶりですかな?」
そう不意に振った質問に、セニアも表情を難しくさせる。
セニア「う〜ん・・・これは私の推測なんだけどね、実際はもっとお仕事はあったと思うのよ」
その言葉に、少し時も表情を難しくさせる。
セニア「ブリちゃん、何か随分と後ろで動いてるみたいだから・・・あと、やっぱし何か隠してるわねぇ」
時「ほぉ、セニアさんもそう思いますか?」
実際、このセニアが言っている事には共感がもてる。
ブリジットは何かを隠している・・・これは、時も前からずっと思っていた事だったからだ。
セニア「実際ブリちゃんと一番長く付き合ってるのは私だからね。まぁ・・・後は女の勘かしら?」
そういって、意味ありげに少し笑う。
時「ふむ・・・」
確かに、このギルトでブリジットとの付き合いが一番長いのはこのセニアである。
そのセニアが怪しいといっているだけに、やけに説得力があった。
セニア「でも何言ってもブリちゃんこの話題からは逃げるからね〜・・・あまり気にしない方がいいかも?」
時「・・・そうですな」
何事も強制はしない。
ブリジットの考えだ。それが、いつのまにかギルトの信条の一つになっていた。
セニア「まぁ、ブリちゃんがミステリアスなのはこれに始まった事じゃないし、いいんじゃないのかしら?」
そういって、笑う。



そう、実際に謎の多いブリジットを問い詰めようとする人はこのギルトにはいない。
各自理由は様々だが、自分をまったく明かさないブリジットについてきている。

ブリジットについていく理由がある。

それだけは全員確かな事だ。
それのせいか、各自が自由に、バラバラに行動しているくせに仲が良い。
・・・一部を除いて。



その頃。
ブリジット「ふぅん、やっぱし来てるねぇ・・・ふふっ」
窓ごしに肘をつき、外を眺める。
ヤファ「何が来てるんですか?・・・あ、昨日言ってたブリジットさんのぎるとめんばー・・・ってゆーのですか?」
まだ見ぬブリジットの仲間の為に、食べ物などを宿主が運ぶ食事を手伝いながら話し掛ける。
ブリジット「あぁ、気にしなくていいよ〜」
その影に目を一瞬流し、視線を戻す。
ブリジット「・・・いなくなったか」
姿がないのを確認して、窓際から離れる。
一瞬ヤファの手伝いをしようとしたのだが、あまりの眠さとめんどくささが一瞬にして襲ってきたので、一旦寝る事にする。
ブリジット「や〜ふぁ〜・・・誰か来たら私を起こしてくれない〜?」
ヤファ「は〜い」
ヤファの返答を聞き、眠りにつく。



一時間ほどたったころだろうか。
ヤファ「ふぅ・・・準備完了!」
テーブルには料理などが並べられ、各自が競っているかの様な光景にもみえる。
ヤファ「わぁ〜・・・おいしそう」
ついつまみ食いをしたくなってしまう様な衝動感を何とか抑えながら、料理を見つめる。
不意に、外が何か騒がしいのに気がつく。
窓の方まで行ってみると、自分達が泊まっている宿の前にかなりの人数が集まっていた。
フェイと時・・・だっただろうか、ブリジットがそう呼んでいた人と同じ様な姿をした人達ばっかである。
ヤファ「何してるんだろう・・・?」

ガタッ・・・

不意に、後ろの方向から物音が聞こえた・・・後ろを向こうとするやいなや。
「動くな・・・」
不気味に響き渡るその声と共に、喉元に刃物の様な物を突きつけられる。
ヤファ「・・・っ!」
その恐怖に、おもわずはこうとした息を飲む。
「見た所新米の盗賊といった所・・・だが人の気配ではない・・・貴様、人間ではないな?」
おそるおそる、ゆっくりと首を横に動かす。
「嘘をついてもばればれだ。どうやらお前の様だな・・・このままお前を連行させてもらう」
ブリジット「寝言は寝て言えって話ですなぁ」
その言葉と共に、ヤファの喉元に有った刃物が消え、さらに目の前の窓に刃物を突きつけていたと思われる人物が放り出されていた。
驚愕の表情を浮かべる相手に、笑顔で手を振る。
ブリジット「良い旅を〜〜」
その言葉と共に、地面へと落下していった。
後ろを振り返ると、ムナック帽をひどく右に傾かせ、左目しか見えないブリジットが眠そうに目をこすっている。

助かった。

そう思った瞬間に、足ががくんと崩れ、力無しに地面へ座り込んでしまう。
ブリジット「いやはや、ごめんごめん」
そういってしゃがみこみ、自分の頭に手を置く。
次の瞬間、我慢していたのか、ぽろぽろと涙を流し始める。
ヤファ「う、うぅ〜〜〜」
それでも我慢をまだしているのか、声は上げない。
ブリジット「よく我慢したよ、よしよし」
そういって、ゆっくりと頭を撫でる。
その瞬間、奥に詰まっていた物が一気に爆発した。
ヤファ「う、うわぁ〜〜〜〜〜ん!」
そう言って、勢い良くブリジットに飛びつく。
ブリジット「わわっ・・・」
一瞬よろけたが、後ろに片手をつき何とかヤファを支える。
ブリジット「もうちょっと早く助けるべきだったね・・・ごめんごめん」
その言葉に首を横に振りながら、一向に泣き止まない。
ブリジット「ふぅ・・・まぁ仕方が無いかな」
そういって、頭をゆっくりとまた撫でる。
「ブリちゃーん、外の方々には帰ってもらったよー」
そう言いながら、ドアが開く音がした。
ブリジット「・・・ん?やぁやぁ、皆様御揃いの様で」
ドアの方を見ると、セニアが手を振っている。
後ろでは当然・・・
みたらし「ここは普通俺に先を譲るよなぁ?」
時「何で貴様に先を譲らなければならんのだ?」
予想した通り口論が始まっている・・・察するにどちらが先にドアを通るかだろう。
ブリジット「・・・相変わらずですなぁ」
セニア「ね、相変わらず」
一瞬泣きじゃくるヤファに視線を向け、微笑をしながら答える。



時「そういえば・・・」
外が暗くなってきた所で、ふと時が声を上げる。
時「あのアサシン集団、一体なんだったので?」
セニア「そうそう。帰ってもらうの大変だったんだからぁ」
愚痴とも取れる発言に苦笑しながら、二人の方を向く。
後ろには、ヤファが三人を警戒してぴったりとくっついたままだ。
ブリジット「あぁ、彼らは・・・」
みたらし「"PROGRESS"・・・の奴等だろ?」
不意に、ブリジットの言葉を遮りみたらしが声を出す。
ブリジット「あらあら、ご存知でしたか」
頬に手をあて笑うブリジットを横目で見ながら、テーブルの上に何かを放り投げる。
テーブルの上で大きな音を立てたものを、セニアが怪しい物を見るかのように警戒しながら見つめる。
セニア「これ・・・あの時のアサシン達が使ってたジュルよね?」
その言葉に、こくりと静かに頷く。
みたらし「奴等は共通して武器のどこかにマークを彫る慣わしがあるらしくてな、それで奴等と気がついた訳・・・ほら、ここに」
みたらしが指さす所を見てみると、確かにエンブレムだろうか、それらしきマークが刻み込まれている。
ブリジット「彼らは王国直属の、モンスターの増加原因を突き止めるという命を受けた集団です」
セニア「確かにモンスターは種類、数共に増加する一方だからねぇ・・・」
苦笑いを浮かべながら、セニアが手を煽る。
時「で、そんなお偉いさん方が何故ここに?・・・まさか」
一瞬だけ、時が止まったかの様な錯覚を覚える様な静けさがこの空間を支配する。
それもつかの間、ブリジットの一言により現実へと引き戻される。
テーブルに肘を付き、意味深ににぃぃっ、と笑う。

ブリジット「そう・・・今回のお仕事は、王国直属のギルトの一つ、"PROGRESS"のギルトマスター"コーヴァ"の拘束です」

みたらし「いつもみたいに自警団に突き出さないのか?」
少しその内容が腑に落ちないのか、声を上げる。
ブリジット「残念ですが、王国直属のギルトははっきり言って裏で手を回されるんですよ。今までみたいに自警団に突き出しても意味が無いんです・・・それに」
セニア「・・・それに?」
ブリジット「彼は人として入ってはいけない領域に足を入れました・・・少々わからせてあげる必要性もでてきましたから」
顔は笑っているものの、普段聞いた事の無い厳しい口調に、周りの雰囲気も次第に厳しくなる。
意を決したのか、時が改まった顔でブリジットを見る。
時「一体奴等はどの様な事をしたので?」
ブリジット「それは・・・」

ブリジット「外見が人間タイプのモンスターによる生体実験です」

その言葉を言い終わると共に、表情を曇らせる。
ブリジット「相手がモンスターだからって、やって良い事と悪い事があります・・・彼らだって、生命を司っている"生き物"なんですから」
普段見たこと無いような思いつめるブリジット姿に、周りの三人も少しだけ表情を濁らせる。
すると、はっと声を漏らし、三人に向かって手を振りながら笑う。
ブリジット「ごめんごめん、雰囲気悪くしちゃったね」
しかし、どう見ても無理やり笑っている様にしか見えない。
セニア「・・・で?いつ実行するの?」
雰囲気を察してか、話を切り出してくる。
ブリジット「今夜です」
時「御意」
セニア「ぶ・・・随分とせっかちねぇ」
みたらし「まぁブリさんが言い出したら諦めないし・・・いっちょやってやりますかっ」
ブリジット「・・・ありがとうございます」
何も言わずついて来てくれる三人に、深々と頭を下げた。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!・・・っぁ・・・」
「何だ、もう気を失ったのか?・・・よえぇ奴だ」
目の前で泡を吹きながら気を失うモンスター・ムナックを見下ろしながら、檻の方を向く。
「ひっ・・・」
あきら様に恐怖の表情を浮かばせ、体を振るわせるムナック達。
「やはりこいつ等みてぇなザコより月夜花の様なボスクラスが実験としちゃ向いているんだが・・・」
そう言いながら、近くにあった椅子に座る。
目の前には、いつもの光景・・・ムナック等を筆頭にした、外見上人間と似ているモンスターによる実験。



普通モンスターは肉体的なダメージを一定以上与え、死滅させる。
それでは、モンスターは精神的苦痛というものを受け付けないのか?
ふと、こんな話題が国の議題に昔に上がったそうだ。
国も、モンスターによる被害が増えるばかりで悩まされ、一刻も早いモンスターの対抗策が検討されていた時の事である。
始めはとにかく冒険者を増やすといった手を打った。初心者修練所の日数を減らし、なおかつ凝縮した講習を行なう事により一層早い成長を目指す。
それだけで昔は平気かと思われた・・・だが今は違う。
モンスターは減るどころか増える一方を辿り、冒険者を増やせば増やす程発見される新たなモンスター。
このわずかな可能性を実証すべく、これらを一任させられたのがコーヴァを筆頭に国の命で動くギルトの一つ、"PROGRESS"。
コーヴァはゲフェン生まれの有名な魔術師の家系を持っているにも関わらず、何故か騎士となったという特異な経歴を持つ。
騎士としての腕もさながら、魔術などに関する知識なども侮れない。


尚、実験の時に材料として抜擢されたのは"ムナック"、"ソヒー"、"ボンゴン"などの外見が我々人間と似ているモンスターである。
人が苦痛と感じるのを、モンスターでなおかつ我々と近い体の仕組みをした彼らがどういった反応をするのか。
事実は違うにしろ、実験を行なう方にも苦痛を与えかねない内容である。


そんな実験に、先程出てきた彼コーヴァが抜擢された。
只、彼には一つ問題があった・・・それは彼の性格である。
王国と敵対した相手は徹底とした攻撃を加える・・・それは彼なりの王国に対する忠誠心の現れらしい。
その様な行動から、冷酷といった言葉がしっくりとくる奴だ。
そういった性格より、実験などに後ろめたさは感じないだろうといった判断がなされ、彼のギルトが呼ばれた訳である。



しかし、先程言った様にこの実験は昔・・・それもかなり前に案が出されている。
さらに、話によると過去に何度もこの実験を行なったそうだが、その都度中止をしているそうだ。
中止の原因は何なのだろうか?
こんな質問を投げかけたコーヴァに、王は体を少し震わせながら重い口を開いた。

王「・・・死神がくるんじゃよ」



「・・・何が死神だ」
ムナックの悲鳴だろうか、その声にぼーっとしてた自分の意識が覚醒する。
隊員「コーヴァ隊長、本日の作戦結果を報告しに来ました」
急に、ドアの向こうより威勢の良い声が発せられた。ゆっくりと、体を起こしていく。
コーヴァ「・・・ドアは開けずに、そこで結果だけを報告してくれればいい」
隊員「はい、昼間に開始された月夜花奪取の作戦は失敗。作戦に参加した全員が軽い怪我を負っています・・・それと」
コーヴァ「・・・全員無事?それと、何だ?」
隊員「は、はい・・・月夜花を保護していた者ですが・・・やはり、ギルト"第四強襲部隊"が関与している模様です」
コーヴァ「・・・わかった、報告ご苦労。帰っていいぞ」
声を少し漏らし、近くに置いておいた煙草をふかす。
ドアの向こうからは、ばたばたと隊員が戻っていく音が聞こえた。
コーヴァ「・・・最悪、だな」
そういって、煙を宙にむかって思いっきり吹く。
コーヴァ「そうか・・・貴様等が死神と言う訳か」
そう言って、不気味に一人笑うコーヴァ。



・・・深夜。
ブリジット「それでは皆様、作戦通りよろしく頼みます・・・必ず生きて帰ること、いいですね?」
セニア「りょーかーい」
時「御意」
みたらし「了解ぃ!」
ヤファ「は、はーい!」
自分の後ろで小刻みに震えているヤファに向けて、にっこりと笑う。
ブリジット「ヤファは私が守りますからご安心を・・・それでは皆様、ご武運をお祈りしています」
平和だったモロクの夜が、終わりを告げた時であった。



つづく




〜あとがき〜
こんちゃっ!いかがおすごしでしょうか、ブリジットでございます!
さて、遂に始まりました!ギルト強襲作戦でございます!
作戦内容などはすべて次回の話の間などで公開される予定です。そうしないと次回がどんな話になるかばれちゃうから(w
そして王国直属のギルト、"PROGRESS"について少しお話しましょう。
"PROGRESS"という名前は、王国がつけた名前です。前進、進歩、発展などの意味を持っています。
その意味通り、このギルトの主な任務は王国の進化の過程で邪魔になるものを排除する役割を持ったり、今回の様に実験に関わる事もあります。
さらに、王国直属というだけに地位もかなりのものです。その隊長を務めている位ですから、コーヴァは凄まじい地位にいるといっても過言ではありません。
つまり、頭も力も地位もある訳です・・・嫌な奴だ(w
そんなコーヴァが率いる"PROGRESS"と、どの様な交戦があるのでしょうか・・・?次回をこうご期待!
それでは♪
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