ラグナロク・オリジナルストーリー第十六話―作戦



時「今回もブリジット殿は我々と別行動の様ですな」
コーヴァ達の一味が滞在する屋敷に向かって走りながら、他の二人に向かって呟く。
まず顔をこちらに向け、反応を示したのはみたらしであった。
みたらし「何やってるんだか・・・俺の情報網でもひっかからんのよ、ブリさんの事って」
両手を広げながら、小さくため息をつく。走りながらだというのに・・・器用な奴だ。
セニア「いつか話してくれると思うわよ・・・それまで待ちましょう」
疑問の念を浮かべる二人に向かって、少し声のトーンを下げて言う。
みたらし「それにしても今回の作戦内容・・・上手くいくと思うか?」
苦笑しながら、引きつった笑顔でこちらに話を振って来る。
セニア「まぁ、ブリちゃんが考えた案はいつもこうだからね・・・でも多分今回も上手くいくわよ」
親指をこちらにぐっと力強く立てながら、確証もない事をさらりと言ってのける。
時「ですな」
その意見に同調しての事だろう、時も小さく頷いている。
みたらし「・・・さすがだなぁ」
素性も何もわからないブリジットを信用している
確かに悪い人では無いのは付き合っていてわかった事だ・・・まぁ変な奴ではあると思うが。
しかし・・・謎が多すぎる。
現実を比較的厳しく見据える自分の頭から判断して、本当に信用していいのか実際何とも言い切れない物があった。
そんな事を考えながら、うんうんとうねる自分を見て時がぼそっと一言呟いた。
時「迷いのある奴が真っ先に死ぬぞ・・・みたらし殿」
その言葉に、はっと我に返る。
みたらし「あ、あぁ・・・ごめん」
途中で、割ってセニアが声を上げた。
セニア「・・・着いたわよ」



時「見張りがいないな・・・」
屋敷の辺りを見回し、次に神経を集中させる。
時「・・・人影も、気配も感じられん。やはり表には誰もいない様だな」
あごに手を当てながら、辺りを見回す。
みたらし「・・・罠、か」
セニア「多分ばっちし張ってるわね」
屋敷の方を見ながら、二人が顔を合わせずに言葉を交わす。
みたらし「・・・二人共、準備はいいな?」
屋敷の方を向きながら、二人に尋ねる。
セニア「いつでも行けるわよ」
時「・・・無論だ」
みたらし「それでは行くぞっ!」



ドォォォン・・・!
コーヴァ「・・・何の音だ?」
仮眠を取っていたコーヴァが、夜には不釣合いな大きな音に目を覚ます。
コーヴァ「入り口の方からか・・・」
横に置いていた両手剣を背中に掛け、椅子から立ち上がる。
「失礼します!隊長!」
不意に、ドアの方から大きな声と共に部下がドアより顔を出す。
「この屋敷に侵入を試みようとした者を、入り口で我々が包囲しいております。後は、隊長のご指示を仰ぐ形となりましたのでお呼びに上がりました」
ういういしい態度を取りながら、緊張した趣でこちらを見つめている。
コーヴァ「わかった・・・先に行け、俺もすぐそちらに向かう」
「はっ!」
きりっとした声をあげ、即座に後ろに向かって走り出す。
コーヴァ「奴等、罠とわかって突っ込んできたか・・・おもしろい」
口を上に吊り上げながら、ゆっくりと隊員の後を追っていった。



セニア「きゃー・・・凄い人数ね〜・・・」
その光景に呆気に取られながら、セニアが思った事を声に上げている。
40・・・以上はいるだろうか。
前後左右すべての位置に、戦闘態勢をした二次職がずらりと並んでいる。
みたらし「情報通り・・・か。後援タイプがいない」
そう、自分達を囲むように立つ相手は、皆前衛ばかりであった。
騎士、アサシン・・・ぶっちゃけ、その二職しか見当たらない。当然、全員男である。
みたらし「あっつくるしーギルトだなぁ!」
失礼な事を大声で叫びながら、大声で笑う。
「随分と礼儀というものを知ってない輩だな」
不意に、奥から声が響き渡る。
時「・・・来たか」
コーヴァ「ご機嫌麗しゅう・・・とでも言っておこうか」
コーヴァ・・・今回のターゲット。
やはり、この猛者達を束ねる存在だけに、こちらに向けてくる威圧感も数段違う。
姿を表したと共に、自分達を囲んでいた連中の表情がかすかに強張る。
コーヴァ「さて・・・こんな夜遅くに一体何の用事だ?」
こちらをにらめ付ける様な視線を向けながら、口を動かす。
みたらし「当然、貴様がしている事を止めに来たんだよ」
腰に手を当てながら、みたらしが一歩前に出てそう答える。
すると、急にコーヴァが大きく、何かに取り付かれたかの様に笑い声を上げ始める。
コーヴァ「くくく・・・貴様、この実験の重大さがまったくわかってないと見える。もう少し勉強してから来たらどうだ?」
みたらし「・・・どういう意味だ?」
眉間に少しだけしわを寄せながら、コーヴァをにらめ付ける。
コーヴァ「昔からこの世界を脅かしてきたモンスター、その脅威を取り払うべく俺は今回の任務を課せられたといっても過言ではない」
まるで演説をするかの様に、周りの集中を一身に浴びる。



コーヴァ「いいか?この実験が成功すればこの先モンスターの犠牲になるかもしれない人々の命が救われるかもしれないんだぞ?
     今もモンスターの存在の怯え、恐怖する人々をその苦しみから救ってあげられるんだぞ?
     考えてみろ、貴様だってもう解ってるはずだ・・・」

みたらし「何が解っているって言うんだ・・・?」
心臓が少し高鳴っている。珍しく、自分が動揺しているのがわかった。
コーヴァ「貴様等のやっている行為は、悪以外何ものでもない!何故己の愚考に気がつかない!」
そんなの言われなくたって解っている・・・。
今まで、モンスターの被害にあった事件をかなり聞いてきた。
どれを聞いても、酷いの一言に尽きる事件ばかり。
実際、目の前でその事件に出くわした事だって多々ある。
その光景ははっきりいって思い出したいとは思わない。
みたらし「俺は・・・」
わからない、ブリジットは一体何を考えて行動しているのか・・・何をしようとしているのか。

わからない。

その言葉だけが、自分の脳裏を支配していた。
セニア「それでも・・・」
不意に、沈黙を破られる。
セニア「それでも、私はブリちゃんを信用するわ。何か理由があるのよ」
時「相手がモンスターだからといって、何をしても良い訳ではなかろう」
自分の強き信念。
それを信じる、それだけである。
コーヴァ「悪に付き従う愚者どもが・・・」
じょじょに、コーヴァの殺気が強くなっていく。
コーヴァ「では最後に聞こう。ブリジットと・・・その近くにいた盗賊はどうした、どこにいる?」
セニア「貴方に教える事なんて何もありませんよーだ」
コーヴァ「そうか・・・では貴様等には用はないな・・・」
ふわっと、軽く手を後ろの方へ動かす。
不意に、周りを囲んでいた連中が、今にも襲い掛かろうとしている姿が伺えた。
コーヴァ「生きて帰すな!」
後ろから両手剣を抜き出すと共に、大きく全員に向け怒鳴りつける。
その言葉と共に、周りの奴が自分達に向けて武器を振り下ろそうとしていた。
セニア「・・・一手二手先を読んでこそ作戦、ってね」

ガンッ!!

地面がえぐられる様な、強烈な一撃が地面を揺るがす。
「やったか!?」
土煙で、辺りがまったく見えない中、誰かがそう大きく叫び散らす。
何もいわず、煙草を吹かす。
「ぎゃぁぁぁ!!」
次に聞こえてきたのは、誰かの断絶魔の声。
コーヴァ「ちっ・・・各自!慌てずにその場から距離を取れ!」
そう怒鳴りつけ、自分も後ろに下がる。

ヒュン!

空を切る音と共に、矢がこちらに向けて飛んできた。それを難なくかわす。
土煙が薄れていき、そこに姿を表したのは・・・
アーチャ―スケルトン、レイドリック、リッチ、ハンターフライ・・・
いずれも一癖二癖もある、強力なモンスター達だ。
コーヴァ「奴等、枝を使いやがったな・・・」
煙草の火を消し、そのモンスター集団へと突っ込んでいく。

枝・・・正式名称"古代の枝"。
それを使用する事により、ランダムでモンスターを召喚できるという代物だ。
今回の様な、強力なモンスターばっかが出てくるというのは少し珍しいかもしれない。
それだけに、出てくるモンスターのLvが変わる面白い代物といえよう。



セニア「あは、随分と当たりがでたじゃない」
時「ですな」
屋根裏の窓から中を眺めながら、最小限の音量で声を漏らす。
二人が言葉を交わす中、横では何も言わずにみたらしが空を眺めていた。

今回の作戦・・・
まず、わざと目立つ様に屋敷に突入。今回でいえば、ドアを思いっきり音を立てた、わざわざ正面から入っていった辺りがこれに当てはまる。
これにより、大体の奴のギルト員が自分達の所へ集結してくるはずだ。
そこで攻撃してくる可能性は多いにあった。
しかし、奴等とて我々が攻めて来たとなればまず上の意思を仰ぐはず・・・そう、ギルトマスター・コーヴァに。
我々が来たという報告を受ければ、コーヴァがこちらの様子を確認するはず。
そこで、第一目的は達成されたも同然だ。

次に、適度に話を伸ばす様言われた。コーヴァが演説の様な事をしてた時点で、これは達成されている。
次に、遅かれ早かれ奴等は自分達を殺そうとするだろう。
そこで、予め持ってきた"古代の枝"の出番である。
各自が10本ほど持ち合わせてきたこの枝を、奴等が仕掛けた際に使用する。
ここで、当たりがでるかでないかが今回のポイントとなる。
当初みたらしが不安がっていたが、ここを考えて不安がっていたのだ。
当たりにしろはずれにしろ、この後我々が再度強襲をかける。
殺すのではない、気絶させるだけだ。
この際楽になるか厳しくなるかは、この枝次第という訳だ。
そういった面では、今回は多いに当たったといえよう。
これで、第二目的も達成させられた。
後は・・・

時「後はブリジット殿、それと我々の突入だけですな」
セニア「そうね〜」



ブリジット「おぉ、始まったようですな」
屋敷の入り口の方が騒がしくなったのを確認し、すっと立ち上がる。
ちなみに、今ブリジットがいるのは実験室の真上の部屋。
ヤファ「い、いよいよなんですね?」
これから起こる様々な想像を膨らませていたのだろう、緊張した趣でこちらを見ている。
ブリジット「そうだね、すぐ終わらせよう・・・っと」
軽く答えながら、急にヤファに背を向け、膝を付く。
何をしているのかわからず、首を捻る。
ブリジット「私におぶさってくれるかい?」
ヤファ「は、はぃ」
今一行動の意味が読めず困りながらも、ブリジットの背中におぶさる。
ブリジット「よいしょ・・・っと、ヤファ軽いな〜」
そんな事を呟きながら、横に置いてあった両手剣を片手で軽々と拾う。
ヤファ「何を始めるんですか?」
ブリジット「いいからいいから。あ、しっかり捕まっていてね〜?」
ヤファを背中に乗せながら立ち上がり、軽々と持ち上げた両手剣を自分の頭より上の方に振りかざす。
ブリジット「とりゃー」
力の抜ける様な声を上げながら、思いっきり地面に向けて両手剣を振り下ろす。
ヤファ「えっ・・・?」

ズゥゥゥン・・・

一瞬世界が大きくぶれる。
どうやら床を思いっきり叩き、壊して実験室へと降り立ったようだ。
ブリジット「うーん、我ながらばっちりの着地ですにゃー」
何やら訳のわからない事を呟きながら、真っ暗な部屋に着く。
ブリジット「やふぁー?・・・や〜ふぁぁ〜?」
何度も呼びながら、体を揺さぶってみるがまったく反応が感じられない。
ひとまず、近くにあった椅子にヤファを降ろして様子を見る事にした。
ブリジット「・・・あはは、目を回しちゃってるね」
まるで寝ているかの様に、気絶している。
無理に起こさせるのも何なので、ひとまず自分だけで作業をする事にした。



ブリジット「・・・ひどいな」
実験室を見渡して、第一声として放たれたのはこの言葉。
鉄くさい血の匂いが充満し、端っこに物の様に置かれているモンスター達の死体の山。
様々な拷問器具、そこに付着しているの黒くなった血の跡。
さらに、元の姿を留めていないモンスターが何匹かいた。
どうやら人体を改造か何かされたのだろう、手や足が不釣合いなのばかりである。
ブリジット「・・・神に対する冒涜か」
さらに、奥の方にある檻へと近づいていく。
檻へ近づくにつれ、すすり泣く声と共に、幾多もの視線が自分に注がれているのを感じる。
そのどれの視線にも、生気というものは感じない・・・ただ一つ、生きる事を諦めたといった冷たい視線が注がれている。
一番近い、ムナックの檻へとゆっくりと歩いていく。
目の前につくなり、目に飛び込んできたのはがたがたと震え、怯えながらこちらを見つめる子犬の様な視線。
突如ムナック帽を深く被り、怖がられない様に、ゆっくりと話し掛ける。
ブリジット「貴方方を助けにまいりました」
そう言うも、相変わらずの姿勢を取ったまま。
そうだろう、いつ自分が実験材料として扱われるかに耐え、友人が一人、また一人と目の前で殺されていくのを見、体も心もぼろぼろなはず。
そんな状況で、自分の言ってる事を信じろといってもやはり無理があるだろう。
そう考えていると、不意に一人のムナックがおずおずと前へ出てきた。
相変わらず、少しだけ体を震わせている。しかし、他のムナックとは違い、目の色が希望に満ちた、輝きを見せていた。
ムナック「貴方様は・・・もしかして、ブリジット様ですか?」
ブリジット「私の事がわかるのですかな?」
その問いかけに、こくこくと頷きながら、再度同じ質問を投げかけてくる。
ブリジット「・・・はい、私はブリジットと申します」
優しく、丁寧に答える。
ムナック「そうですか・・・よかった・・・」
自分が答えると同時に、両手で顔を隠し、急に泣き出し始める。
ブリジット「すみません、もう少し早くこられるとよかったのですが・・・」
その言葉に首をぶんぶんと振りながら、大きな声で泣く。
そんな彼女を、自分は何も言わずに、ただじっと泣きやむのを待っていた。



〜つづく〜




〜あとがき〜
ちゃーっす!ご機嫌如何でしょうか?ブリジットでございまーす。
はてさて、今回はとうとう作戦内容が明かされてきたりしておりますね!
ここにて、みたらしの感情がもろに揺さぶられたりしておりますが、今後にどう影響してくるのでしょうか?
さらに、実験室へとついたブリジット。これからどんな事が待ち受けているのでしょうか?
次回をお楽しみに!
それでは♪
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