ラグナロク・オリジナルストーリー第壱拾九話―別れ



ムナック「〜♪」
機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、包帯を慣れた手つきで巻いていく。
取れた左腕、見るに堪えない痛々しい切り傷の目立つ右目、そして穴の空いた胸を包帯でしっかりと巻きつけていく。
ブリジット「・・・この腕、いつくっ付くかな」
余った片腕で頬を掻きながら、軽いため息をつく。
ムナック「さぁー・・・前のように治ってくれるなら一週間くらいじゃないアルか?」
ブリジット「一週間程度・・・それまで動かすと痛みが走るんだよなぁ・・・」
その痛みを思い出し、先程よりもさらに大きなため息をつく。
ムナック「何事も我慢、我慢アル・・・っと、終わったアルよー」
巻き終わったのを目で確認し、軽くその腕を動かしてみる。
ズキッ・・・
軽い痛みが体全体を駆け巡る。
つい、表情が歪んでしまう。
右目が見えないというのも大きい。
死角が出来たといっても過言ではない為だ。
・・・どちらにしろ、少しゆっくりと休憩を取った方がよさそうだった。
ブリジット「つー・・・慣れてもやはり痛いもんは痛いですなぁ」
それでも軽く笑いながら、何度もその腕を軽く動かす。
ブリジット「痛いなぁ・・・」
少し涙目になりながら、その感覚に慣れようと腕を動かし続けた。



腕を動かしていてから少し経ってからだった。
ヤファ「んっ・・・」
ヤファが軽く声を上げたかと思うと、急にがばっと体を起こす。
ブリジット「・・・よっと」
体を起こし、辺りをきょろきょろと見回すヤファの近くまで歩いていく。
ブリジット「やぁヤファ、おはよー」
軽く手を上げながら、いつもの様に軽い挨拶をする。
いつもなら慌ててあいさつを仕返す。しかし・・・今日は違っていた。
ヤファ「あっ・・・」
自分を見るなり、視線を下に向け俯いてしまう。
心なしか、その小さな体がかすかに震えている様にも見える。
ヤファ「あの・・・あの・・・その・・・」
地面についていた両手をぐっと握り締め、体全体を目にみてわかるくらいに震わせ始める。
腕や足に鳥肌が立ち、体全体から冷や汗が流れている。
ヤファ「私、私・・・」
ポン
軽く、ヤファの頭に手を乗せる。
ヤファ「え・・・?」
あまりにも意外だったのか、顔をゆっくりと上げて自分を見る。
その目は、まさに今のヤファを語ってくれている様な気がする。

何をしようが消える事のない、自分がしてしまった出来事。
その出来事を真正面から受け止め、苦悩し衰弱しきった目。
そして・・・自分が何を言ってきてもそれを受け止めようとする感じも読み取れる。
少しでも触れれば壊れてしまいそうな、だけどそれを何とか繋ぎ止めている。
そんな、彼女なりの努力さが感じられた。

でも・・・でもヤファ・・・君は強い。
逃げずに真正面から受け取れている。
誰だって出来る事じゃない。
むしろ、出来ない人の方が多い。
それに・・・私なんか、気にする必要はまったくない。
だって私は・・・私は・・・


ふぅ、と軽く息をつき、ヤファを見直す。
ブリジット「良かった、無事で。痛い所は無いかい?」
頭を軽く擦りながら、いつもの表情を浮かべる。
ヤファ「・・・無理しなくてもいいんです。だって私はブリジットさんに・・・」
に、の部分で言葉が詰まる。
そして、また顔を伏せてしまった。
ブリジット「言いたい事は解るよ。でもねヤファ・・・」
ヤファ「だって私は・・・一歩間違えればブリジットさんを・・・ブリジットさんを殺してたんですよ!?」
急に顔を上げて、涙目になりながら声を張り上げる。
いつもとは違う口調で、自分をかたくなに否定する内容。
そんな話を、ヤファはずっと言い続けた。


ヤファ「ブリジットさんを・・・私は・・・」
とめどなく、彼女に目からは涙が流れている。
ブリジット「大体ヤファの言いたい事はわかります・・・でもです」
彼女を軽く諭すような口調で、ゆっくりと話す。
ブリジット「自分を責める事では何も解決はしません。そこに踏みとどまっているだけでは・・・そう、何も」
自分にも言い聞かせるように、一言一言をしっかりと噛み締める。
ブリジット「してしまった事は忘れずに、一日一日をしっかりと生きていく。それが、最大限の出切る事ではないかな?」
ヤファ「しっかりと・・・生きていく・・・」
自分の言葉をまるで取り付かれたかの様に、何度も言い直す。
ブリジット「それに、そこまで思いつめている時点でヤファは十分がぬばったよ。後はヤファがどう生きていくか、じゃないかな?」
そう言いながら、にーっと笑う。
ブリジット「それに・・・ヤファとはまだまだ一緒にいたいしね。これでは理由にはならない・・・かな?」
ヤファ「私と・・・今まで通り、一緒にいてくれるんですか?」
自分をじっと見つめるヤファを見ながら、何も言わずにこくん、と静かに頷いた。
ブリジット「あぁいや、別にヤファが嫌ってなら無理にとは言わないけど・・・」
頬を軽く掻きながら、少々引きつった表情を浮かべてしまう。


ヤファ「・・・あはは」
なんともいいがたい雰囲気を崩すような、軽いヤファの笑い声が部屋に響く。
その目には、もう何度見ただろうか・・・涙が浮かんでいた。
でも、この涙は先程とは違う・・・
ヤファ「ありがとう・・・本当にありがとう」
嬉し涙だ。
言葉が終わると同時に、自分に向かって軽く抱きついてくる。
ヤファ「ずっと・・・今まで通り一緒にいていいんですよね?」
ブリジット「はい、ヤファの気が済むまで」
ヤファ「あんな事しちゃったのに・・・本当にいいんですよね?」
ブリジット「私は全然気にしてないし・・・むしろそれでヤファが平気かなぁと思ってハラハラしてたよ」
ヤファ「・・・ありがとう」



ムナック「かー!」
急に大きな声が聞こえたかと思うと、次に襲ってきたのは頭の痛み。
頭を擦りながら、ムナックの声が聞こえた方を向く。
ブリジット「な、何するんだよぉ・・・」
ヤファを離し、頭を擦りながらムナックの方を向く。
そこには・・・

ムナック「何いちゃいちゃしてるアルか!まったく!」
顔を剣幕にさせたムナックの姿があった。
ブリジット「ま、まぁまぁ、落ち着いて・・・」
そんな自分の言葉を聞き流すかのように、ヤファの方にずかずかと向かって歩き出す。
到着するなり、目の前に立たれ、どうしたらよいか解らず慌てふためくヤファをきっと睨みつける。
ムナック「ご主人様はボクのアル!月夜花様だからって横取りは許さないアルよ!」
ブリジット「・・・いきなり何を言い出すかな、君は」
昔もそんな事言ってたような、言って無い様な・・・
そう思い出した時、何故かつい面白くて吹き出してしまう。
当の本人であるムナックは大真面目な様で、笑った自分を先程からずっと睨みつけている。
ムナック「笑うとは何事アルか!これは前世からずっと思っていた大事な大事な事アル!」
プンプン、という擬音が似合いそうな表情をしながら、こちらに向けて相変わらず威嚇をやめようとはしない。
前世、か・・・懐かしいな、何もかも。
すると、急に体を反転させ、再度ヤファの方を向く。
ムナック「とぉにかく!ご主人様にあまりくっつかないで欲しいアル!」
ヤファだったら、この気迫に押されて引いちゃうかな・・・
そう自分の頭の中で考えながら、あえて口出しはせずに様子を伺う事にした。



言われてから少し間が空いた頃。
両手をぐっと握り締めながら、力強い目でムナックを見つめる。
ヤファ「わ・・・私は・・・私は、ブリジットさんと一緒に生きていくって決めたんです!今まで通りいきます!」
ムナック「むむ!このボクと対立しようって事アルね!上等アル!」
ムナックの言葉を機に、目の前で熾烈な口論が始まってしまう。
そんな口論を横目で見ながら、ほぉ・・・と、つい声を漏らして感心してしまった。
いつも少しおどおどした感じが目立っていたヤファが、あそこまでの強い自己主張をする事が出来ている。
今回のを機に彼女も成長し、変われたという事か・・・

成長しているというのが見えるとは良い事だな・・・

ムナック「ご主人様!」
ヤファ「ブリジットさん!」
ブリジット「は、はぃ!?」
急に現実へと引き戻された為、声が裏返ってしまった。
前を見ると、二人が目の前に立ちながらこちらを見ている。
ムナック「こんな大事な話をしているのに、何呆けているアルか!ボクとご主人様との一大事アルよ!?」
ヤファ「ブリジットさんからも、言ってあげて下さい!私の方が・・・えと、その」
剣幕な表情のムナック、なにやらもじもじとしているヤファ。
対照的だなぁ・・・
ついつい、また軽く笑ってしまった。
ブリジット「あぁ・・・そうだ、ヤファには言っておかなくちゃいけない事があるんだ。ムナは改めて聞く事になるね」
ヤファ「・・・何ですか?」
ブリジット「ういうい、実は・・・」



セニア「あ、来た来た!やっほー!平気だったー?」
屋敷の外に出るなり、手を振りながら大きな声でセニアがこちらに歩いてくる。
軽く挨拶をしながら、後ろの方で座っている時とみたらしを見る。
ブリジット「・・・どうやら、皆さんご無事のご様子で」
セニア「ばっちしさー!」
こちらを向いて軽くピースサインをする。
自分が二人へと近づくと、時が顔をゆっくりと上げる。
時「ブリジット殿、無事・・・じゃないな」
包帯が巻かれていた部分に軽く視線を送った後、苦笑をしながらこちらを見る。
ブリジット「まぁまぁ、こんなの大した事じゃないですよ」
そう言いながら、腕をぐるぐると大きく動かす。
時「・・・そう言ってる割には随分と痛そうな表情だな」
片目だけをうっすらと開けながら、ぼそっと厳しい言葉を言われてしまう。
セニア「ま、皆無事だったし、良かった良かった」
両手を軽く合わせながら、にこにこと笑顔を全員に振りまく。

みたらし「良い訳がない・・・」

急にみたらしがすっ・・・と立ち、自分の前に歩いてくる。
ブリジット「・・・何か?」
雰囲気がじょじょに気まずくなっていく中、少々低い声で返す。
自分でも、彼の言ってくる事は大体予想できた。
されど、あえて言わずに相手の言葉を待つ。
みたらし「ブリさん、貴方を疑っている訳ではない。でも・・・俺にはやはりこの行動の意味が全然理解出来ない」
やはり、か・・・

彼は、他のメンバーと違ってこの状況を冷静に、かつ人間性を持ってして見ている。
普通に考えれば、何故モンスターを助ける必要があるのだろうか?
その様な考えが出てきて当然だ。
彼はずっと知りたがっていた・・・この行動の意味を。
"この一連の行動の真意"を。
でも・・・まだ、まだその時ではない・・・
まだ、言う訳には・・・



ブリジット「・・・すみません、まだ・・・お教えする事は出来ません」
みたらし「そう、か・・・まぁ今回もそう言うと思ってたけどな」
そう言って、いつもの様に屈託のない笑い顔をする。
そして、少し考えるように黙った後に再度こちらを向く。
みたらし「・・・少々このギルトから離れて行動させてもらってもいいか?」
突発的なこの発言に、静かに事の様子を伺っていたセニアが顔を出してくる。
セニア「なんでなんでー?みたさんいなくなっちゃうの?」
そんな屈託の無い表情に、何とも言いがたい表情をするみたらし。
時は相変わらず座りながら片目だけをうっすらと開け、こちらを傍観している。
みたらし「まぁ俺なりに考えた結論さ、結論。少々一人で色々考えようと思うんだ」
このままずっと悩んでいるのも嫌だしな、と後から付け加える。
私は・・・止める義務を持っていない。こういった答えがあるのならば、彼がしっかりと生きていくよう祈るのみ。
みたらし「まぁ音信不通になる訳じゃない。ただ、仕事とか、会う事とかが困難になるだけさ」
そう軽く言い放ち、表情は崩さずに時の座っている方へゆっくりと歩いていく。
みたらし「副長の座、時さんに譲るよ。俺はいないと同然の様な状態になる訳だしな・・・よろしく頼むわ」
肩をぽんぽんと、軽く二三回叩く。
時は動きをまったく見せない。ただ、決意に満ちたみたらしの顔をじっと見据えるのみである。
みたらしも、それ以上は何も言わずに時の目を少しだけ見た後、そのまま時の後ろをゆっくりと歩いていく。
みたらし「また今度、縁があったら再開といこう・・・皆、死なずに顔を合わせような」
背中を向けたまま、軽く手を振る。
セニア「じゃーねー!」
そんなみたらしを、精一杯の声でセニアが見送った。



時「・・・行ったか」
みたらしの姿が確認できなくなると同時に、時の口が動く。
セニア「行っちゃったねぇー・・・」
寂しそうに、セニアも時の後を追うように口を開く。
実際、このギルトはメンバーが非常に少ない。
その為、一人でもいなくなるとその消えたというダメージは計り知れない程の物がある。
ブリジット「・・・さてと、今回もお疲れ様でした。皆さん、あとはご自由にしてもいいですよ」
まだ眠気が残っているのか、腕を軽く空に向かって大きく伸ばす。
首を横に動かしてみると、コキコキと音が静かな周りに響き渡る。
セニア「んー・・・私は一足先に行かせてもらおっかな。妹の事も心配だし」
疲れが溜まっているのか、自分と同じく空に向かって軽く腕を伸ばしている。
時「妹・・・あぁ、セニアさんの双子のプリ―ストの御方の事ですか」
そうそう、と呟きながら首を縦に振る。
セニア「そういう訳で、ブリちゃん、時さん、お疲れ様〜」
疲れを微塵も感じさせないような笑顔を浮かべ、大きく手を振りながら街の中央の方に向かって走っていく。
その後姿を、二人で手を振りながら見守っていた。



ブリジット「・・・さて、私は一眠りするかな。時さんはどうするんだい?」
セニアの姿が見えなくなって少し経ち、自分が宿屋を探そうとしていた頃。
中々動きを見せない時が少々気になり、軽く話題を振った。
時「私は・・・少々ブリジット殿に用があってな、ブリジット殿に少し同行させて頂く」
軽く服を払いながら、すっ・・・とゆっくり立つ。
ブリジット「ういうい、じゃぁ宿屋探しと致しますかー」
力無しに軽く拳を空に向かって振り上げる。
時「御意」


時「という訳で、フェイ殿が何か吹っ切れた表情をしていてな・・・その表情を見なければ今回私は参加していなかった訳だ」
宿屋にまでの道での中、時が世間話でもするかの様にそのような事を振ってきた。
手を顎に当てながら、ふぅむ・・・と軽く声を漏らす。
ブリジット「吹っ切れた・・・ねぇ」

少々嫌な予感がした。
彼女が玉藻前との戦闘の後に吹っ切れた様な表情をしていた?
宿敵との力の差をあれ程見せ付けられた後で、その様な表情をしたという事・・・つまり。

彼女との差を埋める策か何かが見つかったという事

一瞬諦めたか、とも考えた。
しかし、よくよく考えて彼女がまず諦めるという選択肢を取るのはどうも考えにくい。
彼女の手に入れた力は、はっきり言って"人外"という表現がしっくりくるモノである。
その世界に近づく為の方法と言われ、普通の人間が出来る事といえば大方範囲を狭める事が出来る。
それは・・・表の世界にはまったく出て来る事の無い、禁術の類。
その力を手に入れれば、常人であろうと凄まじい力を手に入れる事が出来る。
さらに効果も様々・・・だが、一つだけ言える事がある。

"危険"である事

一歩間違えれば死だって普通にありえる事・・・いや、死の方がましという事だってありえる。
伊達に禁術と呼ばれている訳でも無い、という訳だ。
しかし、彼女にその類を行なえる様なあてがあるとでもいうのか・・・?


時「・・・ブリジット殿、さっきから黙りこけて・・・どうしたというのだ?」
その言葉に、意識が現実世界へと引き戻される。
ブリジット「あぁいや、別に何でも。まぁちょっとどうした心境の変化かなぁー・・・と」
この事をいう訳にはいかない。言ったらどうなるかくらい、自分だって解っている。
しかし・・・近い内に彼女とコンタクトを取った方がいいな。
時「私も強くならなければ・・・それをブリジット殿に相談しようと思っていた訳だ」
ブリジット「ほえ?私に・・・ですか?」
あぁ、と言いながら首を縦に振る。
時「ブリジット殿なら何か知っている気がするのだ・・・奴に勝つ方法をな」
何か確信に満ちた目、そんな感じがした。
ブリジット「そんなの知る訳ないじゃないですか、少々私を過信しすぎだよー・・・さて、まずここを当たってみるか」
苦笑しながら、やっと宿屋に着いた事を色んな意味で喜ぶ。
時「・・・泊まらせてもらえるといいのだが」
言い終わると同時に、素早く宿屋に入っていってしまう。
遅れながら、自分も後を追う様に宿屋に入っていった・・・。



ブリジット「・・・ねぇ、これで何件目ですかな」
ペコペコの背中にだらり体を預け、心底厳しそうな表情を見せる。
時「・・・毎度思うのだが、偽名を使えばいいのでは」
逆に、まったく疲れの素振りを見せない時はしらっと返答を返す。
その返答を聞いて、さらに気だるそうな表情を浮かばせる原因となった。
ブリジット「無理無理、ここじゃ顔がばれちゃってるからー・・・あーくそ、こうなったら・・・」
時「こうなったら?」
小さく笑みを浮かべるブリジット。
ブリジット「あの名物酒場で閉店まで粘ろうか・・・あとは神のみぞ知る、ってね」
時「御意」



・・・今、私は酒場の宿屋にいる。
あそこまで運がついていたとは夢にも思わなんだ。
今目の前にベットが存在している事に感謝しよう。
そして、噂の酒場さんの店主達に感謝しよう。


あの後、自分達は閉店ぎりぎりまで粘っていた。
といっても、自分はお酒がどうも苦手なので飲まなかった訳だが。
時さんは、表面にこそ現れていなかったが結構酔っていた気がする。
やはり、粘るもの限界かと思った時。
「あんた達、泊まる所は?こんな時間まで飲んでて平気なの?」
ここが名物だと言われている元凶、オカマの大男にして店主であるカタリアが声を掛けて来た。
あたりを見回すと、自分達以外いない事に気づく。
意を決して、彼の顔を見る。
ブリジット「あのぉ・・・ぶしつけで悪いのですが・・・」
カタリア「なぁに?あ、スリーサイズは教えないわよ」
そういって、自分の目を気にせず豪快に笑う。
・・・さすがは、名物。
「はぁぁ・・・お客が困っているじゃないの。どうしたのお客さん、何が御用?」
自分が苦笑いしているのに気づいたのか、気を使ってくれたのか。
後ろから、ため息をつきながらひょこっと綺麗な顔立ちの女性が出てくる。
・・・ここが名物と言われる原因の理由その2。
そう、この大男の妻であるカタリアの妻・・・アルテナがかなり美形である事。
美女と野獣。
いや、表現悪いかもしれないけどね。
ブリジット「あのぉ・・・宿を探してるのですがぁ・・・空いてませんか?」
カタリア「空いてたわよね?」
アルテナ「確か。宿見つからなかったの?」
そう問いかけてくるアルテナに、曖昧な表現で返す。
・・・隠すのはここの為にならないしなぁ。
ブリジット「私はブリジットと申します。この名前を聞けば、大体の御察しは出来る事と思います」
情報の一番多く集まる街の酒場。
そこならば、これだけで大体解ってもらえるだろう。
ブリジット「それを踏まえた上で、泊めては頂けませんでしょうか?」
カタリア「いいわよ」
アルテナ「問題無いわね」


という訳で、難なく宿を獲得する事に成功した訳である。
ちょっとここを見直した一時だった。

・・・確か、前ここの店主と夢幻回廊のエース氏が知り合いだと聞いた覚えがある。
となれば、もしかするとフェイさんとも知り合いかもしれない。
丁度彼女とコンタクトを取らなければいけないと思っていたので、ここは結構都合がいい。
会って、勘が当たってれば止めなくては。
禁術になんて、手を出す事を。

禁術に手を出すと言うならば、自分は彼女を・・・

いや、それだけはだめだ。
それだけは、何としても避けなければならない。
自分が思う事は、それだけである。

もう・・・

そんな役回りは、ごめんだ。

ブリジット「・・・皆さん、こういう所で身勝手なんですよね」
そう、一人呟きながら階段を上がっていった。



ムナック「ねぇねぇ、ご主人様」
自分達の部屋に入ってから少し時間が経過した時。
不意に、先程からずっと黙っていたムナックが口を開いた。
ブリジット「ん?何だい?」
服を着替えながらなのであちらを向く事が出来ず、声のみを返す。
ムナック「あの・・・あのね・・・会った時からずっと気になってたアルが・・・」
珍しい。
威勢の良さなら誰にも負けないムナックが、珍しくおどおどした口調で喋っている。
こみ上げてくる笑いを何とか紙一重でかわしながら、ムナックの言葉の続きを待った。

ムナック「もしかして・・・私の名前、忘れてないアルか?」

ぎくぅぅぅぅ!!
ブリジット「い、いきなり何を言い出すかなぁ・・・そんな訳ないじゃないか!」
嘘です、忘れてます。
そんな事を言える訳もなく、心臓をばくばくと鳴らせながら答える。
ムナック「そうアルね!ご主人様、全然名前呼んでくれないから・・・てっきり忘れちゃったもんかと」
先程の雰囲気とは一転し、明るい口調に戻る。
・・・まずい、ひじょーにまずい。
ムナック「ならご主人様!昔みたいに名前で呼んで下さいアル!」
ど、どうしたらいいんだろう・・・
ブリジット「そ、そうだね・・・えっと・・・エミ!」
ムナック「エミって誰アルか・・・」
ブリジット「・・・くっ!じゃぁタマ!」
ムナック「ネコの名前でよくありげな名前アルね・・・」
その言葉と共に、はぁ・・・と大きなため息が後ろから聞こえた。
ムナック「やっぱし忘れてるアルね・・・ご主人様物忘れがひどいから」
姿こそ見えないが、多分今非常に落ち込んだ表情してるだろうな・・・
・・・これくらいにしとくか。
ブリジット「・・・じょーだんだよ、鈴(すず)」
ムナック「えっ?・・・覚えてたアルか?」
ブリジット「にゃはは、冗談がすぎてしまったのは謝るさ」
手を軽く振りながら、やっと着替え終わって鈴の方に歩いていく。
そこには、少し涙ぐみながらもにっこりと笑いながらこちらを見る、鈴の姿があった。
鈴「てっきり忘れてるかと思ったアル」
ブリジット「忘れる訳ないさー・・・あーーーー」
急に声を伸ばしながら、べっとの方へと吸い込まれるように歩いていく。



ブリジット「布団です!ベットです!はい、お休みなさぁーい!」
急にがばっと布団へダイブし、そのまま掛け布団を羽織る。
鈴「相変わらず睡魔ってのは治ってない様アルね・・・」
苦笑をしながら、完全に掛かっていない掛け布団を掛ける。
くー・・・と、一定のリズムを刻む、ブリジットの寝息が聞こえた。
ヤファ「はえぇ・・・でも、ブリジットさんがそんなすごい人だったなんて・・・改めてびっくりです」
奥の方で新しい盗賊の服に着替えていたヤファが、そんな事を呟きながらこちらに歩いて来る。
鈴「ボクはそんな事どうでもいいと思っているアル。ご主人様は・・・ご主人様アル」
ヤファ「・・・うん、そうだね」
その言葉だけは、ひどく共感が持てる。
そう思いながら、鈴の方に視線を向けた・・・
ヤファ「・・・って、何しているんですか!」
鈴「何しているって・・・ボクも寝ようかなと思って布団に入ろうとしているだけアルぅー」
ヤファ「・・・えへへ、じゃぁ私もー」


この後、布団の中で激しい口論が行なわれ、安眠という文字が非常に遠い物となったのは言うまでも無い。



〜つづく〜




あとがき
こーんちゃっす!コドモパッチが延期して少し凹んでいるブリジットでございまぁーす!
・・・はぁぁ。
今回で、一応作戦関関連のお話は終わりとなり、次回より新たな章へと進む形となります。
新しく出てきたムナックこと鈴は、どうやら昔のブリジットを知っているご様子。
一体昔に何があったのでしょうか?
さらに、フェイが一体何をしようとしているのかについても少々触れられました。
あくまで推測の域、一体彼女は何をしようとしているのでしょうか?
謎が謎を呼ぶこの小説、次回をお楽しみに!
それでは♪
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