ラグナロク・オリジナルストーリー第弐拾壱―オーク



ハンク「ラップ!まだあいつは追ってきてんのか!?」
そう問い掛けると、弱弱しい声が横から聞こえてきた。
ラップ「だ、だめっす〜・・・あいつら、疲れってのを知らないんすかね・・・」
・・・ラップも、そろそろ体力の限界か。

見るにおぞましいおいかけっこが開始されてから早数時間。
初めは一体だったハイオークも、仲間のオークがじょじょに増えていき、今や数はざっとみても二桁。
・・・これじゃ真っ向から戦ってはこちらがやられるな。
少しでも可能性のあったハイオーク一体の内に手を打たなかった後悔さが、今更自分に降りかかってきた。
ハンク「あぁ、くそっ!」
自分の不甲斐無さに苛立ちが生まれ、頭をがしがしと掻く。
剣士「すみません、もう少しだけ頑張れますか?」
逆に、前方を走る剣士からは、冷静な声が飛んできた。
剣士「もう少しだけ粘れば、自分の兄が助けに来ると思うので・・・」
・・・そうか、オークヒーローさえ倒したっていうこの剣士の連れさえ来れば!
少し希望が湧いてきた影響か、体も少し軽くなった気さえしてきた。
ハンク「よし・・・ラップ、もう少しだけ頑張れ!」
後ろでバテ気味のラップに軽いエールを送りながら、剣士の後姿を追った。



希望という二文字が出てきてから数分。
前方を走っていたはずのイング達が、何故か立ち往生をしているのだ。
大きな声を出して走るよう促そうとしたが、それは最悪の結果として自分の目に映った。
ハンク「・・・おいおい、これはどういう冗談だよ」
苦笑せざるおえなかった。
アリス「は、ハンクさぁん・・・」
アリスの泣き声が耳に入ってくる。
前方には・・・
二桁は存在しているであろう、オークレディーの姿があった。
そこで立ち往生してる隙に、後ろからもハイオークを筆頭としたオークの集団。
・・・長を潰した代償はでかいってか?
一瞬、そんな愚痴とも取れる言葉を吐く様にオーク達に投げかけた。


ユキ「ファイヤーウォール!」
場が静まり返った時、即座にユキが、ハイオークの前方辺りに魔法を唱える。
目の前に突如現れた火の壁に、オーク達が一瞬止まる。
ユキ「これであいつら、こっちに来れないはず!早く前方のあいつら倒しちゃってよ!」
イングと、剣士に軽く視線を送る。
意を決した表情で、二人がゆっくりと首を振った。
ハンク「・・・いくぞっ!」


イング「たぁっ!」
相手の武器をかわしつつ放ったその攻撃が、オークレディーの体に刻み込まれていく。
グォォォ・・・
くぐもった声を発しながら、一体目のオークレディーが絶命する。
ハンク「イング!前方!」
その言葉に咄嗟に反応し、足元を思いっきり蹴り上げる。
蹴り上げたと同時に、その場にオークレディーが愛用する武器が深深と突き刺さった。
軽く汗を拭いながら、その武器を振り下ろした主の顔を睨みつける。
・・・え?
少し戸惑ったのがいけなかった。
致命傷は避けたものの、左肩に痛々しい切り傷が刻み込まれる。
イング「・・・くそっ!」
一旦その場から離れ、オークレディーと間隔を取る。
何で・・・
ユキ「ちょっと!もうこっち持たないわよ!」
何で・・・
ハンク「もう少し!」


何で泣いているの?


そう思った時には、オークレディーの攻撃が自分の顔を貫かんと向かってきていた。
イング「くっ・・・」
紙一重でその攻撃を避け、腹に深深と愛剣を突き刺す。
グ、グォォォォ・・・
泣き崩れるかの様に、地面に膝を付き倒れる。
イング「はぁ、はぁ・・・」
刺さった剣をゆっくりと引き抜く。
そこには、おびただしいオークレディーの血がこびり付いていた。
イング(何なんだ、何なんだよ・・・この感覚は・・・)
わからない。
今倒したこのモンスターに、一体自分は何を感じたのか。
一体何を・・・?
ハンク「イングゥ!!」
普段聞かないであろう、ハンクの大声に現実に戻される。
イング「!!」
目の前には、オークの斧が。
オークの表情は、怒りに満ちていた。
何か、とても大事にしていた何かを、壊されたような・・・
そんな表情だった。


咄嗟に起こる反応とは、時に非常に助かるものだ。
自然と手にした剣が斧と自分の顔の間に割り込んできて、斧を押さえつける。
キィン・・・金属と金属のぶつかり合った音が回りに響いたときだった。


「ロードオブ・ヴァ―ミリオン!!」

一瞬、何が起きたのか解らなかった。
眩い光があたり一面を覆い尽くし、視界が真っ白になる。
あまりの眩しさに、一瞬目を覆い隠す。
そして、眩しさが消えると同時に広がった光景・・・そう。
「間に合った・・・か」
そう言いながらゆっくりと近づいてくるウィザードの服装をした男性、その後ろをちょこちょこと着いて歩くアコライトの女性。
目の前には・・・オークの死体置き場とも感じ取れる光景が広がっていた。



剣士「に、兄さん!」
ハンク「間一髪・・・」
手を団扇のようにして、軽く自分に向けて扇ぐ。
他の面子も、腰をおろして生きている事を実感するかのようにへたり込んでいた。
アリス「だ、大丈夫?イング」
あせあせとアリスが近づいてきて、傷ついた肩にヒールをかける。
ウィザード「あー・・・よかった、無事か・・・」
ふぅ、と大きなため息をつくと、そのウィザードもその場にゆっくりと座った。


ハンク「・・・へぇ、こいつがオークヒーローを倒したっていう人か」
ついつい、あの伝説級の化け物を倒したという英雄さんを、品定めでもするかのように見る。
・・・あのオークヒーローをねぇ。
何十人という冒険者を一瞬で葬ったとか、そんな鳥肌の立つような噂しか聞いてないからな。
すると、こちらの視線に気づいたのか、そのウィザードがこちらの方を向く。
ハンク「よ、よぉ・・・あんた、オークヒーローを倒したんだってな」
口を噛み噛み、やっとのことで言いたかった言葉をすべて吐き出す。
すると、突如口を九の字にしながら一言。
ウィザード「いや・・・逃げられた」
剣士「え、えぇっ!?だって兄さん、魔法直撃してたじゃん!」
自分が驚くよりも、剣士の方が咄嗟に機敏な反応を見せた。
ウィザード「あれくらいじゃオークヒーローは死なない。むしろあの時あちらが退いてくれなかったら、こっちが危なかった」
そういって、苦笑ぎみに笑う。
ハンク「・・・オークヒーローが退いた?そんな馬鹿な話があるのか?」
かの有名なオークヒーローは、退くなどという行為をしないはず。
最後まで、限界まで突っ込んでくる勇敢なタイプだとか聞いたが・・・
ウィザード「実は・・・」
そこから、ウィザードは言葉足らずな感じで、事の経緯を語ってくれた。


ハンク「ふむ・・・」
簡単に言うとこうだ。
他の人が、たまたま見つけたオークの子供たちに向けて攻撃を加えようとした。
その攻撃を、近くにいたオークヒーローが庇おうとしたらしい。
前衛職の人達は、子供を攻撃する前にオークヒーローによって剣が押さえられ、逆にその剣に切り倒されてしまった。
しかし魔法を唱えた者がいたらしく、健闘空しくオークの子供の約半分くらいが焼死。
それを見て噴気したオークヒーローの側近であるハイオーク達が、辺りの冒険者達にむかって襲い掛かったそうだ。
これでさらにオークヒーローも攻撃に参加されたら大惨事は免れない。
そう判断したこのウィザードが、決死の覚悟でオークヒーローに攻撃を仕掛けた。
連れだった剣士は、一体だけでもと逃げる形でハイオークを連れて来て現在に至る・・・という訳だ。



ウィザード「あの時、オークヒーローは子供達の避難を優先させたおかげで自分も助かったって訳」
やれやれ、と額の汗を拭う。
すると、即座にぱんぱんと泥などを払う仕草を見せながら立ち上がる。
ウィザード「悪い事はいわない。命が惜しかったら、早い内にここから離れた方がいいと思う」
そう警告を促し、剣士とアコライトを手で呼び寄せる。
ユキ「・・・ちょっと、巻き込んでおいて名前も言わないつもり?」
疲れているのだろう、地面に倒れこみながらウィザード達をにらみつける。
ウィザード「・・・失礼。アゼラス・サイド」
剣士「俺はヴィス・R・サイド。よろしくー」
・・・確か、兄弟っていってたしな。
サイドの部分が同じという事に納得し、一人うんうんと頷く。
アゼラス「ほら、挨拶しないと・・・」
アコライト「は、はいっ!」
忙しない様子を見せながら、顔を真っ赤にしながらアコライトが出てくる。
アコライト「えっと、私は、あ、あの、きのっていいます!」
そういって、深深と頭を下げる。
ハンク「・・・可愛いな」
ラップ「あ、アニキもやっぱそう思います?」
同じ考えだったのか、少しにやにやとしながらラップが小声で話し掛けてきた。
・・・お前と考える事が一緒とは。
ちょっと、ショックかもしれない。


アゼラス「俺等は、プロンテアで孤児院をやってて・・・そこの管理人が、俺」
びっと人さし指で自分を指しながら、軽い説明を入れてくれた。
ヴィス「お礼もしたいですし・・・よければ一緒に僕らの孤児院へ行きませんか?」
・・・何たる幸運!
横で目を輝かせていたラップが、目が合うと同時にぐっと親指を立てる。
ちらっと、他の三人を見る。
・・・
ハンク「異議なし。よーし、お言葉に甘えさせてもらおう」

ユキ「おいこら」
すかさずユキがずばっと突っ込みを入れたが、まったく反応を見せようとはしない。
・・・この、エロコンビが・・・
きの「えと、よろしいのでしたら今ポータルを出しますので、皆さんしっかりと乗って下さいね♪」
にこっと、こちらに向けて笑顔を振り撒く。
・・・あぁ、このエロコンビ。
ふらふらと下心全開できのに近づいていく二人に頭痛を覚えつつ、他の二人を見る。
ユキ「・・・」
やっぱし。
イングが、先ほどから調子がおかしい。
きの「あ、早く乗ってくださ〜い!」
ユキ「あ、は〜い」
・・・後で、少し話でもしようかしら。
そう思いながら、ポータルをくぐった。



〜つづく〜




あとがき
お久しぶりでございます、皆様いかがおすごしでしょうか?
さて、随分と長く続いてるなぁとか思うこの小説も遂に20話突破でございます。
今だと、多分中盤に入るか入らないかですね。
こちらも、ちょっと予定がずれたりしてる訳で・・・がぬばらなくてはw
では、次回も皆様のお目にかかれる事を祈って。
それでは♪


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