ラグナロク・オリジナルストーリー第弐拾弐話―孤児院



プロンテアの賑やかな中央を避けるかのような、端に位置する静かな地域。
そこに、彼等の経営する孤児院は存在している。
庭には丁寧に手入れをされた花がゆらゆらと風に揺られ、さらに奥には畑のようなものまでも見受けられる。


ユキ「・・・個人で運営しているからどうかと思ったけど、意外としっかりした所じゃない」
ここに来た第一印象はそれであった。
あんな奴が運営していると言っていたので、正直オンボロだと思っていたんだけど。
そんな私の予想を覆すかのような立派な佇まいの建物であった。
・・・これ、本当にあいつ個人のみで運営されているのかしら?
もし個人で運営しているのなら、随分なお金持ちとしか考えられないけれど・・・。
アゼラス「中々・・・悪くないだろ」
そんな私の心を読むかのような、少し自慢げな表情。
まぁね、と軽く返答をすると同時に、この家のドアがゆっくりと空き・・・
「お帰り、今日の収穫はどうだった?」
中から、男性のプリ―ストが顔を出す。
アゼラス「悪くない・・・あと、客人を連れてきた」
「客人?」
意外そうな表情を浮かべながら、私達の方を見る。
そして、私達を確認するなりにこっと笑顔を見せてくれた。
「ようこそ、ここにお客さんが来るのは珍しいな・・・どうぞ、ゆっくりとしていって下さいね」
そう言って、ゆっくりと奥の方へ戻っていってしまった。
ヴィス「じゃぁ僕等も行きますか」
先導するかのように、ヴィス達が中に入っていく。
・・・まぁ、折角誘われたんだしゆっくりとしますか。
そう思いながら、この家の中に入っていった・・・。



きの「あ、どうぞ・・・お茶です」
目の前に、湯気の立ったお茶がゆっくりと置かれていく。
ゆっくりとお茶の入った容器を持ち上げ、匂いを少しかいでみる。
うん・・・匂いも悪くない。
やはり、このアゼラスって男・・・金持ち?
ヴィス「遅れてしまいましたが、先ほどは本当にすみませんでした・・・」
そういって、私達に向けて深々と頭を下げる。
ハンク「いや、別に気にしなくていいさ・・・自分達が好きでやった事だし、厄介事にはもう慣れたしな」
苦笑ぎみに、ハンクが即座に返答をする。
・・・言われてみればそうね。
声には出さなかったものの、その言葉に心の中で同調した。

アゼラス「厄介ごとに・・・慣れてる?」
不意に、不思議そうにアゼラスが声を上げる。
まぁ・・・当たり前か。
知らない人が聞けば、当然そういう反応をするのもおかしくはない。
ハンク「まぁ、色々とあってな」
言わない方がいいと考えたのだろう。
適当にお茶を濁すような返答だった。
アゼラス「そうか・・・色々と、大変なようだな」
あちらもこちらの意図を察してか、それ以上の探索はしない様子だった。
そして、目の前のお茶を一口。
アゼラス「美味い」
誰にも聞こえないような小さな声で、呟いた。



ラップ「姐さん、今頃どうしているっすかね・・・」
ふと頭にその名前が浮かんだのか、懐かしそうに目を細める。
きの「姐・・・さん?どなたですか?」
その聞きなれない単語に興味を示したのか、きのがこちらに顔を向ける。
ラップ「えっとっすね、今僕とアニキはあるギルトに入るための条件クリアーの為に日夜頑張っているっすよ」
ヴィス「あるギルトって?」
気づくと、ヴィスも興味気にこちらを見ている。
ラップ「えっとっすね、"夢幻回廊"というギルトっす」
アゼラス「夢幻回廊?」
真っ先に反応したのは、きのでもヴィスでもないアゼラスだった。
片目を閉じながら、こちらを少し睨みつけるかのような目。
あきら様に、その目は殺気を含んでいる。
ハンク「・・・何だよ、その目は」
威圧感。
彼から発せられているその重圧に対抗するかのごとく、ハンクがアゼラスを睨みつける。
アゼラス「・・・失礼、珍しいギルト名だったのでつい」
そういって、またなにくわぬ顔で目の前のお茶を飲む。
・・・
ハンク「あんた、もしかしてこのギルトについて何かしっているのか?」
確信は無い。
ただ、先ほどの反応はどうみても何か知っているとしか思えない。
アゼラス「君達に・・・先入観を与えるような内容・・・だがそのギルトに入るなら、知っといた方がいいかもしれない」
片目だけをこちらに向けながら、目の前のコップを揺らす。
・・・イング達の親元のブリジットが問題持ちだってのは、前に確認済みだが。
姐さんまでも問題有りだと?
そんな事は無いと信じたい。
しかし、それを保障してくれる術を今自分達は持ち合わせていない。
・・・
ハンク「よければ、話してくれないか?」
アゼラス「・・・わかった、君達が望むなら、少しだけ・・・あのギルトの・・・マスター」

アゼラス「フェイ=ヴァレンタインは・・・殺人者だ」



ハンク「・・・冗談だろ?」
声が、つい裏返ってしまった。
アゼラス「かなりの・・・人数を殺している・・・指名手配されているはずだ」
ハンク「ちょっとまてよ!」
アゼラスの言葉を遮るかのように、大声を上げる。
ハンク「本当・・・なのか?」
その問いかけに、ゆっくりと首を縦に振る。
アゼラス「といっても・・・これは裏で有名な話・・・君達が知らないのも、無理はない」
そう、がっくりとうなだれるハンクをフォロ―を入れた。

アゼラス「一番問題なのは・・・ブリジットと、知り合いだと言う事だ」
アリス「え?」
聞きなれた名前。
その名前が出てきたので、つい声を出してしまった。
イング「・・・どうして、その人と知り合いなのがまずい事なんですか?」
今までずっと黙っていたイングが、ここに来て初めて口を開いた。
ハンクに向けていた目を、次はイングへと向ける。
アゼラス「・・・知らないのか?」
イングの問いかけがあまりにも意外だったのか。
少々意表を突かれたかのような感じが見受けられた。
こくこくと、頷く。
アゼラス「珍しい・・・有名なんだが」
そう言って、目の前のお茶を一口。
アゼラス「彼は・・・国に追われるくらいの・・・犯罪者だ・・・何をしたかは、多すぎて言い切れない」
・・・多すぎて言い切れない?
アゼラス「結構広まっている・・・のは・・・戦争になりかけた奴・・・の話」


聞いた事がある。
昔あったといわれている、このお話。
今のようにある程度の治安が約束されるまでは、それはそれは長い年月がかかったそうだ。
過去にあった、人とのぶつかり合い。
その中で一番過激だったのが、首都プロンテアと魔法都市ゲフェンらしい。
神を崇め信仰するアコライト達からすると、魔法という異端な物を使用するマジシャン・ウィザード達はどうしても駄目らしい。
そんな内容からのにらみ合いは、裏でずっと行なわれていたそうだ。
そして、騎士団の出現により話は急展開していく。


騎士団からすれば、アコライトを援護する理由は単純なものだ。
王の、命令。
それだけなのだから。
優勢に立った彼等は、ゲフェンに進撃を企てようとする。
それをいち早く察知した彼達は、モロクの暗殺者へと援護を要請する。
彼等にとっても、これに参加する理由は簡単だ。
お金が出れば。
それだけである。
結果この二者に二つの前衛が加わり、本格的にぶつかり合いが行なわれそうになったというお話だ。



アリス「でもこれって、話し合いで回避されたんじゃ・・・」
そう、全面的抗争が行なわれる前に和解という形で回避されたと聞いている。
そこに、一体どうやって彼が関与しているのだろう。
ヴィス「それはあくまで表の話です・・・実際は違う」
感情を押し殺すような低い声。
拳を力強く握り締め、何とか平穏を保とうとするヴィスの姿が目に映った。
ユキ「・・・どういう事?」
良く解らない。
アゼラスは・・・ヴィスは、一体何を語ろうとしているの?
ヴィス「実際には、"そうせざるおえなかった"というのが正しいんだ」
下を向きながら、低い声が部屋に響き渡る。
アゼラス「本当は、両者は剣を交える・・・直前までいった・・・そこに」
そこで、一旦言葉を止める。
心なしか、冷静さを保っているアゼラスも少し体が震えている気さえする。
意を決したのか、ヴィスが顔を上げた。
ヴィス「そこに・・・あと少しで殺し合いが始まる目の前に・・・あいつが突如現れたんです」
・・・あいつ。
話の流れからすると、多分ブリジットの事だろう。
アゼラス「奴は、背中に背負っていた両手剣二つを・・・両手でいとも簡単に持ち上げて」
イング「てことは、二刀流みたいな感じですか?」
そう問い掛けるイングを見ながら、こくこくと頷く。
・・・ありえない。
ただでさえ、両手でやっと一つの両手剣を持つというのに。
簡単に言えば、片手で両手剣を持てるという事になるのだ。
・・・
アゼラス「そして・・・不気味に大声で笑うのを境に・・・襲い掛かってきた」



アゼラス「初めは騎士団達などのほう・・・短時間で、彼等は撤退せざるおえない程までの壊滅的攻撃を受けた」
戦争に刈り出される程までの騎士団だ、当然側近のギルトなどの集団に決まっている。
となれば、当然かなりの能力があるはずだが・・・。
アゼラス「彼等の・・・死体の山を築き・・・戸惑い、逃げまとうウィザード達を次の標的とし、奴は襲い掛かった」
目の前に握られた両手が、より一層強みを帯びる。
アゼラス「結果は・・・君等も予想できていると・・・思う」
彼の、顔色が悪い。
もしかして・・・
ヴィス「なので、両者共和解以外道が無くなったんです・・・丁度モンスターの活性化の時期でもありましたから」
人間同士の争いをしている暇は無くなった、という訳か。
あるいは・・・共通の敵を見つけたというべきか。
アゼラス「たった一人の騎士にやりたいようにやられたなんて・・・言える訳がない・・・からな」
妙にリアルさのある話。
信じる信じないは別問題だが・・・
ユキ「貴方達、もしかして・・・」
こちらの意図を察してか。
悲しそうな、疲れきった笑みをくすりと漏らす。
アゼラス「そう・・・俺はその戦争の生き残り・・・ここにいる孤児達は、それで親御を無くした子供達・・・故」
そこで不意に立ち上がり、ゆっくりとヴィスの方へ近づいていく。
下を俯きながら震えるヴィスの頭を、ぽんっとゆっくりと手のひらを乗せる。
アゼラス「奴に対する恐怖心・・・憎悪は・・・どこよりもここはあると思う」



恐怖、憎悪。
そんな負の感情を表した言葉が、不意にユキの胸をチクリと刺さる。
ありえないと言い切りたい。
出来るならば、彼等の作り話だと信じたい。
内容だって、信じがたい話だったし・・・でも。

彼等の目は、そうはいってくれなかった。

ユキ「冗談でしょ?」
ふと、自分はそんな事を漏らしていた。
アゼラス「こんな・・・話を・・・冗談でいう訳が・・・ない」
先ほどよりも、少々強みを帯びた口調。
こちらに向けられた視線も、半ば睨んでいるように見える。
アゼラス「忘れる・・・ものか・・・あいつの、顔・・・鮮血にまみれた、狂気に歪んだあの表情・・・」
ユキ「嘘!」
それでも、自分は引き下がろうとはしなかった。
否、引き下がりたくなかった。
引き下がってしまうと、その話を自分が信じてしまいそうで。
あいつを、疑ってしまうような気がして。
アゼラス「信じる・・・信じないは自由・・・だが・・・」
ユキ「そんな話・・・絶対信じないんだから!」
バン!
机を大きく叩き、そのままドアの方へ走り去っていってしまった。
嵐のような一時が去ったような、そんな時であった。


あの後は、各自とも自由解散という形となった。
ひとまずここに今日は泊めてくれるらしいので、その言葉に甘えさせてもらう事となった。
しかし・・・
アリス「何か、大変な事になっちゃったね・・・」
イング「・・・そうだね」
二人で少し散歩をしているとき、ふとこんなことを話していた。
あのお話以降、皆何故か気まずい雰囲気になってしまっている。
私だけでも何とか、と元気さを保っているのだが・・・
イング「アリス・・・モンスターにも、心ってのはあるのかな」
不意に、イングの口からそんな話が切り出されてきた。
アリス「あると思うよ、モンスターにも」
イング「・・・そっか」
そして、照れ隠しに少し笑って見せてくれた。
イングも、最近少しだけ何か様子が変だったので気になっていたけど・・・
イング「前のオークと対峙した時さ、何故か涙を流しながら襲ってきたオークレディーがいたんだ」
空を見上げながら、何かを隠すかのように話す。
イング「あとのアゼラスさんの話で、あぁ、多分殺されちゃった子供の御母さんなのかなって・・・情が移っちゃって」
あぁ、そういうことか。
この話でやっと、イングの様子がおかしい原因がわかった。
イングらしいと言えば、イングらしい・・・
イング「こんな考えを持つのは、おかしい事なのかな?」
真剣な眼差し。
私の目を真っ先に見つめるその目は、真剣そのものであった。
アリス「おかしく無いよ・・・モンスターとは対峙したまんまだけど、いつか平和に暮らせるといいよね」
自分も一体何が言いたいのか途中から解らなくなって、笑ってごまかした。
そんな自分を、イングは見てゆっくりと笑った。
イング「ありがとう」
小さく、聞こえない程に。
アリス「何か言った?」
イング「何も〜?」

一緒に苦難を共にする、大事な仲間がいる。

この仲間を、守るために。

自分は、剣を振り続けよう。

そろそろ落ちようとする太陽が、まぶしく、そして綺麗に見えた。



ブリジット「うぅぅ・・・くそぅ・・・」
もう辺りが暗くなっている頃。
とぼとぼとペコペコを走らせながら、自分はペコペコの背中を濡らしていた。
横でヤファと鈴が元気づけようと色々言っているが、耳に届いているのか届いているのかよくわからない。
それだけ、今自分は絶望の淵に立たされていた。
ブリジット「何故・・・何故、こうお決まりのパターンばっかなんだろぉ・・・」

青箱。

自分を掴んで逃がさないその甘美な響き。
されど、青箱は自分に笑顔を宿してはくれない。
ちなみに本日の収穫は鳥の羽毛四枚。
その羽毛総出で寝ていたマ―ターをくすぐったら、手を思いっきり引っかかれたのでヒリヒリと痛む。
・・・切ない、痛みだ。

・・・パンドラの箱。
ふとそんな言葉がよぎった時、不意にヤファが前に両手をぐっと握り締めながら一言。

ヤファ「ほら、どうせ出たってまた鉄鉱石とかですし」

ズッキーン!

痛い。
痛すぎる。
剣で刺されるよりも痛い。

彼女は、どうもあの事件以降少し辛口な表現も言える様になったのだが。
今の言葉は、どの言葉よりも深く、自分の胸に突き刺さっていた。
そんな自分を察してか、鈴がすかさずフォローを入れようとしてくれる。
鈴「なんて事いうアルか!きっと赤ポくらい出るアルよ!」

げふ。

・・・鈴さん、そういうのはフォローではなく、とどめというのですよ。
あぁ、心臓に悪い・・・ていうか痛い。
苦しそうに胸を押さえる自分を心配そうに、二人が覗き込んでいた。
ヤファ「ん?どうしたんですか?胸なんか押さえて・・・」
鈴「く、苦しいアルか?」
・・・そう、彼女達に悪気があっていった訳じゃないんだ。
笑おう。
笑うんだ、自分!
ブリジット「いやぁ、大丈夫ですよ〜、はは・・・」
そう、いつも通りの何気ない笑顔を振り撒きながら、酒場の前にたどり着いた。
ペコペコをいつもの場所に置き、ドアをゆっくりと開ける・・・


「こーれーでぇー!ないふがにじゅっぽんできましゅたよー!?あはははは!」

・ ・ ・ 。

お酒が回っているのだろう。
アルコール度の高いお酒が数本、地面などに散らばっている。
そのすぐ横で、怪しい眼鏡、そして緑色の触覚を生やしたウィザードが軟体動物顔負けの動きを見せる。
そしてアルテナの胸を突如狙って動き出し、それをいち早く察知したアルテナがソニックブローを叩き込んでいた。
・・・叩き込まれて吹き飛ぶウィザードも、何故か嬉しそうだ。
・・・
ブリジット(・・・可哀相に)
何故か、ほろりと来た。
さらに、奥の方ではカタリナがフェイと時を力強く抱きしめながら歌を歌っていた。
ブリジット(・・・お気の毒に)
いろんな意味で。
そんな地獄絵図を見ながら、両端で自分の腕にぴたっとくっ付きながら二人が震えている。
ヤファ「・・・時さん、気絶してますよ?」
そう言われ、じーっと時に視線を向ける。
言われてみると。
鈴「・・・モ、モンハウより怖いアル・・・」
そういって、より一層自分の腕を強く掴んだ。

・・・そうか、これは幻覚の一種なのだ。
先ほどの青箱の中身による絶望感のせいで、少し幻覚が見えるようになっただけなのだ。
そうだ、そうに違いない。

というか、そう言う事にしておいた方がいいという神のお告げが聞こえる。

くるっと誰にも声を掛けずに、ペコペコの方へ歩いていく。
そして、ペコペコにまたがるなり二人にむけて爽やかな笑顔を振りまく。
ブリジット「さぁ、青箱狩りに出かけましょう!」
ヤファ「え、えぇ!?時さん達、見捨てるんですか?」
ブリジット「聞こえませんなぁー!」



〜つづく〜




あとがき
亀パチー亀パチ―ヽ(`Д´)ノ
いかがお過ごしでしょう?鰤です(ぇ
さて、何とか22話更新でございます。
やはり私には無い勢いのある澄さんネタで随分内容も雰囲気変わりますね。
コミカルになるというか、何と言うか。
ともあれ、あとがきっぽくないですがお暇があれば次回もお楽しみに!
それでは♪
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