寒く、そして冷たい風が自分の頬を撫でる。
いつもどこであろうと、この気温の下がる冷たい夜は訪れる。
でも・・・
今日はいつもよりも寒く、寒く感じた。
何故?
いや・・・判っているのかもしれない、何故寒く感じるのかを。

ブリジット「さて、どこから話しましょうか・・・?」

目の前のアイツが、冷たい眼をしているから。
目の前のアイツが・・・



ラグナロク・オリジナルストーリー第弐拾七話―覚醒



イング「僕から、聞きたい事があります」
意を決したかのように、イングが1歩だけ前に出る。

今聞く事があるとすれば、やはり彼の本当の姿なのか、それとも他なのか。
私達が見守る中、イングの口がゆっくりと開かれていく。
イング「正直に言ってください・・・ブリジットさんは、本当に犯罪者なのですか?」
私の横にいたユキの手が、一段と強く握られた気がした。
ユキもそう、イングもそう、時さんだってそう。
そして私だって、ブリジットさんとこのような再会を望んでいた訳ではない。
時「ブリジット殿・・・」
時が何かを言いたそうにブリジットの近くへとあるいていく。
その時を手で軽く制しながら、ブリジットが改まった表情でこちらを見つめた。
その眼にあるものは、決意。
普段見ることがあまりないであろう、彼のまじめな表情であった。
ブリジット「・・・どこで仕入れたかはしりませんが、知ってしまったようですねぇ」
ふぅ、と小さなため息をつく。
しかし、こちらとしてみればその言葉はあまりにも大きな衝撃であった。
イング「じゃ、じゃあ本当に・・・?」
イングの言葉が続かない。
ユキも、黙ったまんま俯いてしまって何を思っているのか確認する事はできなかった。
ブリジット「そう・・・」

ブリジット「私は・・・そう、貴方達の思い描いている人物像のほかに犯罪者の顔を持つ者です」



はんざい、しゃ・・・
何をしたのであろうかまではわからない。
ただ、確実によからぬ事をした人のみに与えられるこの言葉。
窃盗?そんな軽いものではこのような重みのある単語は与えられない。
そう、この世界でこの単語が与えられているとすれば大体・・・

ブリジット「私は・・・"殺人者"です」



「小雨、か・・・」
先程から曇っていたと思ったら、予想通りしっかりと雨が降ってきてくれるもんだ。
まぁ、この干からびたモロクの大地にとっちゃ良い事なんだろうけど・・・
「旦那、帰ってきたかねぇ・・・」
懐からタバコを取り出し火をつける。
・・・
「ちぇ、湿気てつきゃしねぇ」
ここはいつも活気のある雰囲気はないものだが、今宵はより一層沈んでいる気すらしていた。
テーブルに置いてあった一枚の紙切れを見る。
「片目の変色、か・・・」
面倒な事になっちまったもんだ・・・


イング「さつ、じん、しゃ・・・」
想像していなかった訳ではない。
そもそも返り血を浴びたあの外見を見れば。
犯罪者かもしれないという言葉を聞いた上であの姿を見れば、容易に想像は確かに出来ていた事だ。
ただ、心の片隅に彼を信じたいと思う気持ちが最後の砦となりこの考えを頑なに守ってきていたのだ。

しかし、目の前で言われてその考えが音を立てて崩れていくのが嫌でもわかった。
ユキ「嘘!」
小雨が降り注ぎ、肌にその冷たさが厳しく突き刺さる。
そんなモロクの夜に、ユキの叫び声が響き渡った。
ブリジット「嘘でもなんでもありません、私は殺人者です・・・現に、この鎧についてるのは人間の血です」
雨に打たれても流れ落ちる事のないその赤き色。
もしかするとその内どれかは、ブリジット自身が流した血かもしれない。
ブリジット「私は過去から現在に至るまで何十・・・何百という人を剣で切り伏せた経験のある殺人者です」
そこで出てくるは、アゼラスの話した戦争での経験話。
・・・やはり、あの話は本当なのか・・・?
ブリジット「そして・・・私自身、少々特質な性質を持ってる者です」
イング「とく・・・しつ?」
いきなり何を言い出すのか、彼の口から出てきた言葉は自分自身が特質であるという発言。
確かにもし殺人者なのであればかなりの実力者であるのは間違いない。
ただ、特質な性質というのはどういう事なのだろうか?


ブリジット「私の性質は常人よりも耐久性にとにかく優れているという所。こうして御腹に穴をあけられても死にません」
ぽんぽんと、その穴のあいた鎧から露出している御腹を数回叩く。
彼いわく、そこには穴があいていたという。
しかし・・・
アリス(どう見ても、普通の御腹よね・・・)
そう、穴が空いていたといわれても信じがたい程にそこは普通の御腹が存在していた。
そもそもあそこのあの鎧と同等の穴があいたとすればそれは即死を意味しているといっても過言ではない。
それに、万が一生きていたとしてもその穴がそんな短い期間では到底直るはずがない。
すると、時が少し戸惑った様子を見せながらブリジットへの前へ出て行く。
時「まさか、ブリジット殿・・・貴方も禁術に手を出した人間なのでは?」

禁術。

私たちの聞いた話では、そのなの通り人が手を出してはいけないといわれている力の源の事。
あそこにいたフェイという人も、その禁術で数日寝たきりだったという話だ。
ふぅ、と軽いため息をつきながら座った視線で自分達を見つめる。
ブリジット「そうですねぇ・・・まぁ、"そのようなもの"ですね」
曖昧、されど否定の無い返答。
そうなれば、彼もまた、禁術によって力を手に入れた人間に当たるのか・・・。
やはりこの人に聞けば、俺は力を手にする事ができるかもしれない。
時の脳裏にその言葉が出てくるまでに、そう時間は必要なかった。

ブリジット「私は殺人者、そして人にあるまじき力を持つ者。そう・・・私は"化け物"なのですよ」
諦めているのか、認めているのか。
さらっと、ブリジットの口から途方も無い発言がなされた。
表情から何を考えているのかは判らない。
しかし、嘘を言っているようにも思えない。
疑いをかけたくとも、現にフェイといった禁術という力を所有している人物と先程まで会っていたのだ。
となれば、目の前にいるブリジットとて禁術といった力を持っていたとしてもおかしくはない。
でも・・・



ユキ「さっきから訳のわからない事ばっかいって・・・信じられる訳ないじゃないのよ!」
体を精一杯ブリジットの方に向け、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
そう、僕達からすれば禁術等言われても途方も無い訳のわからない世界に変わりは無い。
禁術だの、耐久があるだの言われて理解できるはずがないのだ。
ブリジット「まぁそうでしょうなぁ・・・では」
自分達がそう言ってくるのを見越していたのか。
咄嗟に背中に掛けてあった黒い大きな両手剣を片手で持ち上げ、そして・・・
アリス「え・・・ブリジットさん!?」
アリスが制止させようとするのを無視して、その両手剣をそのまま自分の体目掛けて思いっきり突き刺した。
アリス「い、いやぁっ!!」
その光景を見てられないのか、アリスが自分の肩に蹲って動かなくなる。
正直、自分だってこの状況から逃げ出したくて仕方が無かった。
ブリジット「これが証拠です・・・これくらい、私にとって痛くも痒くもないんですよ」
案の定、心臓等があるであろう胸の位置に深く、深く突き刺さった両手剣。
その突き刺された両手剣から、大量の血がまるで小さな滝を描くように落ちていき雨と同化していく。
ユキ「な、何してんのよアンタ!早くこれ抜きなさいよ!」
颯爽とその状況をもろともせずにブリジットへ近寄ったのは何者でもないユキ。
その表情は焦燥にかられ、顔もかなり青ざめている。
ブリジット「痛くも痒くもないと言っているでしょう」
近寄ろうとするユキを、普段見せることのない厳しい形相で睨みつける。
一瞬びくっと体を震わせてから、ユキの足がゆっくりと止まった。
ブリジット「まぁこれで信じていただけたでしょう・・・残念でしたねぇ、貴方達の友人が疫病神で」
言葉と同時に、ククッと小さく笑いを零す。


・・・これが、ブリジットさん?
ブリジット「今までの茶番、非常に面白かったですよ皆さん」
想像すらしなかったであろう、ブリジットさん自身から語られるその言葉。
近くにいた時さんですら動揺を隠せない様子で、驚いた表情を浮かべている。
茶番?
僕たちとの交流は茶番?遊びだった?
ブリジット「私などと関わりをもったせいで大変でしたねぇ、死にそうな事も都度あったでしょう」
そう、僕等は剣士になったばっかで襲われた。
それだけでなく、目の前のブリジットさんと知り合いという事だけでいろんな揉め事に入り込んでしまった。
それでも、ブリジットさんを信じていたから。
ブリジット「それも今日で終わりです・・・これ以上、私も茶番を続けているつもりはございません」
ずっ・・・と、嫌な音を立てながら両手剣が抜かれていった。
ブリジット「お疲れ様、皆様・・・利用しやすい労力をでしたよ?時さん」
にぃぃっ・・・と、嫌な笑みを浮かべながら時の方を向く。
時「な・・・冗談・・・でしょう、ブリジット殿?」
まだ俄かに信じにくいのか、ブリジットへと駆け寄っていく。
しかし・・・
時「くっ!」
すぐそこまで近寄ったと同時に、ブリジットの拳が時の顔を直撃した。
その拳の勢いにおされて、吹き飛ばされるように元の位置にまで戻されていった。
ブリジット「茶番は終わりだと言ったんだ・・・今までの事もある、特別に殺さずに生かして返してあげましょう・・・」
表情が違う・・・。
いつもの微妙ではない、あえていうなら邪の感情が入り込んだ微笑。
ブリジット「いつまで近くにいるつもりです?ユキ・・・」
その視線が、今だ近くで動かないユキの姿を標的にいれる。
・・・まずい、この状態では!?
一瞬最悪の状態が脳裏に過ぎる。
しかし・・・






パンッ!


辺りが寒いせいであろう、余計に透き通るかのような肌が手で叩かれる音が響き渡る。
目の前を見ると、ユキがブリジットの頬を思いっきり叩いていた。
あたりが暗闇なのでわからないが、ユキの目には真っ赤になったブリジットの頬が見えていることであろう。
ブリジットが睨み返すも間も無く、ユキが真っ赤になりながら逆に睨みつけた。
ユキ「アンタ・・・何言ってるの!?どうしちゃったっていうのよ!」
その頬に、一筋の水跡ができる。
それが雨によるものなのか、又は涙によるものなのかはわからない。
ブリジット「どうかしちゃってるのは貴方でしょう?私は昔からそうですよ?」
やれやれ、というかのように両手剣を元ある位置に戻していく。
ユキ「なら・・・なら!」
ユキに興味がないのか、直視すらしないブリジットの顔を半ば強制的にぐいっとユキのほうを向かせた。

ユキ「なら・・・何でアンタ、そんなにつらそうな表情してんのよ!」

ブリジット「! 何を言っている!」
瞬時にその顔を掴んでいる手を叩き、数歩後ろへ飛びのくように引く。
ユキの目からは、もはや見ても判るほど涙が溜まっていた。
ユキ「アンタ、なんでそんな嘘つくのよ!どうしてそんなにつらそうな表情してまでそんな嘘を!」
ブリジット「別につらくなど無いから言えるんですよ・・・!」
先程にはなかった、殺意とでもいうべきものなのだろうか。
ピリピリと神経を痛めつける、そこから離れたいと思うかのような感覚。
それでも、ここから離れてこうとする者はいない。

イング(ブリジットさんが・・・動揺している?)
今の現状、今の状況、そして真実。
衝撃の走るものを聞かされていた。
しかし、自分としては今こうして動揺を見せるブリジットさんの姿が気になっていた。
自分の知るブリジットさんは、普段はのほほんとしているが動揺等という文字とは無縁な性質を持つ人物。
彼からすれば今は素性を見せたという。
殺人者としての顔・・・
でも、でも。
自分の奥底では、まだ彼が何かを隠しているという不確かな確証のようなものがあった。
わからない・・・でも、自分はまだ彼の事を信用している所があるが故のものかもしれない。
ユキには判っていたようだが、自分にもその言葉を言っているブリジットさんが苦しそうにみえた。
そう、まるで何かに怯える小動物のような。
奥底に頑なに隠そうとする、恐怖のようなものが。



何故離れていかない。
何故、その目にまだ光を宿している!
ズキン・・・
突如頭に酷い痛みが走り、頭を手で抑えなければ倒れそうな感覚に襲われる。
ブリジット「ぐうぅっ・・・!」
痛い・・・痛い、いたいイタイいタい・・・!
ふらつく体に鞭をうち、まだ残る少しの神経を目の前にいる冒険者たちに向ける。

私は化け物だ。
魔法で体を半分以上もっていかれても。
剣でいくらこの体が引き裂かれようとも。
あまりの痛みで意識が飛んだとしても。
私の魂は、この場・・・この世界から離れるという事を知らない。

私の素性を知らない人はこれを知り離れていく。
差別、恐怖、嫌悪。
様々な思惑をその顔に貼り付け、その顔で持って自分に最後の言葉を残していく。
「お前みたいな化け物と・・・今まで一緒にいたなんて」

所詮そんなものだ。
まぁあちらの反応も正しいものだし、うすうすそれがいずれくるであろうという脆い付き合いだったのだから。
いつしか、これは一種の茶番劇であろうとさえ思うようになってきた。
この力がある限り、私はいつまで経っても一人なのだ。
目の前の女も・・・男も、どうせ最終的に離れていく。
信じるものか・・・人間等。
信じる・・・


ブリジット「・・・近づいてくるなァっ!」
どうして頭が痛いのか理解がようやく出来た。
目が・・・目が疼いてきてるのだ。
そんなこちらの都合等おかまいなしにユキがゆっくりと、ゆっくりと歩を再度こちらに向けて進めている。
わからない、ただ自分は彼女に恐怖に似た感情を今抱いているのだと思う。
気が付けば、今自分は彼女に黒いあの剣を向けているまでに至っていた。
ユキ「アンタは私を刺さない。そんなの今のアンタを見ればすぐわかるわ」
先程の様子とは打って変わって冷静になったユキが目の前にはいた。
ズキン・・・!
また痛みが走る。
しかし、先程とは違う、何か懐かしいような、それでいて恐ろしいような感覚。
ブリジット「五月蝿い・・・!お前に・・・お前に何が分かる・・・お前に私の!何が分かると!」
止まらなかった。
剣で威嚇しつつ、自分でもおかしいくらい取り乱しながら気が付けば目の前の小さな女性に声を荒げていた。
何が分かる?
何故自分はこんな小さな・・・ユキにこんな恐怖心を抱いているんだ?
ユキ「分かるわよ・・・」
ぼそっと、小さく呟くような。
そんな声と共に、逆に威圧するかのような鋭い視線をこちらに向けた。
ユキ「分かるわよ・・・すべてを分かってる訳じゃない!だけど!」

ユキ「今までずっと・・・私はずっとアンタを見てきた・・・だから!」



命を助けてもらった・・・そう、今思い出せばそれがきっかけ。
それから、ずっとコイツと一緒に過ごしてきて気が付けばこれだ。
思い起こせば馬鹿な出会い方をしたもんだと思う。
良く寝るし、ぼけーっとしてて頼りないし、運というものと無縁だし・・・。
そして、"いつも何かを隠して"いる様子が気になっていた。

たまになのだが、コイツは一人でいる時に何かを思い出すように遠くを見つめて静かに過ごしている時があった。
何を考えているのだろう?
それ以上に気になったのが、辛そうな・・・そう、辛そうな表情。
気になっていた・・・無償に気になっていた。
それに追い討ちをかけるように"仕事"という新たなキーワード。
私を入れてはくれなかったが、やはりアイツは何かを確実に私から隠していた。
いずれ話すと自分に約束してくれたので、その場は引く事にした。
それがどうだ、今のこの現状。
ぼろぼろになって・・・体だけでなく、心まで疲れきったような感じを見せて。
禁術?化け物?
そんな言葉を並べて、どうして自分を頑なに否定するの?
どうして、私たちを・・・受け入れようとしないの?

ただ、その怯えた表情が。
今私に見せている、その怯えた表情を・・・笑顔に変えてあげたい。
アンタの・・・ブリジットの、笑顔が見たい。

アンタに何があったかはわからない。
でも私は・・・今だけは・・・自分に。
ユキ「私は・・・離れたくない!」

自分に、正直になりたいと思う。

ユキ「私はアンタが・・・ブリジットが・・・」



ヤファ「・・・何、これ」
雨による気温の低下が原因だと思ってた。
ただ、それだけでは理由がつかないような寒気が自分に襲い掛かってきていた。
そんな自分にはお構いなしに、鈴さんが忙しなく先程からずっと部屋をぐるぐると歩き回っていた。
ヤファ「鈴さん・・・先程言ってた、"目覚める"・・・って、何なんですか?」
今までまったく反応を示してくれなかったのに、この言葉が出てきたと同時にぴたっと足を止める。
鈴「・・・何故、ご主人様がムナック帽子を飽きることなくずっと愛用してるか知ってるアルか?」
今日の鈴さんはやけに唐突な質問をしてくるなぁと思う。
確か、そう・・・過去に・・・?
鈴「あまり効力は無いアルが・・・抑制してるアルよ・・・あの帽子が」
抑制?帽子が?

確かに、そもそもあのムナック帽子というものには御札がついている。
ムナックはもともとキョンシーである。
キョンシーというものは、あの御札にかかれた命令文にそって活動をする自立型ではない命令されて初めて動くもの。
よって、確かにその御札には何かしらムナック一族からすれば抑制に似た効力をもっているというのは分かる。
でも・・・

ブリジットさんに効力・・・抑制しているとはどういう事だろう?
ヤファ「抑制・・・って、まさかっ」
先を言う前に。
さっきブリジットさんに会ったとき感じた、ブリジットさんではない別の何か。
その際感じた違和感が、急に自分を飲み込むような気持ち悪い感じで自分に張り付いてきた。
鈴「・・・!!まずいアル!」
同じ魔物同士、やはりそういった人には感知しずらいものに反応したのだろう。
血相を変えた鈴が、自分に目もくれずに全速力とも言える走りを見せて外に向かっていく。
向かった先は先程ブリジットさんがイングって人たちと一緒に歩いていった場所。
ヤファ「ど、どうしたんですか鈴さん!まさかブリジットさんに何か!?」
確かに、ブリジットさんがこの部屋に入ってきた時おかしな様子を見せたのは紛れも無い鈴さん本人。
今向かっている先にブリジットさんがいる。
そこに血相を変えて走っているのだ、聞かずともおそらくブリジットさんに何かがあったのだろう。


言いかけていたその時であった。
ひときわ大きな声で唸り声のような声を上げ、片目を押しつぶすのではないかと思うほどに強く押さえつけながら足が崩れていく。
ブリジット「そんな目で・・・私を・・・」
あきらかにおかしい。
もはや誰の目で見ても分かるほどに、ブリジットの様子がおかしかった。
何かに苦しむように、1歩、また1歩と後ろへずるずると引きずりながら下がっていく。
ユキ「ブ、ブリジット・・・?」
ユキが再度近づくと同時にそれは起きた。

ブリジット「そんな目で俺を見るなァァァァ!!」

そうだ、俺は化け物だ。
お前にそんな目を向けられるような者でも何者でもない。
何より・・・何より、ユキが自分に向けているその目が嫌で仕方が無かった。
(ククッ・・・俺の出番か?)
低い笑い声と共に、自分の中で何かが膨れ上がってきているような感じがした。
ブリジット(お前は・・・出てくるな、お前は呼んでいない!また何をするつもりだ・・・!)
それを押さえつけようとしても、その勢いは止まる所を知らない。
むしろ、見せ付けるかのようにその勢いが増しつつあった。
(大将、無理しすぎなんだよ。まぁ俺に任せておけって・・・)
その言葉と同時に、自分の意識がじょじょに薄れていく感覚。
だめだ・・・コイツを、とめなければいけない・・・のに・・・。


(さぁ・・・リミッターは解除された)



鈴(・・・ご主人様、気をしっかり持つアル!)
自分が行って何ができるかはわからない。
でも・・・でも、ようやく転生してまたご主人様と出会う事が出来たんだ。
もう、あの時のような・・・
鈴(あの時のような事には・・・させないアル!)


ヤファが正気を取り戻し、宿屋に泊まったその日の夜。
鈴が、ブリジットが寝ている間にヤファに少しだけ話してくれた事があった。

鈴「・・・実際、ご主人様は自分自身が怖いと思ってるアル」
・・・自分が、怖い?。
鈴「自分が信じられない、好きになれない、怖いと思っている人は周りすらも信用しようとは思わなくなるアル」
確かに。
ブリジットさんは私だけでなく、すべての人との距離に1歩置いてるのは見れば明らかな事だ。
鈴「・・・ご主人様は、今もなお呪縛にとらわれて苦しんでるアルよ」
・・・呪縛。
鈴「呪縛に恐れ、自分に恐れ・・・苦しんでいる内に、ご主人様に新たな人格が生まれたアル」
・・・人格、ですか?
鈴「見分け方はご主人様の眼の色。片目の時と、両目の時で別人格が出てくるアル。通常は色は皆と普通アルよ」
眼の色が、変わる。
鈴「片目の時は、苦しんでいる自分を話等でもって気を和らげようとする人格・・・そして」

鈴「両目の時は・・・呪縛、苦しみから生まれた当たりようのない苦しみを"破壊"でもって和らげる・・・人格アル」

・・・つまり、それはまさか・・・。
鈴「ご主人様の両目の色が変わった時。それはつまり、破壊、殺傷のみを楽しみとする"殺戮兵器"へと変わる時アル」


鈴「・・・!遅かったアルか・・・!?」
自分がたどり着いた頃には、イング達が固まったまんまご主人様の様子を見ている。
ユキ「ど、どうしたのよ・・・ブリジット」
困惑した趣でご主人様を伺う。
それと同時であった。
「ククッ・・・久々だなぁ、鈴。てめぇがここにいるってことは転生でもしたか?」
ぞくっ・・・
身の毛もよだつ寒気と共に、その声の主・・・"そいつ"はゆっくりと顔を上げる。

ああ、奴だ。
あの眼の色・・・あの口調・・・変わらない・・・ものだ。

「おはようだぁ諸君・・・初めまして・・・とでもいおうか」

低い笑い声が響き渡る。
雨は、止まる所を知らない。



〜つづく〜




挿絵:時の番人




あとがき
御久しぶりです、がりがりと更新してるつもり(ごめんなさい! なブリジットでございます。
とりあえず今回より新たな試みとして挿絵が入りましたがいかがだったでしょうか?
感想等、私でも時の番人様等いただけると今後の挿絵をどうするかについて大きな前進があると思われます。
よろしければ何かと一つ挿絵の導入に関して一言いただけると幸いでございます。

さて、本編も中々切り返し地点という事で様々な謎をこれでもかといわんばかりに投下中です。
今まで異常だった鰤の性質、そして眼の色の豹変の謎、さらには目覚めるといった鰤の新たな謎。
鈴も何かを知っているようで、やはり謎のカギは彼女が持っているのか?
鰤はどうなってしまうのか、そしてイング達はどう動くのか。
謎をよんでるつもりなんですよこれでも!な小説の次回にこうご期待下さい。

それではまた♪


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