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ユキ「初めましてって・・・どうしたの・・・」
言い終わる前に、彼女は気が付いた。
眼の・・・色が・・・
アリス「何・・・あの眼の色・・・?」
眼の色が、明らかに尋常ではなかった。
暗闇の中、ひときわ目立つ赤き瞳。
ブリジット「なんだ、この眼がそんなに珍しいか?」
口調の違う、"ブリジットの姿をしたブリジットではない人"。
そう、例えるならば人が入れ替わったような、そんな感じだ。
眼の色が普通ではなく、そしてこの・・・何だろうか。
ブリジット「さぁ、ってと・・・久々に俺の出番だしなァ・・・」
そう、彼から感じる事はなかったであろうこの感覚。
先程とは違う・・・
ブリジット「潰すか・・・?この街」
殺傷を楽しむ者が発する、独特の悪寒が。
ラグナロク・オリジナルストーリー第弐拾八話―人格
ブリジット「・・・いつまで俺のこと見てるんだ、お前等」
視線があまり好ましくないのか、凝視している自分達に少し視線を向けてきた。
やはり違う、特有な色をした瞳。
威嚇ではない、確実に自分達へ向けた殺気。
イング(・・・どうなってるんだ?)
わからない。
ただでさえ先ほどの一件を見て混乱している頭をさらに揺さぶるかのごとく入ってくる謎。
ただ、これだけはいえる。
あれは、あれは・・・
鈴「・・・出てきたアルね」
自分達の間を割って一歩、また一歩と近づいていく一人のムナック。
最近ブリジットさんと一緒に旅をしているらしい。
ブリジット「鈴、てめぇがついていながらこの惨状は何なんだ?」
流されていた目がまるで獲物を捕らえたかのように鈴と呼ばれたムナック一点に定まる。
その眼は、まるで睨みつけるかのような鋭いものであった。
鈴「ご主人様は貴方が出るのを望んでなかったはずアル。その現状を見てその口が聞けるアルか?」
対するムナックも、ブリジットさんに引けを取らない気迫で彼を睨みつけていた。
まるでその眼は主人を見る眼ではなく・・・敵と対峙しているかのような眼であった。
時(・・・ふむ)
一回殴られた影響でもでているのだろうか、または自分自身の元々の性格なのか。
この理解し難い現状を自分は今冷静に対処しようとしている。
多分イング達辺りは初めのあのブリジット殿の性質を見た時点でもはや冷静などという言葉はなくなってしまったであろう。
あまり感情を表に出さない自分でされ、あれを見せてもらった時には驚いたものなのだから。
俺の予想範囲ではあるが、ブリジット殿は確実に「禁術」に手を出している。
何故あの時手が飛んだのかは判らない。
ただ、俺の知っているブリジット殿は絶対に手など上げるような人ではなかったはずだ。
彼は「思い切った行動」というものを特に酷く苦手とする人。
よって、彼の行動一つ一つ何かしら引いた印象がもてるのはそこから来ている。
しかしながら、頑なに彼の守ろうとする何かに関しては敏感に反応を示す。
最近自分が彼を見ていて異様に反応を見せていたもの、それが「禁術」だ。
彼が手を出させるほどまでに動かせた何か。
そして、ここ数日異様な反応を見せた「禁術」という代物。
現時点の情報では、彼が禁術に関して何かを知り、そして何かを隠しているという点。
手が出たのも、それを知られたくない為か・・・または別か。
どちらにせよ、この禁術というものは自分にとっても今現在最重要事項に置かれているものだ。
玉藻前に追いつくためにも。
フェイのことを、知る為にも。
禁術を知っている彼を、何とかして話させてもらわなければならない。
それに・・・
時「貴方は、いつでも仮面を被る人ですな」
俺にもわかる。
ユキ達も気がついているようだが。
彼が・・・無理をしている事を。
先ほどのやり取りに、貴方の意思がまるで入っていない事を。
ブリジット「俺が出てきた以上、最低何か収穫えねぇとかえれねぇんでな」
彼の長い話し合いにそう言って終止符を打たれた。
相変わらず、ボクが何を言っても聞く耳を持とうとしてくれない。
ただ、この街・・・モロクを無くすという事にだけ関しては引いてくれるという答えは貰う事が出来た。
なら、彼はここで一体何をして収穫という物をえろうというのか?
ブリジット「安心しろ、てめぇ等には手はださねぇよ・・・手を出すとうるさいしな」
面倒な事だ、といってため息を一つついた。
こいつは、ボクが前ヤファ様に話した通りご主人様の別人格の一人。
多分セニアという騎士のせいで心にダメージを負っている状態でさらに追い討ちがかかったんだろう。
かけたのはいうまでもなく・・・ここにいる奴等全員。
そして・・・こうなると判っていてご主人様をとめられなかったボク自身。
ブリジット「とはいえ・・・ククッ、いるんだよなァ・・・ここには面白そうな物がよ」
自分が考えている間に彼が何かを見つけたらしく、視線をそちらの方に向けた。
その先にあるのは、モロクの方向である。
何故街を見て・・・まさか!?
ブリジット「ここの街だけでも二人の「種」がいるのか・・・おもしれぇ、そいつ等を見せてもらうか」
そう言いながら、再度黒い両手剣が鞘から取り出された。
時(・・・種)
そこで自分は咄嗟に気が付く。
種ということは、つまり芽が出ていないか出たばかりかのような時期の植物の原型等を意味する。
または・・・そう、可能性や才能の事を指すこともある。
考えてみろ。
このムナックの話の中でも、巧みに禁術と似たような発言がなされていた。
それに反応を示した彼が面白いといった「種」。
近くにいるではないか・・・最近「禁術」の力を手に入れた人物が。
フェイ「あんた達ー、まだ話をしているの?風邪引くわよー?」
タイミング悪く、この雨の事で気がかりにでもなったのであろうか。
フェイが様子を見に来たのだ。
時「だめだ、フェイ来るな!」
声と同時に、すばやい反応を見せたブリジットがそちらの方に顔を向ける。
にいぃぃぃぃぃぃぃ・・・。
初めの方に見せた、邪険な笑みが咄嗟に浮かんだ。
ブリジット「一つ目の種は・・・貴様かァ!!「神速」のォ!!」
まるで水を得た魚の如く、両手剣を引きずりながらフェイ目掛けて走っていく。
その引きずった後には、大きくえぐられた地面が残されている。
・・・なんだ、この速さは!?
まるでいつもの彼とは違う、異様な程までの足の速さ。
時「フェイ、逃げろ!」
自分の言葉に反応してくれたのか、またはブリジット殿事態の違いに気が付いたのか。
反応を示したと同時に、ブリジットの両手剣が地面をえぐりながらフェイを切り裂かんと振り上げられる。
ズガァッ!
一瞬ひときわ大きな音を立てながら、地面の土がまるで地中で何かが爆発したかのように空中で散布する。
時「フェイ!」
あまりにも吹き上げた土の量が多く、フェイが無事なのかどうかが確認できない。
・・・だめだ、ここにいては判らない!
迷っている暇はない。
そう判断した自分の頭が、足をあの土の雨が降っている所へ足を動かしていた。
フェイ「時、来ないで!」
土の雨が降るすぐ横から、自分を制止する声。
再度確認すると、少し吹き飛ばされたのであろう・・・もと来た道へと少し押し戻されたフェイの姿が確認できた。
両手に付けてあるのは、普通のカタールとは姿形も違ういびつなカタール。
対するブリジット殿の姿をした騎士も、両腕をぶらりと地面に垂れ下げながら一歩、一歩と歩を進めていた。
あの騎士の攻撃に反応し、耐えたというのか・・・。
あれが。
「禁術」の力を手に入れた、フェイの姿・・・力なのか。
フェイ(どういう事・・・?)
私の勘が当たったとでもいうのだろうか?
一連の話が終わった後、何かわからないひきつけられるような感覚でここに来てみれば即効でブリジットさんに襲われる。
耐えずに流したつもりなのに、腕がもう悲鳴をあげていた。
いや・・・それよりも彼はブリジット本人なのだろうか?
あきら様に違った威圧感が自分を襲い、到底彼本人だとは信じがたい。
この感覚は・・・そう、彼が酒場に戻ってくる前に感じた感覚。
ブリジットさん本人と別の何かが混ざり合った、謎の感覚。
しかしこうして目の前で見てみれば一目瞭然であった。
フェイ「・・・貴方、誰?」
彼はブリジットさんではない。
姿形こそはブリジットさん本人ではあるが、中の意思がまったく別のものであった。
そう、まったくもって知らない別の人だ。
いや違う・・・この感覚は、前私も感じた事がある・・・?
困惑しながらも、警戒を怠ったりする事は出来ない。
彼は、確実に私を殺そうとしている。
そういった感じのする気をがんがん自分に先ほどからぶつけてきているのだから。
ブリジット「さすがは神速殿、反応が相変わらずよろしいですなァ」
・・・神速とは、私の事なのだろうか?
良く判らないが、確かに彼は私の事を今「神速」と呼び話し掛けてきている。
フェイ(・・・まさか、私のこの力のことを彼が知っているというの?)
あの玉藻前との死闘があった時、あの状況を抑え私を酒場に連れ戻してくれたのはブリジット本人。
禁術というのもかなり知った口であるらしく、禁術に手を出す前制止を人一倍強くしたのも彼だ。
そして今現在、私を変な呼び名で呼んでいる・・・ブリジットの姿をしたブリジットではない人物。
フェイ「貴方・・・私のこの力の事、知ってるの?」
この力を知っておく必要がある。
一度暴走しかけて、玉藻前と剣を交えて。
この力は使い方次第ではみんなを殺しかねない、そういった非情に危ない力を持っているのが嫌でもわかっている。
力とは、己の性質を知りそれになるべく反発しないように進める事によって高める事ができる。
己を知る事は大事な事だと昔の人は言ったものだが、これには力の世界でも十分通じる言葉なのだ。
限界を知り、無理をせず、しかし限界点をさらに上げる努力をする。
限界を知らなければ、いつかは身を滅ぼすだけだ。
背伸び等いらない、いるのは確実な前進、ただそれだけなのだから。
それらから、私はこの力の性質等知らなければいけない事がたくさんあった。
しかし相手は「禁術」、調べようがないとても大きな敵。
ただ当てがなかった訳ではない・・・そう、今目の前で対峙している存在こそ白羽の矢が立った存在。
知っている、彼は確実に何かを知っている。
私の中のこの力が、ブリジットさん本人を知っているような感じがするのだから。
ブリジット「あぁん?お前、自分のその持ってる力の事しらねぇのか?」
さも意外そうに、声を上げながら剣を構える騎士。
やはりそうだ・・・彼は、私のこの力を知っている!
ブリジット「そうだなァ・・・俺に一泡吹かせたら・・・あるいはなァっ!」
最後の言葉が合図となったのか、とっさに振り下ろされた両手剣を回避して一気に間合いを詰めていく。
フェイ「・・・そこっ!」
あの玉藻前とも互角以上に戦う事のできたこのカタールが、剥き出しになっていた横っ腹を確実に引き裂いた。
痛々しい傷と共に、その場所からはけたたましい量の血が流れていく。
・・・これで、彼の頭も冷えた事であろう。
確かに量こそ多いが致命傷でもないし、耐久力の高い騎士ならば程よくダメージが入った程度の事であろう。
つまり、程よくダメージが入ったという事だ。
彼に申し訳ないということがあったが、ああ言っている以上口では説得は難しいと判断したのだから仕方が無い。
フェイ「さぁ、これ以上やっても無駄よ、さっさと観念・・・」
ヒュッ・・・
・・・な。
ブリジット「何が観念だよ、この程度で観念させるつもりなのかてめぇは?」
危なかった。
確実に後数秒動きが遅ければ、また私の目は見えなくなっていただろう。
眼を、まさか狙ってくるなんて・・・
ブリジット「どうやら成り立てで尚且つ力もまだ完全に扱えない、あげくに力も「神速」の一部しか受け取ってないと見た」
眼を狙われた。
あの事件を知っている彼が到底起こすような行動とは考えにくい。
・・・貴方は、私にまた暗闇の世界で生きろというの?
・・・そうだ、憎め。
私の中で、トラウマにも似たこの感情と禁術で得た力がリンクしてきているのがわかった。
コントロールできない訳ではないが、眼という大事な部分を狙われていささか私も怒りを隠しきれない。
・・・やれ、やるんだよあいつを。あいつはお前の知っているブリジットではないんだ。
そう、自分の頭の中で囁かれる。
うるさい、お前の言葉等聞いていない!
しかし・・・
勝たなければ力の事も教えてもらえない、それに・・・やはり、眼を狙われたという事が大きいのか?
気が付けば、カタールを握って彼と改まって対峙している私がそこにはいた。
ブリジット「ククッ・・・やる気でもでてきたか?いいぜ・・・俺を楽しませてみろよ」
ひときわ大きく眼が見開き、特有の構えを見せながら騎士がこちらに対しひときわでかい威圧感をぶつけて来る。
その威圧が痛い・・・だが、ここで引くわけにはいかない!
ブリジット「こいよ青二才。示せるものなら示してみろ、貴様の存在意義を、力とやらを!」
フェイ「その口・・・黙らせて、この力の事を教えてもらうわ!」
各自の足が、目の前にいる「敵」となった標的へと体を動かせる。
それが、この戦闘の合図となった。
これが、人同士の戦闘だといえるのだろうか?
見えるのは剣とカタールがぶつかった際出来る火花、そしてひときわでかい金属音のみ。
非情に素早い移動をこなしているのか、何とかぎりぎりで姿が確認できる程度であった。
ユキ「私は・・・何で、こうも無力なの・・・?」
何も出来ない。
これがどれだけ歯がゆい事なのか、判っているはずなのに。
はずなのに、今私が出来る事がまったくもって浮かばなかった。
「気にする必要はないアル。貴方が動いた所で、この戦いを止められる術は無いアルよ」
私の事を気にしてくれたのか、アイツが最近ずっと一緒に冒険しているらしいムナックが横に立っていた。
判っていた事を他の人に言われるが、しかしこのまま黙ってみているのも嫌だ。
そんなジレンマと戦いつつも、私は見ているしか出来ない。
何か・・・何か、この戦いを止める事はできないのだろうか?
ブリジット「遅い・・・遅い遅い遅い遅い!貴様、本当に神速の力を手にしたのか!?」
遅いって・・・これでも精一杯やっているのに、この騎士にはこれで遅いというの!?
実際今は防衛で精一杯であり、攻める口すら見つからずにじりじりと押されている。
このスピードで振るわれるくせに重く、弾く腕が一回、一回ごとに悲鳴をあげていた。
フェイ(クッ・・・このままじゃ持たない!?)
この騎士は言った、私はまだ成り立てて力を完全に扱っていないと。
つまり、力を扱いきれていない私の今の状態はそう、「宝の持ち腐れ」とでも言った所なのだろう。
私とは逆に彼はどうやら力を扱う事が出来ているのだろう、余裕すら感じるのだ。
人としての世界では一線を逸している私でも、こちらの世界ではまだ入りたてという言葉が正しい。
これが・・・力を扱える者の差だというの?
でも、だからといって負ける訳にはいかない。
彼の放っていた殺気は、私がここに来る前確実にあそこの集団に向けられていた。
今私がここで足止め、あわよくば勝つ事が出来れば情報も聞けて彼らも安全という結果が待っている。
フェイ「負けられない・・・貴方なんかに負けられないのよ!」
弾き返されたのをいいことに、その勢いを殺さずに足に力を入れ・・・
ダンッ!
足をバネに、幾分勢いを含んだスピードでカタールを騎士を貫かんと一直線に放つ。
ブリジット「貴様の今のスピードでそのような捨て身の行動をして・・・迂闊な!」
自分の意図を見切ってか、私とは対照的にその場で足を止め構えの姿勢を見せる。
この構えは・・・まずい!?
そう思うも、勢いのついた体は静止をしようともとめることはできずにそのまま騎士へと突っ込んでいく。
カタールが、後一歩で騎士に届くと同時であった。
ブリジット「オートカウンタ!」
見事に自分の攻撃は流され、代わりにあの両手剣からの渾身の一撃をこの体に受けてしまう。
フェイ「・・・くぅ・・・!」
どうやらこの騎士は、私と似た性質を持つ攻撃方法らしい。
少し相性が・・・悪いわね。
私たちクリアサと呼ばれるアサシンは、様々な知恵・及び勘で相手の急所を探り出す。
その急所を狙って攻撃する為に普通の攻撃よりも効果のある攻撃を入れる事が出来、攻撃力も段違いという優れものだ。
しかし、自分が急所をわかるように相手も同じタイプなら私の急所をついてくる。
それはつまり、自分が狙いそうな所を先読みされてしまう恐れを生じるのだ。
先読みされてしまえば攻撃は当たらない、私も読みがあえば相手の攻撃を避けることが出来る。
つまり、手の内の探りあいとなってしまうのだ。
この状況はすなわり持久戦。
読み読まれを繰り返し、その中でいかに相手を早く沈めるかが勝負となる持久戦。
このような状況となると、耐久力のある騎士のほうが有利にたってしまうのだ。
ましてや・・・力の差を噛み締めてしまっている時にこれか。
フェイ(どうすれば・・・どうすれば?)
考えようとも、私の思考は良い答えを出してはくれない。
むしろ、考える事によって悪い結果しか打ち出してくれないという絶望的な現状を見せられてしまう。
そんなこちらを見てか知ってか、目の前の騎士が剣をひきずりながら再度こちらに突っ込んでくる。
ブリジット「諦めろ、貴様の今の力では俺を倒す事なんて到底不可能なんだよ!」
言い返すよりも早く、この危機をいかに回避するかで頭が一杯になる。
あちらの読みがあたってしまえばアウトだ、それだけは確実に避けねばならない。
どちらだ・・・目の前の騎士はどこにあの剣を振り下ろしてくる!?
フェイ「・・・こちらか!?」
よく見てみると、彼の剣の持ち方が少し違うのがわかる。
そう、あの持ち方は・・・
フェイ(水平に振るつもりね!?)
こう自分の中で納得のいく読みがはじき出されたら、後は天に祈るしか私に手はない。
お願い、読みがあたって・・・!
水平に振ってくる、ならば姿勢を低くして剣が元の位置に戻るまでに一撃入れる事が出来るはずだ。
これに私は・・・かける!
ブリジット「・・・死ね!」
その言葉と同時に、自分の予想通り水平に振られる両手剣。
・・・読みが当たった!
咄嗟に姿勢を低くすると同時に、頭の上を通り過ぎる両手剣の風圧を静かに体感する。
後は、この一撃さえ決まれば・・・!
今か今かと待っていた右手のカタールを、突き上げると同時であった。
ブリジット「・・・はずれだ」
フェイ(な!?)
水平に振られた両手剣が、次は縦になり地面へとおちていく。
この姿勢は・・・!?
ブリジット「マグナム・・・ブレイク!!」
マグナムブレイク。
周辺に精神力を火へと変えた衝撃波をぶつける技であり、剣士時代に覚える貴重な範囲攻撃。
無論、剣士は誰もが覚えるであろう非情に基本となる技だ。
このマグナムブレイク自体、そういう性質がてらそこまで威力はない・・・はずなのに。
フェイ(たかが一発のマグナムブレイクが之ほどまでに!?)
まるでそこで大きな爆発でも起こったかのように、数メートル後ろへ吹き飛ばされてしまったのだ。
腕が、手が重度のやけどを負っている。
あげくにダメージも異常な程までなのか、意識が今にでも飛びそうな感覚に襲われていた。
今まで体感した事のない、今までの常識というものがまるで通じない世界。
ブリジット「これで終わり・・・だな!」
これが・・・人が踏み入れてはならないといわれる領域・・・。
時「フェイ、だめだ、逃げろ!」
こちらに駆け出しながら叫ぶ時の声が聞こえる。
だめ、こちらに来ては・・・!
そう声をだそうとも、動こうとも、まるで呪いにでもかかったかのように体が重くて言う事をきかない。
目の前に刻々と迫る、騎士の両手剣。
もう・・・だめなの・・・!?
「あら、諦めるなんて行動・・・嫌いじゃなかったのかしら」
ひときわ大きな音を立て、騎士が振り下ろそうとしていた剣が弾き返される。
ブリジット「来たか・・・いつ出てくるかと楽しみにしながら待ってたんだが」
心底嬉しいのか、口元を緩ませながら両手剣で軽く空を切る。
・・・この声はまさか?
いや、そんな訳があるはずがない、あいつが私を助けてくれるだなんて。
頭の中で否定の言葉を繰り返しながら上を見上げる・・・
金髪、そして片目には眼帯の騎士。
フェイ「・・・何のつもり、私を助けるだなんて」
少しこの姿勢で回復をしてきたのか、よろつきながら立ち上がる所までに至っている。
ああ、忘れるわけもない。
数日前、あのような死闘を繰り広げ、私が今日まで活動してきた標的。
そう・・・
「貴方には死なれちゃ困るのよ・・・貴方を殺すのは私、こいつじゃないわ」
玉藻・・・前。
玉藻前「私も興味あるのよ・・・こいつ、私を呼んでる気がするの。これってなんなのかしらね・・・?」
私に向けていた視線を、ゆっくりと前へ向ける。
目の前には、あの騎士がいる。
玉藻前「一時休戦を申し入れるわ。どう、今の貴方の状態なら得にはなると思うけど」
流し目程度で、自分の腕等をちらっと見ながらの言葉であった。
禁術のおかげか、傷は前よりも異常なスピードで癒されてきてはいるがそれでもまだ完全な完治とはいえない。
だが、もう戦える状態までにはなっているのも事実。
いや、でも・・・確かに、得策ではないわね。
フェイ「いいわ、この場だけは一時休戦といかせてもらうわ」
まさかこいつと共同戦線を張ろう事になろうとは。
予想はしていなかったが、しかし現状的に選択権等の余地は残されていない。
断ればあの時玉藻前に刺されておしまいが相場だったのだし、それに来なくとも目の前の騎士にやられていたのだろうから。
まったくもって、この力は予想というものがまるで通用しない。
ある意味で、感心に値するわね・・・。
玉藻前(こいつと共闘・・・か)
いやはや、今日は何て大番狂わせな日なのだろうか。
フェイにリベンジがてらモロクに滞在してみれば、なんともいえない悪寒が私を襲う。
玉藻前「この嫌な感じ・・・何?」
何故かは判らないが一瞬にして張り詰めた緊迫とした世界へ放り投げられた・・・そんな感じがした。
それになんだ、この懐かしい感じは。
いや、私が懐かしいと感じているのではないのか?
その時であった。
ドォォォン・・・!
ひときわ大きな爆発音が鳴り響き、雨が降っているってのにしっかりと火花が確認できた。
玉藻前「・・・どういう事?」
近くまで来て見れば。
何なんだこの状況は?
黒い漆黒の剣を持ったブリジットという騎士が、今かとフェイに迫りつつある状況。
初めは仲間割れでもしたのかと思ったが、どうも騎士の方の様子がおかしい。
ブリジット「これで終わり・・・」
一歩、一歩とフェイへ近づくその時であった。
瞬時に騎士の目が自分を目視し、にぃっと嫌な笑みを浮かべながら何かを喋ったのだ。
いや、私の位置からでは言葉を聞き取る事は出来ない・・・表現としては口パクといった方が正しいか。
そう、聞き取れるはずがなかったのに。
ブリジット「こいよ・・・俺はお前にも用事があるんだよ・・・「虚無」の力を持つてめぇもよォ・・・」
耳打ちやそういった類とは違う、直接頭の中に流し込まれてくるこの言葉。
この感覚が気持ち悪くて仕方が無かったが、今私の感覚はそこに集中してはいなかった。
玉藻前(・・・虚無?何いってるのこいつ・・・)
今まで二度程度フェイとの戦闘を邪魔されて、今一掴みにくい印象の強い人物ではあったが。
今の現状を経て、何かが私の中で繋がったような気がした。
玉藻前(こいつは私のこの力を知っている。だから今まであのような余裕を見せていたの・・・?)
力を知られている、それはつまり手の内がばれているという事に等しい。
もしも、逆に奴も何かしらの力を持っていたとしたらそれはまさに自殺行為とも言えるのだから。
それに、私だってまだこの力を完全に扱いきれている訳でもない。
・・・いや、待てよ。
もしこの場で力の事を聞けたとすれば。
私は面白いくらいに完全に扱えるようになる期間が短くなるのではないだろうか。
答えがわかれば、それに沿って行動をするのみ・・・そう、無駄というものがなくなる。
私は・・・力が、力が欲しいのだ。
何者にも負けない、そう、絶対的な力が・・・。
ブリジット「今のお前等じゃ俺は力を使う気はない。果たしてお前等は俺の力を使うに値する行動が出来るかね?」
隠す必要もないと見たのか。
もはやうすうすと判っていたが、自分でやはり何かしら力を持っているといった。
やはり、貴方も禁術の力を・・・。
ブリジット「さぁ・・・話し合いの時間はくれてやったんだ。俺を殺してみろ!」
ひときわ身の毛もよだつような形相をしたのも束の間、剣を構えながら走り始める。
無駄な所で待ってくれるもんだが、これも余裕の現れというものか・・・。
玉藻前「・・・あんた、もう動けるでしょ。やるわよ」
視線を一瞬だけこちらに向け、切りかかってくる騎士の剣を抜きかけていた両手剣がぶつかり合う。
両手剣の最大の弱点はその無防備さ。
両手を塞がれてしまうために、このように剣等で押さえられてしまうと胴体等ががら空きなのだ。
フェイ(この状態なら!)
姿勢が低かった為か、胴体までどういけばよいかはっきりと見えている。
上では玉藻前が剣を押さえてくれている為に剣がこちらに向かってくるという事はなかった。
フェイ「これなら!」
小走りで姿勢を低くしたまま、騎士の懐へ潜り込みそして・・・。
ブリジット「俺を、普通の奴と同じにしてもらっては困る!」
フェイ「!?」
空を何かが切る音と同時に、フェイが瞬時に後ろへと飛びのく。
何、両手は剣で塞がれているのに・・・。
否、違う!?
ブリジット「・・・勘の良い奴め」
ぶらぶらと、手を数回揺らす動作。
確かに、今私のカタールを入れようと思っていた所に手が存在していたのだ。
となると、あの玉藻前の剣を片腕で押さえているというの?
現に片手で両手剣を持っており、玉藻前の剣をしっかりと押さえ込んでいる。
玉藻前「・・・何よあんた、ちょっとでたらめすぎじゃないの?」
苦笑をしながら、されど力は抜かずに目の前の騎士にそう吐き出す。
これでも精一杯力を入れているのに、こいつの腕は一体どんな力をしてるのよ・・・。
だけど、この程度だと思われては困る!
玉藻前「まだまだァ!!」
玉藻前の目が一瞬ひときわ見開き、ビリビリと痛くなるような感覚があたり一面に広がっていく。
ギチ・・・ギチ・・・
少しづつではあるが、騎士の両手剣が確実後退していくのが見て取れる。
それでもなお、騎士の余裕の笑みは消える事はない。
ブリジット「ほぉ・・・やるな。だが忘れてはいないか?」
そう、彼にはまだ片腕がしっかりと残されているのだ。
だが、生の腕如きで彼に一体何が出来ようか?
せいぜい殴る程度しか・・・
玉藻前「!?」
突き出された腕を瞬時に避けるが、鎧の一部が捕まったらしくその手にもぎ取られていく。
・・・いや、まて。
何故、素手でこの鋼鉄で出来た鎧がもぎ取られているというの?
これに危機感を感じた玉藻前が、相手の体を蹴り軽やかに私の所にまで戻ってくる。
ブリジット「勘だけはいいようだ。さすがはそういった状況になれているようで感心だな」
片手にもたれた鎧の一部が、まるで紙のように一つの塊へと姿を変えていく。
鋼鉄を素手でもぎとるだけでも尋常ではないのに、あれほどまでに握力があるというのか。
どうする、ほかに何か彼を止める策は・・・
時「すまぬフェイ、彼を・・・ブリジット殿を気をそちらにむけさせてくれ」
突如入る、WISからの声。
先ほどの集団の方を見ると、時の姿が無く、ユキが少しずつこちらに向かってあるいてきているのが確認できた。
おそらく何かしら作戦を考えたのだろう・・・だがしかし。
玉藻前「他人より自分の心配したらどうよ・・・手は無いし、作戦でもあるならそれに乗った方が得策ね」
自分のWISの声が聞こえたのか、こちらを見下ろしながら話す玉藻前の姿が目に入る。
確かに、防戦一方でこのままでは危険だが、かといってこのような戦いに時などを巻き込むわけにも・・・
時「俺を信じろ、フェイ。これが成功すれば・・・ブリジット殿は、元に戻る」
自信があるのか、それとも私に心配をかけまいとしているのか。
声は、後ろめたさのない前のみを見据えた強い口調であった。
玉藻前「ほら、あんたのボーイフレンドまでそう言ってるんだし乗るのが得策だわ」
彼が、元に戻る。
それはつまり今まで私達が見てきたブリジットさんに戻るという事。
その策を、時は見つけて動き出してるというのか・・・
だめね、また一人で何でもしようとしちゃって。
フェイ「・・・わかったわ、時、よろしく頼むわね」
彼ならば、信用できる。
今は、私の命を貴方・・・時にかけよう。
時「これさえはれれば・・・」
クローキングで姿をくらましながら、一歩、また一歩と前にいる集団に近づいていく。
彼が気が付いてないと信じるしかないのが現状だ。
タイミングは一度きり・・・失敗は許されない。
時「頼むぞ・・・」
ぎゅっと、手を強く握る。
その手には、一枚の御札が握られていた。
時「何、ブリジット殿を戻す方法があるのか!?」
それは眺めているしか出来なかった時に、ムナックの口からでた一言が切っ掛けであった。
鈴「確かにあるアル。この御札を、ご主人様の額に貼る。貼った後少しの時間が稼げればご主人様は元に戻るアルよ」
ああ、何故このムナックは今までそんな大事なことを言わなかったのだろうか。
だがしかし、これでこの戦いは絶対に終わりを迎える。
元に戻ったブリジット殿であれば、我々に手を上げる事などないのだから。
しかし、逆に何故今まで黙っていたのかが急に気がかりとなった。
そして気が付く。
そう・・・
鈴「簡単そうに聞こえるアルが、実際は今の状態のご主人様に近づき、さらに御札を貼った後時間を稼がなければいけないアル」
このムナックが今までずっと言わなかった理由。
それは何者でもない、ここにいる人たちでは戻るまでの過程が成功しないと見ていたからだ。
鈴「貼るのにも警戒はされる、あまつさえ貼った後はご主人様も剥がそうとするアル。それが出来るアルか?」
つまり、元に戻る気の無い状態で貼ろうとしてもブリジット殿は最大に警戒をしてくるであろう。
むしろ、率先して御札の破壊を試みるはずだ。
万が一この御札を貼れたとしても、数分は意識があの状態のままらしい。
この間に剥がされてしまえば今までの時間はリセット、元に戻らせるには再度貼り付け時間を稼がなければならない。
いや、諦めるにはまだ早い。
ここで何とかすれば、フェイが助かるんだ。
そう簡単には・・・。
前者の近づき御札を貼るまでは俺がかえりみずにやれば何とかならなくもない気はする。
問題は後者の、時間を稼がなければいけないという点だ。
あの状態のブリジット殿を、俺の力やフェイの力などを合わせたところでどうにかなりそうはなかった。
せめて、動く事自体が出来ないようにできれば・・・。
いや、まてよ。
動けなく・・・そうだ、あったじゃないか、確実にとはいえないが確立の高い動けなくする方法。
これで・・・上手くいけばフェイは助かる!
フェイ(まずは、壁際の時のいる所にまでこいつをひきつける!)
先ほどかれ彼はとにかく私達を執拗に追い込み、引くという行為をあまりしなかった。
逆にいうなれば、私達が引けば彼もついてくるというものだ。
下手な裏があろうとも気にしない自信の表れなのか、または別なのか。
どちらにせよ、発言等からしてなめられているのは確かだ。
玉藻前(舐められていようと、最後に立ってたもんの勝ちなのよ・・・)
プライド等、持っていようが負ければ意味等なくなってしまう。
世の中にあるのは勝者か、敗者。
その過程等、それを評価するものでしかないのだ。
だが、その考えもまた違う物であるといえよう。
彼はどうやらかなりの耐久力を所持している。
それが、彼を引かすことの無い大きな要因になっているのかもしれない。
ならば本気で殺しにかかればいい話なのかもしれないが、現状的に彼を亡き者にするわけにはいかないのだ。
彼にはまだ聞きたい事が・・・そう、確認しなければいけない事がたくさんあるのだから。
時(もうちょっと、もうちょっとだ・・・!)
少しずつ、だが確実にこちらへとブリジット殿を誘いこむフェイと玉藻前。
あの押されていると物語る表情が、どれだけ演技だったらこの待つ時間が楽だと言えようか。
頼む、何とか耐え切ってくれ・・・。
そう考えるのも束の間、タイミングは急に訪れた。
ブリジット「はぁっ!」
彼がよくするモーションの一つ、両手剣を片手に持ち半捻りの状態からの水平の切り。
これをすると、彼がまさに今自分がいる所を真正面に向くようになるのだ。
大振りな分、振り終わった後の反動がでかいせいで動きも鈍くなる。
真正面からいけるのであればこの作戦・・・一気に成功率が跳ね上がる!
これを考えた間は一秒も経っていない事だろう。
目を凝らす中、玉藻前に向かって案の定その切りが襲い掛かる。
ブゥン・・・
自分の顔の横に、大きな剣圧で出来た傷が刻まれる。
・・・今だ!
ブリジット「こそこそと先ほどから気にはなっていたが・・・」
発言からして前々からばれていたのだろう、こちらを睨みつけるブリジット殿の姿が確認できた。
しかしながら何をするまででもなく、こちらの行動を伺っているのか動く気配がまったくない。
時(それでいい、こちらとしては返って好都合というものだ!)
振り切ると同時に、彼の両腕をしっかりと掴む。
足もまた、横に重なり合わせるような感じでしっかりとぴったりくっつける。
今俺はえびぞり状態になっている為に彼の表情は確認できないが・・・
ブリジット「何がしたい・・・不可解な男だな」
まぁ、何も知らなければそう映るだろう。
だが・・・舐めてもらっては困る・・・!
時「ぬぅぅぅぅぅう!」
これを見てまでもそのような表情ができるか!?
ガン!!
ひときわ大きな音が周りに響きわたる。
ブリジットの額に、時の額が思いっきり打ち付けられたのだ。
だが案の定、カタールで切られようがあまりもろともしなかったブリジットの足が揺らぐ事はない。
時「今だ、ユキ!」
額を打ち付けた状態のまま、珍しい時の大声が私の耳に入り込んでくる。
ユキ「このタイミングで!」
私に言われた内容は、頭突きをしたと同時に彼らに向かって魔法を唱える事。
ごめんね・・・二人とも。
ユキ「フロスト・・・ノヴァ!!」
その言葉と同時に、二人目掛けて一直線の氷の後が出来あがっていく。
それはまるで、獲物を見つけた蛇の如く。
ピキィッ・・・
噛み付いたと同時に、時の体がみるみる氷に覆い尽くされていく。
玉藻前「・・・へぇ、あんたのボーイフレンド、中々度胸があるじゃない」
言葉の意味が判ったのは、ここで何人程いただろうか。
ブリジット「き、貴様・・・!」
半身以上凍った中、腕・・・そして足をそってブリジットの体まで氷結し始めていたのだ。
氷結。
状態異常の一つで、かかってしまうと一定時間動けなくなってしまうという状態変化。
外見上は氷で体全体が覆われている感じだ。
氷結状態を解除するにはプリ―ストのスキル「リカバリー」をかけてもらうか、誰かに一回攻撃してもらうか。
はたまた、解除時間まで待つしかないのだ。
時「フ・・・ふ。やはり、これだと貴方も局地的ですが凍るようですな」
少し苦しげそうな声と同時に、額を離していく。
肩辺りまで氷結をしてしまい、体が思う通り動けないのか行動一つ一つがぎこちない。
ブリジット「・・・ぬぅ?」
予想外の事態なのか、小さく声を上げるのが聞こえた。
まぁこれも、今の状態では悔し紛れとしか言い様がないであろう。
自分が掴んだ両腕、そして重なり合わせておいた足。
それに沿って、彼の両腕と足、そしてその周辺が氷結状態になっているのだから。
逆にいえば、今自分が顔の方まで凍ってないのはそちらに流れていってしまったせいだと見ている。
しかし雨による水のお陰なのだろう、予想よりも氷結の範囲が広かったのが収穫だといえよう。
たとえ一部分であろうとも、この機能上大事といえる部分が潰されていては彼も成す術はないはず。
ましてや状態は氷結、動かせる事が出来ないのだから。
ブリジット「やってくれたなァ・・・貴様」
・・・どうやら、彼の今の状態を見て作戦は成功したといってもいいだろう。
動くという行為は半ば諦めているらしく、こちらを睨みつけているだけに留まっている。
その額には、自分がつけた赤い痕と・・・。
光を帯びる、ムナックから貰った御札がついていた。
あの時、自分の額に御札をつけた状態で頭突きをしたのだ。
面白い事に、主の元へ戻れた事を喜んでいるのか自ら張り付き離れようとはしない。
あのムナックの話だがやはりあれにも意識はないがそのような力があるのか、自然とくっつくシステムになっているらしい。
まったくもって、面白い御札だ。
ブリジット(・・・ククッ、こりゃぁ一本取られたな・・・)
目の前のアサシンと対峙しながら、ふと俺はそう考えていた。
流石に、ここまでこのアサシンがやってくれるとは予想外の展開だ。
時代が変わったなァ・・・今回は、富に俺を楽しませてくれる展開がありそうだ。
現に目の前にもこうやって・・・
「それは見当違いや」
自分の頭の中で響き渡る一つの澄んだ声。
ああ、奴か・・・この媒体の中にいる人格の一人。
「この状態」なら、奴も出てこれるって事を忘れてたな・・・。
「別に人はいつだろうかこうして強いんや。お前が下方に見すぎなだけやで」
そういわれても、人は脆い。
いくら成長しようとも、モンスターをも凌駕する力を持とうとも、それに例外はない。
それが人としての特色である事も、重々承知している。
だが、流れる時の中時代というものは変わっていく。
今の時代はどうやら人の転機とも取れる時期らしく、全体的な能力もかなり向上しているようだ。
新たに追加された二次職も、今までいた奴等に上手く作用されてか変わりつつあるな・・・。
ブリジット「時代が変わったな・・・時代が変われば人も違う。今回は楽しい事が多そ・・・」
「だからそれが見当違いやと言うてるんや」
珍しく、強い口調で俺の言葉を阻む別格。
何だこいつ、俺にいちゃもんでもつける気か?
「時代でなく、人が時代を動かしているんや。だからこそ時代を推し進めてきた人という種族はこの世界で生き残り、そして強い。」
まぁ、今の奴等は今までよりも結構骨のある奴が多いようやけどな・・・」
ブリジット「とて、時代という波に流される奴もいることを忘れてはいないか?
俺はそこまで人が強いとは思えんな・・・。」
こいつはこの体の本当の持ち主である人格を落ち着かせる為の人格。
逆に俺は、この体の本当の持ち主の限界が来た際に暴れる事によって緩和する存在。
対極な行動をするこいつとは、あまり同調という言葉が無縁。
まぁ・・・こいつが出てくるという事は、つまりそう。
「・・・もういいやろ。こいつ等と戦うんは大将のためにはならんで」
・・・やはりな。
確かに動けない状態にされ、滑稽な状態になっている。
だがこれだけでは収穫がなさすぎる、まだ引くわけには・・・。
事実ああはいったが、実際動けない訳ではない。
ただ、この体に少し負担を強いる結果となる事ではあるが・・・。
どうする、やるか・・・?
ユキ「ブリジット―!!」
暗中模索をする中、けたたましい大声で現実に戻ってみれば。
このアサシンの後ろで魔法を唱えたであろう女・・・否、少女がこちらを半ば睨むような目で見ているのに気が付く。
ユキ「聞こえているならアンタ、いい加減こんな事止めて出てきなさいよ!」
・・・出て来い、か。
どうやら俺がこいつ等と会っているブリジットではない事はもはやばれているようだ。
ユキ「私は、アンタがどんな素性を持ってようと・・・アンタのそばにいたいのよ、悪い!?」
途中で泣きじゃくっているせいか突っかかるが、何とか言葉を続ける雨に打たれた少女の姿。
その光景が、過去に起きた「あの光景」と被る。
これは・・・
ユキ「私は・・・私は、アンタに付いていきたい。だって」
ユキ「・・・ブリジットの事が、好きだから・・・だから!」
ピキィ・・・
頭に響く、深い痛み。
ブリジット「・・・これ以上はまずいな」
これ以上は続けられない、続けるつもりがない。
続けたら、この体がまず持たないだろうから。
しかし、こうも大番狂わせとでもいおうか。
この二人・・・禁術とやらに手を出したこいつ等ならまだしも、ただの冒険者達が原因で戻る事になろうとは。
ククッ・・・。
自然と笑みがこぼれて来る。
これはそうか・・・俺は、自然とこの状況を喜んでいるのか、楽しんでいるのか。
どちらにせよ、中々悪くない気分で胸が一杯になっていた。
ブリジット「おい、目の前のアサシンと後ろのマジシャン、お前等の名前はなんだ?」
俺としても、こいつ等の名前を何で聞いているのかが不思議だった。
だがそう、あえていうなら・・・
時「時の番人」
ユキ「ユキ・フランベル・・・」
そう、俺はこいつ等の中に「面白い」と感じた何かがある。
発想の機転、そしてそれをこなす度胸。
自らを犠牲にしてまで、止めるが為に魔法を自ら受けたこのアサシン。
愛するといった人物に、そして仲間に迷わず魔法を打つことができたマジシャン。
・・・昔はこのような考えをする輩はいなかった。
面白い、之ほどまでに人は成長してきているというのか?
ブリジット「今日はお前等で楽しませてもらったし、ここらでこの体を返してやるよ」
時の番人に、ユキ・フランベル・・・か。
こいつ等とどう付き合うかは俺の知った所ではない。
だが・・・中で見ていた印象よりも一味違うこの二人に、今日は食わされたな。
最後程度は敬意を払うとするか。
ブリジット「また会おう・・・勇気ある冒険者達よ」
人殺しをした後のすかっとした気分とはまた違う感覚。
出来るのであれば・・・このような感覚が一番いいのだがな。
突如ガクン・・・と、まるで壊れた人形のように俯いたまま動かなくなる。
が、それも一瞬の事であった。
ブリジット「やや、皆さんご迷惑おかけしましたなぁ、もう安心やで」
先ほどとは打って変わっての変わりよう。
あのムナックで言う「人格が変わった」のだろう。
ブリジット「あんさんらのお陰で今回は大きな事にならずにすみましたし、ほんま助かったわ〜」
・・・
フェイ「変わりすぎよ・・・でもま、何とか大丈夫なようね」
彼からは、先ほどまで自分を狙っていた殺意が微塵も感じない。
これはつまり、自分に戦う意思はないといっているようなものなのだから。
ブリジット「やや、ほんまご迷惑おかけしましたなぁ。でも力を使う練習程度にはなりましたやろ?」
そう、殺し合いをしていた私に軽く問い掛けてくる。
何だか、先ほどからそうだが彼が何かキャラ変わっていて調子狂うわねぇ・・・。
フェイ(・・・ん?剣が・・・違う?)
そこで気が付く。
彼の持っていた剣が変わっている事に。
先ほどまで右手に漆黒の剣を持っていたが、今もっているのは光り輝く綺麗な剣。
深夜だというのに、周りを明るく照らして眩しいこの上ない。
フェイ(何あれ・・・こんな剣見たことないわね)
先ほどの漆黒の剣もそうだが、この剣も見たことのない種類の両手剣であった。
私の禁術で手に入れたこのカタールと同種みたいな感じなのかしらね・・・?
ブリジット「いやぁ、しかしあんさんとそこのじょーちゃんにはほんま助かりましたわ、ようこんな事考えましたなぁ」
ぐるっと首を回転させて次の標的と選ばれたのは時とユキ。
そのタイミングと同時に、氷結の効果が溶けたのか氷がみるみる溶けていく。
溶けた氷は、役目を果たしたかの如く下にある水溜りと同化していった。
ブリジット「安心せや、わいはもう平気や。・・・あー、ユキはん、ちょっとちょっと」
少し心配そうに見る時に気を使いつつ、ユキを手招きで自分の方へ誘き寄せる。
心なしか、ユキの表情が少し潤んでいるように見えた。
・・・ああ、さっきあんな事言ってたから当然といえば当然かしらね。
ブリジット「まぁ、あんさんが大将ん事好いてくれてるのは嬉しい限りや。だがな・・・」
大将・・・?
よく判らないが、今の状況的に多分私達が会っているブリジットさんの事かしら?
ブリジット「わいは手を引いた方がええと思う。これ以上あんさんらを危険な目に合わせるんはいかんやろ?」
・・・確かに。
私や玉藻前のように力を手に入れた者には入る必要性がある。
だが、ただ知り合いだったというだけの彼女等には、手を引くという選択権もあるのは確か。
・・・玉藻、前・・・
辺りを見渡すと、彼女の姿がいつのまにかいない事に気が付いた。
追おうとも考えた・・・だが。
フェイ(今日は何だかんだで助けられちゃったし・・・いいかな)
今先ほどまで一緒に戦った者を、即座に何しようとまでは考えられない。
・・・一時休戦、もう少しだけ長びかせてあげるわ。
ユキ「・・・それでも、私はブリジットに付いてくわ」
ブリジット「何故危ない目を追おうとする嬢ちゃん、万が一最悪な事態にもなりかねないんやで?」
脅しでも何でもない、紛れもない事実。
通常脅しと聞こえるかもしれないが私には正真正銘、今彼が考えている事を言ったのが嫌でもわかる。
彼の表情にも、迷いというものがない。
ユキ「だから何だってのよ!そんなの・・・こいつと離れるよりかは辛くない・・・辛くないっ!」
ユキの口調が、少しずつだが崩れていく。
それでも、ブリジットの顔をした別の人物の話は途切れない。
ブリジット「ククッ・・・言うねぇ嬢ちゃん、だがな・・・」
咄嗟に手にした光り輝く剣を、ユキの目の前に突き出した。
その光景を見て向かおうとした私を、時が静かに制止する。
ブリジット「これは紛れもない忠告なんや。あんさんが中途半端な気持ちならば、頼むから引いてくれ」
こうでもしないと話が終わらないと見たのか。
少し乱暴にも見えるが、それでも彼の言いたい事は先ほどからまったく変わってはいない。
ユキ「中途半端な気持ちな訳・・・ないじゃない!」
自分に言い聞かせているのか、それともこうとまで否定されるのが悔しいのか。
まるで今まで詰まっていたものが決壊したかのように。
ユキ「私はアンタが好きだからここまで来た!危ない事があってもアンタがいたからここまでやってこれた!」
誰が、あの意地っ張りなユキの口からこのような事が語られると予想できただろうか。
勢いに乗せていようとも、それでも今までユキが心の中にずっとしまっていた大事な気持ち。
それを今彼女は、その好きだといった人物に言っている。
ユキ「私は・・・私は・・・ただ、アンタを信じて・・・ここまで来たんだから・・・」
その中の人物が、たとえ違っていたとしても。
それでも、彼女からすればこれはとても大事な行為なのだ。
ユキ「私は、私は・・・アンタが言うような中途半端な気持ちで、ここにいるわけじゃない!」
涙目で、目の前のその人物を見つめる。
ブリジット「・・・さようで」
迷いのない、そして曇りもない一途な女性の瞳。
本当に、大将を信じてくれはってるようやね・・・。
ええ子やないっすか大将。
あんさんは、この時代でよい友人を持ちはりましたなぁ・・・。
わいは、もう何もいいますまい。
ブリジット「ならわいはもう何も言いますまい。後はあんさん等にお任せしますわ」
この人たちなら。
大将は、過去の「トラウマ」を超えられるかも知れない。
確証はない、だが奴とて彼らに何かを見出して手を引いている。
ブリジット「うち等は少し眠りますさかい。何かあったら、うち等を呼んでくださいまし」
ならば。
このわいが思っている、不思議な確証もあるいはといえるんやろう。
ブリジット「鈴はん!後は・・・任しました・・・で」
そう、あんさんも今はいる。
後は任せましたで・・・。
ふっ・・・と、先ほどまであった気配は姿を無くしていく。
最後にそこにあったのは、まるで壊れた玩具のようにぬれた地面へ倒れこむブリジットの姿があった。
鈴「ご主人様!」
咄嗟に駆け出してきたムナックが、ブリジットの様子を見るべく駆け出してくる。
そのムナックが近くに寄ってこようとも、ブリジットが反応する事はなかった。
ユキ「え・・・何、ブリジット?どうしたのよ?」
倒れこんだまま動かない姿に心配を覚えたのか、そのムナックのすぐ横にまで近寄って表情を伺う。
ものの数十分だというのに、その顔は先ほどとは見て変わる程に違っていた。
その顔は疲れきり、衰弱したものであった。
鈴「・・・大丈夫アル。今ご主人様は「休憩」をしているアルよ」
ブリジットが普段睡魔だったのには、実は理由があったのだ。
彼において睡眠は、心身共にじっくりと休まる事の出来る時間を意味する。
つまり、不安定なブリジットの精神を安定させる作用があると言うわけだ。
彼の特質な性質上、それが関係して異様に睡眠を欲するような体になっている。
それ故、ただ単に寝たいがために寝ている訳ではない。
体の作り上、常人よりも睡眠を必要とする体なのである。
他の例で言うなれば、これは彼なりの禁術における代償なのかもしれない。
フェイ「・・・私は先に戻っているわ」
この場に私はいるべきではない。
そう判断したのか、それとも状況がとりあえず落ち着いた為か。
フェイが静かに、私達を後に酒場の方へと戻っていく。
彼女にとっても、今回は大きな転機となりえる事態であった事であろう。
何も言わず、何も見せずにご主人様を後にしてくれた彼女の優しさが伝わってきた。
が、彼女はあの「神速」の力を受け取った者。
到底好きにはなれそうにはないが・・・ここは、引いてくれた彼女に感謝しておくべきだろうか。
鈴(・・・ありがとうアル)
彼女のことを考えるもつかの間、まだボクにはやらねばならないことがある。
それは、目の前に倒れているご主人様。
倒れこむ前に、ご主人様は次いつ起きるかを言ったはずだ。
毎度の事なので、今回も必ず言ったはず・・・。
貴方は・・・寝る前に何を言ったアルか?
鈴「ユキ・・・さんだったアルか。ご主人様はこの前に何か言ってなかったアルか?」
必ず何かを言ったはずだ。
そんな考えがすぐ出てくるような鬼気迫る表情でそのムナックは私に言った。
そ、そんな事急に言われても・・・あ。
もしかしたらこれの事なのかな・・・。
ユキ「眠るけど、何かあったら呼んでくれって・・・」
このムナックの様子から見て、どうやら人格というのは元に戻ってくれた気がする。
だが・・・そこにいるブリジットからは、まったくもって生気を感じないのだ。
そう、これはまるで・・・死。
少ししてから、何を考えたらムナックが辺りをきょろきょろと見渡す。
時間的差があったのは、何か考え事をしていたが故だろうか。
ムナック「・・・なら、それまでは起きないアルね。アサシンさん、ご主人様を運ぶのを手伝って欲しいアル」
呼ばれた時が、無言でまったく動きもしないブリジットを抱える。
だらんと腕を垂らしながら、時の背中におぶられて酒場へと戻っていく。
他の人も、それを先頭に静かに酒場へと向かっていく。
気が付けば、私とムナック、そしてシーフの三人だけがその場に残っていた。
シーフ「す、すずさん・・・戻りましょう?」
もはやそこにブリジットの姿はない。
ないはずなのに、そのムナックはそこから動こうとはしなかった。
鈴「・・・ボクは、それでも・・・」
今回はわかっていたんだ、こうなるなんてことを。
それでもボクは、ご主人様を止める事が出来なかった。
死人が出なかったからよかったものの、後一歩のところまできていたのは紛れもない事実。
ボクは・・・何も出来ないのだろうか?
シーフ「・・・それでも」
すっと、しゃがんでいた自分の横にしゃがみこんで遠くを見つめるヤファ様の姿が横にあった。
シーフ「それでも、私達は・・・前を見続ける。そう・・・ブリジットさんは私に言ってくれましたよ?」
そっと立ち上がり、手を差し伸べてくる。
そうだ、これしきの事でボクは挫折しているような時間はない。
私は・・・そんなことをするために、ここに戻ってきた訳ではないのだから。
差し伸べられた手を掴むと、ほわっとしたヤファ様の笑顔が目の前にあった。
ボクは・・・負ける訳にいかないのだ。
鈴「・・・戻るアルか。ああ、そうそうユキさん」
後ろで見ながら呆けていたユキが、呼ばれて一瞬びくっと体を振るわせる。
・・・何もそこまで驚かなくてもいいアルのに・・・。
仕方がない、ここらで一発がつんと言っておかないと・・・
鈴「ご主人様はボクのものアル。手を出したら承知しないアルよ」
後からしゃしゃりだされているんだ、これくらいはしておかないと・・・。
少しにこやかに、されど警戒を強めた先制攻撃。
こんな小さい奴に、ご主人様を渡す訳にはいかないアルっ。
シーフ「ちょ、ちょっと鈴さんっ・・・な、いきなり何言ってるんですかっ!」
自己主張をするのを先か、こんな事を口走ってる私を咎めるのか先か。
どっちつかずな発言をしながら横でうろたえるヤファ様を横目で見ながらユキと呼ばれたマジシャンを見つめる。
しかしながら、さっきの調子を見ている限りでは・・・。
ユキ「な、何でアンタのものなのよ!」
フーッと、まるでネコが警戒でもしているかのように予想通り突っかかってくるマジシャンの姿。
まぁ、想像はしてたアルけどね。
鈴「ご主人様とボクはあつぅーい絆で結ばれているアル。子供はすっこんでろアル!」
ユキ「な・・・!?そ、そういうアンタの方がガキじゃないのよ!何様なのよ!」
案の定、目の前で繰り広げられる言葉という名のデットヒート。
酒場への帰路の間、それは永遠と続けられていた。
鈴「ああ思い出すアル。ご主人様と交わしたあのあつぅーい口付け・・・」
ユキ「なっ・・・!?なな、何いってんの!?」
それで何を想像したのか、顔を真っ赤にさせながら怒鳴り散らすユキ。
鈴「そんなの何回もしたアルよ。これくらいで赤くなるなんて・・・やっぱ子供アルねぇ」
その反応が面白いのか、あえて怒らせるような言葉を選んでは話す鈴。
でこぼこではあるが、中々良いコンビかもしれない。
ヤファ「・・・だけど、ブリジットさんと私は・・・えへへ」
この口喧嘩に入れる程、私は言い合いが得意ではない。
遠巻きで見ている私でしかなかったが、それもまた私らしいといえようか。
鈴「ご主人様と私は・・・何アルか?何想像しているアルか?」
・・・口に出していた?
気が付くと、目の前には鈴とユキの厳しい視線が向けられている。
今までの私だったら、ここで引いておしまいなんだろうなぁ・・・。
ヤファ「いいえ、何もっ」
足軽やかに、二人を置いて先に酒場へと足を進める。
ユキ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
鈴「なーにーをーそーうーぞーうーしーてーたーアールーかぁ!」
後ろから発せられているオーラが怖くてたまらないが。
上を向くと、相変わらず雨雲で一面だった空だった。
だが、雨は止んでいる。
貴方の心も・・・こうして、一面真っ黒な漆黒の世界なのでしょうか?
時には雨という涙を降らし。
時には雷という恐怖を落とし。
それでも、貴方の心に光が差し込む事はない。
それなら私達は、貴方が求めるならばどこまでもついていこう。
この雲が晴れるまで、近くにいよう。
それが私に出来る事なのであれば。
貴方が、必要としているのならば。
貴方の心は・・・今、どこにいますか?
暗い、モロクのそれは遅い、遅い夜。
先ほどまで降っていた雨は、止んだ。
だがしかし、その雨雲がどく事はなかった。
綺麗な星空を隠し、その雨雲は空を・・・覆い隠していた。
〜つづく〜
あとがき
ええ、偉く御久しぶりでございます。
ファウストなんですけど多分もうちょっとでブリジット、ブリジットでございます(ぇ
とりあえずまずは、非常に遅れてしまった事をお詫びいたします。
ああこうしよう、でもこれもいれないとなぁと考えてたら伸びに伸びて中身も長すぎです。
とはいえ、今回はこちらとしての分岐点とも取れるところなのでの結果とでもいえましょうか。
実際三話分程度はあると思われる今回、GWに相応しいボリュームでお送りいたします。
どうぞ、GWで時間をもてまあしている人は見ては如何でしょうか。
という訳で今回頑張ってついてきてください。
最近急にねたを多数投下しているのでこんがらがる人がいるかもしれませんが・・・。
判らなかったら掲示板なりメールなり下さいませ、それの質問に答えられる限りでお答えしましょう。
まぁできる限り気合で!
今回より、ようやく何故か主人公顔だった鰤が寝込む形となりそうです。
次回よりはイング達のお話。
ようやく戻すことができました。
いい加減RO離れでしたが、やっと路線戻せます、頑張った私!
な今回ですが、如何だったでしょうか?
にらみ合うべきであったフェイと玉藻前との共闘、そして倒すべきは鰤。
今までここ風な設定にしてきてしまった魔法を弄くり、今回はフロストノヴァが少し特殊になっております。
こういった実際だったらこんな感じも出来るんじゃないかというものは個人風に改造していきたいと思っております。
このようななんちゃってオリジナル的な所も見る対象にしていただければ幸いです。
暴走的な部分も、少しずつですが姿を表しつつあります。
「虚無」と呼ばれた玉藻前。
「神速」と呼ばれたフェイ。
之の意味する物とは何か、そして鰤自体はなんなのか。
そして、遂に来たそれよりも暴走イベントユキの告白。
彼女は今後どのような行動を起こすのかもみものですね。
寒いとか言わないで下さい。
本当に、之終わらすの一杯一杯だったんですってば!w
こんなのですが、次回をお待ちいただけると幸いです。
それでは♪
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