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肌寒い、まだ日すら上がっていない時間。
ゆっくりと、モロクの酒場にイング達含む少人数が入ってきた。
カタリナ「あら、お帰り。」
カウンターで一人佇んでいたカタリナが、自分達を見るなり一声かけてくる。
ただ、言葉はそれだけであった。
ラグナロク・オリジナルストーリー第弐拾九話―依頼
無理もないだろう。
体中ぼろぼろで、おまけに俺の背中にはブリジット殿がおぶさっている。
カタリナ「あんた達、静かにね。フェイなら上の部屋で休んでるわ」
そういえば、フェイはこの集団が帰るよりも一歩早く戻っている事に気が付いた。
・・・この調子だとこの一件、フェイは話していないようだな。
まぁ妥当な判断だと思うし、フェイが話すべきではないと判断したのなら俺も何も言う権利はない。
もとい、俺としては背中にいるブリジット殿の安否が気になって仕方がなかった。
時「まずは連れて行くか・・・」
確か、ブリジット殿の部屋は・・・
ムナック「こっちアル」
カタリナに問い掛けるよりも早く。
自分の前に出てきたムナックが、手招きしながら二階へ上がっていく。
はて、二階でブリジット殿が寝られる所などあっただろうか・・・?
時「・・・ここ・・・か」
連れてこられた所は、確かこのシーフが泊まっていると聞いていた場所。
このムナック、そして俺の後ろをちょこちょこと付いてきたシーフ。
ムナック「表ではそうアルけど、ここはご主人様・・・そ、ブリジット様が本来借りた所アルよ」
だから気にしないでいいアル、と付け加えながらベットに降ろしたブリジット殿に布団をかけるムナック。
・・・
ほとんど単体行動をしていて、集団という枠に入ることを嫌った彼が仲間を・・・?
少し不可解なものではあるが、当事者に聞けない以上このムナックの言葉を信じるしかないのが現状。
時「・・・で、何でユキが付いてきてるんだ?」
ギクッ、と体を震わせるユキ。
心なしか、ユキを見つけた途端にムナックの視線がひときわ厳しくなった気がするが・・・
後はこのムナック等に任せても平気そう、だな。
時「それでは失礼する。ほら、ユキも出るぞ」
ユキ「な、何するのよっ、触らないで変態!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てながらも、腕力で俺に敵うはずもなくずるずるとひきずられながら部屋を後にする。
ブリジット殿のそばにいたいのも判るが、ここは引くべき・・・
ムナック「邪魔者は早くきえるアルぅ〜」
ユキ「な、何ですって!?」
この場で火に油を注いではほしくないものだが。
・・・あの様子では、当分ブリジット殿は起きる事はないだろう。
今まで何度も彼の寝顔を見た事があったが、あれほどまでに熟睡しているのは見た事がなかった。
否、熟睡させられているのか?・・・あの力に。
どちらにせよ、彼に力を聞くにも聞けない状況となってしまったな・・・
今回の件を経て、俺の中で禁術というものが今一判らなくなってきているという状況があった。
禁術とは、俺の中では魔法と似た性質のものであると思っていた。
まったく違うものではあるが、フェイの力も・・・そう、見ようによっては早くなるのは速度増加等と同じ部類に見える。
身体能力向上も、禁術の+の面の要素だと。
禁術は、その者に力をただ単に与える物であると。
魔法のようにこの世界の元素から成り立つ物を再構築し、そういったものに変化させるような・・・そんなものを。
だが、今回の彼の発言。
「どうやら成り立てで尚且つ力もまだ完全に扱えない、あげくに力も「神速」の一部しか受け取ってないと見た」
前者は判る・・・フェイ自身それは自覚しているようで、力を扱いきれて無いとも聞いてはいた。
俺的に引っかかっているのはそこではない。
後者の・・・「一部しか受け取って無い」という部分と、「神速」という部分だ。
受け取ってない、つまり元の持ち主がいたと言う事だ。
あげくに一部分・・・そう、つまりこの発言からこの力を「完全に」もっていた人物がいるという事。
そして、その人物は「神速」という力を所持していた事。
いや・・・「神速」は名前なのか、力なのか?
場合によっては、その外見上から誰かがつけた別名という可能性もある。
現にブリジット殿で言えば、今までのあの人離れした行為から「死神」だの何だの呼ばれているという状況がある。
まぁそうだとしても、その人物はその名の通り異常な速さを手に入れた人物なのであろう事が判る。
「神速」・・・お前は何者なんだ?
アリス「お帰り、ユキ・・・どうやらつまみだされたようね」
そんな私の言葉を、少し意外そうに聞いていたがそれも束の間の事であった。
大きなため息をした後、まるで寝る前のブリジットさんのように布団へ思いっきり飛び込んでいく。
バフン!
周りにほこりを飛び散らせながら、ユキがごろごろと数回寝返りを打った。
寝返りが止まった時、不意にユキの口が開く。
ユキ「アリス・・・私、これからブリジットの為に何か出来ないか探そうと思うの」
アリス「・・・ユキ」
予想はしていた・・・ユキが、この一連を経てこういった発言をする事を。
だけど・・・ブリジットさんの為に動くって事は、常に危険に晒される事もあるのは事実・・・
そんな私を案じてか、ユキが少しだけ、今日はじめての笑顔を見せた。
ユキ「違うの、禁術に興味はない・・・ただ、ただね・・・」
雨の中、鈍く光る紅き眼。
何故だか、私にはその眼が・・・悲しそうに映った。
何かを悲願し、何かを訴える眼・・・そんな眼だった。
ユキ「判らない、判らないの。でも・・・あの眼は・・・みてるだけで、辛かった」
その言葉を最後に、枕へ顔をすっぽりと沈めてしまう。
押し殺してはいるが、そこからはかすかにすすり泣く声だけが聞こえた。
アリス「・・・今日はもう寝ましょう」
今日は、ユキにとって辛い、辛い日に違いない。
休んで、少しでも気分が戻ってくれる事を祈ろう。
この話は・・・明日にでも・・・。
アリス「おやすみ・・・ユキ」
静かな、夜の酒場のとある部屋。
その部屋から聞こえてくる押し殺した泣き声は、その酒場にいた誰の耳にも入ったという。
寝ている・・・彼にも。
俺等・・・は、精神の集合体・・・故に、お前の夢の中に出る事も容易い。
ユキ(誰・・・?)
俺は・・・振るってもらうには・・・大将以外いないのだ・・・俺の、存在意義を・・・大将は示してくれる・・・。
わいは・・・彼の力になる為に生まれてきた・・・わいの命は・・・大将の命が尽きるまで一緒や・・・。
ユキ(貴方達は・・・ブリジットの別人格?)
だが・・・大将が望んでいる事は生きる事であり・・・死ぬ事だ。
あんさんは・・・大将に、示せるか・・・?生きるという・・・道を。
ユキ(ちょ、ちょっと待って!何でブリジットが死ぬ事なんて望んでいるのよ!)
大将は・・・いつでも、死を・・・望んでいる・・・俺等は、それをさせる・・・つもりは・・・ないが。
だが、大将にその時がくれば・・・わい等は、喜んで・・・それを受け入れる準備がある・・・。
ユキ(おかしい、間違ってる!自ら命を絶とうなんて考えるなんて・・・!)
大将は・・・疲れきっている・・・いや、疲れている等と・・・言う言葉すら・・・生ぬるいかも・・・しれん。
今の大将には・・・もはや、あんさん等・・・「人」の、温もりが・・・必要や。
ユキ(人・・・の、温もり・・・?)
そう・・・人を・・・殺めて手に入れる・・・ひと時の気晴らしでも・・・何でもない。
あんさん等の・・・力・・・がな。
ユキ(私に・・・それが出来るというの?)
さぁな・・・だが、俺は・・・過去にも、お前のような奴に・・・期待を抱いた事が・・・ある。
あんさん等には・・・可能性というもの・・・が無限大にあるんや・・・そばにいてくれる・・・人なら誰しもな。
ユキ(可能・・・性)
人は・・・成長する・・・成長するという事は・・・その体に宿す・・・可能性も広がる事を・・・意味する。
あんさんには・・・出来るか・・・大将に、生きるという・・・道を、兆しを・・・
ユキ(・・・やるわ、私は・・・それで、ブリジットの近くにいられるなら・・・)
良い返答・・・だ・・・それでこそ・・・お前に・・・期待をかけた意味・・・というものがある。
大将の・・・力を・・・調べれるなら調べてみぃ・・・そこであん・・・さんは・・・
何故、大将が・・・死ぬ事を望んでいるかがわかるやろ。
俺等は期待している。お前が・・・大将にいる周りの者が、大将の力になってくれる事を・・・
ユキ「―――――ッ!?」
咄嗟に布団をはねのけて体を起こす。
私が寝ていたあろう場所は汗のせいでくっきりと形が出来上がっており、それらからいびつなものを感じる程だ。
窓からは、眩しい日差しが自分を照らしていた。
ユキ(な、なんだったの・・・今のは?)
バクバクと、破裂しそうな勢いすら感じる心臓の鼓動。
何か判らない掴み所のない、されど覚えている今までみていた夢の内容。
あれは・・・ブリジットの別人格?
それがわざわざ私の夢の中に現れてきたって事なのかしら・・・
辺りを見回すがイング達の姿は確認出来なかった・・・下でご飯でも食べているのかしら?
ユキ「私に・・・出来る、事」
自分に再度、確かめるように。
ぐっと、一度拳を強く握り締めた。
イング「はぁぁぁぁぁあ」
朝だというのに、さっきから僕の口からはこの大きなため息しか出てくる気配がしなかった。
向かいにはアリスが座っているが、アリスの表情も今一お世辞にも優れているとは言い難い。
くまは出来ていないようで、それからしっかりと寝る事は出来た様子ではあるが・・・
気まぐれに眼を泳がすと、いつ頃からなのか、はては自分達が気が付かなかったのだろうか。
ハンクさん達の面子がいくらか増えている事に気が付いた。
・・・だめだ、気分がめいっていて話し掛ける気すら出ていない。
アリス「どうやら重症なようね」
そんな自分を見つめながら、苦笑気味に笑ってみせるアリス。
そう言っているアリスも、僕から見れば重症以外の何者にも見えないのも事実であった。
ユキ「・・・あんた達、凹んでるわねー」
後ろから不意に声がのしかかると同時に、横のイスがゆっくりと後ろへと動いていく。
その上に、軽装をしたユキが幾分血色の良い顔をこちらに向けながら座った。
どうやら、ユキ自身は平気そうだな・・・
もしもの場合を考えていた自分の心が、少しだが軽くなった気がした。
・・・僕たちも、見習わなくちゃな。
ユキ「あー、御腹空いたわ・・・ご飯ご飯!」
「お邪魔するよ」
それは、日が高くてっぺんに上った昼の事であった。
イング達が食事をし始めていてから数分、急に現れたいかつい連中とハンクさん達が一緒にどこかに行ってしまってからに数十分。
フェイさんなどもついていってしまい、最終的に残ったのはカタリナ夫妻にイング達だけとなった時だった。
「お邪魔するよ」
そう、少し低い声を発しながらドアの開く音が鳴り響く。
アリスが少し顔を上げると、頭巾を巻いた質素なアサシンがゆっくりと酒場へと入ってきた。
ユキ「何だか今日はアサシンが良く来る日ね」
そう、先ほどの来客もアサシンが含まれていたのだ。
もっとも、全身包帯が巻かれているといった少々不気味なアサシンだったので今いるアサシンと同種には見えなかったが。
時というアサシンといい、フェイというアサシンといい、今さっきの全身包帯ぐるぐる巻きのアサシン。
アサシンとはそういう職なのかと思ったが、とりあえず今度のは外見上安心できそうだ。
そのアサシンはどうやらここの常連だったらしく、見つけると同時にカタリナも気軽な挨拶を一つかわしていた。
カタリナ「あら、昨日ぶり。ここに何度も来るなんて珍しいわね」
さも意外そうなカタリナの声。
どうやら先日も来た様で、ここにはあまり頻繁に出入りしていない人物らしい。
特にやる事もなかったので盗み聞きをしながら目の前の水を口に入れる。
・・・といっても、ここは夜に非常に栄える酒場だ。
昼間は客があまり来ず、ああやって話されては嫌でも聞こえてしまうのが現状。
一人程度で席を外すというのも何だかと思う気持ちもあったが・・・
「いやなに、ちょっと野暮用で「旦那」に会いに来たんだが・・・いるかい?」
ピク・・・
小さくだが、ユキが少し感づいたように静かな音で立ち上がる。
そして、あまり音を立てないままゆっくりとそのカウンターで座るアサシンの近くに歩み寄っていった。
ユキ「・・・旦那って、まさかブリジットの事じゃないわよね?」
「・・・だったら何だっていうんだ?」
こちらを探る、今一歩留まっているような発言。
今アサシンはユキを何者なのか探っている・・・それが、目の当たりにしていやでも判った。
カタリナ「その子はブリジットさんのお知りあいよ、手出したら怒られるわよ?」
その場を見かねたのか、カタリナのサポートがその雰囲気の悪い間を割って入ってくる。
その言葉を聞くと同時に、ユキとアサシンのにらみ合いがプツっと切れた。
「嗚呼、君等が噂のね。君等のことは良く聞いてるよ」
さっきの反応はどこへやら、急にころっと雰囲気を変えて気さくな役になってしまう。
そんなアサシンを見て何か言う気力がなくなってしまったのか、はぁ・・・と息を吐いてユキが元いた場所へ戻っていく。
「そうつれない表情すんなって、今日はお前等にも用事があって来たんだ」
目の前に出された噴かしたいもをおいしそうに食べながら、手にしたフォークでこちらを指す。
なんて行儀の悪い奴だ・・・
と真っ先に思ったが、それよりも何故自分達に用などあるのかが気がかりであった。
そもそも・・・
アリス「あのぉ、貴方はどちら様ですか?」
そうそう、それが気になっていたんだ。
そうとでも言うかのようにイングが首を何度か縦に振った。
それと変わってユキはさほど興味の対象ではないらしく、遠くの方を呆けながら見つめていた。
「ああ、自己紹介が遅れたな・・・」
「「探求者」の異名を持つ、シレウスというもんだ。賞金ギルドの宿を管理する者であり「欠片を拾う者達」というギルドのマスターでもある」
イング「え・・・貴方が!?」
その名前に聞き覚えがあるのか、イングが過剰な反応を見せて椅子から立ち上がる。
その表情は、まるで憧れていた何かを見るような少年の眼であった。
思い出してみればイングは冒険者に憧れており、ブリジットさんにもそれがてら会ったと聞く。
その関係上、今いる冒険者に詳しいのかもしれない・・・故に、この反応も理解できない訳ではなかった。
シレウス「お、俺を知ってるのか、嬉しいねぇ」
そんなイングの反応を見て、心底嬉しそうにいもを口へ運んでいく。
「欠片を拾う者達」。
メンバーの数は定かではないが、少数のギルドであると言われているこのギルド。
ギルド城やモンスターと戦う事を主とするギルドが都度の中、ここは何故か遺跡等の古代調査を活動の主とする珍しいギルドである。
理由は定かではないが、今日までのこの世界の歴史の数割は彼らが関与している等とも囁かれている。
ただ、活動理由が理由なだけに一部にしか名は流通していない。
この世界において、歴史というものはさほど冒険者達にとって大事なのではないのだから。
それ故に、歴史を追い求める彼らはこの世界にとって非常に数少ない「歴史を追い求める者」なのである。
その中のギルドマスターであるシリウスは、別名「探求者」と呼ばれる凄腕の冒険者と言われている。
この世界において異名というものを持つという事はある程度の実力を認められる事が前提となっている。
異名を持つ中でも謎な行動が多い人物の一人として上げられる「探求者」は、ある意味で注目されているのだ。
ただ、最近はめっきりと活動内容がわからずに表舞台から消えたとも囁かれていた・・・
そんな凄腕の冒険者が、何故ここに?
疑問が脳裏をかすめたが、それの答えは一瞬で出てきてしまう。
イング「シレウスさんは・・・最近まさか「禁術」を調べているんですね・・・?」
一瞬少しではあるが、驚いた表情を浮かばせるユキとアリス。
まさか、今日ブリジットさんにあいに来たっていうのも・・・
だがそんな自分の予想とは裏腹に、興味深そうにシレウスはゆっくりと立ち上がる。
シレウス「ほぉ、お前等はあの力を「禁術」と呼んでいるのか・・・確かにそちらもしっくり来るな」
その呼び名が気に入ったのか、何度も小声で呟くシレウスの姿。
どうやら彼の中では、「禁術」というキーワードは無かったらしい。
ただ、名が違うだけでどうやら禁術と同等のキーワードはあるようだ。
シレウス「教えてやるよ、何故俺がその言葉を・・・お前等で言う「禁術」をどこで知ったのか」
この世界における闇世界・歴史。
モンスター、新たな力、そしてダンジョン、モンスター。
様々な力がうごめく中、人々は何故かこの世界の過去について知ろうとはしなかった。
何故だかは判らない。
ただ単に気にならなかっただけなのかもしれない。
だがしかし、それには説明が付き難い徹底とした放置が、俺等には疑問で仕方が無かった。
そんな中、誰に見守られる事なく俺等は行動を開始した。
いろんなダンジョンを見回った中、俺等が真っ先に目をつけたのが何者でもない「モロク」であった。
モロクには古代文字が多数存在しており、我々はそれに執拗に執着した。
何ヶ月・・・半年以上その古代文字との格闘の中我々が見出した言葉。
それは「人ならざる者達が存在していた」という事実であった。
シレウス「人ならざる者、そいつ等が一人一人持っていたといわれる力がお前等の言う"禁術"に当たる」
遠い過去に書かれた文字に記されたその「人ならざる者達」の存在・そして力。
力の細かい事はわかってはいないが、二桁程の力が存在しているらしい。
その一つ一つの力はおぞましい力を持ち、そして特異であるという事。
イング「それって・・・ブリジットさんが言ってた"神速"ってのと関係するのかな」
他愛も無い、思ったことを口にしただけであった。
他愛も無い言葉だったはずなのに・・・
シレウス「それは本当か?」
先ほどの表情とは打って変わって真剣な眼差しを向けるシレウスの顔。
これが、彼の仕事上での表情なのだろう。
シレウス「神速・・・か。まだ判らないが、旦那が言ったのであれば信頼性も・・・」
そこからああでもない、こうでもないと独り言をぶつぶつぼやきながら酒場の中をぐるぐると廻っていく。
カウンターの方を見てもいつもの事なのだろうか、苦笑いを見せながらカナリナがシレウスを傍観していた。
シレウス「よし決めた、お前等俺と一緒に来い」
アリス「はへ?」
あまりに予想をしていなかったのか、それとも突拍子すぎたのか。
ついアリスがおかしな声を上げてしまい、恥ずかしそうに口を押さえて丸くなる。
イング「それはつまり・・・シレウスさんのその探検について来い・・・という事ですか?」
そうだ、といわんばかりに首を大きく縦に振る。
・・・まずい。
今さっきのイングの反応を見る限り、次出てくるとすれば・・・
アリス「ちょ、ちょっとまっ・・・」
イング「はい、是非とも御願いします!」
ちょっとまった。
その言葉を言うよりも早く、いつもの三倍程威勢のよいイングの声によって私の声はかき消されてしまった。
有名なギルドとなれば、行く所も当然そのlvに見合った所に行くのが都度となる。
イングが言うにはこのシレウスという人はかなりの実力者と聞く。
そんな人と一緒するなんて、絶対体が持つわけがない・・・。
そうだ、まだいるじゃないの。
私たちの仲間で、止めてくれそうな・・・
アリス「ユ・・・」
ユキ「行く代わりにアンタのもってるブリジットの情報を教えて。そうしたら付いてくし私達の知ってる事も話すわ」
手の裏を返されたとでも言おうか。
先ほどまでまるっきり興味のなさそうにしていたユキの、突然の気の変わりよう。
さすがにこれは予想してなかったので呆気に取られてしまう中、シレウスが不意に口を緩ませる。
シレウス「無論だ。絶対お前等の目的に+になると保証しよう・・・大丈夫だ、そこまで危険な所ではない」
私の心境を察してか、思い出されたかのように言葉が追加される。
高実力者の危険でないという言葉もいささか信用性がないとは思う。
思うけど・・・
イング「すごい、すごい・・・僕は今あの探求者の冒険に・・・!」
目を輝かせ、見て判る程に嬉しそうな表情を浮かべるイング。
ユキ「一時はどうなるかと思ってたけど・・・これで・・・」
ぶつぶつと、呟きながら目の前の水をコップの中で泳がすユキ。
・・・
アリス「覚悟決めるかぁ・・・」
それしか、選択肢がないというのもあるけど。
かくして、私達は探求者とも呼ばれる冒険者のお供のような感じで付いて行く事になりました。
モロクに来ると必ずブリジットさんが行き、そして帰ってきた場所。
目指す先は・・・SD。
「こらこら、道端に落ちてる骨など咥えちゃいかん」
暗く、そしてうねうねと曲がる細い道。
静かな通路の中、黒い犬がへっへっと威勢良い声を上げながら骨を加えてこちらへと向かってくる。
自分の近くで骨を置き、機嫌のよさそうな表情で私を見上げる。
「今日も犬と御戯れですか?」
犬と戯れていると、後ろからうやうやしい声と共に両手に剣を持つ男性が歩み寄ってきた。
表情は仮面に隠れている為にどのような表情をしているかは判らない。
「今日も平和だのぅ・・・ところで、"王"はどうしておられる?」
先ほどまで遊んでいた犬を手で制しながら、静かに、そして深い声で呟くように。
口にするのもおこがましいと感じるような声で、"王"の言葉を口にする。
「はい、別の神官様の占いの結果を聞き、大層上機嫌でお過ごしておられます」
「占いとな?」
私の他にたくさん神官はいるが、王の占いをするとなれば側近の神官か・・・
そんな事よりも、王が上機嫌になったという占いの結果がふと気になった。
すると、タイミングを見計らってか、男性の口が動く。
「日いずる所より、使者きたりて王に大きなる転機を与えるであろう・・・だそうです」
転機、か・・・。
日いずる所・・・つまり、外界から誰かが来ると言う事か。
(人間どもでなければよいがな・・・)
ここはスフィンクスダンジョン。
人が踏み込んではならない、神聖な建物。
踏み込んだ者には制裁を。
踏み込む者には、恐怖を。
命をかけて、この建物を守らん。
我等が絶対なる"王"の為に。
つづく
〜あとがき〜
いやはや、最近忙しくて更新が遅れてすみません、ブリジットでございます。
はてさて、澄人様の方でもオリジナルの展開が始まったようにこちらでもオリジナルの話が展開されていくようになります。
中身は、アニメのピラミッドに対抗してスフィンクスダンジョンがこれから主体となっていく予定です。
ごめんなさい、別にアニメとなんか張り合ってません。
さて、今回新たに出てきた・・・というより過去に出てきた賞金ギルドで鰤を「旦那」と呼ぶ男。
その男の正体が明らかになりましたね。
探求者と呼ばれ、この世界で散り散りになっている過去の歴史を拾い集める者達・・・そんな人々を纏める存在です。
あの世界って世界背景を作っているくせにまったく関係が無いのでそこがつまらないっすよねぇ。
もっと設定を前面に押し出した何かがあればいいと思うのですが・・・
そんな希望を胸に、今回の新たな展開、始まります。
どうぞお楽しみに〜。
それでは♪
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