・・・
ユキ「・・・あんた、確か有名な冒険者なのよね?」
シレウス「・・・うん、多分」
ユキの問いかけに、弱弱しく答えるシレウスの声。
その声が、この閉ざされた暗い空間に木霊する。
アリス「うーん、ここどこなんだろぉ・・・」
その場所とは少し離れた場所から、青い光の玉と共にアリスが辺りを見回している。
見渡そうとも、辺りに映るのは謎の古代文字らしき物が描かれた壁が続くばかりであった。
いや・・・少々おかしな部分もあるか。
イング「ここから出れるのかな・・・」
イングの手に握られたのは蝶の羽。
本来使用者を街などに帰還させる能力を持つ蝶の羽が、いくら念じてもまったく発動しない。
そして・・・

薄暗さがより一層強まった空間。
辺りを見渡しても壁しかない一方通路。
この精神を追い詰めるような構図が、自分達の中にある危機感を急き立てている。
そう、自分達は今完全にスフィンクスダンジョンの何処にいるかがわからなくなってしまっているのだ。
何故ここにいるかは判らず、シレウスも知らない場所と言う事でお手上げ状態となってしまっている。
シレウス「こんな所来た事も見たこともない・・・なんか疼かないか、冒険者のこう血というものが」
ユキ「ちょっと・・・黙っててくれない?」
シレウス「・・・はい、すみません」
・・・もはや、その姿に有名な冒険者の面影は存在していない。
そう、簡単に今の状況を説明するとすれば。
イング「遭難、か・・・」
シレウス「そうなんですぅ・・・ごめん」
状況的にも、内容的にも笑えない状況に頭が痛かった。
何度も思ったが、やはり自分達は災難に会いやすい傾向にあるようだ。
と、言うより・・・こんな状況、前にもあった気がした。
・・・嫌だなぁ。
ある意味、今までの気持ちを最大限に言葉に表したような気がした。



ラグナロク・オリジナルストーリー第参壱拾話―魂の在り方



準備が終わったら、即効でスフィンクスダンジョン前集合。
それが、あの場所を去る前に自分達に言い残した言葉であった。
実際もう少し何かあるのかと思いきやこれだったので肩透かしではあったが・・・
ユキ「まぁいいんじゃないの?そこまで危なくない所だとあのアサシン言ってたし」
確かに、あの人自身はそこまで危なくない所だとは言っていたが・・・


スフィンクスダンジョン。
最近という程ではないが、今まで眠っていたと言われる王が起きたとして一時期非常に注目を浴びたダンジョンの一つ。
ブリジットさんをあそこまで狂わした青箱が一時期大生産された場所でもある。
ピラミッドダンジョンと似た性質を持ち、その王を守り、そして繁栄するが為にこの場が存在している。
ピラミッドのオシリス、そしてスフィンクスのファラオ。
そう、王こそが絶対な世界である。


アリス「だって、あそこって王様が復活したって話で一時期話題になった場所よ?危ない訳が・・・」
そう、やはりあそこに行く上で一番ネックとなっているのがそこなのだ。
実力ではどちらの王が上かは判らないが、かなり強大な力を持っていると言われている。
しかし、ユキには大丈夫といっている訳があった。
ユキ「王様がでるのは最上階。そこに行かなければ会わないわよ」
そう、どちらの王も出てくるのは最上階のみ。
そこにいかなければ、出会うのはその王に仕える従者のみである。
ユキ「あいつは最上階なんか用は無いって言ってたわ。その時点で王に会う事はない・・・って事よ」
言われてみれば、最上階には何も無いとか言っていた気もしたが・・・
しかしながら、あのような強力な力を持つ人が最上階に興味がないというのも珍しい話である。

と、ここまで考えて彼がこの世界においてやはり異質な性質の持ち主であると言われている事に納得が行った。

大多数の実力をつけた冒険者は当然その力に合わせての場所を選ぶ。
この世界においてBOSSと呼ばれしモンスターを拝もうとする人、またはそのBOSSに戦いを挑む命知らずな冒険者。
どちらであろうと、高Lvの戦いを望んだ者たちが都度だ。
そんな中、探求者と呼ばれた彼はそのような物に見向きもせずに古代文字を解読するのに没頭する毎日。
科学者なれど、彼等が基本的にやっているのはモンスターの生態や対策等の研究だけである。

彼は、一体何を求めて歴史を見ているのだろうか?



アリス「・・・イング?着いたわよー?」
言われて辺りを見渡せば、目の前にはとても大きな像のようなものが一つ、ポツンと聳え立っていた。
異様な程の殺風景な所に静かにSD・・・スフィンクスダンジョンはあり、何も無い故に強固な存在感をかもし出している。
ここが、あの「スフィンクスダンジョン」か・・・。
シレウス「ここには三日程度の滞在を予定している。一応後から俺のギルドメンバーもくるし困る事はないだろ」
そう軽く自分達に説明した後、先陣を切るようにスフィンクスダンジョンの中へと入っていく一人のアサシン。
そんな姿を後ろで見つめながら。
ユキ「こういう日が入らないところだと時間感覚が狂いそうね・・・」
シレウスの後を追いながら、ユキがポツリと呟く。
確かに、このダンジョン内部では基本的に日の光が入ってこないために非常に薄暗い。
そんな中、三日と言われても今一感覚があるのかといえば微妙な所に当たるかもしれない。
アリス「でも良い体験になるとは思うわ。初めは乗り気じゃなかったけど・・・こういうのもいいかもね」
話を聞いた当初はため息をついていたアリスだったが、時間がたつにつれて心持ちを変えたらしい。
そんな心境の取れる言葉であった。

こう仲間を分析しているようではあるが、実際の所僕自身は非常に乗り気だ。
まだ行った事のない場所に来、そしてあの有名な冒険者と今一緒に行動をしている。
このことが、自分にとって非常に興奮を引き立たせるスパイスとなっていた。
イング「・・・頑張らなくちゃな」
ぐっと、剣を持つ手にこめた力が強くなった。


シレウス「・・・おかしいな」
歩いてから数十分。
壁をじろじろ見ながら歩いていたシレウスの足が、突如その言葉と時を同じくして止まる。
丁度止まった所は段差があるところで、辺りにはそこを中心とし数本の棒のようなものが立っていた。
シレウス「モンスターに会わない・・・?いくらなんでも気配が無さ過ぎる」
・・・言われてみれば。
ここにはいつも大きな荷物を背負っているゼロム、棺おけを持つレクイエム、紅い蝙蝠のドレインリアー、そして黒い外見の犬マーターがいるという。
しかしながら、気が付くまで考えてみればまったく何も出会ってはいないのだ。
いや・・・出会っていないというより、このフロアーにモンスターが「まったく存在しない」という表現が正しいのだろうか?
過信するつもりはないが、今までの冒険でモンスターが発する「殺気」のようなものを少し感じ取れるようになった。
が、ここにはまったくその殺気を感じる事が出来ないのだ。
当の発言をした本人も同じような意見らしく、足を止めて辺りを警戒する。
シレウス「何だ・・・この感覚・・・」
より一層、警戒を強めた時であった。

(君達が客人か・・・?)

イング「!?」
急に、頭の中の脳に直接話し掛けられているような不快感が自分を襲った。
他の皆も同じような感覚に襲われているらしく、辺りを困惑しながら見渡している。
ただ、シレウスは戦闘態勢で静かに警戒を強めている。
(返答は無い・・・か。しかしながらそこのマジシャンからは異質な気を感じるな・・・)
イング(ユキから?)
視線が一気に集まって焦り出すユキを差し置いて、その声の持ち主は話を続けていく。
(・・・まぁいい、王がお呼びだ・・・来るが良い)

シレウス「・・・まずい!?」
突如その地面が光だし、じょじょに自分達の体が地面へと取り込まれていってしまう。
いくらあがこうとも逃げ出す事は出来ず、むしろ暴れる事によって一層そのスピードがあがっているかのようにさえ見えた。
そう、ある意味でこの地面はありじごくのような性質をもっているのだろうか?
イング「・・・くそぉっ!」
悔しくて声をあげるが、それで状況が変わるわけでも何でもない。
一人、また一人と声を上げる暇さえあたえず地面に取り込まれていき・・・

イング「・・・!」

自分も、その光の中へと取り込まれてしまった所で意識が遠のいていった。



そんな訳で今に至る訳ではあるが、自分の付き添い達は至って前向きである。
シレウス「しかし本当にここはどこなんだろうな・・・」
アリスに頼んでルアフを光の代わりとし、シレウスがまじまじと壁の文字を興味深そうに見つめている。
シレウスも先程言ったとおりここは初めての様子で、この壁に書かれている事が大層興味を引かれるものらしい。
「あの」シレウスすら見た事無いという事実に、少しこちらとしても警戒してしまう環境ではある。
しかしながらこの文字、自分達からすれば、何かホードが通った後のようなうねうねした感じにしか見えないのだが・・・
ユキ「ていうか私達ってどれくらい伸びていたのかしら?」
シレウスと付きっきりのアリスを横目に、壁に寄りかかっていたユキの声。
その声は、聞くからにけだるい感じをかもし出している。
そう・・・僕達はあの後意識を失い、結構な時間ここで倒れていたらしい。
入ったのは昼間過ぎ程度、しかし眠気はない・・・。
ユキ「やっぱ一日程度は経ってるのかしら・・・うーん、WISも届かないし・・・まったくもう」
そう、先程からそうだがハエも、蝶も、挙句の果てにWISまでまったく反応を示してはくれない。
まさに今、自分達は孤立状態にある訳だ。

もとい、何も使えない、外部と切断されたようなこの環境に違和感を覚えている。
WISがまったく機能しないなんて体験は初めてだし・・・
シレウス「ほぉお・・・すごいな、ここは」
シレウスの、本当に感心したような声が自分の耳に入ってくる。
見た事のない文字という事で苦戦はしていたようだが、多少解読が出来たのか嬉しそうな表情を浮かべている。
そんな表情を見ているとこちらも少し落ち着いたりはするが・・・
シレウス「ここの文字は比較的新しいな。多分モンスターが彫った物だろう」
気分転換にはなるか、な・・・?
そう思えるような冒頭に、少し関心が向いていく。

歴史とは、ただ単に人間だけが構築するものではない。
人間以外の生き物とて歴史を刻み、そして今日まで生きているのだから。

そんな中、この世界では人間以外にモンスターと呼ばれる高度な生物が存在する。
モンスターも独自の言語をもち、こうして壁や石等に数々の歴史を刻み込んでいたらしい。
そう、歴史を調べるにおいてモンスターは切っては切れない存在だというのだ。
人間がいる前からこの世界に住み、そしてこの世界の様々な時代を見てきたという存在。

シレウス曰く、歴史に関しては「バフォメット」が一番詳しいだろうと豪語する。

バフォメット・・・プロンテアの北にある通称「迷いの森」の最下層住むそれは大きな山羊のモンスター。
魔族と呼ばれる所属であり、非常に高度な知識、そして力を備えたこの世界の脅威とも呼ばれている存在の一角である。

バフォメットがこの世界において高度な知識をもった中で一番古い存在だという。
つまり、あのモンスターに歴史を聞けば今日までのすべてが判るといっても過言ではないらしい。
非常に壮大な話となってしまっているが・・・

シレウス「ここにはどうやらあのグラストヘイムの事に関しての歴史が画かれているな」

グラスト・・・ヘイム?
シレウス「ああ、詳しく知らないのか?・・・えっとだな」

グラストヘイム。
外見は非常に大きなお城のような所であり、中にはモンスターが日夜徘徊しているという巣窟の一角だ。
しかし他と違い、ここにはかなりの強者が揃っているという上級の冒険者でないと行かない非常に危険なダンジョンである。
この城を統括するBOSSと呼ばれるモンスターに「ダークロード」が上げられる。

強力な魔法を用いる魔族であり、その魔法を一度振るえば城全体が揺れるとまで言われている。

そんなグラストヘイムが、何故このスフィンクスダンジョンの壁画に・・・?


「それはな、あそこで起きた戦争とここの長、ファラオが関係しているからじゃよ」


ユキ「!?」
咄嗟に立ち上がったユキを制止しながら、シレウスが静かにその声のした方向を見つめる。
その先は真っ暗な道一本だったが、静かに大きな仮面・・・
「お初にお目にかかるのぅ、若いの。」
すっとその暗闇から浮き上がるようにして、一人のマルドゥークが姿を現した。
しかしその歪な大きな神官の仮面は、この状況ではかえって不気味に映ってしまって仕方が無い。
しかしながらモンスターだというのに襲ってこず、あげくに人語を用いて自分達へと話し掛けている。
そんな状況に戸惑いながらも、シレウスはいたって冷静にそのマルドゥークへと歩み寄っていく。
シレウス「・・・アンタか、俺たちをここへ呼んだのは。用件は何だ」
言葉に殺気が混じっている。
そう判断するのが簡単なくらいの、落ち着いた、しかし冷たい声。
相手は自分達といつも剣を交えているモンスター・・・当然の対応といえば当然か。
マルドゥーク「・・・着いてくるがよい、わるいようにはせん」
颯爽と身を翻し、足音をならさずに奥へとゆっくり歩いていく。
その姿は、まるで自分達が襲わないという確信でもあるかのような振る舞いだ。
アリス「ど、どうなってるんだろう・・・」
そんな後姿を見つめながら、人なら当然であろう反応を見せるアリスの声。
そりゃそうだ、今まででこんな体験あったことなど一回もないのだから。
こんな事を考えている僕だって、この状況には困惑している・・・どう表現したらよいかすら整理できていない。
足音が鳴らない中、一つ、コツンと靴が地面につく音が響き渡る。
ユキ「上等じゃないの」
そう言い放ち、マルドゥークの姿を先陣で追っていったのは一人の少女であった。
シレウス「さすがは・・・とでも言うべきか。おいお前等、これしか選択肢もないし行くぞー」
その姿にすこし関心した面持ちで、自分達を急かしながらシレウスもまたマルドゥークの後を追っていく。
・・・確かに、出られないし選べる選択肢もないか。
半ば諦め状態ではあったが乗った船である、今更下りる気にもなれない。
こうなれば、足を止めずに前に行くしかないだろう。
イング「・・・行こ、アリス」
アリス「・・・うんっ」
前を見なければ、何も始まらないのだから。



それは、綺麗な・・・綺麗な月の出る夜の事であった。
ヤファ「ブリジットさん・・・いつ、起きてくれるんですか」
ベットに寝たまま、まったく言葉も喋らず・・・動きもせず、まるで死んでいるかとさえ錯覚させるようなブリジットの姿。
そんなブリジットの片隅に座りながら、微かではあるが泣き声混じりのヤファの独り言とも取れる言葉が聞こえた。
そんな言葉を投げかけても、ブリジットさんは動いてくれない。
この微かに動く心臓の鼓動、整えられた寝息。
これらから生きているというのは判るのだが、どうしてもどこかその姿を見ていると不安で仕方が無かった。
いや、違う・・・何故だか、私自身の勘というものだろうか・・・?その勘が、何か予期せぬものを感じてるのかもしれない。
鈴「おかしいアル・・・こんなにご主人様が目覚めないのも・・・!?」
ドアを開けて、鈴の独り言が聞こえたと思ったらその次は急に驚いた声を上げる。
忙しないとは思ったが、その反面何に驚いているのかが気になった。
鈴「ご・・・ご主人様!?」
まるでこの世の終わりのような声をあげながら、一気にドアからブリジットさんのいるベットへと駆け出す鈴の姿。
何を驚いているのだろう、ブリジットさんならほら、この横で寝て・・・

!?

鈴「ご主人様、どうしたアルか!?し、しっかりするアル!」
な、何が起こっているのだろうか?
月の光とも違う、今まで見たことのないような幻想的な光を発しながら静かにすぅっと浮いているブリジットさんの姿。
判らない、何が起きているのかがさっぱり判らない。
ただ、これだけはいえる・・・

この状況は、何かとてつもなくまずい事になりそうな気がする!

すると、まるで主人の存在を確かめるかの如く二本の両手剣がブリジットの所へと近づいていく。
二本の両手剣が、主であるブリジットのところへと到達したと同時にそれは起きた。
鈴「だめアルよ・・・だめアルーーーーーーーーーー!!」

パァン・・・!

一瞬ひときわ激しい光が、ヤファ達の目を遮った。
微かに見えたのは、まるでシャボン玉がはじけるかの如く、その光り輝いた存在は弾けて消えてしまったという事。
残されたのは、今まで人が寝ていたはずのベットが一つ、ぽつんとあるだけであった。
ヤファ「え・・・ぶ、ブリジット・・・さん?」
その名前を呼ぼうとも、その名前を持っていた人物の姿はもはやここには無い。
隣では、絶望に打ち負かされたかのようにそこに座り込む鈴の姿があった。
鈴「だめアル・・・ご主人様が・・・ご主人様がいなくなったらボクは・・・ボクは・・・」
ぶつぶつと呟きながら、急に表情を変えてドアへと駆けていく。
鈴「そんなの・・・ボクは、信じないアル!!絶対違うアル!!」
ヤファ「鈴さんっ!?」
自分がそういうよりも早く、鈴の姿は見えなくなってしまった。


・・・何が、何が起きたんだろう?
心臓の鼓動が非常に大きく高鳴っており、今でも外に飛び出てしまいそうな錯覚を覚える。

消えた、ブリジットさんが消えた。

近くに、気配すら感じない。

鈴「だめアル・・・ご主人様が・・・ご主人様がいなくなったらボクは・・・ボクは・・・」

耳が痛い。
あの表情、そしてその言葉の意味・・・

ヤファ(違う、そんなことない!そんな事・・・絶対に無い!)

今までだって、何度も危険な状態になったことはあった。
だけど、どんな時だって・・・ブリジットさんが、死んだ事はない。
ヤファ「ブリジットさん・・・私達を置いて、いなくなっちゃうなんて事ないですよね?」

そう、一人月に問い掛ける。
答え等、帰ってくる訳が無いという事を知りながら。


翌日。
この酒場にいる全員にきこうとも、やはり満場一致で知らないという言葉のみが飛び交った。
ただ一人。
エミオス「変な奴がお前等のご主人様を探してたぞ・・・関係は当然俺は知らんがね」
話が終わりまばらとなったと同時に、そう最近ここにいるようになったプリが私達にそっと教えてくれた。
唯一の現状における手がかりである、私とて逃す訳にはいかない。
鈴「変な奴・・・?それはどんな人物アルか!?」
隣にいた鈴のこの発言に対するくらいつきようは尋常ではなかった。
何か思い当たる節があるのか、それとも識別しきれないが故の食らいつきようなのか、私には判らない。
エミオス「すまん、姿は見てないんだ・・・ごめんな」
まるで子供をあやすかのような優しく、そして落ち着いた声。
力になれないのを悔やんでくれているのか、落ち込んでしまっている鈴をなだめようと必死である。
すると、何かを思い出したのか、一人で呟くような声でこう囁いた。
エミオス「一つだけ・・・そいつはフェイに良く似た声だった」
フェイ・・・あの危険な力を手に入れたというアサシンさん。
オウム返しのように問い掛ける鈴を目の当たりにしながら、エミオスのたどたどしい会話が続けられる。
エミオス「ああ、声とか雰囲気とかな・・・って、抽象的すぎて微妙な内容だったな」
苦笑しながら、自分達に再度ごめんな、と謝りを入れてエミオスは仲間の元へと戻っていく。



優しい人だな、と思いつつもその言葉の最期がどうしても引っかかる。
そう、あの禁術を手に入れたアサシンの人と似ている人がブリジットさんを探していたという事実。
それは、何を意味しているのだろうか・・・?
鈴「・・・ヤファ様、今からご主人様の手がかりを探しにいくアル、ついてくるアルか?」
先程の会話の中で何か手がかりでも見つけたのか。
少し険しい表情をした鈴が、今にでも飛び出しそうな状況の中ヤファに問い掛けてくる。
・・・といっても、ここは聞く必要はなかったのかもしれない。
ヤファ「当然です」
返答をするのに一秒も経たない、それは早い即答だった。



鈴(ご主人様を探す人物・・・嫌な予感がするアル)
今までブリジットは多々とも言える人物に襲われてきた経歴を持つ。
しかしながら、エミオスというプリーストの話によると相手は非常に手馴れである事、そしてブリジットと一人で会おうとしていた事。
そして・・・フェイ=ヴァレンタイン、あのアサシンと雰囲気等であろうか、それらが似ていたという事。
フェイというアサシンの繋がりが濃かったと思われる人物のいう事だ、さぞかし似ていたに違いない。

鈴(この世界で・・・ほとんど同じような雰囲気を発する状態の人がいるアル?)

彼女・・・フェイの気は、はっきりいうが他とは違う雰囲気をもっている。
それこそ説明がしにくい分野となってしまうが、彼女は例外だ・・・当然、雰囲気も違ってくるのが道理。
そんな彼女とほぼ同じ存在感を発する人物?
おかしいし、ありえない・・・いや、ありえるはずがない。
自分の中に結論は出ている・・・そこに注目するべきであると。

嫌な予感はやはりする。
その反面、その嫌な予感をさせる人物も今だにご主人様を探しているという現状に内心ほっとしているのも事実。
その相手が探しているという事は・・・

鈴(ご主人様は、まだ死んでいない・・・?)

あの時、ボクはご主人様がこの世からいなくなってしまうかもしれないという危機感に晒されていた。
いや・・・亡くなったかもしれない、そう判断していたといっても過言ではない。
でも、でも。
この話を聞いてからか、何故かは判らないご主人様の生存を信じられるようになってきている。
いや、ご主人様の事だ・・・ボク達を残して・・・

鈴(ボク達を残して・・・いなくなる事なんてない・・・アルよね?)

そう、心のなかでいないご主人様に問い掛けた。



マルドゥーク「冒険者達を連れてまいりました」
急に立ち止まると同時に、膝を地面につけて暗闇の先に向かって頭を下げる。
まずその先の暗闇から出てきたのは、数名のマルドゥークとバナサと呼ばれるこのスフィンクスを守る戦士達。
そして・・・

「大儀であった、頭を上げていいぞ」

側面に綺麗にマルドゥークとバナサが並ぶ中、その中央を割って自分達へと向かってくる存在。
外見は人とさほど変わらないが・・・その威圧感からして、まず人間でない事が判る。
これが・・・

イング(ファラオ・・・)

ファラオ、スフィンクスダンジョンの頂点に君臨する存在。
そう、スフィンクスダンジョンのBOSSである。



〜つづく〜




あとがき
どうもご無沙汰しております、ブリジットです。
夏休み真っ只中なのにあまり更新で着なくてもうしわけありませぬ・・・という訳な一話です。

新しく始まった新章である今回はSDが主体となって動きます。
当方は比較的モンスターに意識を宿らすのが好きなのでまたファラオ等がこのように人間チックになっておりますがお気になさらず。

敵である冒険者のイング達をわざわざ呼び出したファラオ、その意図は一体なんなのでしょうか?
それはまた次回のお話となります( 0w0)

それでは♪




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