ラグナロク・オリジナルストーリー第参壱拾壱話―奇抜


シレウス「いきなり親玉登場か・・・」
そうは言ったものの、シレウスの警戒は先程よりも幾分弱くなってきているのが現状である。

それはなぜか?

そう、本来人語を扱う事があっても絶対に寄り添ってくる素振を見せないあのモンスター自体が話し掛けている状況。
その状況が、シレウスの警戒心に待ったをかけているのだ。
挙句の果てに、目の前にいるのは高等魔族・・・このスフィンクスダンジョンの長、「ファラオ」。
見て帰ってきたものはいないといわれる、この世界屈指の実力者なのだから。
シレウス(くそ・・・何がどうなってるんだ)
自分とて、この状況にあせりを覚えないはずも無く頭の中では困惑と整理の繰り返し。
だが、この異常な状況に整理などつくはずがなく、困惑の方がどうしても勝ってしまっている。
ファラオ「安心せよ、お前達の身の安全は予が保証しよう・・・何もしなければ、だが」
・・・手さえ出さなければ、身の保証はするということか。
仮にも相手の大将がわざわざ出てきて提示したものだ、いささか気は引けるが信用には値するだろう。
しかしながら。

何故、いっぱしの冒険者である我々にわざわざ姿を現してまでも会う必要があったのだろうか?

そう、相手はこのダンジョン内最強にして最高の地位に立つ魔物。
自ら出てこなくても、その部下に任せればいいのだ。
それ以前に、さらに引っかかる点だってある。

何故、ファラオが生きているのか、だ。

過去に、有名な実力者がこのスフィンクスダンジョンに入り、このファラオを撃退したと言われている。
何故だか、この世界の魔物と呼ばれる高等種族は倒しても倒しても生き返る事ができるのだ。

それは我々に対しても同じく、死んだと思えば元の場所へと戻される事が多々であった。
それの影響か、死を恐れない輩・・・そう、「死んでも戻れる」という考えの者まで出てくる始末。


しかし・・・それは、数年前・・・そう、「グラストヘイム発見」と共に覆される事となる。
急増するモンスターに対し、冒険者達の数が激減してしまうという事態が起きた。
死んでも戻れるはずの冒険者達が、その場で生き絶えてしまい瞬く間に減ってしまったという事件である。
近くに復活呪文「リザラクション」等を使えた者がいた場合は難を逃れたケースが多々あった。
が、しかし、使える者がいなかった場合そのまま死滅・・・土に還って行ったというケースが報告されている。

後にこの事件は「神の怒り」と呼ばれ、生命を冒涜した冒険者に対する戒めとして語り告げられている。
それ以降の冒険者は警戒心が強まり、死なぬよう、死なぬように行動する事が増えたといわれている。
危険な所に行く場合は復活呪文が使える者となるべく一緒に、というのももはやこの世界では定説だ。

しかしながら、魔物の復活は留まる事を知らない。
頭を潰せば終わる、そう考えた者達のBOSS退治はもはや数年に渡る。
だが、それが成就した者はこの世界にはいない。
そう。

BOSSも、いくら倒しても一定時間で復活を遂げてしまうのだ。

これに対する研究は進められているが、原因究明にまでは至っていない。
そう、この世界は謎が多すぎるのだ。



ファラオ「予が何故生きているか知りたいか、暗殺者よ」
シレウス「!?」
まるで今まで考えていた事を見透かされたかのような発言。
こいつ・・・俺の考えていることとかが見えているのか?
ファラオ「予はそちらと情報交換がしたいだけだ。そちらが手を出さなければこちらも手はださぬ」
・・・意外、あまりにも意外だ。
異常さを通り越して、ここまでくると笑えてきてしまう。
襲わないわ、情報交換を呼びかけてくるは・・・こんな経験は初めてだ。
シレウス(このきっかけとなっているとすれば・・・後ろの奴等か)
俺一人で来ていたのなら、このような場面にはまず会えなかっただろう。
何故だか判らないが、それに関しては確固たる自信があった。
之ほどのキーカードと一緒出来ていたとは・・・俺もまだまだ捨てたもんじゃないか。


こちらも手を出す姿勢が見えないのを確認して、ファラオが一歩、シレウス達へと近づいてくる。
ファラオ「数日前、お主等の住む街の方で異常な力のぶつかり合いを感じた。後ろの主等なら原因を知っているだろう」
ユキ(・・・こいつ)
話の切り出しからして、こいつが欲しがっている情報は多分・・・
アリス(禁術・・・の事ね)
異常な程の力のぶつかり合い。
それはつまり、先日起きた「禁術に手を出した者同士の戦い」のことを意味するのであろう。
ここまで離れているのに判るという所が驚きではあったが、何か彼らを動かすものがそこには存在しているのだろうか?
ファラオ「それについて教えて欲しい。予にはどうしてもその情報が必要なのだ」
こんな姿、誰が見る事が出来ただろうか。
あのファラオが、他種族・・・それも忌み嫌う存在である人に情報の提供をしてくるだなんて。
しかもその姿勢は、誰から見ても判るように必死なのだ。
芯からその情報を欲している・・・そんな後ろが見ても取れる。
イング「・・・判りました、僕から説明させて貰います」
ファラオの誠意が伝わったのか、三人の中から前へ出たのはイング。
イング「これは、僕達の体験的な話になります。」

そこから語られたのは、常識では考えられない境域の話。
「神速」、「死神」と呼ばれし者達の戦い、そして謎の「金髪の女騎士」の出現。
時の番人による決死の行動により、戦いが終わった事。
「死神」の多重人格、そして「神速」・「金髪の女騎士」のただならぬ関係。
自分達は、何も・・・出来なかった事。



話ながら、イングの表情は次第に曇っていく。
それは後ろの二人も同じようで、場の空気が非常に重い。
ファラオ「・・・そうか」
それに対し、ファラオの声は非常に何か有意義な情報を聞けたような、満足の行ったというのが判るような明るい声であった。
この話の中で、一体ファラオがどこを掴み、そして拾っていったのかはこちらからでは判らない。
しかしながら、表情を見ればこの情報は確かな+をファラオに与えた事は間違いないだろう。
場合によっては、ただの興味本位で聞いたという線だって否定はできないが・・・。
ファラオ「ありがとう、非常に興味深い話であった。代わりにお主等の欲しい情報を教えてやろう」
しかしながら今のファラオの声は、まるで幼い子供のような無邪気ささえ見えた。

まず語られたのは、シレウスに対する疑問であった。
シレウスがまず聞いた事、それは「何故魔族と呼ばれる高等モンスターは倒しても復活をするのか」という点であった。
ファラオ「それは、お主等が倒しているのはその魔族の分身でしかないからだ」
つまりこうだ。
いつも冒険者と対峙しているのは、その魔族の力を持った分身でしかないと言う事。
冒険者達の「頭を潰せば終わる」という理論はいいのだが、そこにたどり着く事さえ自分達は出来ていないのだ。
それに、分身とはいえその分身自体も非常に強力である。

反面、極稀であるが本体・・・つまり、張本人に会う事もないとはないという。
しかし会った際は・・・その冒険者は最期を迎える可能性は濃厚と見てもいいだろう。
もし、その時その魔族を倒せば、その分身も無くなり、その分身も力を失いやがて消えていくだろう。
代わりに頭を失ったその近くのモンスターは、怒りに身を任せて暴れ、街を、人を襲うだろう。
どちらかを取るかは、冒険者次第・・・という訳だ。


シレウス「そうだったのか・・・」
その線を予想していなかったと言うつもりはない。
しかし、分身と呼ばれるあの存在の強さを見れば、誰だってその線はありえないだろうと言いたいはずだ。
あれが分身なのだから、本体の方の強さ等考えるだけで身震いがしてしまう。
実際数十分は出現しないが一定間隔で出てくる魔族は、ほぼ分身と見てもいいらしい。
だが、その数十分の間は分身に力を込める為に出現はしない。
その込める時間は魔族の力や考え方に相当し、早く復活するからと言ってその魔族が弱いという訳ではない。
すべては、その魔族の考え方次第でいくらでもその感覚はずれると言う事だ。

そういわれると、魔族も人間チックな面があると言う事が伺える。
まぁ、それが良いとも限らないが・・・

シレウス「そうか・・・それについては非常に参考になった」
心から言える言葉であった。
今まで数年かけてきて追っていた事柄の一つがこんなにすぐに終わるだなんて少々予想外とでもいえる事態ではあるが。
シレウス「だが・・・もう一つ聞きたいことが」
ファラオ「判っておる、グラストヘイムの事であろう?」

やはり、心が読めるのか。
自分の中では次にここに刻まれていた「グラストヘイムの事」についてが気がかりであったのだ。
何故、一変まったく関係のないスフィンクスダンジョンにグラストヘイムの事が刻まれているのか?
ファラオが、何故あのグラストヘイムと関係があるというのか?
これについては、当事者にでも聞かない限り俺では解明は不可能といっても過言ではないだろう。
ファラオ「それはだな・・・」


ファラオが、グラストヘイムの事について話し始めようとしたその時であった。
イング「・・・?」
ふと、自分の上の天井から砂埃が落ちてきていることに気が付いた。
先程から降って来ていたのは気にはとめなかったのだが、今先程目に判る程に落ちてきている為に気にせずにはいられない。
なんだろうか、上で振動でもあるのだろうか・・・?
そう思いながら上を向いた時であった。

「ほあちょぉぉおぉおうっ」

ドコォン!

突如イングの頭上の天井が崩れ、砂埃の中から女性の高い声がこの静かな空間を占拠する。
その声は止まる事をしらず、そのまま・・・
「阿修羅覇王拳ッ!!」
イング「あ、あしゅら!?」
阿修羅覇王拳。
アコライトの上級職であり、聖なる力を精神力にて扱うプリーストと異なり聖なる力を肉体に宿し拳で戦う職業、モンク。
そのモンクの最上級、そして最強といわれる技がこの「阿修羅覇王拳」である。
世界において最上のダメージを与えると言われ、奥義と呼ぶに相応しい能力を備えた技だ。
しかし、使うと使用者は当分の間精神力を失うという諸刃の剣でもある。
イング「・・・というか、何でここにモンクが?」
状況的に間違った反応ではないと思うのだが・・・
その答えは、代わりにその本人が語る事となる。

「欠片を拾う者達が一人、モンクのスビィ、只今参上ゥッ!」

・・・
唖然とした表情を今自分はしているだろう、いやしてるはずだ。
そう心で思いながらそのギルドマスターであるシレウスを見てみると。
シレウス「お前・・・ば、ばっ・・・」
しどろもどろとなりながら、スビィと名乗るモンクの近くへと寄っていく。
あからさまな挙動不審、そして引きつった表情、しまいには冷や汗すらかいている様子。
スビィ「マスタぁ、スビィ、ばっちし決めてやりましたッ」
ビシッ!
そう擬音が入るような敬礼と同時に、スビィの笑顔がシレウスに向けられる。
だが、状況的にはまったく笑えず・・・
シレウス「ばっ・・・ばっかやろうがてめぇ!なな、な・・・なんてことしやがる!」


代わりに飛び込んできたのはシレウスのあせりの入った怒りの声であった。
それもそのはず・・・
「ファラオ、ファラオ、しっかりして下さい!」
側近であると思われるマルドゥークが、必死に倒れたファラオの介護を続ける。
その周りは、ただ何も言わず・・・殺気をひしひしとこちらへと向けていた。

それもそのはずだ。
何故なら、突如現れたスビィの攻撃は見事にファラオの顔面にクリーンヒット。
そのまま倒れこみ、軽く意識が飛んでいるという状況なのだから。
それはすなわち、それだけファラオの警戒心が解かれていた事も意味するが・・・
その状況での阿修羅・・・考えただけでもこの先が恐ろしい。
苦笑いをしながらギ、ギィ・・・と重い首をファラオの方へ向ける。
ファラオ「・・・暗殺者よ、その修行僧をよこせ。そうしないと、貴様等にも手を出さねばならん」
殺気。
その一言で済んでしまう程の殺気をこちらに向けながら、緩い速度でこちらに歩いてくる。
一歩、また一歩と足が勝手に後ろに動いてしまう。
スビィ「なんだぁ、やるかこのやろぅ」
シレウス「・・・黙ってろ、いいな、喋ったら今度からお前とは一切喋らん」
スビィ「あぅ」
とりあえずスビィを拗ねらしてはしまったが、何とか黙らす事に成功した。
かといって現状が良くなった訳でもなんでもない。
むしろ、わるくなっているといっても構わない状況だろう。
シレウス「落ち着いてくれファラオ、俺たちは決して・・・」
誤解を解かねばならない。
解いたとして相手がどう動くかはわからないが、それでもこちらの方が幾分平和的解決が望めそうな気がする。
だが・・・
ファラオ「これが一番の平和的解決だ、暗殺者よ。本来なら貴様等全員を始末している所だが?」
悔しいが、ごもっともな発言な事で・・・


我々は本来、暗黙の了解で手は出さないという事になっていた。
今、まさに俺たちは一方的にそれを破棄した訳なのだから。
相手からすれば俺らを見逃すかわりにこのバカ一匹差し出すだけで解決さしてやるというのだ、確かに最善の平和的解決とも言える。
だがそれは。。。
シレウス(あくまでお前等の考え方によるものだろうが・・・)
と偉そうな口をたたいても仕方が無い。
結局はこちらが招いた事態でもある訳だし、だがそれはこのバカの勝手な行動のせいでもあり・・・
・・・何かむかついてきた。
スビィ「い、いったぁー・・・何するんですかマスタぁ」
気が付くと、スビィに手を出していた。
まぁ、いいか。

ファラオ「・・・どうやら差し出すつもりはないらしいな」
相手も、どうやら手を引いてくれそうにはない。
ファラオ「残念だ、お前等に関しては恩すら感じていたのだが・・・これも定めかッ!!」
血相をかえ、攻撃をせんとこちらへと走り出していく。
こちらには連れてきた後ろの三人、そして阿修羅を放ち疲れているこのバカ、そして俺か・・・。
おいおい、どんな状況だよ。。。
挙句の果てに先程の話から推測するに、このファラオは分身でも何者でもない本物だろう。
だとすれば・・・
シレウス(・・・無理、勝てない)
いくら計算しようが、勝算等まったく出てきてくれはしない。
むしろ、面白いくらいに敗戦の結果ばかりがぼろぼろと出てきてくれたので気がより一層滅入る。
どうしたものか・・・


そうも考えているうちに、先陣を切るように側近であるバナサ達の接近は見ても取れるほどになってきた。
最低でもここらは何とかしないとまずいか。
覚悟を決め、判断し動き始めた俺が前に一歩出ると同時に。
ユキ「フロストダイバー!」
そう、後ろから威勢の良い声が飛び、目の前の通路に一枚のぶあつい氷の壁が出来上がった。
ユキ「もいっかいっ、フロストダイバー!」
補強目的なのだろうか、その壁にさらに氷の魔法を唱えてより一層壁は大きく、そして厚くなっていった。

フロストダイバー。
水属性の魔法で、対象者を一定確率で凍らせると言う効果をもつ魔法である。
冷凍状態となった場合対象者は何も出来なくなってしまうと言う、恐怖の魔法の一種である。

今回はどうやら対象を壁等に指定したらしく、そこら周辺を凍結させた結果大きな壁が出来た、という訳だ。
ユキ「ふぅ、これで大丈夫でしょ」
一仕事を終えた、という声で安堵を見せるユキ。
状況が一向に良くなった訳でも何でもないが、この行動は時間稼ぎには十二分なっているはずだ。
頭の良いマジシャンらしい、良い機転の発想をしてくれたと感心してしまう。
シレウス「よくやってくれ・・・」
よくやってくれた、そういうつもりだった。
だが・・・
ファラオ「この程度の壁・・・!」
一瞬で、かなり厚く張っていたはずの氷の壁が一瞬にして水蒸気へと化す。
その水蒸気の煙の中から、ゆっくりとファラオの一行が現れる。
・・・おいおい。
確かに先程の話からしてファラオがまずいのは判っている。
でも・・・それって反則じゃないのか・・・?
シレウス「くそっ、やるしかないのか・・・」
戦えば、こちらが無事に済む確立は無いに等しい。
だからこそ攻撃をするのも躊躇していたし、このフロストダイバーの効果をありがたいと思っていたのに。
どうする、正面からぶつかっては危ない。
ファラオ「遊びはこれで終わりだ・・・!」
どうすれば・・・!?



キィン・・・!
金属同士が激しい衝突をして鳴り響く独特の音。
ふと、その音を聞いて何故この音がしたのかが気になった。
先程まで見たくなかったファラオの方を見ると・・・
「お、落ち着いて下さい!」
目の前には、人間味のある外見をした、大きな鈴を持つモンスター・・・いや。
シレウス「月夜花・・・何故このような場所に!?」
魔族の一角、フェイヨンダンジョンの長、月夜花がファラオの攻撃を押さえていたのだ。
「ファラオ、落ち着くアル!」
異色の組み合わせに困惑していると、上の自分達が落ちてきた穴から新たな声。
その声の主が自分達に取り囲まれるような位置に降り立ち、ゆっくりとファラオの方へ歩いていく。
あれは、確か・・・
イング「鈴・・・?」
顔見知りなのか、後ろから名前らしき単語を発する声が聞こえてきた。
そう、確かあれは最近旦那が連れているという噂のあるムナックにそっくりだったのだ。
あの顔立ち等を見る限り、多分ではあるが俺の予測はあたっているだろう。
しかしながら、改めてみると・・・何がどうなってる?
鈴「ファラオ、落ち着いて聞いて欲しいアル」
その言葉以降、その鈴と呼ばれたムナックの声はまったく聞こえない。
ただ、こちらから見て何かファラオと話しているように伺えるのは確かだ。
何を話しているのかが気にはなったが、今動けば状況が悪くなるのは目に見えていたので動くに動けない。

数分経っただろうか?
話を終えたのだろう、ムナックが離れていくと同時に睨みを効かしたファラオの視線が自分達に刺さる。
ファラオ「・・・情報は感謝する。見逃す代わりに、今日の所はお引取り願うとしよう」
シレウス「・・・ッ!」
最期に見えたのは、ファラオのこちらに向けられた手であった。


ファラオ「そうか・・・客人は、一組ではなかった、と言う事だな」
そう納得したかのような声を上げながら、私達の方を向く。
ファラオ「久しいな・・・よく来てくれた」
次に出たのは、歓迎の言葉であった。



シレウス「俺たちは・・・そうか、助かったのか」
次に気が付いた時には、いつもの街・・・モロクへと戻ってきていた。
おおよそ、ファラオがここへ飛ばしてくれたと見るべきだろう。
安心してしまったのか、どっと疲れが出てきてその場にへたり込んでしまう。
イング「はは、は・・・何だかすごい体験でした」
自分と同じく疲れた表情を浮かべながら、率直な感想を聞かしてくれるイング。
考えてみれば、今日俺達はかなりすごい体験をしたといっても過言ではないだろう。
ファラオと出会い、世界が追いかける事実の一つを知り、そして・・・

スフィンクスと、グラストヘイムが何かしら関係がある、という疑問を貰ったという件。

三つ目に関しては到底我々では解決できそうに無いが。
ユキ「でもっ・・・なんで、あんな所に鈴がいたのかしら」
疲れているのだろう、舌足らずな口調で新たな疑問を投げかけてくる。
考えてみればそれも不思議だ。
確か月夜花がいなくなってフェイヨンダンジョンのモンスター達が暴れたという事件は記憶に新しい。
そんな内にその月夜花にあんな所で出会えるだなんて、それも改めてみればおかしな話である。
・・・あーもう、考えるだけで頭が痛くなる。
シレウス「とりあえず解散しよう、お前等も今日はすぐにでも布団に潜りたいだろうしな」
表情を見れば・・・という以前に、俺だってできることならば今にでも布団に潜りたい。
精神的に張り詰めたものもあったので、その気持ちは数倍にも膨れ上がっていた。
アリス「は、はいぃー・・・ありがとうございました」
軽い挨拶を俺にしながら、とぼとぼと疲れた背中を見せながら酒場へと帰っていく三人。
そんな背中を送りながら・・・
シレウス「てめぇは何ねてやがるこのバカ」
ゲシ。
横で眠りこけるスビィに一蹴り。
スビィ「朝ですかぁ、マスタぁ?ご飯作って下さいー・・・」
シレウス「いつから俺はてめぇのメイドになった、このバカ」
ゲシゲシ。
スビィ「痛い、痛いですマスタぁ!訴えますよ!」
その言葉・・・そっくり返してやるよ。
そう、心の中で呟いて。



イング「い、いやぁ、疲れたね・・・」
何日経ったかも判らない、時間間隔の失った体が軽い。
軽いと言うよりも、今にも意識が飛びそうでふわふわしているようにも思える。
ユキ「何故あそこに鈴がいたか気になるけど・・・スフィンクスは当分行けそうに無いわね」
そう、横で大きなため息が一つ。
あのようなことがあってまたスフィンクスに行こうというものなら、行こうではなく確実に逝こうの方になってしまうだろう。
そんな事、考えただけで身震いしてしまう。
自殺志願者でもないのだ、わざわざ命を落としにいく必要もないだろう。
アリス「ああ、やっと酒場が・・・ってあれ?」
酒場の方を見ると、入り口の近くで小さな人だかりが出来ているのが目に映った。
いや、人だかりというかこれは・・・
一人の女性騎士が、数人の男に囲まれてるのが確認できた。
一瞬自分達を見たような気もするが、何か慌てるような素振ですぐ視線を周りの男達にもどしてしまう。
ユキ「・・・助けた方がよさそうね」
今日はまだまだ、忙しくなりそうだ。


女性騎士「だからそういう目で私を見ないで貰えますか・・・?うぅー・・・」
困り果てた表情をしながら、胸辺りに手を当てて男数人をきょろきょろと見ている忙しない女性騎士。
スタイルが常人よりもかなり良いのか、それのせいで声をかけられているようだ。
かといって騎士の方は迷惑でしかないらしく、表情は一向に良くはならない。
イング「ああ、こんな所にいたんだ、探しちゃったよー」
女性騎士「!?」
驚いた様子でこちらを見る騎士をよそに、友達のような雰囲気を出しながら騎士へと近づいていく。
アリス「ほらほら、早く、中にはいろっ」
女性騎士「え、ええっ!?」
声を上げる女性騎士を、無理やり酒場の中へと連れて行く。
当然周りにいた男達が黙っている訳でもなく、血相を変えて酒場の方へとぞろぞろと列を作り後を追って来る。
アルテナ「今は休憩時間だよ?お客はまだ入れないから帰った帰った」
そう言いながら、扉の看板が「CLOSE」の文字へと変わる。
その店の中では、ユキが静かにお茶を美味しそうに飲んでいる。
男「おい、じゃああいつは・・・」
カタリナ「あら、しつこい男は嫌われるわよ?・・・さっさとかえってくれないかしら?」
にこっと軽い笑みを見せながら、店の中から出てくるこの酒場の経営者、カタリナ。
さすがにこの大男を目の当たりにしてこれ以上言い合うつもりはないのか、とぼとぼと散り散りになっていく男達。
そんな男達を高みの見物がてら見ていたユキが、目の前の女性をじぃー・・・っと見つめる。

ユキ(・・・いいなぁ、すごいスタイル)
思わず、いっぱしでも女性の私から見ても見とれてしまうくらいの綺麗な顔立ちとスタイルであった。
これで性格等もよければ、まさに超人ではないだろうか?
そう思ってしまうほどに、外見が完璧であった。
あの男達が寄ってきたのも気持ちがわからない訳ではないとさえ思うほどだ。
女性騎士「え、えぇっと・・・ありがとう、ユキ・・・さん」
・・・ん?
ユキ「何で私の名前知ってるのよ?」
ふとした疑問がそう浮かんだ。
初対面の人のはず、それなのに何故私の名前を?
女性騎士「ええ、えとですね、あのその、貴方達はよく噂で耳にしてましたから」
噂・・・
ああ、言われてみれば、スフィンクスに行く前にシレウスも「お前等が噂の・・・」だの言っていたような覚えがある。
そう考えると、地味に私達のことは知られてしまっているのかもしれない。
女性騎士「実は私、ここに用事がありまして来ました」
すっと、ゆっくりとイスから立ち上がる。
頭の上ではネコの人形が乗せてあり、人形ながら居心地のよさそうな表情を浮かべている。
頬は軽い赤みを帯びており、そこがまた外見のよさを引き立てている。
イング、私、アリスを見渡しながら、女性騎士の口が動く。

女性「こちらに、ムナックを連れたシーフはいらっしゃいませんか?」



〜つづく〜




あとがき
どうもー、垂れネコは紫箱から狙おうと決めたブリジットでございます。

さて、新章「シレウス編」はまだまだ続きます。
新たな新キャラとしてモンクの「スビィ」、女性騎士が登場致しました。
ここらがどのように話を展開させていくかが見ものですね。

様々な真実を目の当たりにしたシレウスは、今後どう動くのか?
ファラオと、鈴やヤファは一体何を話すのか?
そして、ファラオとグラストヘイムの関係とは?

謎が謎を呼ぶラグナロクオリジナルストーリー、まだまだ続きます。
どうぞ、夏休みが終わっても皆様とお付き合いできると幸いでございます。
それでは♪



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