ラグナロク・オリジナルストーリー題参壱拾弐話―真実―



女性騎士「はいぃ〜・・・こちらにいらっしゃると思うのですが」
ムナックを連れたシーフ。

そう、確かあの夜一緒の部屋で寝た二人組である事には間違いない。
片方はシーフ・・・そう、確か一時期とあるトラブルの一件であの時迫ったのを覚えている。
もう一人の連れのムナックも、後々から自分はブリジットに仕えている身らしい事も聞いた。
まぁ簡単に言うならば、お供といった感じだろうか。

周りは知らないが、言うなればあの二人はブリジットに今まで1番近い存在だったといっても過言ではない。

そんな彼女達に近づこうとしているこの騎士・・・
ブリジットの知り合いというならまだしも、警戒をしておいた方がいいのではないだろうか?
でもなんだろうか、頭の中でのその答えとは裏腹に何故か落ち着けている自分がいるのもまた事実。
彼女のそのほわんとした温かい雰囲気からなのだろうか、それともその容姿故なのだろうか・・・?


ああもー、訳が判らなくなってきた!



カタリナ「ああー・・・お嬢ちゃん、その二人の親元はブリジットという騎士よ、これ以上は言わなくても判るわね?」
ユキがもうパンク寸前というのを危惧したのか、後ろで見ていたカタリナの助け舟が間に割って入る。
表情からしてどう考えても話に入るつもりはなかったようだが、ユキの状況を見て仕方が無しといった所か。
女性騎士「はい、存じております。だからこそ来たのです」
まだうんうんと頭を抱えるユキを尻目に、にこっと軽く笑みを作る。

ブリジットが関係しているからこそ来た。
・・・となると、この人は彼を目的にしているといっても過言ではないのでは。
イング「ええっと・・・一体、貴方は何者なんですか?」
無粋ではあるが、1番的を得たかのような質問が飛ぶ。
そう、助けはしたがこの騎士、先程から一向に自分の事をかたろうとはしない。

とはいえ、自分達も彼女に質問をしなかったから答えるタイミングすらなかったというのが正しいのかもしれないが。
どちらにせよ、彼女について軽く聞いておくのも構わないだろうと思う。


スビィ「とーぅりゃぁーーーー」

ズガァッ!っと勢い良く酒場に入り込み、これでもかというくらいに机やイスを跳ね飛ばしながら一人のモンクが入り口からタックルをかます。
その勢いやら凄まじいもので、周りの女性の髪の毛が一瞬で上に逆立つほどだ。
まさに目の前でロードオブヴァーミリオンを撃たれたかのような・・・
じゃ、なくて。
イング「す、スビィさん!?」
スビィ「でーすッ、モンクのスビィ、只今参上ですッ」
相変わらず元気な人だが、状況的にあまり微笑ましくない、ていうか危ない。
・・・って!
そのタックルを思いっきりくらってしまった人は大丈夫なのか!?
ユキ・・・ああ、マジシャンだし危ない。
アリス・・・いや、これもまた危ない。
カタリナさん・・・うん、カタリナさんなら大丈夫そうだ。
その、スビィが立っている所の先を細めで恐る恐る見ると・・・


女性騎士「ああ、えっと・・・あ、はい、どうもです」
ぺこっと、少々焦り気味にスビィに頭を下げる女性騎士。
何故大丈夫なのだろうという疑問も浮かんだが、流石に日々鍛錬をしている騎士ならば大丈夫なのだろうか・・・?
それか、彼女自身かなりの実力者なのかもしれないな。


不思議そうに騎士を見るや否や、すんすんと次は犬が何かを嗅ぐかのような動作をしながら騎士に鼻を向ける。
女性騎士「あ、あのぉー・・・」
それが気恥ずかしいのか、苦笑いをしながらゆっくりと手でスビィを追いやろうとするもその行為はなおも続けられている。
流石にこれ以上はどうか、と自分が割って入ろうとした時だった。
スビィ「・・・はて、貴方、どこかで私に会いませんでしたか?」
んー・・・?と疑問符の出るような表情のまま、じぃーっと女性騎士の目を見つめる。
その眼が嫌なのだろう、両手で自分の顔を隠しながら周りをきょろきょろと見渡していた。
シレウス「あー・・・まった訳のわからねぇ事しやがって・・・すまんな」
入り口の開く音と同時に、少しばつの悪そうな表情を浮かべながらアサシンが中へ入っていく。
そして、凝視したまま動かないスビィの頭を思いっきりげんこつで殴る。
スビィ「〜〜〜〜〜〜〜・・・ッツァー・・・!」
頭を抱えて蹲るスビィを尻目に目の前の女性騎士とふと眼が合う。
・・・
数秒経った時だった。
シレウス「失礼お嬢さん、どこかで俺と会いませんでしたか?」
女性騎士「い、いえ?多分初めてだと思いますがぁ・・・」
今日は、何やら似たような事を言う人が多いんだなぁ。
ふとした偶然の一致に、少なからず疑問をもたざるを得なかった。



シレウス「ああ、なんだ、ちょっと旦那もここにいるだろうし、ちょっと情報を幾つか頭に入れておいて貰おうと思ってな」
そう言いながら懐から取り出したのは数枚の紙切れ。
無論ただの紙切れではなく、その表にはびっしりと文字がぎゅうぎゅうと押し込まれたかのように書き込まれている
多分、メモ書き程度に綴ったものの集合体と考えるべきなのだろう。

本来酒場は、冒険者の休憩の場であり情報が1番に飛び交う場所である。
その場所を勤める店側には当然コネがあればの話ではあるがこうして情報を持つ者が情報提供に伺ってくれる事があると聞いた事がある。
無論シレウスさんのようにそれが本業としている人からのもあれば、たまたま来た冒険者からというのもあるだろう。
そのような場だからこそ、店にも知識がないと困るのだ。

シレウス「えっとだなぁー・・・これは旦那に伺いたいんだが・・・というか、本当に旦那はいるのか?」

あまり言っている意味が飲み込めない、何とも曖昧な質問。
今いないのかとか、そういった質問はわかるが「いるのか」という言葉は余りにも不可解な言葉ではないだろうか?
それじゃあ、まるで存在すらを伺っているような・・・
カタリナ「それなんだけど・・・ちょっと前の事ね、急に姿を眩ましてからまったく会えてないわ」
言うか言うまいか迷った上での発言だろう。
こちらを少し気にしながらも、落ち着いた声でシレウスにその事を伝える。
無論、僕達にもその言葉は向けられていると言ってもいいだろう。
ユキ「・・・なっ!?」
カタリナ「ユキ、落ち着いて聞いて頂戴。他の皆もね」


ついちょっと前の事だったわ・・・。
夜、急に彼の寝ているはずの部屋から眩い光が放ったと思うと次に飛び出すようにあのムナックが下に下りていったの。
その時、フェイのお仲間のプリーストに会って少し何か話しをしたようだけど・・・
後々捕まえて話を伺ってみたら、どうやら彼がいなくなってしまったって言うのよ。
それも、ぶらっとちょっとどこかに出て行ったとかそういう次元の話じゃないみたい。
まるで・・・そう、存在自体が消えてしまったような。
信じがたい話だったけど、いつも一緒にいたあのムナックやシーフの表情からしても嘘だとは考えにくいわ。

翌日にその話を伺おうかとも思ってたんだけど、そうしたら次はそのムナック達もいなくなっちゃってね。
あの子達の事だから、多分それに動揺して探しに行っちゃったとも考えられるわね。
実際この酒場としては嵐のような出来事だったけど、どうしちゃったのかしらね・・・



カタリナ「ムナック達の方も心配。だけど、肝心の彼も不透明でまったくわからないから心配ね」
・・・簡単に言えば、カタリナさんもブリジットさんのことを探したと言う事か。
シレウス「そうか、それを聞いてやっと判った・・・なんかなぁ、巷でもそれが噂になっているんだよ」
シレウスからのほうからは、何故だか判らないがブリジットさんの死亡説が急に出回っていると言う事だった。
どうやら数日前にモロクの大激戦を何者かが見ていたらしく、重傷を負ったブリジットさんを見ていてのことだろう。
シレウス「まぁ、好き放題やってる奴等にとっちゃ好都合だわな。正義面して今まで邪魔してきた奴がいなくなったんだ」
今まで自分に睨みを効かしてきた存在がいなくなる。
それは即ち、彼等の自由を意味する。
シレウス「それが元での心配が懸念される中、彼に代わる存在が出てきて話題をよんでいる」


世間ではあれだ、奴の亡霊とも生まれ変わりとも呼ばれている。
突如姿を表したその存在は、外見こそまったくちがうなれどやっている行動等は何もかもほぼ同じ。
職業までは特定できなかったが、見た奴によると武器を持って前衛職とやりあってたと言う点から前衛系・・・
つまり剣士系か盗賊系・・・場合によってはモンク等も考えることが出来ると思われる。
判っている事はもう一つ。


シレウス「それが、女性だと言う事だ」
女性・・・ならば、確かにまったく外見が違うというのは当たり前の世界になってしまう。
シレウス「まだ情報がごちゃごちゃしててなぁ、こっちも情報がまとまりきれてないんだ」
風のように一つのニュースが飛び、そしてまた新たに一つのニュースが世界を駆け巡っている。
情報を提供する側としても、確かに今は判断の難しい所なのだろうか。

当然ながら、聞いていた僕達にとってもこの話は他人事ではない。
ブリジットさんはどこにいったのだろうか?
そのブリジットさんと同じような行動をしているその人物は一体誰なのだろうか?
カタリナさんの話から推測するに、前者の方は僕達では解決できそうにない。
先ほどWISをしたのだがまったく繋がらず、終いにはあのシレウスさんとてお手上げといった状況。

なら話は早い。
もしブリジットさんの消息を知りたいのなら、同じような行為をしているという後者の女性を探す。
それ自体も困難ではあるが、前者よりかは確実に可能性は高い。
・・・いや、待てよ?
ユキ「・・・あんたは、一体何が目的?」
自分の考えをいち早く頭の中で叩き出したのか、まだ語らない(語る暇がなかった気もする)女性騎士にそう問い掛ける。
そう、このタイミングに伺ってくるこの女性騎士。
あたかもブリジットさんが予めいないのを判っていたかのような素振。
そう。

言うなれば、彼女が今現在1番近い手がかりと言えるのではないだろうか。

あくまでこれらは全て推測にすぎない。
だが、もし読みがあたっているとすれば・・・これは、非常に大きな前進となり得るだろう。
少し黙りながら自分達を見渡した後、観念したかとも取れる一つ小さなため息をつく。
再度開いた目には、微弱ではあるが力が篭ったような感じが伺える。
女性騎士「私は・・・貴方方も知っているブリジットさんから、伝言を承ってきました者です」
アリス「伝言・・・ですか?」
早い進展とでも言うべき発言だ。
つまり、この人はブリジットと深い繋がりがあると言う事を今この場で暴露したと言っても過言ではないのだから。

ずっと近くにいたであろうあのムナック達でさえ見つけてない彼に接触し、伝言まで承ってきているのだから。
彼女の位置が、かなり近いことをそれは意味するであろう。
女性騎士「率直に言います、今彼は身動きが出来ないほどの深い傷を負い休養中です」
それはしっている。
何せ僕達はその重症を負ってしまった光景を目の当たりにしていたし、この宿で寝たきりだというのも知っているのだから。
なら何故わざわざ周りに何も言わずにどこかに行ってしまったのだろうか?
女性騎士「次に、彼は普段から様々な敵に睨まれています。寝込みを襲われてはこの宿にも迷惑をかけかねないと判断したそうです」
確かに、あの状況では反撃できるかどうかさえも怪しい。
そういった面を踏まえても、その考えはわからない訳ではない。
では・・・


ユキ「なら、だからなんで誰にも言わずに消える必要があったのよ!」
感情的になりつつあるユキの大きな声。
そう、姿を眩ませなければいけない理由は判るのだが何故あのように急に、しかも回りに何も言わずに消える必要があったのか。
そこが今一わからなかった。
結果としてムナック達はどこかに行ってしまうし、自分達もそれは心配をするというものである。
女性騎士「貴方方は・・・彼が、問題ありというか・・・人外の力を所持している事を知っていますよね?」
あちらがそう聞いていると言う事は、彼女もそれについてはしっていると言う事だろう。
自分達は隠すことなく縦に首を振った。
カタリナ「私とかに関しては、その力を所持しているフェイと知り合いだしね。今更って感じよ」
女性騎士「フェイ・・・ああ、あのフェイ=ヴァレンタインですか。最近力に目覚めた方ですね」
そこまで筒抜けなのか、少々驚いたようにカタリナがごまかすかのように一杯水を飲んだ。
女性騎士「話を戻します。二つ目の理由に、彼はその人外の力を得た者に命を狙われています。なので、姿をくらましました」
と言う事は、あのフェイさん等の力を持った人に命を狙われていると言う事なのだろうか。
ただ、その狙っているという枠にフェイさんが入っていない事を願うしかない。
仲が良かったというし、見た感じ悪い人には見えなかったのでそうだと信じたいという気持ちがあった。
シレウス「力を持った奴は何人いて、何人程度が旦那の敵なんだ?」
聞いている側としては、今彼がどれだけの危機に瀕しているかが今一ぼやけてしまっている現状。
その不透明さを解消する一つに、どれだけの危険な存在が彼を狙っているかという点が上げられる。
シレウスの中では、次のような計算があった。


―力を持つ者で知っているのは、神速・・・と呼ばれた(らしい)フェイ=ヴァレンタイン。
奴に関しては最近になって急に手配書の値段が上がったというのもあり、さらにイング達との会話もある。
そう、俺の中では奴は確実に「黒」という判断をしている。

もう一人は玉藻前。
こいつもはっきりまず断言するが「黒」だ。
何人か情報提供者がいたが、はっきりいって人間とは思えない。

そして旦那。
あれはー・・・もはや説明とか、考える余地すらいらない気がする。


他に幾つかめぼしい情報がない訳ではないが、このニ格以外は今一ぱっとした情報が得られていない。
しかしながら、そこで俺らが昔から調べ上げていた情報の出番と言う事だ。
もし、あの過去の話が本当であるならばこの世界には12の人外なる存在がいたとしている。

ここからは俺の仮説だ。
もしかするとなのだが・・・彼女(彼)等は、その「人外」の力を受け継いだ存在なのではないだろうか?
長くこの歴史について調べた者だからこそ、この仮説には幾多もの裏付けが頭の中でなされているのだ。
もしそうだとした場合、この世界には12の力があるとされている。
この三人以外・・・いわば、九つの力がこの世界のどこかにあると推測される。
もしこの場でこの騎士が九といえばこの仮説は完全な正解といってくれるかもしれないのだが・・・


女性騎士「それは判りません・・・。それに、どれだけいるかは彼もまだ判っていないようです」
・・・く、この仮説は練り直しか。
旦那がまだ判断しかねているという点からして、もしかすると結構な数がいるかもしれないって事か?
そうだとすればこの仮説はまったくもって違うと言う事になるな・・・。
くそ、久々にはまった仮説だと思ったんだが。
あー、今日はそれだけで一日が終わりそうな予感がする。



ユキ「てことはつまり・・・ブリジットは無事なのね?元気にしてるのね?」
女性騎士「はい、安静にしています。だからこそこうして私と会話する事も出来ましたし」
ブリジットが無事で元気にやっている。
その言葉を聞いて、自分の中で爆発しそうだった何かが収まっていくのを感じた。
だがそこに変わりに残ったのは言いようもない不安。
久々に会えたら変になってるし、重症を負って意識はなくなるし、終いには目の前から消えてしまうなんて。
どうしてあいつはふわふわとして、すぐ手の届かないどこかにいるような印象をもたずにはいられなかった。
女性騎士「ユキさん。彼から・・・心配しなくてもいい、すぐユキや皆の目の前にまた姿を出すさ、と承っています」
ユキ「そ、そう」
何もかもを求めるのはよくない。
今は、アイツが元気に休養中だというこの点を喜ぶべきなのだろう。
女性騎士「・・・ユキさん、彼の事が好きですか?」
ユキ「はぇ!?」
とんでもない不意打ちにしどろもどろとするユキ。
そんなユキを静かに見守りながら、女性騎士がやさしく微笑んだ。
女性騎士「ありがとうございます、あのようなろくでなしを好いてくれて。彼に、その気持ちが伝わるといいですね」
様々な問題を知っているからこそ、彼女の口からその先にあるであろう試練は何も話さない。
にっこりと、そのままぐっと両手を握ってみせる。
この騎士も騎士なりに、ブリジットのその生活ぶりやその他を心配していると見て取れる一面だった。
・・・まぁ。
ユキ「ち、違う、違うわよ!?」
当の本人はこれだけど。



ガシャン!!
突如鳴り響く、ガラスが割れ床にガラスの破片が飛び散る音。
シレウス「何の!」
シレウスの反応は早かった。
飛んできた何かをすぐさま切り伏せ、その何かが飛んだ元へとすかさず走っていく。
窓の外にいた存在・・・そう、つまり攻撃を仕掛けてきた者の正体は。
アリス「あれは・・・レイドリックアーチャー!?」
本来グラストヘイムに存在し、レイドリックとの連携の元的確な弓攻撃をこなす後衛役。
そんなモンスターであるレイドリックアーチャーが何故このような街中に存在しているのだろうか?
いや、違う。
それだけじゃない・・・何かとてつもなく嫌な感じがここにいる冒険者達の神経を刺激し始めた。
シレウス「・・・くそっ、気をつけろ、まだ結構な数がいやがるぞ!」
その言葉通りに、入り口からご丁寧に一匹の黄色の色をしたペコペコに乗ってペンギンが猛スピードで酒場に入ってきた。
適当に近くにあったテーブル等を蹴り飛ばし、自分達を確認するや否やペンギンは降り、じりじりとこちらを標的と定めたかのように近づいてくる。
カタリナ「ガラパゴとグランペコね。ちょっとあんた達じゃちょっときついと思うわ、ここは私達に任せて裏から外に出なさい」
いつのまにか取り出した大きな斧を持ち、その魔物とイング達との間に立つ。
カタリナがそこに立つと同時に、警戒してなのだろう魔物も進むのをやめカタリナとのにらみ合いが始まった。
スビィ「こっちですッ」
此処はカタリナ一人に任せても大丈夫と判断したのだろう、スビィがイング達を急かしながら裏口へと走る。
出て行った姿を確認しながら、カタリナの目がより一層険しいものへと変わっていく。
それもそのはず、今先ほどまでいた二匹のほかに、さらに姿こそ見せないが結構な数がこの酒場を包囲しているのが判ったのだから。
アルテナ「大丈夫よ。私があなたの背中を護るわ」
アサシンの姿をしたアルテナが、短剣を両手にもちアルテナの背中へとぴたっとくっついた。
カナリナ「あら、すまないわね。じゃあちゃちゃっとやっちゃいましょうか」
アルテナの姿を確認してなのだろう、幾分緊張がほぐれたかのようにカタリナの威勢のよい言葉が始まりの合図となった。
カタリナ「おらぁぁぁあああ!」
周りの倒れたテーブルが吹き飛ぶかと思われる程の風圧がモンスター達を襲う。
それに気圧されることなくカタリナに襲い掛かるモンスター達。
アルテナ「旦那にゃ触らせないよ!」
そこにすかさずアルテナの短剣がモンスターに襲い掛かり、モンスターに致命傷を与えていく。
流石は夫婦と言った所であろうか、他の者には真似できないようなコンビネーションが繰りひろげられていた。



スビィ「あ、ありゃぁー・・・こ、これは酷いですね」
裏口から出たスビィの第一声。
目の前に広がるは、まさに凄まじい光景であった。
何処から沸いてきたのだろうか、埋め尽くすほどのモンスターがモロクにたまたまいた冒険者達と戦っている光景。
運がよければシーフギルド経由でアサシン達が駆けつけるかもしれないが、それでもこの数はかなりのものであった。
スビィ「・・・一体何が」
その言葉が、突如切られる。
暑い、何故だか知らないがこの場だけが異常に暑い事が気になって仕方がなかった。
本来砂漠地帯であるこのもろく方面は暑いのは当然だが、そういった次元を超えた暑さが自分達を取り巻いていた。
ユキ「・・・な、何よあれ」
ユキが、一言だけ驚きの声を上げた。
目の前の少し遠い所で、二人の冒険者が無残にも倒れている姿が確認できた。
だが、ただの倒れ方ではない。
両者とも、体の何処かしらの部分がまるで何かに飲み込まれたかのようになくなっているのだ。
・・・あれでは、あの冒険者はもう助からないと見て間違いはないだろう。
スビィ「イングさん、ユキさん、アリスさん、すぐこの場から離れて下さい。騎士さん、お任せできますかねぃ?」
先ほどまでのシレウスとのやり取りでは到底見れることのないであろう、スビィの戦闘態勢にはいったと思われる顔つき。
成る程、流石にあの有名なギルドに所属しているのは嘘とは思えないほどの気迫が彼女を覆っていた。
近くにいるだけで、彼女がかなりの実力者である事が伺えた。
女性騎士「行きましょうか、こっちです」
スビィ「ここはお任せ下さいッ」
スビィの警戒する姿を後ろに、モロクの街中へと走っていく四人。
その後ろでは・・・
スビィ「やはり・・・ラーヴァゴーレムですね」
数匹の火花をあたりに落とす火の結晶・・・ブレイザーを傍らに置き、ゆっくりとスビィに向かってくる溶岩の塊。
名をスビィの言った通り、ラーヴァゴーレムというモンスターである。
本来ノーグロードダンジョンにしか存在しないモンスターである。
前に横たわる冒険者達も、おそらくラーヴァゴーレムと戦い体をこの溶岩で溶かされて絶命したに違いない。
・・・こいつを、これ以上ほうっておけば被害は増えるばかりだろう。
静かに気を集中し、それに呼応するかのように気が一つ・・・また一つと、球体になり自分を囲んでいく。
ラーヴァゴーレムが目の前まで迫ってきた時には、その球体はすべてで五つ、自分を護るように囲んでいた。
再度、今倒さなければいけない敵を改めて睨みつける。
・・・これ以上暴れさせない!
スビィ「欠片を拾う者達が一人、モンクのスビィ、あなたに引導を渡させて貰いますッ!」



女性騎士「・・・はふぅ、多分これ・・・枝だと思いますよ」
離れてから数分。
騎士の口からふと出た言葉は「枝」という単語であった。
この場合だとどう考えても古木の枝を指すと思われるが・・・それはつまり。
イング「これ、誰かのテロですか・・・」
たまにいる、テロの存在。
世の中も広いもので、この枝を使いモンスターを召還、人が死んでいく姿を見て楽しむ人達が存在する。
そういった人達を総称して「テロ」と呼んでいるのだが、今回の件もつまり誰かが枝を使いテロを起こしたと言う事か。
女性騎士「!」
咄嗟に取り出した騎士の剣が、何かを弾いた。
女性騎士「イングさん達、すみませんがこのテロの首謀者を見つけてきてください!そうしないとこのテロは一切収まりません!」
また、その言葉と同じくして剣が何者かの攻撃を弾いた。
女性騎士「早く!この場は私に任せてください!」
それを最期に、今度はその何かに向かって騎士が果敢に切り込んでいく。
今まで素早く動いていた存在が、避けることが出来ずにその剣を今度はうけることになった。
イング「・・・次は彷徨う者か!アリス、ユキ、いくよ!」
彷徨う者。
骸骨の頭をしたモンスターであり、その愛刀から繰り出される剣技で数々の冒険者達を葬ったとされるかなり強力なモンスターである。
また魔力も高く、冒険者を連れ去ってしまうと言う技まで使い過去問題になったというケースも聞いている。

そんな彷徨う者を相手に自分達で歯が立つとは到底思えない。
悔しいが、この場はあの騎士さんに任せて今自分達は犯人を見つける程度しか出来ないだろう。
イング「力・・・かっ、くそっ」
自分のこの未熟さを、嘆いた瞬間であった。



イング「犯人見つけるったって、まずはどうしたら・・・」
何とかモンスターのいないところを潜り抜けて、ひとまず安全そうな地帯へと避難する事に成功した一行。
この周りには自分達と同じく避難してきたり、傷ついて休憩をしている冒険者達がいるつまり休憩所となっていた。
人ごみを見つけ、ここなら何かしら情報を得られると思ったのだが・・・
「モンスターはスフィンクスの方から来たぞ・・・もしかして、ファラオがついに動き出したんじゃないか?」
近くにいたウィザードの、ふとした一言。
確かに、枝でなくその手も考えられないとは言い切れないが・・・
それに前の件もある、あながち間違ってないとも言い切れない不安感もある。
「そんな訳ないじゃない、スフィンクスには明らかにいないようなモンスターまでいるのよ?」
指摘をされたウィザードは、そうか・・・と一言漏らしまた座り込んでしまう。
やはりこの話からすれば、今回のは枝だと言う事か・・・。
しかもこの数、かなり悪質と見て間違いないだろう。
「スフィンクス・・・というと、俺四人くらいピラミッド前で溜まってるのみたぞ」
そう発言した騎士に、一斉に注目が集まる。
当然ながら自分達も、その発言をした騎士をつい凝視してしまった。
もしかするとその一行が犯人かもしれない・・・
そんな考えが、誰の表情からしても明らかに見える感じがした。
「・・・確か、若いBSの女にアサシン一人、シーフ一人、後プリーストがいたな。ファンシーな敷物したから目立ってたよ」
となると、大体が前衛で固められたグループと言う事か。
・・・あれ?
「シーフが何々ッスとかッスが多くて五月蝿かったな。プリーストは確か黄色い顔みたいなギルドエンブレムだった」
・・・あれあれ?
黄色い顔みたいなエンブレム?
ッスが語尾につくシーフ?
んでもってアサシンが近くにいて、女性のBSが近くにいる・・・?
ユキ「確かさぁ、あのフェイとかいうアサシンのギルドエンブレム、黄色い笑った表情のエンブレムよね」
嫌な予感がする、と顔に書いてあるかのようにユキが聞いてきた。
そう、確かフェイというあのアサシンも似たようなエンブレムをつけていた覚えがある。
何より・・・
アリス「確か、ハンクさん達ってまだモロクにいるのよね・・・まさか?」
いや、違うと思いたいが・・・が。
まずい、思いっきり嫌な予感がする。
その時、ぐいっと裾をアリスに引っ張られた。
アリス「行きましょう、イング。もしかするとだけど、もしかするわよ」
イング「・・・だね、行こうか」
多分彼等だとすれば、これは何かしらの事故である可能性が高い。
こうして流れてきているって言う事は、彼等自身今危険な目に合ってる可能性だって高いのだ。
イング「ハンクさん達、大丈夫かな・・・」
脳裏にかすめる嫌な光景を振り払うかのように、一行はスフィンクスダンジョンを目指した。



アリス「いた!あれってハンクさんじゃないの!?」
走ってから数分。
スフィンクスダンジョンから酒場の丁度中間地点あたりであろうか、アーチャースケルトンを一蹴するハンクの姿が見えた。
実際彼等は見たことのないアサシンのハンクの姿に、本当に本人なのか今一核心が取れない。
ハンク「イング!?」
イング「ハンクさん!?」
身近で叫ばれて驚いてしまったが、やはりこのアサシンの正体はハンク本人だった。
近くに来れば、その面影からハンクだと判断するのは容易い。
そんな自分とは打って変わって、見る見るうちに切羽詰った表情へとかわるハンク。
ハンク「酒場も襲われたのか!?」
自分達があの酒場にいた事を知っていた事を思わせる内容だった。
今現在カナリナさんとアルテナさんが戦っている事を告げると、焦るかのように酒場の方を見る。
ハンク「くっ、俺はカタリナの所へ向かう。お前らはあまり無茶しないようにそこらへんに隠れてろ」
イング「あっ、でも、あのっ」
すぐにでも飛び出していきそうなハンクを、何とか呼び止める。
少しイライラしたような、焦りに満ちた表情でこちらを見るハンクの顔。
いつもではまず見れないであろう表情だ。
イング「この騒ぎの原因ってハン・・・」
むがっ!
その先を言う前に、咄嗟に伸びて来たハンクの手にふさがれてしまう。
・・・どうやら、これが答えのようだ。
ハンク「しーーーっ。詳しい話は後でするからとりあえず余計なことは言わないようにっ」
確かに、万が一この事を他の冒険者に聞かれたらどうなるかなど考えなくても判る事だ。
この場は言わないのが正解だろうと、相手にこくこくと判ったと言う意思を示す。
よしいい子だ、とゆっくりと自分の口から手を離すと束の間、後ろでみていたユキが機敏な動きを見せた。
ガンッ!と大きな音を立て、ハンクがそれは痛そうに後頭部を押さえて蹲る。


ユキ「この馬鹿っ、何しでかしてんのよっ」
まったく、この一味は本当にまともな行動を起こさない。
こいつ等のせいでどれだけの被害が出ているのか判っているのかしら?
ユキ「ほら、さっさとカタリナの所に行きなさい。イング、私達もならあの騎士のところに」
時間はない。
彼女の実力がどれほどまでかわからないのにあのような強いモンスターを任せてしまって、心配でしょうがないのだ。
イング「うん。アリス、速度お願い」
同時に、体が普段よりも軽くなった感じになる。
相変わらずアリスの支援は手際が良い・・・誉めたい所だけど、それよりも急がなくちゃ・・・。
イング「ハンクさん、店の方お願いしてもいいですか?」
このバカが酒場に行くのなら、こちらとしても気持ち的に楽なのだが・・・
ハンク「あぁ、だけどお前たちは?」
どうやら、こちらの方に戻ってきたのは酒場が目当てだったようだ。
さも当然のような言葉が、すっと出てくる所でまた殴ってやろうかと思ったがやめた。
イング「知り合いが自分達の代わりに戦ってくれているんです」
ハンク「そうか。気をつけろよっ」 イング「ハンクさんも」
パチン!と威勢の良い手と手の叩く音が合図となり、お互いは行くべき場所へと走っていく。
犯人はあいつら、内容もどうやら事故。
ならばこれ以上モンスターも増える事はないし、後は援軍がくるまでの各自の持久戦と言う事だろう。
・・・あいつがいれば。
そう一瞬でも考えてしまい、それを振り払うかのようにさらに走る速度を速めた。
ユキ(何・・・やってんのよ、あんたはっ!)



女性騎士「あなた・・・何をしているんです?」
イング達がいるとは程遠い場所。
そこで、あの女性騎士は一人のモンクと対峙していた。
シレウス(・・・こいつが真犯人か?)
女性騎士と対峙するモンクの手にはそれは沢山の枝がもたれていた。
誰の目から見ても、彼女が犯人であると言う事は否定できないだろう。
モンク「見て判りませんか?良いお祭りになっているようなので、追加してあげようと持ってきたんですよ」
しれっと恐ろしいことを言い放ちながら、枝を一つ、また一つ遠い所へと投げる。
落ちると同時に枝は折れ、代わりに出現したモンスターが他のところへと徘徊していく。
女性騎士「あなたがテロの犯人ですね・・・ならば、あなたを拘束します」
先ほど以上の殺意を放ちながら、剣を握り締める女性騎士。
モンク「・・・ほざけっ!」
人とは思えない速度で、女性騎士の腹部に一発、重いであろう拳を叩きいれる。
・・・なんだあの速度は。
傍から見ていたシレウス本人も、音と同時に吹き飛ばされる騎士を見るまで何が起きたかが判らなかった。
モンク「私の邪魔をするからそうなる・・・あの世で後悔しなさい」
女性騎士は動かない。
もしかすると、あの一撃でやられてしまったんじゃないだろうか・・・?
その心配とは裏腹に、ゆっくりと女性騎士が立ち上がる。
モンク「・・・あら、結構体力あるのね」
叩いた本人の口から、騎士を褒め称えるかのような言葉がとんだ。
女性騎士「帰りなさい、「複製」に仕えし者よ。本来この世界はあなたたちがいていい世界ではない」
モンク「!?」
なんだ、今何ていったんだ?
今まで余裕を見せ付けていたモンクが、一気に冷めていくのが見える。
いや・・・むしろ、より本気になっていっていると言った方がいいのだろうか。
女性騎士「この世界に貴方達はこれ以上干渉してはいけないはずです。何故それが判らないのですか」
じゃり・・・っと、地面の砂を踏む音。
何故だか判らないが、その音がやけに俺には大きく聞こえた。
モンク「この場は引かせてもらうわ。貴女・・・一体何者?」
すっと、その場からモンクの姿が消える。
緊張の糸がぷっつりと切れたかのようにふぅ・・・と一息つくなり、次はこちらの方を見た。
女性騎士「見えいるのは判ってますよ、シレウスさん。何か御用でしょうか?」
・・・俺のこの気配が判るか。
やはりこの騎士只者じゃないな・・・
もしかすると、まさかこいつがあの旦那の生まれ変わりとして噂されている奴か・・・?
シレウス「お前は、一体何者なんだ?もしかして・・・旦那の生まれ変わりなのか?」
さぁ、と少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
女性騎士「生まれ変わり、ではないですね・・・ただいずれ判ると思いますよ、シレウスさん」
言葉をそれ以上言うのを制し、ゆっくりと自分の後ろを見る。
その先には、イング達が向かってきている姿があった。
そのさらに後ろには・・・
シレウス「・・・アークエンジェリングじゃねぇか!」
なんて奴に追われているんだ、あいつ等は。
確かに枝と言うとこいつが出てくるのは何か定めなきもするが、何でお前等が追われているのかと。
くそ、あいつ等じゃ勝てる相手じゃない!
女性騎士「・・・私が行きます、シレウスさんは後ろのあのモンクさんを助けてあげてください」
後ろ・・・を任せる?
騎士の後ろを見ると、先ほどあのモンクが折って行ったのだろうと思われるモンスターの姿が多数確認できた。
そのモンスターの集団の中にいるのはあのスビィの姿。
たった一人でも果敢にあの集団に挑んでいく姿は勇ましいものではあるが、はやり多勢に無勢、おされ気味なのが見て判る。
女性騎士「このままじゃスビィさんが危ないです、さぁ早く!」
シレウス「判った・・・イング達を頼んだ」
女性騎士「お任せ下さいませ〜♪」
幾分余裕を見せながら、手に持つ武器を持ち帰る。
その手には青黒く光る・・・大きな鎌がもたれていた。
シレウス「クレセントサイダーか・・・随分悪趣味な武器だなぁおい」
あの魔物「バフォメット」が所持していたと言われる鎌、それがこのクレセントサイダーだ。
外見からしてもあまり評判はよくなく、威力こそ高いが使う人はそこまで多くない珍しい武器である。
シレウス「まぁいい・・・くそ、スビィ、もうちょっと持ちこたえろよ!」
今はこっちのギルメンを気にするほうが先だ。
アイツの事だからまだ持つとは思うが・・・早くしないと危ないには変わりはない。
持ちこたえろよ・・・!



アリス「きゃぁぁーーーーー!このポリンこわいぃいいぃいい!」
いつものアリスとは思えない言葉使いで必死に逃げる三人。
後ろからはファンシーな集団が追ってきているが、ファンシーだけでなく実力もあるモンスター達なので戦うと言う選択肢が取れない。
ていうかなによあの数、どう考えても無理・・・。
ユキ「もうっ!こんなんじゃ助けに行く以前に私達が助けられる方じゃないのよー!」
苛立ちを隠せないのか、走りながら罵声を飛ばす。
このモンスター、急に横から現れたかと思えばモンスターを大量召還して自分達を先ほどから追い掛け回しているのだ。
数に圧倒され逃げるしかない自分達を尻目に、まるで追いかけっこのように楽しそうに追いかけてくるモンスター達。
その長であるあのアークエンジェリングも、今となっては凶悪な存在にしか見えなかった。
イング「今は・・・とにかく逃げるしか!」
そう、今自分達は逃げるのが最善の手段だと頭の中でもわかっている。
逃げるだけでは解決にはならないが、万が一このモンスター達が諦めてくれないとも言い切れない。
とにかく・・・足を動かすしか!
ユキ「きゃあっ!」
ずてーん!と盛大に、ユキが顔面から地面にダイブする。
イング「ユキッ!」
戻ろうにも、足がすぐ言うことを聞かずに止まった時にはアークエンジェリングとユキとの間にかなりの距離が出来てしまった。
まずい、ここからじゃすぐ助ける事すら・・・!
「先ほど通り走って大丈夫。ここは私に任せてください」
イング「え・・・?」
一瞬誰だかわからなかったが、後姿からしてあの女性騎士であることには間違いない。
だが何か、今錯覚してしまうかのような感覚が・・・
何なのだろうか?


ユキ「い、いやぁ・・・こないでよ・・・」
そう私が言おうとも、その存在は止まる事をしらず自分をその波に引き込もうとする。
いや、こんな所で・・・!

ご、ごめんね・・・私、またアンタに会う前にいなくなっちゃうかも・・・

何故だか判らない、だが私は心の中でアイツに向かって謝っていた。
なんでだろ・・・何か熱いものがこみ上げてくるような感覚が私を襲っている。
目から出てくる涙が止まらない。
ブリジット・・・ブリジット、ブリジット・・・!
アンタ、どこにいるのよ・・・!
「そのまま姿勢を低くして!」
咄嗟のその言葉に、まるで意識とは関係なく体が反応する。
くっと上半身を前に屈めるその上を、何かが通り過ぎた。
女性騎士「この子達には・・・指一本触れさせない!」
女性騎士の思いっきり振りかぶったその鎌に、ユキを攻撃しようとしていたアークエンジェリングの体当たり。
そのタイミングがぴったしと重なり、勢いのあるまま突っ込んでしまったその球体が真っ二つに引き裂かれた。
女性騎士「帰りなさい、土に」
ドン!
思いっきり地面を叩くと同時に、その球体は粉々になってはじけ飛んでしまった。
主を失った取り巻きも、じょじょに力を無くし地面へと姿を消していく。
その灰色の球体がいた近くには、一つのヘアバンドが落ちていた。
ゆっくりとそれを拾い上げ、屈んだまんまのユキの近くへと近づいていく。
女性騎士「・・・ユキさーん?だいじょう・・・」
そこで言葉が途切れる。
体を起こしたユキの顔はぐしゃぐしゃで、涙で前すら見えているのかも怪しい。
そんなユキを、目の前から静かに見守った。

自分は助かった、そう判断できるのにも時間はあまり要らなかった。
目の前にはあの騎士が、静かに微笑んで座ってくれている。
・・・だめ、もう!
ユキ「うっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁあああん!」
プツッと自分の中の何かが切れ、その騎士の胸へと飛び込んでいく。
そんな自分を抱きながら、静かに頭を撫でてくれた。
女性騎士「大丈夫です・・・貴方達には、私が付いています・・・付いています。」
子供を諭す母親のように、ゆっくりと、ユキが泣き止むまでその介抱は続いた。



その後、アサシン達の増援もあってか段々とモンスターの数が減っていく中。
泣きじゃくるユキを連れながら、酒場へと戻っていく所であった。
「わーぁ!やっぱし貴女だったのねぇー!」
この場にはまず場違いであろう黄色い声と共に、一人の女性が騎士へと思いっきり抱きついてくる姿があった。
その抱きついている女性の姿が少々過激で、外見もかなりの美人である。
う、うわぁ・・・ちょ、ちょっとこの光景は・・・
イング「い、いてててて!」
横を見ると、少し不機嫌そうにアリスが自分の横腹をつねくっていた。
「ねぇねぇねぇ、何でこんな所にいるのぉ?っていっても私もここにいるのはおかしいんだけどねー!」
誰の手など借りずとも、一人で騒げるタイプなのだろう。
雰囲気とはお構いなしのその張り上げた声が、自分達の耳に入ってくる。

さて、当の抱きつかれた本人だが。
抱きつかれた瞬間は驚きを見せたが、それが見る見るうちに青ざめていくという変な変化を見せていた。
・・・ちょっとまてよ?
というかこの女性、頭に角が生えてはいないだろうか?
終いには、その背中には羽が生えている・・・まさか、こいつは!?
女性騎士「も、もうやだなぁまたサキュバスの格好してぇ。ちょ、ちょっと後ですぐ行くから街の外でまっててくれない?」
「えぇー!やーだぁ、何で私がそんな事しなくちゃいけないのよぉー!」
しどろもどろとする女性騎士に、あからさまな嫌悪感を示すその女性。
すると、意を決したかのように、ぐっと耐えた表情で女性騎士が再度その女性を見つめる。
女性騎士「・・・後で、食べさせてあげるから。お願い、行って」
「えっ、本当!?わぁい、優しいのねっ」
えへっ、と子悪魔的な笑みを浮かべて言われた通り街の外へと飛んでいく女性。
そうか、あれが狙っている女性の笑みか・・・恐ろしい・・・。
じゃなくて・・・ってえぇ!?飛んでるっておかしくないか!?
いやな所を見られた、といわんばかりに頭を抱える騎士。


丁度酒場も近くなり、ユキも泣き止んでいたというのが幸いしたのだろう。
先ほどの女性(?)との待ち合わせもあると言う事で、騎士が帰らなくてはいけないと言い出したのだ。
女性騎士「多分またあなたたちとはお会い出来るような気がします。あくまで女性の勘ですけどね・・・後、そうだ」
ごそごそと、懐から取り出したのは悪魔の羽を象ったかのようヘアバンド。
確か名を・・・その外見通り、悪魔ヘアバンドと言ったか。
僕等のような者達では手に入りにくいレアな装備だ。
女性騎士「色々危険な目にあわせてしまいましたし、これを差し上げますよ。貴方方の今後の役に立ててください・・・では」
ユキ「あ、あのっ!」
まるで風のように去ってしまいそうなその存在を、つい呼び止めてしまう。
判らない、だけど・・・
女性騎士「また、お会いしましょう、皆さん」
彼女には、やはり何か懐かしい感情を抱かずにはいられない。
懐かしく、そして嬉しく、頼りになる・・・何か、不思議な感じ。
やはり重ねてしまうは、奴の面影。
だが、あくまで面影があるだけでまったくの別人・・・中々不思議な人物であった。
アリス「とりあえず戻りましょうか、酒場に」
こく、と二人がうなづく。
奇妙な枝の事件は、こうして幕を閉じた。



女性騎士「・・・サキュバス、貴女何で私に話しかけてきますかね・・・」
サキュバス「えぇー、だって貴女の生気はとってもおいしいんだもん!ああすればそう言ってくれるでしょう?」
悪びれる様子もなく、むしろしてやったりと喜ぶ子供のような笑顔を見せる。
・・・当の本人の騎士はげんなりとその表情を見ていたが。
先ほどはそこまでイングさん達に騒がれなくて済んだが、外見がどうであろうと彼女はモンスターだ。
もう少し警戒して欲しいと思うこの心配が、心臓に悪い・・・。
サキュバス「何で貴女があんな所にいたの?」
したから自分のかおを覗き込むような姿勢で自分を見つめるサキュバス。
彼女は本当に自分に正直故に扱いにくい。
何と言うか、子供のような純粋さがあるのだ。
・・・
女性騎士「・・・一緒に、来ますか?良ければその話等もお話しますよー?」
サキュバス「うんっ!あのままじゃ人間達にやられてお終いだしね、貴女と一緒なら心強いわぁ」
そして、悪びれもなく自分の腕に抱きついてきた。
・・・だから、そういう行為が誤解されるってのをわかってくれないだろうか・・・。
騎士の受難は続く。



〜つづく〜




−あとがき−
どうも、御久しぶりでございますー、鰤でございます。
はい、そんな訳で枝テロイベントがとりあえず急に勃発し急に終了いたしました。
フェイ氏サイドのほうのコミカルタッチとは違い少々重くなってしまいましたが、時期が時期だけに仕方がないかなぁと。

さて、前回より現れた女性騎士の頭角、皆様はどう捕らえられたでしょうか。
それに伴い、謎の「複製」と呼ばれる存在と女性騎士のやり取り。
12人の禁術の話と、この小説も急展開を迎えております。
皆様も、この展開に乗り遅れないようにどうぞお付き合いください。

それでは♪
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