二つ名。
世界有数の、様々な項目を満たし認められた者に対しつけられる本名とは違う名。
その項目には、善もあり悪もある世界ではあるが。

シレウス「いいか、よく聞け。今回は冗談でもない、お前等の生命を左右しかねない情報だ」

そうして教えてくれたのは、とある人物についてだった。



ラグナロク・オリジナルストーリー第参壱拾四話話―双頭



あの戦争には、知る人ぞ知る一つの話がある。

本隊が撤退する間、旦那を足止めし、撤退後も極力旦那に深手を負わす事を目的とされた部隊。
そう、即ち「最終防衛線」・・・及び「捨て駒」として扱われた部隊が存在するのだ。

その部隊にはこの二つの条件が必要とされた。
一つ・・・対象を長期足止めすることが出来る程の実力を持つ部隊。

そして二つ・・・全滅したとしても、極力問題のない部隊。

シレウス「そこで騎士団側から選ばれたのが・・・「紅蓮の死神」と呼ばれる女性騎士率いる「-炎-」と呼ばれるギルドだ」
このギルドの特徴は、隊長である紅蓮の死神からも解るように「安定性」である。
全体的に速さも、攻撃力も、防御力も、命中も・・・そう、修行の内容が万弁なく能力を持つ事を重んじていたギルドなのだ。
騎士団の中でも、かなりの実力者達の集まりであると同時に騎士団の中でもあまり重要な位置にある訳でもない。
まさにうってつけ、と上層部が判断を下した。

シレウス「結果?そりゃ全滅と聞いていたが・・・実際は少し違った」


忌わしいその事件から数ヶ月。
突如首都の金庫等が襲われる事件が発生する。
被害は金などの金銭関連のみで、目撃者無し、負傷者無しという実に手際の良い事件として人々に伝わる。
盗まれたのは当然ながらプロンテラ城。
世界でも頂点の繁栄を誇り、警護も随一と呼ばれた場所での完璧とも呼ばれる犯行。
これには流石に王も憤りをあらわにし、騎士団に犯人の特定を急がしたと言う。

そんな動きをもろともせずに犯行を重ねていく犯人。
本来まず盗みという事でローグギルド等が睨まれた事もあった。
だがこの話は双方の関係を悪化させるだけの結果で終わる。

そもそも考えてみれば、何故ローグギルド側が急に天下のプロンテラに喧嘩を吹っかけようか。
確かに額からすれば相当なものではあるが、プロンテラが本気を出せばまずローグギルド側なんぞひとたまりもなく壊滅させれるだろう。
そういう視点から見てしまうと採算の取れるものではなく、そんな馬鹿げた事をローグギルド側がするわけがなかったのだ。

シレウス「そうして月日は流れ、遂に騎士団は犯人を目撃する事にまで成功した」

深夜の金庫。
息を潜めた騎士団のとあるギルドが張っていると、中よりなにやら物音が聞こえたという。
入り口は張っていた、よってこの入り口から進入する事はまず不可能である。
さらにこの金庫はこの入り口以外からは進入する事の出来ない非常に強固な造りとなっている・・・はずだったのだが。
この場所までも盗まれては自分の身すら危ない。
急いで中を確認すると、大量の金等を袋に詰めていた女性騎士が二人いたそうだ。

シレウス「それがあの「紅蓮の死神」だったという話だ。そして、ここから先が賞金ギルド系に伝えられた追加情報になる」

表ではここまで程度しか情報が流れておらず、反逆者「紅蓮の死神」として賞金がかけられている。

しかし月日が経ち情報屋や賞金ギルド関連にはこのような追加情報が飛び込んでくるようになった。
二人といっても、実際には一人しかいなかったと。
意味が判らない?それでは順を追って説明していくとしようか。

実際には一人なのだが、実際には二人居る。
そして、その姿・・・外見が、まるで隣に鏡でも置いてあるかのような錯覚をその場に居た者たちは覚えたという。

シレウス「うりふたつのその存在・・・我々は、このような存在を「ドッペルゲンガー」と呼ぶ」

ドッペルゲンガー。
ゲフェン中央に位置するゲフェンダンジョン、そのゲフェンに巣食うBOSS・・・言い換えるなら魔族の一角である。
外見は冒険者の剣士と変わらぬ姿をしており、初めて目撃された当時剣士が一番ポピュラー故との説があるが真意は不明だ。

また、一般的にドッペルゲンガーとは会ってはならない存在としての話が多い。
会ってしまうと不幸になるという話、死んでしまうという話・・・ともあれ、良い話は何一つ存在しないのだ。

だが彼女は平然とそのドッペルゲンガーと接触をしていたそうだ。
あまつさえ話さえもしていたと聞く。
シレウス「そもそもドッペルゲンガー自体判っていない。不吉な存在というもの以外な」
話を戻すが、その数時間後に仲間が接触したギルドの者達を発見・・・重症を負っているものの大事には至っていなかったそうだ。

金庫の中身は綺麗になくなっており、紅蓮の死神も消息が不明・・・そして、その金庫の中に何が入っていたかも不明。
判っているのは、ドッペルゲンガーという存在と一緒に紅蓮の死神がそこに存在していたという事だけである。

シレウス「そこで、お偉いさん達は危機感を持ったわけだ」

使命という権力があるとはいえ、過去に死ねという命令を下した配下がこうして大罪を犯しているんだ。
考えてみればすぐに、自分達に復讐を考えているかもしれない・・・こう考えた訳だ。
そして目の前で盗みを働いていたという事もある。上の判断は早かった。

「紅蓮の死神を反逆者として、指名手配をかける」

・・・正直な所、俺としては身の危険を感じたとはいえお偉いさん達の判断の早さが気になっているところなのだが・・・。
そしてドッペルゲンガーのこともそうだ、あれもまったくもって訳が判らん。
そういった点からこちらとしても注意していた人物ではあるんだが、先日最新情報が入ってな。
苦労したよ、元来二つ名を授かっている奴等はトップに入る指名手配犯ばかり。
足を掴むのが当然ながら難しく、旦那はそういった面では異例の存在だったからな。

シレウス「んでその紅蓮の死神がフェイヨンに入ったという情報を得た。そう、つまりお前等の行く所に居るかもしれんってことだ」

まぁ、一般人ならば別に会ったとしても何も問題はない。
しかしイング等は旦那と深く関わっているということもあって警告を促させてもらう。
過去、紅蓮の死神達と旦那は戦闘を行っている・・・その時何があったかは判らんが、それが元で旦那を恨んでいる可能性は否定できん。
大丈夫だとは思うんだが、不可解な所の多い指名手配犯だ・・・警戒しておけ。

原理は判らないが二つの体を有し、互いに考え行動し対峙した敵を薙ぎ払う指名手配トップクラスの人物。

シレウス「それが紅蓮の死神・・・二つ名は「双頭」だ」



「姉御!ビンゴですぜ!」
フェイヨンのすぐ近くにある林の一帯にひっそりと隠れるようにある、大きな大きな洞窟。
そこの穴の中から一際大きな男性の声が響き渡った。
「お、そうかいそうかい、でかしたねぇ・・・で、何をだい?」
「どうやら例の奴の仲間一行がフェイヨンに向かっているという情報を手に入れやした!今日か明日辺りには着くようでっせ」
それがとても喜ばしいことなのだろう、男性の高揚とした声は変わらない。
姉御と呼ばれた存在は、ばぁん!と威勢良く両膝を手で叩いて立ち上がる。
「よぉしお前等!でっかい客人だ、絶対怪我一つつけないでこちらに連れて来るんだよ、いいねぇ!?」
この声に反応するかのごとく、大きな声が瞬く間に洞窟を駆け巡った。

「仮にも彼の仲間、もう少し警戒したほうがいいんじゃ」
いつからいたのだろう、その姉御と呼ばれる人物の横にまた「姉御」と呼ばれる人物がたっていた。
だが周りは驚かない、これがいつも通りのことなのだから。
「こいつらは「普通」の冒険者って話は有名さ。だからこそ話題にも良く上がった」
異端者の近くにいるのが普通の冒険者。
まず関わりがなさそうなお互いの存在だからこそ、その冒険者達の話題は瞬く間に広がったのだ。
「ふぅ・・・ん、まぁ私の知った所じゃない・・・し頑張ってね」
なんて投げやりな応援だろうか。
そう思っている間にも、その声の主はだんだんと姿が薄れていき、まるで煙が風にさらわれたかのように消えてなくなってしまった。
ま、彼女がそうそうやる気を見せる事もないか。



ユキ「へっくち!」
・・・また随分と大きなくしゃみだなぁ。
ユキ「イング、アリス、フェイヨンではよくない事が起きそうよ」
少し照れくさそうに、鼻をすすりながらずんずんと歩を進める。
イング「して、その根拠は」
ユキ「女性・・・いや、乙女としての勘ね」
乙女ときましたかユキ。
とはいえ、世間では女性の勘は当たるという古くからの教訓が存在するくらいである。
少しは信用してもいいとは思うのだが、しかし・・・
ユキ「へ、へ・・・へっくっ!・・・あーもー!」
途中でくしゃみが途切れてしまったのが腹立たしいのだろう、お次は機嫌が悪そうに進むユキの姿。
・・・どちらかというと、マジシャンの外見は露出度が高い。
そういった面ではユキの場合風邪等の症状とも考えられたが、どうだろうか。
ユキ「うー・・・くしゃみがとまらないぃ」
やっぱ勘は当てにならないかも。



アリス「これが、あのフェイヨン」
フェイヨンにたどり着いたや否やまず口から漏れたのはその一言であった。

月夜花がいなくなってから、モンスターによる大きな動きがありフェイヨンが襲われている。
そんな情報をつい最近知ったイング達であったが、まさか此処まで酷いものだとは想像していなかったのだろう。
家は焼け焦げ、木が倒れ、建物は半壊状態なのが都度。
山中にひっそりと佇むフェイヨンも、これでは廃墟に近い状況であった。

次に目に付いたのは、住民がまったくいない状況。
どこかに避難しているのか、あるいは・・・どちらかはわからないが、このフェイヨンにいるのはほとんどが冒険者。
討伐隊として住民が冒険者を募っていたという話もあったので、それで加勢しにきた冒険者達であろうか。
アリス「イング、ユキ、あれあれ」
手招きをしながら、アリスが一つの一行に目をやる。
「食料班、冒険者達に食べ物の支給する時間だ。製造班は引き続き建物の修復を。遊撃班はいつ戦闘が行っても良い状態にしておけ」
アリス「あれ・・・多分だけど、首都から派遣されてきたギルドじゃないかな」
そこの一行は、誰に頼まれる事なくこのフェイヨンの復興作業を行っていた。
あの命令を出しているのはおそらくあの一行のマスターであろう。
他に動いている一行はおらず、おそらくこのギルドのみでフェイヨンの復興を任されたと考えても良さそうだ。
ユキ「この規模を一つのギルドに任しているって事は・・・随分と信頼されているギルドなのね」
イング「もしかすると、王国直属のギルドかも」

そう、首都プロンテラには国王に忠誠を誓い、働く事を代価として高い名誉、資産を貰うギルドが存在する。
命令に忠実に動き、そのギルドの中でも最も得意とされる分野での高い結果を出すギルドが「王国直属」と呼ばれるギルド達だ。
ぼく達のようなただの冒険者ではまず話すことさえ敵わない国王が選んだ有望、かつ実力のあるギルド。
正確な数はわかっていないものの、かなりの王国直属ギルドがあると噂されている。

とはいえ、王国直属ギルドはその中でも選りすぐりのエリートと考えてもらって構わない。
普段は何かしら大きな偉業を成し遂げた時にその偉業を行ったギルドが発表される事がある。
そのギルドが、大方このエリートさん達である。
よって、王国直属のギルドはよほどの事がない限り見る事が出来ない極めてレアな存在なのだ。
ミーハ−感覚なのはわかっているが、自分自身有名人を見れたという事は密かに嬉しいというのもある。

「食料がない?何とかならないのか・・・出来ないじゃなくてやるんだ、無理なのは判っているが頑張って欲しい」
思った以上にこのフェイヨン復興に手間取っているらしく、頭を悩ませているマスターと思われる人物。
というか、この大きなフェイヨンを一つのギルドが掌握しきれているのだろうか?
・・・まぁ、マスターらしき人物の様子からしてみるとまず掌握はしきれてないだろうが。
すると、こちらがずっと見ているのに気が付いたのかその人物が顔を向け自分達へと軽く疲れた笑顔を見せた。

「こんにちわ、見ない顔だね。自分はフェイヨン復興を任されている王国所属のギルド「STAR DUST」という
 ギルドのマスターを任されているフィリア、君達を代わりに歓迎するよ」



代わり・・・どうやら、住民達は完全に避難してしまっているという事なのだろうか。
どうでも良いが男性なのにちょっと名前が女性っぽさがあるのが印象的だ。
フィリア「今ここはモンスターの襲撃がいつあってもおかしくない状態だ、腕に自信がないなら引き返す事をお奨めするよ」

フィリアは注意点を幾つか挙げてくれた。
まず一つに、物資がとても乏しい状況にあるという事。
食料等は、なるべく自分達で準備をしないと厳しいという内容だった。
フィリア「偉い人たちは現場を見ていない。だからこそ、物資等見合った量を回してくれないのさ」
軽く自分達と話ながら、フィリアの口から愚痴らしいものがこぼれ出る。
成る程、どうりで先ほどから苦戦を強いられていたと言う訳か。
どうやら資金も物資も余裕がないらしく、要求をするものの資金超過として逆にこのギルド自体が注意を食らう始末らしい。
フィリア「だから我々も最大限の援護は惜しまないつもりだが限界があるのを判っておいて貰いたい、すまんな」
その動作、発言一つ一つに彼の心労が見えるかのごとく覇気がない。
心なしか、フィリア自身顔の色が良くなく、またふらついているような気すらした。
天下の王国直属も、実際には苦労しているものだ。

・・・そういえば、この人は知ってるのだろうか?
そのふとした感覚で話してしまったことが、今後の展開を悪くさせるものだとも知らずにイングがフィリアに話し掛ける。
イング「あの、「双頭」と呼ばれる人がここにいると伺ったのですが本当ですか?」
ピク・・・と眉を動かし表情が一気に張り詰めたものへと変わって行くのが否応無しにも判る。
考えてみるならば、その人は指名手配・・・しかもトップの地位であると聞く。
そのような人の単語を、直属ギルドのしかもマスターの目の前で言うのはご法度だったか・・・
フィリア「何故それを知っている、まさか君たちは・・・奴等の仲間か?何処で知ったかすまないが言って貰おう」
ユキ「ちょ、ちょっとぉ!?」
気がつけば、周りのはこのギルドの人たちであろう屈強そうな面々に囲まれる始末。
そもそもここを任されているということは必然的にそのギルドメンバーすべてがいるというのが普通な訳で。
その場にいる以上敵と変われば敵陣にのこのこきているといってもかわらないわけで。
・・・って、敵って表現がおかしい。
アリス「ちょっと待ってください、私たちは賞金ギルドの人からこのことを伺ったんです」
フィリア「・・・その賞金ギルドのマスターの名は?一通りのその手のマスターの名前は頭に入っている」
つまり、嘘は通せないという事を言いたいのだろう。
流石にそういったことに関しては直属のギルドであるということを改めて認識させられる・・・感心したいくらいだ。
アリス「その人の名前はシレウス・・・「探求者」という異名を持つとか言ってましたが」
あえてその後まで言ったのには、この名前を出せばこの人だって知らない等といわないだろうという魂胆があった為。
シレウスの活躍さを見れば、その名前を出すだけで十分な効果が得られないとも考えられるからだ。
有名人と知り合いというのは変な所で役にたつ時があると聞くが・・・今回はさてどう転ぶだろうか?


フィリア「探求者・・・随分珍しい奴と会ったんだな君達は。そうか、怖い思いをさせて悪かったね」
すっと、その場の雰囲気が緩和していく。
思ったよりも彼は信用させられているのが伺える機会だったというべきか。
ユキ「・・・あんなのがねぇ」
どうやら、納得していないのもいるようだけど?
フィリア「では改めて私も情報を提供しよう、すまないがその代わりその名前は今後ここで言わないで欲しい」
どうやら、フィリアとしてこの場がそれにより収集がつかなくなることを恐れているらしい。
また、双頭がいることによってただでさえ貴重なボランティアの冒険者達がいなくなってしまうのも非常に辛い。
そういった面を踏まえた上での発言であった。
フィリア「確かに、我々も彼女達を確認してはいる。だが、今はお互い不干渉状態なんだよ」
そして、彼は数日前の双頭とのやり取りを教えてくれた。



「お初にお目にかかる、私はあなた達から指名手配と同時に「双頭」という名を頂いた者」
その人物の第一声がそれであった。
確かに、双頭という指名手配の存在は知っているが・・・まさか、こうも簡単に己から自己紹介してくるような指名手配犯はいない。
それは捕まえて欲しいのか、それともよほど己の腕に自信があるのか・・・または馬鹿か。
だがこの声、確かにどこかで聞いた事がある。
忘れていたいような、しかし思い出さないといけないようなこの声は・・・?
「だからそんなぶしつけに言っちゃいかんでしょうがぁまったく、頭かったいねぇ」
フィリア「!?」
その後ろから、「同じ」人物が現れたのだ。
そうして確信する、「双頭」の名の由来と目の前にいる人物がまぎれもない本人であると。
フィリア「まさかこのような場所で会うとは・・・御久しぶりです、「双頭」・・・いや、紅蓮」
紅蓮の死神「元気にしてたかいフィリア、数年ぶりだぁね」
かっかっかと、女性に似合わぬ笑いを自分の視線を気にせずにしてみせた。

フィリア「・・・彼女、「双頭」と私は過去同僚だったんです」
彼女は、過去のあの事件の捨て駒として選ばれた人物。
そう、言い換えるならばその前まで彼女はプロンテラのために日夜働いていた人なのだ。
故に、プロンテラに服し活動する自分との交流がなかった訳ではない。
むしろ、お互い切磋琢磨と腕を磨きあった者同士なのだ。
フィリア「紅蓮、何故プロンテラを裏切った。確かに捨て駒として選ばれたのは口惜しい事かもしれないが」
紅蓮の死神「おっとフィリア、私はそんな過去話をしに来た訳じゃぁないよ、勘違いしないでおくれ」
フィリア「・・・」
彼女の意図が読み取れない。
読み取る事自体に無理があるのかもしれないが、しかしこうして再会できたのに今は敵同士・・・虚しさが心に残る。
紅蓮の死神「「道化師」が逝ったと聞いた、それは本当なのかい」
フィリア「正式には確認していないが、そういう噂が流れている・・・なんせ目立った指名手配犯だからね」
いや、まてよ?何故紅蓮が道化師・・・否、彼の情報を聞きたがっているんだ?
まさかギルドメンバーの復讐等を考えているのか?
ならば何故王国にたてつく必要があるのだ、それこそ敵を増やしているだけではないだろうか。
それ以前に、何故紅蓮が二人に分裂しているのだろうか。
その外見、そして彼女の目的・・・何も知らない自分はただただ想像し、仮説を立てるしか出来なかった。
「逝った・・・もしかすると他の「力」を持つ者の仕業かも」
もう一人の紅蓮の死神が、一つの答えにたどり着いたようにそう話す。
力・・・とは何のことだろう?
紅蓮の死神「まだ確認は取れてない以上、そう判断するのは早いねぇ・・・」
彼女の真意はわからないが、どうやら彼の足取りを知りたがっている様子であるのは確か。
くそ、彼女の目的はなんなんだ?
「ありがとう、お互い持ってる情報は同じようなもの・・・あと元同僚としての忠告」
そう言ってきたのはドッペルゲンガーであろう方。
その彼女とは同僚ではないのだが、しかし同一人物ならば同僚とも言えるような・・・何とも後味の悪い感じではあるが。
ふわっと、そのまままずドッペルゲンガーのほうが姿を消す。
紅蓮の死神「今、「力」を持つ者たちの動きが活発になってるらしぃよ、フィリアも気をつけるこったねぇ」
フィリア「ちょ、ちょっとまってくれ!どういう事だ!」
紅蓮の死神「その手に詳しい奴に聞きな、そこまで教えてあげる義理はないねぇ!」
その言葉を最後に、紅蓮の死神の体も透けていきそして最後には姿が元々なかったかのように消えてなくなってしまった。
紅蓮の死神「ああ、少し私はここらに滞在させてもらうよぉ。お互い仕事があるだろうし不干渉といこうじゃぁないかぃ」
最後に身勝手な要求を押し付けるように言い残して行ってしまったが。
なんともまぁ、強引というか、こちらの有無関係無しというか・・・

久々にあった彼女は、同じ外見の存在が増えている以外、何も変わってはいなかった。



フィリア「力、僕はそれが何かは知らないが、多分話に聞く不可思議な能力の事だと思う」
双頭で例えるならば、その多重に存在する己の姿。
最近頭角を現して来た凶悪犯、玉藻前は分身を行ったり、現在確認されていないような不思議な技を使うと聞く。
また指名手配を受けたフェイ=ヴァレンタインは目にも追えぬ速さでの活動が可能だとか。
フィリア「ここらは双頭の忠告を真に受けるならばまず要注意しておくべき人物だろうね」
にわかに信じがたいが、各地で不思議な力を持った者たちの話は事実あがってきているのだ。
故に、フィリアの脳内ではこの話は信じた方がよいという判断がなされている。
それに、目の前にはあの道化師と繋がりがあったと言われる一行・・・言って置いた方が今後の為になるだろう。
「探求者」とのつながりがあるとも聞く。ならば、この話は彼の活動にも+になるかもしれない。
そう判断しなければ、一端の冒険者に此処まで話したりはしない。
当然だろう、今の話は直属の者でいえど一部にしかいずれ話さないであろう部類に入る。
言い換えれば、それだけ言ってはならない内容なのだ。
フィリア「というわけで、出来るならば君達も肝に免じておいてほしいんだ、今ここには」

「あんた達を狙っているこわーい人がいるってぇことさ」

!?
フィリア「・・・何しに来た紅蓮、不干渉で行こうといったのは君の方じゃないか」
紅蓮の死神「つれないねぇ、別に軽い冗談じゃないかぃ」
いつからそこにいたのだろうか?
気がつけば、目の前にヘルムを被ったどこにでもいそうな赤髪の女性騎士が一人立っている。
背中におぶった大きな鞘からして、彼女が両手剣の使い手であることが伺える。
「何をしようと言う訳じゃない・・・私は、その子達に用事があるだけ・・・手荒な真似はしたくない」
すかさず後ろを見ると、目の前にいる紅蓮と呼ばれた騎士とまさに同じ姿、同じ声の騎士が立っていた。
違うといえば、話し方程度であろうか・・・しかし、それ以外に変わった点は一切見受けられないまさに本物の「ドッペルゲンガー」である。
そして彼女は二つ名を貰うほどの実力の持ち主、つまりイング達が立ち向かったとて手も足もでないような相手。
紅蓮の死神「イング、アリス、ユキとかいったねぇ!どうだい、摩訶不思議な力を持った私と一つ情報交換をしないかぃ?」
何かをたくらんでいるような、含みの入った笑い。
そして、まるでイング達の心を読み取るかのようなその発言。
イング(・・・摩訶不思議、ね。つまりこの紅蓮って人は禁術についての情報交換を求めているのか)
おおよそイングのこの読みは当たっていると見受けられる。
紅蓮のその強調しつつ、逆に警戒されかねないような単語をあえてくっつけて話してきている以上そう考えるのが妥当であろう。
ユキ「私は行くわ、イング、アリス、あなた達はどうする?」
こうも言われては、まずユキはそう言ってくるだろうという判断はイングの中では判りきっていた。
ユキは、道化師と呼ばれた彼の姿を追ってきている。
そんな矢先に情報をもってそうな人物がいるとすれば、罠であろうとも彼女はついていくだろう。


普段ならばここでイングもアリスも着いて行くのが普段であったが、今回だけは違った。
ユキのその考えがあるように、イングにも今回は確固たる考えが存在していたのだ。
確かに彼の生存はきになるし、また話も伺いたいとは思う。
だが・・・
イング「ユキ、今回は僕は行けない。僕は・・・ここに、力をつけにきたのだから」
イングは確信していた、今自分に必要なのは力であると。
モンスターとの戦闘を経ての、更なる自分の成長を行わなければいつまでも足手まといであると。
ふっと、ユキの口から笑いがこぼれる。
ユキ「そういうと思ったわ、じゃあ一旦ここで別れましょうか。別に永遠にお別れになる訳じゃないし」
紅蓮達との会話は本当に長引いたとしても一日から二日程度でカタがつくであろう。
それにWISもあるし、また会うにあたっての手段は十二分に存在している。
まぁこのイングの力の入りようでは当分フェイヨンに入り浸りそうだし大丈夫だろう。
ユキ「アリス、貴方は出来るならイングの支援をしてあげて頂戴。鉄砲玉みたいな印象があるから怖いわぁ〜」
アリス「うん、判ったわ。ユキも早く帰ってくるのよー」
これが最善だろう、とアリスも判断を下したようだ。
紅蓮の死神「だぁいじょうぶだよ、手荒な真似は絶対にしない。それだけは信じておくれ」
そう言ってくれた紅蓮の目はまっすぐとイング達を捕らえ、信じるに十二分な要素となってくれた。


紅蓮の死神「んじゃぁこのちっこいのを預かっていくよ、フィリア、間違っても追うとか考えんじゃぁないよぉ」
ユキ「ち、ちっこいとかいうなぁ!」
紅蓮の死神「あっはっはっは!元気があっていいねぇこの子は」
まるでネコのように首根っこを掴まれ、そのまま後ろで待機していたペコペコへと向かっていく。
ユキだけをペコペコにのせ、そして誘導をしながら森の奥へとその姿を消した。
すっと、その姿を追うように後ろにいたドッペルゲンガーの紅蓮も先にいった紅蓮を追って歩き始める。
「記録が踊る、砂漠に遺跡に。今宵も画かれる、小さな世界のお話・・・刻め、刻め、刻め刻め刻めっ・・・」
フィリア「・・・歌?」
不思議なその独り言にも聞こえる歌に、その場にいた全員がしんと静まる。
ドッペルゲンガーの歌は続く。
「刻め、刻めっ・・・終わる事のない逸話を刻め、光を浴びずとも、闇に溶け込もうとも・・・」
その言葉を最後に、まるで風にさらわれるかのようにドッペルゲンガーの姿が消えた。
フィリア「・・・イング君、もし出来るならば今の言葉を探求者に伝えて上げられないだろうか」
考え込んだ仕草をしながらのフィリアの発言に、イングは何もいわずに頷いた。



紅蓮の死神「それにしても私の分身を見てもあまり驚かなかったねぇ、こっちが驚いたよ」
フェイヨンを離れてから数分。
ふと紅蓮が気がついたように、己が感じていた私に対する第一印象を述べた。
まぁ、考えてみれば確かに驚く素振はまったく見せていなかったと思う。
というか最近の身のまわりの状況があまりにも不思議な事ばかりで、変な耐性が自分の中で出来ているのかもしれない。
紅蓮の死神「まぁいいさ、それだけ場慣れしているとも見れる。そうしてくれた方がこっちも色々と楽さぁね」
はっはっは!とまた豪快な笑いを一つ。
ユキ(同じ女性ではあるけど、またこの紅蓮って人は男性にほぼ近いような人ねぇ・・・)
体系こそしっかりとした女性だと伺えるが、どうみてもそれ以外のこう・・・素振や仕草、様々な面で女性とは思いがたい。
豪快、そう、豪快という言葉が似合う女性のような気がするのよね。
ユキ(あまり参考にならなさそうね・・・はぅう)

余談なのだが、生まれてこの方ユキという人物は女性らしさというものを意識した事がなかった。
というのも、このツンした性格から男性との縁というものがほとんど無かったからだ。
ユキ(い、いまだってこのままでも全然良いとは思ってるんだけど・・・)
ユキ自身女性らしさというものがよく判らない状況にある。
一般的な女性らしさにはおしとやか、清楚等が挙がると思われるが・・・自分にはそれらの類はまずないだろう。
自分の性格は一番自分自身がわかっている。
だからこそ、今こうして私はそれについて頭を抱えている。
かといってこれは思い付きであり、別にアイツの為だとか、そういう事ではない事を言っておこう。
ユキ(何も言わずに姿くらましちゃう奴なんて・・・知らないもん)
紅蓮の死神「なんだい、涙ぐんで。しかも顔が赤いよ?・・・さてはアンタを困らせてるこれだね?」
ぐっと、親指が綺麗な空目掛けて突き立てられた。
ユキ「そ、そんなんじゃないわよ!それにそんな人いないわよ・・・」
むぅ、顔に出てしまっていたとは不覚。
意外とこの人勘が鋭いのかもしれない・・・気をつけよう。
辺りを見渡せば、随分と森の奥へと向かっているのが伺えるくらいに木の量が多くなっていた。
成る程、このようなところで潜んでいたと言う訳か。
ユキ「どうして紅蓮・・・さんはフェイヨンなんかに?」
紅蓮「呼び捨てにしてくれていいよぉ、気持ち悪い!まーそこらも全部着いたら教えてあげるからちっとまってなぁ」
中々どうして言葉遣いどおりの無礼講な人のようで。
ユキ「ん・・・空気が濃いな」
木が大量に生えているところは、普通の街の中と違い空気の味が違うと聞くがこうまで違うとは。
空気が美味いなんておかしな表現だと思っていたが、これは考えを改めないといけないようだ。
木は、濃さを増していく。



フィリア「ただでさえ凶暴になってるモンスター達は夜に近づけば近付く程凶暴になる、覚えておいて損はないよ」
フィリアが仕事に戻る前、そうイング達に忠告していってくれた。
夜に強くなるなんて典型的と思われるかもしれないが、フェイヨンに生息するのはほとんど不死といったアンデット系が多い。
故なのだろう、夜のほうが活発的になり街の襲撃が絶えないとかとフィリアは言っていた。
成る程、だから回りを見渡すと今寝ている人たちが多いのか。
アリス「なら今日は軽く行く程度で戻った方がよさそうね」
そう提案するアリスに、こくっと頷いてみせる。
時間は昼過ぎ程度、夕方までには引き返したほうがよさそうだ。
それにここにいる以上モンスター達の襲撃にも備えなくてはいけないだろう・・・気を抜く事は許されない戦いになりそうだ。
だけど、この修羅場を乗り越えた時もしかすると次への力を僕は手に入れることが出来るかもしれない。
・・・
イング「行こうか、アリス」
アリス「うんっ」
意を決し、モンスターが凶暴化したというフェイヨンダンジョンへと赴いた。



〜つづく〜




あとがき
どうも、鰤でございます(´∀`)ノ

さて今回からフェイヨン編へと突入していきます。
新たに出てきた指名手配の女性「紅蓮の死神」、その動向等今後注目でございます。

イング達の行く先フェイヨンダンジョンでどのような戦いがまっているのか。
また、紅蓮と一緒にアジトへと赴いたユキにどのような言葉が降りかかるのか。

次項こうご期待でございます(・`д・´) ノ



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