世界が貴方をそうさせた?
貴方が世界をそうさせた?
何でも出来るからこそ、貴方は何も手に入れられない。
貴方の手元には何も残らない。

枷は外れた。
貴方の疎ましく思い、しかし必要な物は貴方の呪縛から解き放たれた。
籠から逃げ出した黒き鳥は、羽ばたいていく。
貴方は探す、黒き鳥を。
貴方の中に埋もれた、黒き底なしの闇を。

貴方は私、私は貴方。

認めずとも、否定しようとしても同一である。

これは、理なのだ。


ラグナロク・オリジナルストーリー第参壱拾伍話―力



紅蓮「客人を連れて来たよぉ!ぼさっとしてないでさっさとお茶の一つでも準備しないかぃ!」
「アジト」なる場所についたと同時に紅蓮の罵声が飛び交い、それを聞いた人たちが慌しくも動きはじめる。
「おぉ、このお嬢ちゃんが彼の事を知っているという人かい」
何故この慌しく、そして五月蝿い状況の中でこうとまでも良く聞こえるのだろう?
そういった疑問と同時にその落ち着ける澄んだ声の持ち主が、ゆっくりと奥からこちらへと歩いてくる。
・・・驚いた。
相手には失礼かもしれないけれど、話ではこの紅蓮という人は確か盗賊まがいの事をしていると聞いている。
付け加えるならば、あのプロンテラから命を狙われるいわば大反逆者の一角なのだ。
そんな人たちと一緒に・・・
「おやおや、こんな御婆ちゃんがこの子と一緒にいちゃおかしいかい?」
こちらの考えが見透かされているのか、見事に言い当てられてしまう。
ユキ「あ、いえ、そんな」
そう、そこにいるのはもう80を超えているだろうか、相当な年のいった優しそうな御婆ちゃんがいたのだ。
横には大反逆者、そして前には年のいった老人とここは中々不思議な空間である。
紅蓮「おっと、まず紹介しておこうかねぇ、この人は別名「セイレーン」と呼ばれる力の持ち主だよ」
ユキ「え・・・?まさかこの人も?」
そうには見えないが、違った力を持った紅蓮が言っているのだ・・・下手な冗談とは聞こえにくい。
確かに変な力を持つ人たちが必ずとも現役の人とは考えにくい。
むしろ、かなり昔からあって現役を引退した冒険者や人たちだって、力を持つ可能性が無いとは言い切れないのだから。
そう考えてみると、目の前にいる御婆ちゃんが力を持っている事だって不思議な事ではないはずだ。
そう、おばあちゃん。
・・・
「あは、切れちゃったね」
えへへ、と頭に手を乗せ目の前にいるは一人のダンサー。
先程までいた御婆ちゃんはどこへやら、頭の上にはひまわりの咲いた能天気そうな・・・ちょっと失礼か。
紅蓮「んー、まぁお互い隠し事はなしってぇ事で、リノ、あんたの大体の力の説明この嬢ちゃんに教えてあげといてぇー」
何やら用事があるのだろうか、ペコペコにまたがったまま奥へとその姿を消してしまう。


このアジトと呼ばれるところはどうやら大きな洞窟を利用した所らしく、縦横に随分と広いのが伺える。
奥が暗くて見えないように、またこの洞窟の広さが伺えるというべきだろう。
さて、そしてリノと呼ばれた人物だが。
リノ「はてさて、ご紹介に承りはダンサーのリノ、プロンテラに命を狙われし哀れな「セイレーン」の異名を頂いた身でございまする」
・・・
リノ「・・・なんちゃって」
さて、力を持つものはどうしてこう突っ込みにくい変なところがあるのだろうか。
まぁそれはおいといて・・・
先程見せた御婆ちゃんから20程度の女性に変身するという摩訶不思議なのを見せてくれたこのダンサー。
切れちゃった、という言葉があるようにこのダンサーの本当の姿は今現在の状態だろう。
察するに、そういった変身等の能力なのだろうか?
リノ「えっとですねー、私の能力は至って簡単、皆を幸せにする能力ですね!」
・・・
言うのか、また言うのか?
リノ「・・・なんちゃって」
ユキ「あ、あのねぇ」
まずい、私とちょっと相性が微妙な気がしてきた。
悪い人ではないのは判るのだが、このじれったさが何ともいえないイライラ感を生まれさせてくれる。
「ああもう、やっぱしそういう事になってるか」
私の後ろから、少々ため息まじりに男性の声が聞こえた。
すぐさま私が振り返るなりそこにいたのはビックフットを引きずるバード・・・ってバードなのに随分と力持ちね。

ダンサーもそうだが、バードとダンサーは主に弓を使う職業である。
剣等を使う騎士等と違い力を必要としない為に基本的に力持ちなダンサーやバードはほぼいないといってもいいだろう。
むしろ弓等の攻撃の精密さを上げる為に技量向上を努めるのが都度である。
職業上というのが妥当だと思えるが、それ故にビックフットを軽々運んでいるこのバードは珍しいと言える。

また、この二つの職業は他職との決定的な違いが一つある。
それは歌・・・そう、彼らは歌を武器に戦う人たちなのだ。
ダンサー、バード共に歌に力を宿らせる事が出来、その歌はさまざまな能力を持つ少々変わった職業。
例として発音のスピードが急に滑らかになる、精神力が上がる等の効果が今現在確認されている。


リノ「あ、あーるびー、この子紅蓮が連れてきたお客さんだよ」
「・・・あのな、俺の名前はアルヴィ、あーるびーじゃない、だから伸ばすなっていってんだろっ」
ゴツン。
片腕で引きずりながら、器用にリノの頭を響きの良い音を鳴らしながら一発ゲンコツを入れた。
片腕でビックフットをもてるなんて本当におかしなバードである。
・・・じゃなくて、頭を抱えて座り込んでしまったリノは大丈夫だろうか・・・
アルヴィ「ああ、そう・・・そこのちっちゃいマジシャン君、俺の名前はアルヴィ、こう見えても能力者だ」
話していても、足を止めることはない。
このアルヴィというバード、少々がさつで話す気があるのかないのかちょっと疑いたくなるような奴だ。
アルヴィ「珍しい奴だよ、君は・・・本来なら濡れ衣ではあるが犯罪者の俺らにわざわざ会いに来るんだもんな」
濡れ衣・・・だとすると、彼等はどうやら犯罪者という汚名を被せられているという事か。
先程リノはいった、プロンテラに命を狙われていると。
プロンテラの意思が良くわからない・・・何故、能力者である彼等にそのような汚名を被せる必要があるのだろうか。
危険だから?
己に無い能力を持つ彼等を疎ましく思ったから?
どちらにせよ、良くない思惑が能力者にのしかかっているのは言うまででもないだろう。
アルヴィ「言い忘れてたが・・・二つ名は暗転、何、もはや何も隠す必要もないようだし後でお見せするよ」
・・・と。
何かを思い出したかのようにそう呟くと、またビックフットを奥へと運ぶ作業に戻ってしまった。
あれはどうやらここにいる人たちの食べものか何かだろうか。
というか、ビックフットって食べられるのかしら?
リノ「じゃあ、先に私の能力を見せちゃいましょうかー・・・といってもさっきちょっと見ただろうけどね」
先程見せた、というのはあのご老人に化けていた事だろうか。
すっ・・・っと、まるで世界に体を預けるかのように。
静かに目をつぶる・・・
リノ「貴方は私、私は貴方。世界は私、私は世界。大きく、そして小さく。短く、長く。貴方と私は同じ、同一である」
パァッ・・・!っと一際リノの周りに光が終結し、目を開けられなくなる。
ユキ「つっ!」
何と凄まじい発光であろうか・・・こんなにまぶしい光は早々経験した事がないくらいだ。
リノ「ここに宣言する、私はユキ=フランベル。女性、マジシャンのユキ=フランベル」
ユキ「へ?」
何故私の名前を呼んでいるのだろうか・・・と思いながら、光が退いていくのを確認し目を開けると・・・
リノ「このようになるのよ」
・・・
目の前にはユキ本人が立っていた。
あ、私?私は当然ユキ=フランベル。
目の前にいるのもユキ=フランベル。
ユキ「・・・これはまた、すごい能力ね」
鏡のようなものだろうか?
今現在私の頭で想像できるといえば、目の前の人瓜二つに変身できるかといった所のみである。
リノ「私の能力は簡単に言ってしまえば変身能力とかですねー・・・」
ポン!と軽く煙が立ち、鏡の自分はリノへと姿を変える。
リノ「後はダンサーとしての本質である歌とかの効果があがってるらしいです。私は歌ってるだけなので何ともですが」
へへ、と苦笑気味に笑うリノの表情には、何故だか判らないが寂しそうなものが見えたのは気のせいだろうか。


ブリジットもそうだったが、何故か能力を持っている人たちには説明しにくい何か暗のような部分が垣間見える時がある。
全員がそうというつもりは無い、だがブリジット、フェイ、そしてこのリノ。
この三名には、何か判らないが見ていて不安になってしまうほどの切ない表情を時たま見せる。
それが一体何を意味しているのか、それは本人にしか判らないし私の答えられる事でもない。
しかしながらそれが、私にとってとてもやりきれない思いを生まれさせてくれる要因となっていた。
ユキ(能力・・・なんてやはり必要ない物じゃないのかしら。)
人を不幸にさせる物が、どうしてこうして蔓延っているのだろう。
何かの役に立てているならまだと思うが、こうして不幸・・・災難しか生まない存在に何の意味があろうか?
周りを不幸にし、そして能力者本人を不幸にさせる力なんぞ、どうして意味があろうか?
考えすぎだ、と他の人は言うかもしれない。
だけど、ブリジットやフェイと長く付き合っていて私ユキの結論から言えばそこに辿り着く。
だから私は、能力というものにある程度の関わりを持ってしまった私はこの能力をある意味見定めたいと思っているのかもしれない。
能力に、意味はあるのか?
能力は、存在しなければいけないのだろうか?
能力は、無くなっても問題の無いものなのだろうか?
私としては否定気味である能力といえど、まだわからないことが多すぎる。
私の知らない所で大きな意味を持っているのも否定できない現状、まずは能力を知るという事が近いと思っている。
とはいえ、今回このように三人の能力者に一斉に出会えるとは思いもよらない事態ではあったが・・・


その後は、夜の静まる時間帯まで待機していてくれ、というものだった。
何でもここにいる人たちは自給自足の生活をしており、この時間から動いて食料を取らなければ生活できないという状況故らしい。
ユキ「なら、私にもご飯くらい作るの手伝わせて」
何もしないで呆けているのも馬鹿らしいというものだ、何ならお世話になる代わりではないが何かの役に立ちたい。
紅蓮「そうかぃ?なら頼んじゃおうかねぇ・・・マンテ!ユキが食事当番の手伝いしてくれるってさぁ!」
どうやら食事を作るのは当番制になっているらしく、今日の当番であるマンテと呼ばれた人物が紅蓮に呼ばれて急いで駆けつけてきた。
腰の低い印象を伺える優しそうなアルケミストが、息を軽く切らしながら目の前で肩を揺らしている。
紅蓮「まったく、体力がないねぇ!そんなんじゃお客さんに笑われちまうよぉ?」
マンテ「す、すみません団長・・・」
まぁいいんだけどねぇ!と豪快に笑い飛ばしながら入り口で待っているであろう食料調達の人たちの方へと歩を進める。
紅蓮「マンテ!今日は客人もいるし盛大にいくよぉ!惜しみなく豪華そうなのだしちまいな!」
・・・いやー、本当言動といい性格どおりな人よね。
あそこまで正直に判りやすい性格だと、付き合っているこっちとしてもすごいと思うほどだ。
そう呆けていると、ふとツンツンと腕を突付かれているのに気が付いた。
マンテ「あの、では、お食事を作ろうと思いますので、どうぞこちらへ」
ユキ「あ、はいどうもこれはご親切に・・・」
ここまで低姿勢でいかれると、こっちもあちらにあわせないとまずい気がしてきた、と思うくらいの腰の低さだった。
そういった面ではあの紅蓮とはまるっきりタイプの違う人かもしれない。


そんな低姿勢のマンテの料理は、繊細かつ豪快にいけるそれは素晴らしい腕前だった。
まるで計算されたかのように切り刻まれていくニンジン、そして豪快に増えていく料理の数。
アルケミストという職業は簡単に言ってしまえば薬剤師のようなもので、薬を作る事の出来る唯一の職業である。
ポーション作成はもちろん、防具を壊れないようにする事すら出来るというまさに縁の下の力持ち役だ。
そういった職業柄なのだろうか、このきめ細かいまさに匠と呼ばれるにふさわしい手さばきは。
ユキ「すごいわねぇ、マンテさん。こんなすごい料理そうそう見たことないわ」
それが私の率直な感想であった。
マンテ「いえ、そんな」
そんな私の言葉をこそばゆいように対応しながらも、マンテの腕が止まる事はない。

料理を作って数時間経ったころだろうか。
マンテが、煮込み系の物を茹でて時間が余っていた時だ。
マンテ「私は、昔・・・アルベルタで小さな薬屋を営んでおりました」
アルベルタといえば、港町であり異国の地アマツやコンロン等といった一風変わった所と貿易を営む町である。
それ故にさまざまな人が行き交い、プロンテラと並んでいろんな人のいる町といえよう。

マンテ「・・・幸せでした。小さいながら私の薬を愛用してくれる人もおり、細々ですが不満はありませんでした」
そう語り始めたマンテは、何かを懐かしむような表情をしている。

時には風邪薬を、そして他では冒険者用にポーション等を作り経営を立てていました。
「今日も店を出してくれてるのか、ありがたい限りだ」
そういって買っていってくれる人の、その何気ない一言に私は喜びを覚え日々を過ごす毎日。
海の音、海のにおい、澄んだ空。
私はアルベルタという一つの芸術に近い場所がとても好きでした。

だが、いつからでしょうか。
古木の枝、というモンスターを召還出来るアイテムがありますが・・・
セージというアブラカタブラという魔法でもモンスターが呼び起こせるという事がとある日判ってから。
このアルベルタは変わってしまいました。
私が丁度住んでいた頃はそのアブラカタブラを使いモンスターを呼び起こしては倒す。
そんな行為が盛んに行われていた時期でもあったんです。
自分らで倒せるなら問題は無い、と言い住民の反発を押し切る形でアブラカタブラを行う冒険者。
どうやらアルベルタにある船の中でその魔法をやるのに格好の場所があったらしく、日夜行われていたそうです。

マンテ「いつかあの船の中からモンスターが出てくるかもしれない・・・そんな彼等の予想は的中します」
空の澄んだある日、大量のモンスターが遂にその船の中から飛び出して町を襲った事件がありました。
たまたまその船から逃げていく冒険者達を見て嫌な予感がたのも束の間の事です。
誰よりも早く事件現場についた私ですが戦闘職ではない為戦えるわけでもなく、応戦する駆けつけてくれた冒険者の回復役へと回ります。
そして叫び逃げまとう住民を見ながら私は出来る限りの援護をし、ポーションを分け与えていく。
戦う事の出来ない自分が唯一出来る事だからこそ、この援護に回る事に集中していました。

いくらか沈静化した時に、丁度プロンテラより駆けつけてきた王国側のギルドが現場へと足を運んできます。
・・・そのときに、もしかすると私という存在は餌になっていたのかもしれませんね。
真っ先にやられたのは犯人は誰かという事。
王国側としてはこのような大きな出来事があった以上犯人という存在は必要不可欠らしく、それは必死に探していましたよ。
探している時期と同時に私は丁度ポーションを作る為に薬草をとりに数日空けていたんです。
それが、私にとって命取りとなりました。

アルベルタの近くまで戻ってくるなりなんなり、アルベルタの入り口では物々しい雰囲気を持つクルセイダーが監視しているのが見えました。
何故?もうあの出来事は終わったはず・・・もしかするとアブラをしないように冒険者を見張っているのだろうか?
そう考えている矢先、私より先に他の冒険者がアルベルタに入ろうとするのが見えました。
すると・・・
クルセイダー「待て、お前はマンテというアルケミストを見たことはないか?」
いきなり止めるや否や、次に語られるは私の名前。
何故あのような人たちが私を探しているのか?私は何か悪い事をしてしまったのか?
訳が判らなくと同時に、その冒険者が私がいる方向を指差すのが見えました。
その指先を追うかのごとく私を見るなり、剣幕した表情をしてクルセイダーが追ってくる。
私は悪い事等一つもしていない、した覚えも無い!
そうは思っていても、王国のギルドというある意味治安を任された人たちに追われるという行為が堪らなく恐ろしく、気が付けば私は逃げていました。
逃げども逃げども後ろから迫ってくる足音は消えない。
怖い、という恐怖のみが私の頭を支配していました。
マンテ「違う!私は何もしていない!」
そう叫んでしまったのがだめだったのでしょう、一気に大声を出したせいで息が苦しくなり、走る速度が落ちてしまったんです。

クルセイダー達に追いつかれたのはその後すぐでした。
クルセイダー「シールドブーメラン!」
背中が一瞬押され、同時に激しい痛みと苦しさが自分の体を支配しました。
マンテ「ぐ・・・ふぅ・・・!」
たまらずその場に倒れこむ中、周りを囲うようにクルセイダーが二人私を見下ろすのが判りました。
クルセイダー「ようやく見つけたぞ・・・さぁ来い」
そういって腕を持ち上げられても、背中が熱く体が言う事をきかない。
クルセイダー「自分で立て!・・・立てというのが判らないのか!」
ぶらん、と垂れるような状態のままそう罵声が聞こえていたが、体が動かない。
その状況に業を煮やしたのか、思いっきり木へと叩きつけられるように自分の体が投げられるのが判りました。
マンテ「・・・」
背中にまた異常な痛みを感じ、声すら出せずにそこに蹲るしか出来ませんでした。
何故?
私はどうしてこんな状態になっているのだろう?
何故?
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故?
判らない・・・ワカ、ラナイ。
「・・・っは!気に食わないねぇ」
意識を失いかけている時です、目の前に立ちはだかるかのように一人の女性騎士がいました。
・・・そう、それが私と団長の初めての出会いです。
クルセイダー「何だ、お前は?もしかしてそいつの仲間なのか?」
私の仲間・・・いや、私には仲間なんかいない。
誰なのだろう?
「・・・気に入らないねぇ、そうやって、お前たちはいつも!」
何故だかは判らないが、そのひとはとても怒っている・・・。
何故、だろう・・・
そこで、私の意識は飛びました。



歌が、聞こえた。
まるで包み込まれるかのようなその歌は、何故だか懐かしさを持ちそして温かさを帯びていた。
マンテ「温かい・・・」
「ん?目覚めたかな?」
「随分と手酷くやられてたからねぇ・・・当分は安静さな」
「・・・またこうやって、犠牲者が出る訳か」
女性の声が二つ、男性の声が一つ。
一つは先程怒っていた騎士の声・・・
うっすらと目を開けると、私を囲むように三人の人が私を覗き込んでいた。
「目覚めたか。どうだ、体の調子は」
まず声をかけてくれたのはバードとは思えないしっかりとした体系の男性。
まだ声を出そうとすると背中が痛むので、こくこくとジェスチャーで答える。
「まだ安静にしときな、今動くと一生首から下が動けない状態になっちまうよぉ」
あぐらをかいた状態で、その騎士は軽く笑って見せた。
「命あってのなんのやら、よかったですねマンテ」
歌声が止む・・・どうやら、先程から歌ってくれていたのはどうやらこのダンサーのようだ。
だが曲は止まる事を知らない。
バードの人が弾いた状態のままのようである。
・・・ここは、どこだろう。
何とか首を動かして辺りを見るが、暗くて一体どこかなのかは判らない。
「ん、ここかい?ここはアジトだよ、私たちのねぇ」
アジ、ト・・・
少々迷ったように困った表情をしていたが、意を決するかのように女性騎士の視線がこちらの目を貫く。
「・・・率直にいっとくかね、マンテ。アンタには今、犯罪者として賞金がかかっている」
・・・なん、だって?
犯罪者?賞金?
「そして、これは王国が出したもう覆せない絶対的な決定だ。今どうアンタが足掻いた所で消える事はない」
どうなっているんだろう。
嘘だろう?何で私が?
「・・・アルベルタの事件を知っているだろう」
業を煮やしたかのように、曲を止めずにバードの口が開く。

アブラの暴発によるあの事件、お前・・・いや、マンテも実際体験しているだろうあの事件だ。
あの事件以降、犯人を探していた王国側は冒険者である、という特徴以外何もつかめずに頭を抱える。
だが、とある事情聴取された冒険者の口からこんな言葉が出た。
「騒がしいので駆けつけてみれば、大量のモンスターと一緒に一人のアルケミストがいた」
・・・そう、たまたまお前が一番手にいて、それを王国側にいった奴がいたんだ。
それ自体は問題なかったかもしれない、だが時期が悪かった。
犯人の可能性としてお前が上げられ、丁度時期悪くしてお前はそのタイミングで外出、姿を暗ましている。
可能性が高く挙句に時期悪くしての失踪・・・あちらとしてはお前が犯人である、という可能性が濃厚と見た。
ああいうのは芋づる式でな、一人が捕まればあとはそいつに話させれば他の面子も割り出される可能性が高いんだ。
よって、犯罪者のグループの一人として唯一判ったお前に懸賞金までかけた、ということさ。

「判っている、それが冤罪だという事も。しかしこれはもうこの世界全域に発信されているんだ」
たとえ冤罪だというのが判り、無実を証明してもマンテとしては住み難い環境へと世界は変わるだろう。
いや・・・ここまでしておいて、王国側が冤罪だった、と認める可能性はきわめて低いと言える。
むしろ、たとえ力ずくでも自分が犯人である、と認めさせる可能性のほうが高かった。
「お前は見事に仕立てられたんだよ・・・王国に、犯人という汚名を着せられてな」
マンテ「そんな・・・私は、私はどうしたら・・・」
つい数日までの薬屋としての自分が嘘のようだった。
そして、今の話を嘘であると信じたい私もいた。
だが・・・現にこうして王国のクルセイダーに重症を負わされ、倒れている自分がいる。
これは、紛れも無い事実。
「・・・マンテ、あんたが今後どうしたいかは自分で決めな。決めた上でどう動くかは、私達としても何もいえないからねぇ・・・ただ」
ただ、の部分でその騎士の言葉が切られた。

「マンテの意思が固まるまで、私達ぁあんたの盾になり剣となろう。何も判らないまま死ぬなんて嫌だろう?」

にぃ、っと白い歯を見せる女性騎士。
ふっ、とキザっぽく小さく笑うバード。
あはは、と可愛らしく笑うダンサー。



マンテ「それが、私と皆さんの初めての出会いでした・・・っと、ちょっと長話が過ぎましたかね」
照れくさそうに、へこへこと頭を下げながら煮込んでいた物へと再び視線を移す。
ユキ「・・・答えは出たの?」
返答が返ってくるまでに、数十秒程度だったろうか?
マンテ「・・・私は、本来ならば一度死んだ身です。そして、その淵から再びこの世界へと戻させてもらった身です」

マンテ「マンテという薬剤師は一度死にました。義理でも何でもなく、私はここで、再び生を貰ったのです」

マンテにとって、ここは故郷だといいたいのだろうか?
死んだといえど、彼自身そんなことはなく、過去の記憶だって十二分生きているはずだ。
だが、彼の目には光があった。
ただ自分を納得させている訳でもない、無理ではなく、心からそう思っているが故なのだろうか。

マンテ「私は元々誰かの役に立てればと思い生きてきました・・・ここが必要と、私を必要としてくれるなら・・・     私にとって、ここが生きる場所であり、死ぬ場所なのです」

そうきっぱりと言い放つマンテには、先程の低姿勢なマンテとは思えない、力強い何かを感じずにはいられなかった。



時を同じくして、イング達は狩りを終えてフェイヨンへの帰路についていた。
フェイヨンダンジョン、それは酷い環境であった。
自分たちがいたのはフェイヨンの四番目にあたる階層である。
その上の階層は最下層・・・そう、つまり月夜花が本来いるべき場所である。
今現在月夜花は姿を消し、代わりに今までいたモンスター達が活性化していたとは聞いていたが・・・
アリス「あれは、ちょっと反則よね」
泥だらけの服を身にまといながら、アリスが苦笑する。
酷いものだ・・・本来こちらが手を出さなければ攻撃してこないはずのモンスターが襲ってくる始末。
それが一体ならば良いものの集団で襲ってくるから始末が悪い。
まったくもって、恐ろしい世界へと変貌してくれたものである。
しかしながら、何も収穫無しに帰ってきた訳ではない。
マフラーを一つ、シューズを一つ・・・そして。
ムナック、帽子とボンゴン帽子、だ。
ついているというべきだろう、是ほどの収穫はそうそう無い。
ムナック帽子、か・・・
ボンゴンの帽子と違い札は千切れておらず、綺麗にその帽子は佇んでいる。
辺りは、もう日が落ち暗闇に包まれている。
イング「ユキ、どうしてるかね」
大丈夫だといったが、やはり離れていると些か不安だ。
アリス「ユキなら大丈夫、根はしっかりした気の強い子よ」
イング「・・・だよね」
フェイヨンの件もあったが、どうやら心配癖がついてきてしまっているらしい。
うーん、気をつけないと。



紅蓮「ここはねぇ、王国から濡れ衣をかけられたり、訳あって逃げている人が集まった所なのさ」
食事をしながら開口一番、紅蓮の口から出た言葉はそれであった。
見渡す所いる人は十名もいないが、この人たち全てがそういう境遇者達だというのか。
紅蓮「私はどうやら王国の金庫を襲ったとか言われてるらしいねぇ・・・まったく、誰がそんな事するかい!」
いらただしくビックフットの肉をブチッ!と引きちぎる。

先程マンテにも伺ったのだが、どうやらここで身を潜めている能力者は全部で三人。
紅蓮・リノ・アルヴィらしい。
彼等三人に関してはそれは重い冤罪をかけられているらしく、表では世界の十本指に数えられてしまうほどの犯罪者扱いだそうだ。
否定しようとも、世間がその否定を否定する。
アルヴィ「確かに・・・能力を使って現に人を殺めたりする人も少なからずいるしな」
人にとって恐ろしいのは未知だ。
何だか判らない、何なのか判らない、その存在自体の恐怖。
人にとってそういった「判らない」という物が、たまらなく恐ろしいのだ。
それが、自分たちにとって殺傷能力に優れていたりするものならばなおさらだ。
アルヴィ「未知だから、どう対処したらよいかわからない。結果その恐怖は膨れ上がり、混乱へと陥る」
それ故に、未知は恐ろしいのだ。
ユキ「・・・能力者が、殺人を犯すケースって本当なの?自己防衛とかでなく?」
私は過去に何度か殺されかけたという苦い経験がある。
ああいった場面ならば、私とすれば些か仕方が無いという思いもあるのだ。
紅蓮「道化師辺りが挙げるなら一番早いだろうねぇ・・・」
名前を出さなかった、というところに紅蓮なりの配慮があったのだろう。
確かに、殺人をした事があるといっていたのを思い出しはっとする・・・紅蓮には中々言いにくい質問であったか。
リノ「ただ・・・彼に関しては謎が多すぎるのよ」
ユキ「なんで?」

リノ「私達は、まぁ基本的に変な力があるんだけど・・・能力を知るまでに、必ず道化師と呼ばれる彼に一度会ってるのよ。
   しかも、素振りからして私とかの能力を知っているような素振りを見せながらね」

そこまで言われて、私は記憶を辿る。

ブリジット「どうやら成り立てで尚且つ力もまだ完全に扱えない、あげくに力も「神速」の一部しか受け取ってないと見た」

確かに、言われてみれば謎である。
何故アイツが、本来王国でさえまるで腫れ物に触るかのように過敏になっている能力者達の力を知っているのか。
紅蓮「それだけじゃぁない・・・道化師の、能力事態が非常に未知数だ」
もはや彼女らにとって、ブリジットは同じ能力者ということで結論がついているらしい。
紅蓮「身体的能力の向上だけかと思いきや、言葉で説明しにくい変な力も使ってくる・・・訳の判らない奴だよぉ」
そういって、スープを飲む。
・・・そうか、紅蓮は確かブリジットと一度対峙した事があったのか。
ならばアイツがどういった力を持っているのか目の前で見てもいるし、妙に詳しいのにも納得がいく。
アルヴィ「紅蓮、あまりあの時は思い出さない方が・・・」
紅蓮「何、大丈夫さ。私はもうあの時の私じゃぁない・・・ああ、そうさ」
・・・一体、アイツとの対峙の際何があったのだろう。
平然を装ってご飯を食べる紅蓮の目は、心なしか光がひいていくにも見えた。



辺りはすっかりと暗く、洞窟の中も目を凝らさないと見えないほどまでに暗い。
だが入り口から入る月の光は、幻想的に私達を照らしてくれていた。
紅蓮「・・・以上が、今現在知る私等自身の能力だねぇ」

成る程。
紅蓮はどうやらドッペルゲンガー・・・そう、先程から見当たらないがあの瓜二つの自分を出す事が出来る能力らしい。
あの紅蓮は姿を消したり建物をすり抜けたり、また剣を持つ事が出来るなど不思議な性質を持つそうだ。
ちなみに両者ともに、過去よりも身体能力が上がっており常人よりは遥かに屈強な体をもつ。
紅蓮「でも死なない訳でもないし、それほど回復力が早い訳じゃぁない。道化師のは私等から見ても異常さ」
・・・だとすると、アイツはそういった能力を持つ人物なのだろうか・・・?

次にリノ。
ダンサーが本来持つ歌の能力向上、そして最大の特徴はその「コピー」によるものだ。
名前外見性別等が必要となるが、瓜二つの相手に変身する事が出来るらしい。
リノ「ただ、その人が使う技や魔法とかは、実際見せてもらったりしないと使えないみたい」
つまり、初め出会った時私に化けて見せたが、あの状態ではまだ魔法を使うことは出来ないらしいのだ。
私が目の前で魔法を唱えて見せ、そして初めて使える・・・そんなシステムらしい。
ユキ「なら、紅蓮とかの力は真似できるの?」
そう質問を投げかける自分に対してのリノの返答はNOであった。
リノ「んー、何でか使えないの。もしかするとあくまでコピーできるのは一般的なものだけかも」
だとすると、能力以外ならばなんでも、か・・・


アルヴィ「俺の能力は・・・ああ、まぁ見せた方が早いかもしれないな」
そう一言言うなり、楽器を手にもち演奏をはじめた。
アルヴィ「詩から始まる一つの劇、貴方は一つの夢を見る。しかしそれは幻、我が理想、私の思い描く世界」

アルヴィ「貴方は夢を見る、ここは草原。辺りには誰もいない、広大な草原」

ユキ「!?」
アルヴィの言葉が切れると同時だ。
一面が一瞬にしてぱっと画面が変わるかのごとく、辺りには先が見えないほどに遠い一面の野原が広がっていた。
草のにおい、心地よい風、ほのかな日差し。
においもある、感触もあるそれは不思議な空間だ。
アルヴィ「・・・アドリブ!」
その、画面が一瞬で消えまた一瞬にして先程までいた世界へと引き戻された。
いや、違う・・・私は、確かに目の前でアルヴィが演奏をしていたのを見ていた。
ではなんだ、今の草原の映像は?
アルヴィ「これが俺の能力・・・リノと違い、俺の能力は一時的だが強力な催眠効果、錯覚、幻覚を引き起こさせる」

どうやらアルヴィの能力は、相手を指定し指定した相手に幻覚等を見せる能力らしい。
しかしながら、少し他の錯覚とは異なった力を持っている。

どうやら、目や耳自体はしっかりとアルヴィが演奏しているのを捕らえているのだ。
アルヴィ曰く、脳に直接自分の能力である錯覚作用を送り、そして自分たちを見ている眼や耳の情報が脳に行くのをカットする・・・
という、少々細々している能力のようだ。
アルヴィ「つまり、能力が切れると能力がかかってる間の情報が一気に脳に送られてくる、という訳だ」
眼や、耳はアルヴィの能力にかかってる間であろうともちゃんと機能をしている。
先程私がアルヴィを注目している間に能力をかけられ、戻った際アルヴィは幻覚を見せた間もずっと演奏をしていた、と言った。
アルヴィ「いったろ、一時的だと」
中々どうして混乱する能力だ。

つまり、本当に一時的なのだ。
能力がとけてしまえば、能力がかかってる間何があったかばれてしまうという能力。
そこが最大の欠点にして、恐ろしい能力でもある。
アルヴィ「万が一人を殺す場合・・・能力中にやっちまえば関係なくなるだろ?」
そうなのだ。
最大のこの強みは騙すという事・・・しかも、そのだます能力はかなりの効果を有する。
恐ろしい、確かに今までさまざまな能力を見てきたがこの能力は特に危ない気がする。
アルヴィ「後誰にかけたのか、そいつはどういった奴なのかと俺自身が判っていないと能力がきかないがな」
つまり、アルヴィ本人がこいつに能力をかけよう、と頭の中でしっかりと認識しないとかからないそうだ。

さらに追加でこのようなことも教えてくれた。
アルヴィがたとえば私に能力をかけたとしよう。
アルヴィの中で私は仲間として能力をかけたとする。
その私が、途中いきなり敵へと変わった場合に能力が何故か切れてしまうらしいのだ。
理由こそわからないが、簡単に言ってしまえばかけた人物の役所が変わってしまうと能力が解けてしまうらしい。
しかしながら初めから敵でもない人に敵だと決め付けて技をかけてもあまりかからないそうだ。

つまり、恐ろしい能力ながらかなりの判断能力が要求される為、そういった面では能力者の腕一つで転がるといったところか。



ユキ(能力っていっても色んなのがあるようね)
今までフェイのように異常に速さがあがるとか、そういった単純なのが多いと思っていたのだが少々違うようだ。
制約があるタイプ、関係なしにいきなり使えるタイプ・・・
言い方こそ違うがパワータイプとトリックタイプに分けられるといった感じなのだろうか。
今まで比較的単純だと思っていたのだが、これは認識を改めなければいけないようである。

代わりに私はブリジットの事、モロクで起きた事件等を紅蓮達に話した。
紅蓮「やはり能力者だぁね、普通ならそれで逝っちまってるよぉ。」
アルヴィ「その遺跡の話も興味深い。道化師に会わずとも力が何なのか突き止められるかもしれない」
リノ「フェイ・・・と玉藻前、さん・・・警戒しないとねー」
各々の反応こそ違うものの、各自なりに収穫はあるようである。
何より、能力に関しては彼女らは特に関心を示した。

それには以下のような裏が存在する。
今現在能力者が何人いるかまではわかっていないものの活発になっている、と紅蓮は言った。
つまり、最近になって急激に能力に目覚めた者がいきなり増えていると聞く。
アルヴィとリノも例外でなく、この急激に増えていった人の一角なのである。

そういえば、シレウスもここ最近になって情報が集まるのが早くなったとも言っている。
何か、私達の知らない所でよからぬ何かが蠢いているのではないだろうか・・・?
そう警戒してしまうかのような、そんな状況だ。

それだけではない。
アルヴィ等のような者が能力者となってくれるのが望ましいが、万が一殺人快楽者・・・
そう、人を殺す事や人間社会を混乱させるのを好ム人たちが能力者になったらどうなるだろうか?
そうした人たちが、能力者同士を潰しにかかってくるとも言いがたい。
能力者にとって、一番怖いのは首都の直属ギルドでも何でもなく同じ能力者だ。
互いに不利な能力者同士もいるだろうし、また相手も未知数なだけにいつ何があるかわかったものじゃない。

故に彼女らはお互いをフォローしあい、仲間として行動を共にする事に決めた。
彼女らは殺人等に興味はない・・・ただ、平穏と暮らしていきたいだけなのだ。


紅蓮(甘い考えだとは判っているけどねぇ・・・もしかしたら、もしかしたらだ)
私はいいが、アルヴィとリノには少々能力者という肩書きは重過ぎる。
道化師に会えば、あるいは・・・

予測ではあるが、全ての発端は道化師にあると思われる。
道化師は動きも、そして理由も不明な実に不可解な存在だ。
先程のユキの話でも判るとおり、人とは到底思えない性質を持っているらしい。
だが意図が・・・行動の、意図がまったくもって読めない。

しかしながら、彼は必ずや私達に+になるであろう情報を持っている。
これは予測や勘等ではいっていない、紛れも無い確信からきたものだ。
それに私の奥底に眠る何かが、彼を欲しているのだ。
呼ばれているのか・・・?判らないが、どうしても道化師にまた会わなければいけない。

出来るならば、そこでアルヴィと・・・リノの、能力を無くすにはどうしたらよいかが聞きたい。
利用する気はないが、どうやら道化師は実際にあってみるとそこまで危ない奴ではないようだ。
かといって警戒を怠るわけにもいかない・・・あの時の、道化師の姿は今も頭に刻まれているのだから。


先程道化師の力がわからないといったが、まったくもって判らないわけではない。
仮説ではあるが・・・彼は、常人よりも生命力にとんでいる話を良く聞く。

察するに・・・単純に、強力な再生能力を持つ人物ではないのだろうか?

基本的身体能力と強靭な再生能力を持った、単純に己の性質があがったタイプ・・・そう見るが妥当とも思える。
だが、その再生能力の幅がさすが能力と言うべきだろう。

紅蓮「あれは・・・すごかったからねぇ」
ユキ「ん?何?」
紅蓮「ああいや、何でもないよ」

おっと、声にだしちまってたかい。


「常識トは何ダ?貴様等の常識カ?私等ノ常識か?互イに通じナい常識等意味ヲ持タヌと思わなイかネ」

腕が喋る。
ウィザード達との戦闘で体を吹き飛ばされ、腕しか残らなかった状態で腕が一人でに動き出す。
まるで、その横には透明な腕の持ち主がいるかのように。
「さァ、今宵ノ劇ハこれカラだ。幕開ケと行コうか!」
腕は、剣を持ったままに一人でに動き出す。
刃が走る。鮮血が、悲鳴が飛ぶ。
その後ろでは赤黒い血を流しながら、歪んだ笑顔を見せながらせせり笑う道化師の顔があった。

道化師「刃ガ光リ飛ビ散る鮮血、声ヲ刻み生を刻ミ世界ヲ刻マん!刻め・・・そうだ刻め!刻め、刻め刻め刻め刻め刻め・・・!」


道化師は、もしかすると不死の能力を持った存在なのかもしれない。
強靭な再生能力といったが、それ以前に腕だけで動けるという時点でおかしい。
再生等といった幅をとうに超えたばしょではないだろうか。
判らない・・・やはり、道化師は判らない。

いや、だからこそ彼は道化師と呼ばれるのか。
劇を盛り上げ、観客を沸かせる謎の存在・・・それこそが道化師。
何も判らぬ、故に道化師。
判ってしまっては、意味がなくなってしまうものなのかもしれない。



・・・
紅蓮「ま、ユキ、情報ありがとうねぇ・・・今日は遅いし、もう寝ときな」
ユキ「うん?あー、確かにそうね」
辺りはより黒さを帯び、時間は思った以上にかかっており夜は更けていた。
流石にそろそろ寝ないと次の日に起きれるかが判らない。
リノ「夜更かしは、美容の天敵です。早く寝ましょうユキさーん」
軽いステップを踏みながら、立ち上がるユキを急かすように腕を引っ張る。


――――――――少しの間だが、残された紅蓮とアルヴィに殺伐とした雰囲気が流れた。
紅蓮「・・・嫌な感じがするね、これは・・・死・・・臭かい?」
アルヴィ「外のモンスターの様子も些かおかしい、どうやら何かあったな」
成る程、どうやらリノはこのかすかではあるがピリピリとした感覚に耐え切れなくなって寝ようとしていたのか。
しかしなんだ、この感じは。
確かに月夜花の件以降ここのモンスター達はおかしくなっていたが、今回は切羽詰った何かを感じずにはいられない。
紅蓮「こりゃ近いうちに何かありそうだねぇ、アルヴィ」
何かまではわからない・・・だが、確実に何かが変わっているのだけは感じ取れる。
アルヴィ「明日、ちょっとフェイヨンに行って確認してくるか・・・」
そうして、二人もリノ達の後を追うように寝床へ向かわんと立ち上がる。


この紅蓮、リノ、アルヴィの予想は、嫌な方向で見事に的中するとも知らずに。



フィリア「な、なんてことだ・・・」
翌日、まだ太陽が完全に上まで上がってもいない頃。
WISを耳に傾けて数十分、フィリアがまず口に出した言葉は困惑であった。
「ど、どうしたんですか隊長」
隊員達も、あからさまなフィリアの動揺っぷりに驚きを見せている。
フィリアの次の行動は早かった。
颯爽とWISを手にとりながら、隊員の質問に答える暇すらないように外へと走り出す。
「お、俺たちも行くぞ!」
隊長の豹変振りからして、何かとても大きな事が起きてしまったのだろう。
フィリアの後を追おうとする前に、WISより息の切れたフィリアの声が聞こえてきた・・・

フィリア「STAR DUSTのギルドメンバー全員に告ぐ!これは紛れも無い事実である!」

今まで是ほどまでに殺伐とした声は聞いたことがない。
ごくっ・・・一同が息を呑む音が響く。


フィリア「フェイヨンダンジョン最下層にてオークロード、またオークゾンビ等の姿が確認された!
     冒険者にフェイヨンダンジョンに行かぬよう各自封鎖を行なってくれ。
     また遊撃、突撃・・・戦闘隊員全員に告ぐ!オークロードの存在確認、及び殲滅戦をこれより
     我々は行なう!すぐ支度を行いフェイヨンダンジョン前に集合だ!


隊員達は耳を疑った。
オークロード・・・オークヒーローと同じくしてオークの者達の頂点に君臨する魔族と呼ばれし存在。
普段はオークの村にいるはずの奴が、何故フェイヨンの最下層等に出てきたのか。

フィリアも初めは耳を疑った・・・しかし、もう死傷者の出てる大惨事となっているらしいのだ。
話ではプリーストの女性が息を引き取っているという・・・
フィリア「くそっ、あの時のペアか・・・!?」
確かに昨日、黒いしなやかな髪を持つプリーストと男性の騎士が中に入っていくのを見届けてはいたが・・・
プリースト「行ってきますね、いつもお勤めご苦労様です」
フィリア「いえ、これが私達の勤めなので・・・お二人さんもお気をつけて」
まさかあれが、彼女の最後になってしまうとは。
気さくに私等のような話しにくいギルドに声をかけてきたのが印象的だった女性だ、忘れるはずも無い。
嫌な物だ、そこにオークロードがいるとわかっていたならまず私は止めただろう。
知らずに死地へと送ってしまっただけに、悔やみきれない歯がゆさが残った。



そんな事態になっているとはしらずに、イングは朝を迎えた。
・・・あ。
そういえば昨日フィリアさんにあの話をシレウスさんにしなきゃいけないって言われてたっけ。
イング「WIS、WIS・・・」


シレウス「でかした、何てでかい情報だよ!」
開口一番、浮かれたシレウスの声を聞くこととなる。
シレウス「ここ最近歴史についても発見が多い、どうやらお前らは俺に転機をくれたようだな」
成る程、それで先程から僕の話を言う前から機嫌が良かったのか。
スビィ「なんですかぁー、ますたぁー!なーにやってるんですかぁー?」
シレウス「だぁっとれ、五月蝿い!」
・・・ははは、相変わらず仲がよさそうだ。

シレウス「代わりといっちゃなんだがこちらもでかい情報を手に入れたぞ・・・まず一つ、どうやら神という存在がこの世界にいたらしい」
神様・・・随分宗教的な話になってきたものだ。
と、ちゃちを入れている状況でもないか。

「この世界の神、Lokiは神の民を従え世界に君臨する。
 神の声は神が選びし民に伝わり、そして世界へと伝わっていく」


シレウス「この世界の神様はLokiという奴だったらしいな」
成る程、この世界の成り立ち等自分たちは知る由もないが、勉強になる話だ。
Loki・・・ダンサーとバードの演奏で「ロキの叫び」等という技があるが、あれと通じるものなのだろうか?
シレウス「キーワードが増えたって事だ・・・そして二つ目、すまんがこれはユキには絶対に言うなよ」
イング「ブリジットさんの事ですか」
シレウス「察しがいいな、そのとおりだ」
何と、失踪してまだ経ってもいないと言うのにもう見つかったと言うのだろうか。
もしかすると僕たちの心配以上に、ブリジットさんは普通にちょっとふらっと出て行っただけなのかもしれない。
しかし、なら何故隠そうとしているのだろうか・・・疑問が残る。
シレウス「今の旦那は異常だ、かつて道化師と名づけられたその時とほぼ同じ殺人鬼として見つかっている」
イング「!?」
あの紅蓮さんと会ったばかりだけに、酷くその道化師と言う言葉が重く感じた。
どういう事なのだろう、何故ブリジットさんがまたそのような行為に・・・?
シレウス「被害が続出している状況、だが確かに旦那の姿だったと聞く・・・まだ確たる話が流れてきてないから曖昧なんだがな」
イング「・・・わかりました、情報感謝します、シレウスさん」


ブリジットさんが、どういう意思でそのような行為はしているかはまだ判らない。
だけど、これはユキには話さないほうがよいだろう。

死という物が最近酷く身近になってきてしまって、感覚がおかしくなっているのか?
そうふと思う自分がいる。


そして、その死が渦巻く戦場が、すぐまた近く・・・フェイヨンで起ころうとするのをイングは知る由もない。



つづく




〜あとがき〜
どうもお久しぶりです、鰤でございます。

今回の話、更新が遅れたに相応しい長い文章となってしまいました。
その分内容も重要な場面となっております、しかとご確認を。

さて、今回の話ですが新たなる能力者達の能力、首都の黒い話、そしてブリジットの三つが出てきております。
能力者達にもさまざまなタイプが存在しており、これがどういった影響を及ぼすのか?

首都の黒い噂、是に対しフィリア等はどう動いていくのか?

死んだと思われたブリジット、しかし現れた次には殺人鬼としての彼、一体消えているうちに何が起こってしまったのか。

さらには、何故かフェイヨンダンジョンに現れたオークロード、はたしてその目論見とは。

次回は澄さんとの連携による話展開となっていきますので、こうご期待でございます。


感想等、何かありましたら拍手等でお寄せくださいまし、励みになりますー。

それでは♪

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