「あー・・・今日も晴天だね」
空を見てから、機嫌が良さそうに隣に座っていた女性のハンターが独り言とも取れるような言葉を口にしている。
ハンターの肩には、胸を大きく張った鷹がそこがさも自分の場所であるかのように陣取っている。
「そうは思わない?シュウちゃん」
そう、むすっとしている隣のプリ―ストに語りかけ始めた。
シュウと呼ばれたプリ―ストは、機嫌悪そうな表情をしながらハンターの方を向いた。
シュウ「あのなぁ・・・おまえなぁ・・・」
頭を手で押さえながら、自分とは対照的な表情のハンターをまじまじと見つめる。
「どうしたの、シュウちゃん?」
首を傾げながらプリ―ストにそう質問を投げかける。
その返答がまずかったのかどうなのかはわからない。
ただ、その言葉を耳にしたプリ―ストの頭から、軽くプチッと何かが切れた音がした。
「・・・おまえは何でこんな状況下でそうへらへらと笑っていられるのかな?」
感情を押し殺したかのような、低い声。
肩が、今すぐにでも暴れそうなくらいブルブルと震えている。
「なんでぇ?ピクニックでもしてるみたいで楽しいのにぃ」
プリ―ストの機嫌が悪そうなのをようやく察知したハンターが、軽く不機嫌そうに頬を膨らませる。
その姿は、さも怒っている事に対する批判の声のようなものにみえた。
察するに、こんな良い天気でゆっくりできる状況なのに雰囲気を壊すな、といった所か。

ブチッ

プリ―ストの頭から、先ほどよりも大きな音で何かが切れた音が聞こえた。

シュウ「・・・こんな状態になった責任、感じてる?」
口の端をひくひくとさせつつも何とか笑顔を作り、未だに頬を膨らませるハンターにそう問い掛ける。
んー、と小さく考え込むような姿勢を取った後、今日一番の笑顔を向けながら一言。
「んーん、全然!」

ブチ。

よく、三度目は我慢できないような類の言葉は結構存在しているものだが。
結構信憑性のある話なのだと、このプリ―ストは後々感心する。

シュウ「あのなぁっ!今お前のせいで"遭難"してるんだよ!!」


ラグナロク・ショートストーリー・遭難


「そうなんですぅ・・・なんちゃって」
照れ隠しに、頭を掻きながら笑う。
頂点まできた怒りが、このしょうも無いギャグによって体全体から抜けていくのが解った。
力無く、ふにゃっと前方の茂みに崩れこむプリ―スト。
シュウ「あー・・・何でこいつとコンビくんじゃってんだろ、自分」
そう、愚痴にもとれるような言葉を吐き出してから、仰向けになって空を見つめる。
空は、ハンターの言うとおり青かった。
広く澄んでいて、それを見ているだけで心が洗われるかのような気持ちになる。

「ね、空、綺麗でしょ?」
プリ―ストの目に映っていた空が一瞬にしてなくなり、代わりにハンターの顔がプリ―ストの目に映りこんできた。
にこにこと、相変わらず機嫌が良さそうな表情をしている。

このハンターの名前はニナ。
自分が物心覚えた頃から、ずっと自分の近くにいた存在。
まぁ簡単にいえば家のお隣さん、世間的には一応幼馴染のような存在にあたる。
こいつは誰とでも仲良くなれ、非常に付き合いの広い人気者であった。
・・ただ一つ。
彼女には欠点に近いようなものがあった。
それは、彼女の性格。
自分がこういうのも何だが・・・あいつはどうも頭のネジが何本か抜けているような気がする。
それが心配で、その心配が結果として悪い状況で起こり何度も助けた覚えがある。
世間的にはなんだろうか、天然というのか。
ああそうだ、天然だな、こいつは天然だ。


ニナ「・・・今、失礼な事考えてる?」
はっと我に返り目の前のニナを見ると、またも頬を膨らまして恨みがましそうにこちらの目一点のみを見つめていた。
シュウ「イヤ、ソンナコトナイゾ?」
口をかくかくと動かしながら、棒読みで返答を返す。
いつも何を考えているのかよくわからないのに、人一倍敏感な節がある。
だからニナはこう、何か奥に突っ込みにくい感じがあって難しい。
ニナ「もう、シュウちゃんっていっつもそうやって私を馬鹿にするんだからぁ」
ぷーと大きく頬を膨らまし、腕を組みぷいっとそっぽを向く。
刹那。
肩に止まっていた鷹が飛び上がり、自分の頭を思いっきり何度も突き始める。
シュウ「いてぇ!」
咄嗟に大きな声を上げ、何とか鷹を追い払おうとするも離れる素振りを見せようとはしない。
むしろ、頭を守ろうとする腕等に標的を変えてなおも怒涛の突きは続いた。
シュウ「わ、悪かった、謝るから落ち着け、な!?」
自分の必至の問いかけに何とか耳をかしてくれたのか、ようやく鷹による突きが終わる。
さも当然の事をしたかのように、再度二ナの肩にゆっくりと戻っていく。


シュウ「・・・悪かった、ごめん」
正直謝るのは不本意なのだが、先ほどから鷹が尚もこちらに睨みを効かしているのでひとまず謝るという選択肢を取った。
ヒールで後々傷は治るのだが、やはり痛いものは痛い。
好きで痛みを何度味わいたいと思う奴なんている訳がない。
ニナ「あ、それは良いんだけどね、でも遭難したのは確かに私のせいなんだよね・・・ごめんね、シュウちゃん」
そう言って、逆に謝り返されてしまった。

・・・あ。
そうか、自分は今遭難しているんだった。
今更ながら冷静さが戻ってきて、状況が頭の中に入ってきた。


実際にいうと、初めはコモドにいくつもりだった。
ニナが道案内をすると言い、着いて行って経つ事数時間。
今日の収穫は、ニナが性格もさながら方向音痴だったと言う事。
そして、やはり自分が先導して進むべきであったと言う事。
ありがとうニナ、君を一瞬でも信用してしまった自分が少々どうかしていたようだ。

・・・話を戻そう。

そうして帰ろうにも、方向音痴の結果流れ着いたこの場所。
一体ここがどこなのかも、わからない。
どこなのかもわからなければ、帰り方だって解る訳がない。
そして、自分達はようやく"遭難"状態である事に気がついた。


シュウ「気にすんな、青ジェムを買わずに来た自分も悪い訳だし」
そう、何となくでコモドに行きたかっただけなので、あまり準備をせずに来てしまった。
おかげで、シュウの手元には回復アイテム等がいくつかあるのみ。
青ジェムがあるのならば、モロクに帰る事だってできる。
・・・今更こうぼやいていても仕方が無いのだが。
ニナ「こうなったのも私のせいだし・・・絶対、モロクへの道を見つけ出すね!」
手をグーで握り、そう高らかに宣言をする。
ニナに任せれば、この後どうなる事か・・・。
身の毛もよだつような想像しか出来ず、体を震わせる。
その言葉を丁寧にお断りしてから、辺りを見回す。
モロク周辺だけに、やはり見えるのは砂漠ばかり。
そして暑い。
・・・よし。
シュウ「さぁ、いくかニナ」
後ろで意気込みを語っていたニナを尻目に、ずかずかと勘で歩き始めた。
ニナ「あぁ!私が頑張るっていってるのにぃー、シュウちゃんのばかぁー」
まるで子供の駄々こねのような発言をしながら、後からニナが着いてくる。
・・・辿り付けるか、非常に心配だ。



シュウ「モロクの近くなのは確かなんだろうけど・・・」
モロクから離れすぎているのなら、このような砂漠はお目にかかれないだろう。
遠くとはいえ、モロク近辺である事だけは確かなはずだ。
ニナ「うーん・・・見た事はある場所なんだけどなぁ」
さも過去にここに来た事があるかのような素振りを見せながら、うんうんと唸る。
シュウ「なんだよ、ここに来た事があるならどこかちゃっちゃと思い出してくれ」
それならば待った方が早いと考えたのか。
止まって唸るニナを見守るように、シュウも足を止める。
ニナ「どこだっけなぁ・・・ここぉ・・・」
考え始めてからおよそ数分。
尚もニナの記憶との戦闘は続いており、しゃがみ込んで尚も唸っている。
その近くには、シュウがピリピリしながら指で何度も腕を叩いている。
・・・時間の無駄か?
そう、シュウが思い始めた時だった。
突如あー!と大声を出しながら、威勢良く立ち上がる。
シュウ「な、なんだよ、びびらせんな!」
ニナの唐突な行動に意表を突かれたのか、後ろに尻餅をついたシュウの口から批難の声が上がる。
そんなシュウの言葉を無視しながら、にこにことした笑顔を向けてシュウに手を差し伸べる。
ニナ「えへへ、ごめんごめん、ようやく思い出したと思ったら嬉しくなっちゃって」
そういって、再度照れ隠しに笑った。


シュウ「で、ここはどこなんだ?」
差し伸べられた手をぎゅっと握り、起き上がらせてもらうついでで聞いてみる。
ニナ「うん、ここはね・・・」
言葉の途中で声を切り、あと少しで立ち上がる状態で手を離す。
支えが無くなり、再度体全体に痛みが走る。
突如離した文句を言おうとした瞬間に、先ほど繋いでいた自分達の手の所一本の矢が猛スピードで通り過ぎていくのがわかった。
・・・敵!?
前方を咄嗟に見ると、空を飛んだ弓を持つ魔物が二匹。
ニナ「ここ、サンダルマン要塞!」
そう自分に言い放ち、キッと視線を敵に向け弓を打つ構えをとる。
シュウ「ニューマ!」
体が咄嗟に反応して、頭で考えるよりも早く自分の足元に魔法を唱えていた。
キラキラと輝いた光が、自分の周辺を明るく照らす。
自分に向かって放たれた矢が、目標を貫く事無く通り過ぎていく。
そうして対象を貫けないという状態を繰り返していくうちに、逆に魔物本人がニナより放たれた矢によって貫かれていった。
敵が倒れたのを確認し、ゆっくりとこちらの方を向いて一言。
ニナ「平気?シュウちゃん」


平気というポーズをした後、ゆっくりと立ち上がる。
シュウ「なんだ、結構というか、かなり近いじゃん」
サンダルマン要塞。
モロクの近辺に位置し、すぐ街から出て出現する魔物とは桁違いなぐらい強い魔物が蠢く所。
ここの特徴は何と言っても弓を攻撃方法とする魔物が多いという事。
それ故に、弓などの飛び道具を無効化するニューマを持つアコライトなどが活躍できる場であるとも言える。

シュウ「これならすぐ着けるな・・・うし、さっさと行こう」
腰の辺りをぱんぱんと叩き、また己の勘を信じて先へと足を進める。
後ろでは、弓を片付けようと奮闘するニナの姿があったがシュウは気にしたそぶりも見せずに先へと進む。
ニナ「ま、待ってくれたっていいのに〜」
その泣き言は、誰も反応する事無く響くだけに終わった。



シュウ「・・・水にすりゃよかったな」
そうぼやきながら、持っていたミルクを一飲みする。
口の中に、ミルク独特の濃厚な味が広がっていくのがわかった。
その味が、えらく気分をイライラさせる。
シュウ「もっとこう、後味の良い物が欲しいな・・・」
そうは言ったものの、ここは砂漠のど真ん中。
そんな注文が通るわけでもなく、やはりこの言葉は愚痴で終わってしまう。
ニナ「好き嫌いはよくないよ〜?」
そんなシュウとは正反対に、美味しそうにミルクを飲む。
何故こんな炎天下で乳酸品をあそこまでおいしそうに飲む事が出来るんだろう。
吐き気さえ感じていると言うのに・・・
そう思ってたら本気で吐き気がしてきてしまい、咄嗟に口を押さえたときであった。

ニナの鷹が、何かを見つけたかのように大きく声を上げて空で円を描く。
シュウ「な、なんだぁ!?」
鷹の不可解な行動に慌てる自分をよそに、ニナの顔つきがじょじょに鋭くなっていく。
この表情は・・・そう、戦闘をしている時の顔。
ニナ「シュウちゃん!先でアコライトの人が襲われてる!」
そう咄嗟に自分に叫び、走り出す。
シュウ「お前は先いってろ!」
自分が先に行くよりは、攻撃の要である彼女が行った方が役に立つ。
そう判断し、彼女にIAをかけてから自分も追うようにIAを唱える。
軽く感謝の言葉を残した後、猛スピードでアコライトがいるであろう地点へと走っていく。
多分ここにくると言う事は、最低限ニューマを覚えてはいるはず・・・
シュウ「・・・持ちこたえろよ」
そう、心の中で呟いた。



「くっ!」
矢が刺さった右腕を庇う様にしながら、ニューマがによって守られた場所に膝を付く。
周りには、ガーゴイルが三体。
運の悪い事に、もうテレポートをする余力さえ残っていない。
・・・このニューマが消えた時が、終わる時か・・・?
そう絶望に追い詰められていた時、急に横から殺気が放たれているのに気がついた。
急いで横を向くと、そこにいたのは黒い外見のヘビ・・・サンドウインダー。
「うぁ・・・っ」
突如横に沸かれ、なす術も無く重い攻撃が自分のお腹に直撃する。
その反動で、ニューマの外に放り出されてしまった。
「あ・・・」
ほんの数秒しかたっていないのだろうが、何故かその時だけ、世界がスローペースに進んでいるような錯覚に捕らわれた。
ゆっくりと、ガーゴイルが弓を引いていく。
横からは、サンドウインダーが今にも標的に噛み付かんと飛び掛ってきている。

ザッ!

目の前で砂埃が起こり、そこで世界がまた通常のスピードで進行していく。
腕で目の前から飛んできた弓矢を受け止め、横のヘビを思いっきりけりつけるハンターの姿が、アコライトの目に映った。
そこからは、ほんの一瞬でケリがついた。
ハンターの怒涛の弓矢、そして鷹がガーゴイルを蹴散らしていく姿。
自分が気が付いた時にはすべてが終わっており、にっこりと微笑むハンターの姿が目に飛び込んできた。
ニナ「大丈夫?」
手を差し伸べながら、笑顔を絶やさないハンター。
「あ・・・はい、大丈夫です」
掴んだ手は、温かかった。



ニナ「うぁーん、痛いよぉシュウちゃん〜」
満身創痍な自分を起き上がらせてから数分。
遅れるように、ハンターが来た方向よりプリ―ストが顔を出す。
一瞬自分を見てほっとした様子を見せつつ、即座にハンターの腕を見て表情を暗くする。
シュウ「・・・まぁ、今回はお手柄だ」
そうぶっきらぼうに言い、ヒールを自分とハンターにかけていく。
体か先ほどよりも、軽くなった気がした。
ただ、精神的な疲れはまだまだ続きそうだが・・・
シュウ「大丈夫・・・そうでもないが、命一つ得したな」
そう、呆けている自分に問い掛けてくる。
こくこくと頷く自分を見て、プリ―ストが軽く笑った。
プリ―スト「あー・・・なんだ、危ないし帰った方が良いぞ?」
周りは広大な砂漠、として絶える事の無い魔物。
ちょっとした選択ミスや、運の悪さでここでは人間の命なぞ軽くなくなってしまう。
シュウとしては、知らない奴にそこまでとやかく言うのはどうかと思い、これくらいしか言う事が出来ない。
正直、こう言う所で自分は不器用だとつくづく思う。
「あ、そうですね・・・ありがとうございました」
そうニナとシュウに挨拶をしてから、軽く詠唱を始める。

シュウ「あ、まった!」

もう少し遅ければ、消えてしまうという微妙なタイミングの中。
シュウが咄嗟にアコライトを呼び止め、詠唱を止める。
「なんでしょう・・・?」
当の本人は、一体何故呼ばれたか不思議そうな表情をうかべてシュウを見ていた。
シュウ「なんだ、良ければブルージェムストーンを分けてもらえないか?」
一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐさま懐より一個のブルージェムストーンを取り出して渡してくれた。
ずっしりと。
重くないはずなのに、異様な程までの存在感を感じるブルージェムストーンがシュウの手元にある。
軽い遭難にあってた時間分が、この一個にのしかかっているのだろう。
あ、いけない、目から涙が・・・
「それでは、本当にありがとうございました」
頭を軽く下げてから、すぅっとアコライトの姿が消えていく。
帰れる・・・ようやく帰れる。
シュウ「ニナ、ようやく帰れるぞ!」
そう明るい声で声を上げるが、返答はまったくない。
シュウ「ニナ・・・?」
突如嫌な想像が脳裏をかすめ、急いで先ほどまでニナがいた方向を向く。
・・・いない。
どこだ・・・?

と、辺りをきょろきょろする自分を見かねたのか。
一匹の鷹が、自分の頭を軽く小突いた。
鷹が、自分に集中が向いたのを確認するなり大きく飛び、少し離れた木陰の所にまで飛び去っていく。
追う様に後を追っていくと。
ニナ「んん〜・・・」
気持ち良さそうに寝ているハンターが一人。
そのあまりにも平和な光景に、ついつい軽く吹き出してしまった。
シュウ「まぁ・・・さっき頑張ったし、こいつが起きるまでまってやるか」
そう言って、静かに横に座る。
その顔には、ほのかな笑顔を佇んで。
平和とは言えないけれど。
どこにでもありそうな一日は、過ぎ去っていく。


〜おわり〜




あとがき
結局今一まとまりがない状態で終わってしもた・・・
これは、ちょっとにゅ板の小説の奴に触発されて書いてみたものです。
個人的に気にしないで普通に書くと暗い感じの話になってしまいそうなので、ちょっと思考を変えてみて。
今回のテーマはどこでにもありそうな、日常・平凡な一日の一コマといった感じです。
ラグナは私達の世界とは違うけれど、やはりあちらでは一日一日我々と似た日々を過ごしていると思います。
そんなラグナの世界の、どこにでもいそうなコンビの、ちょっと奇想天外な一日。
ちょっと面白みがかけてしまっていますが;
精進します(´д`;
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